ああ懐かしい未来かな
3ヶ月前 ソラールが流れ着く2ヶ月前
「長門。これ、何?」
「え?ああ、これはとあるゲームに出てくるVOBって言う外付けの推進加速機だ。マッハ24ぐらいは出るかな?」
そういうと、島風が目を輝かせて目の前のプラモデルをまじまじと見る。長門と比べるととても小さい。
「本物はあるの?」
「いや、ゲームの中の話だから。現実にはあり得ないよ」
「いや、どうかな!」
「「提督⁉︎」」
「まずは幾つかのこのVOBの設定と何故現実的でないのか。それを挙げてみよう。さぁ長門!」
物凄い生き生きとして登場した提督が、いつのまにかホワイトボードを持って来ていた。
背後に疲れた様子のまるゆが居たのは気にしない。きっと提督との近接戦闘の練習で疲れたのだろう。いつもの事だ。
「ええと、ロケットそのものを横に付けた代物だったはず…無理やろ」
「成る程、じゃあ、サイズは気にしないで良いかな。だって動かすものが小さくて良いんだし」
「…まさか!提督」
「ああ、人間サイズなら小さくても支障は無いだろ」
「成る程」
「造るのにいくらかかるの?」
「まずは燃料の確保、燃料の冷却、燃料を冷却した状態のままタンクに入れる装置でしょ……ざっと1兆?」
「無理だね」
「まぁ、元ネタでは資本を牛耳ってる企業が作った訳だし」
「それを先に言ってくれよ」
「というか、艦娘をこれで飛ばして無事で済むのか?」
「…」
「ダメじゃないか!」
ーーーーー
「…はぁ、疲れた」
「お帰りまるゆ殿!」
雪風が丁寧に陸軍式の敬礼をしていた。
「殿呼びはよしてよ。まるゆ、そんなに怖い?」
「いや、その…怖くはないです!」
「そうですか…」
とほほ、とダイニングテーブルに突っ伏した。
提督があそこまで体術が得意で、それの練習相手にさせられるとは、思ってもみなかっただろう。しかもいつもギリギリで勝つのだが、どうも負けた提督の方がピンピンしているのだ。実に奇妙である。
「かき氷でも作りますか」
「雪風!行って来ますです」
「いや、自分で作るからいいよ」
「了解したであります!雪風!全力でサポートします」
「氷をかくだけで何かサポートする事ってあるの?」
「は⁈雪風!ピンチです!」
そして雪風が妙に遜っているのには訳がある。
そう、しれぇとまるゆの闘いである。雪風は見抜いてしまった。しれぇのあの手捌き。まるで流れる激流のよう、対してまるゆはどっしりと構える山のように流れを破るのだ。
己の悪運のせいなのか、たまたま見掛けてしまったのだ。
明らかに達人の域に二人とも入る。それは恐ろしい事だ。
海では速さの島風、頑丈さの長門、強運の雪風。しかし!
陸での支配権はあの二人が握っている!
「ガクブル、ガクブル」
「どうしたんですか?雪風さん。かき氷を食べていないのにブルブル震えて」
「いや、気にしないでいただきたい」
「そう…もぐもぐ」
「むしゃむしゃ」
ーーーーー
「そうか!成る程、クルーザーにつければ…いや、空気圧が違う。ソニックムーブが簡単に起こる。そうなると単体で発射させれば、或いは」
ずっとホワイトボードに向かって何やら公式を書き始めている提督を横目に、プラモを造る長門、そして、それをスケッチしている島風。
とにかく異様としか言えない空気に思わず金剛が退いた。
が金剛型一番艦が退いてどうする。
「he、heyテートク。ティータイムにしない?」
「後で」
「⁈」
ガーンという擬音が出そうな顔つきで横を見る。どうにも全員がティータイムに興味無さそうな雰囲気だ。
「雪風とまるゆの所にいくネー」
とぼとぼと廊下を歩く様はおばあちゃ…ゲフンゲフン。とても疲れているようだ。
廊下を進み、雪風とまるゆの声のする食堂に向かう。
細波の音が聞こえて来る。
そしてドアを開けると。
「な!」
濃く出した紅茶を山盛りにしたかき氷にかけ、さらにクリームをかけている雪風を肩車しているまるゆに遭遇した。
何を言っているか分からないと思うが、とにかく金剛は固まった。
「何をしてるネー」
「あっ!金剛さん!見つかっちゃいました!まるゆ殿!」
「あわわ。これは、その」
「ちょうどティータイムにしようとしてたデース。で、茶葉をどのくらい使ったネ?」
「あわわ。その…300gくらい」
「what's?そんなに使うかしら?」
「その、紅茶かき氷にかかる濃い奴と、あと、紅茶ケーキをつくったのです!」
「成る程!」
「ごめんなさい」
「私は怒ってないネー。紅茶は鎮守府の備蓄だから、自由に使って構わないデース」
ーーーーー
「さて、長門、今回の調査はどうだった」
「ダメだ」
「そうか…はぁ、そろそろこの名誉ともおさらばか」
「提督!今のセリフ、もう一度言うならブチ飛ばすからな」
長門が鬼のような形相で提督の胸ぐらを掴む。
「わかってる。だが、戦争だ。我々がやっているのは当てのない戦争だ。どんな戦争だろうと犠牲はつきものさ。いつもそうだ。戦場で散らない命など無いに等しい」
「貴様」
「お前も、‘覚えてる’だろう。失った者達を、消えた物を」
「だから、だからそれを食い止める為に私達が!」
「ああ、だから生贄に捧げられたのだよ。逃げれば本土の奴らに被害が出る。はは。さすが『project dark』だ」
「くそ、捨て駒かよ」
「だが、やりようは幾らでもある」
「?」
「もしも大軍が来たらこう動け」
ホワイトボードに島の図を書き記しながら話す。
「長門は追加装甲を持って、ここを進んで、島の中に入る。俺はまるゆと島に残る。アイツなら奴らが上陸しても大丈夫だろう」
「いや、まるゆは装甲が薄い。それでは」
長門がホワイトボードに線を書き入れる。それを横目に提督がさらにホワイトボードに書き入れる。
「いや、それだと島風の速力を。いや、敢えて…耐久が持つか…」
「まるゆがネックだな」
「だからと言って切り離せるような物でも無いぞ。アイツは近接戦闘なら上手だ」
「近接戦闘ってもタイマンだろ。少数対多数の戦いだ」
「そこなんだよ。くそ、二人だけ鎮守府に残るか…」
「全員で逃げたとして食い止めなければ…」
『project dark』と題を付けられたファイルを見る。
真っ黒だ。
「!」
「どうした?提督」
「長門、お前に沈む覚悟はあるか?」
「…ある。お前よりも」
「そうでなければな」
提督がニヤリと笑う。
長門はそんな姿を見てその時訪れる死を覚悟した。
ーーーーー
1ヶ月後、ソラールが流れ着く1ヶ月前
時は訪れた。
「これでどうだ」
完成したプラモデルを掲げる。そして思わず声が出る。
「J、調子はどうだね」
「良好だ」
声を出したのは思いがけない人物だった。
「島風!」
「にしし、一通りやってみたよ」
「よくクリアできたね」
「フラジールって機体を真似てみたんだけど強いね」
「…」
思わず固まる長門。超軽量機体。それは装甲を削り、武装を削った超ピーキー機体である。当たってもカスダメ。被弾すれば即死亡。まさに弱点しか無い驚異の機体である。
「長門?」
「フラジール?つまり、超軽量機体?」
「うん!だって速いんだもん。弾だって当たらないよ」
「島風……すごいね!」
まるで少年のように目を輝かせる長門。少年の心はロマンを求める物なのだ。
「まるゆししょーこうですか?」
「そうすると、こうなって、転ばされるから、すぐに足を引けば相手に一撃を与えられる」
「成る程。でも俺だったら踏みこんでもう一撃を決めるかな。そうすれば上手く両足が付くし」
「うーん、でも隊長。リスクが高いのでは?」
「まぁ、雪風の好きなようにすれば良いさ。俺たち二人ともコンセプトが違う訳だし」
「ししょーかしれぇか…」
二人の顔をまじまじと見つめる。
「うーん。雪風、困りました!」
「相変わらず元気デース。はぁ、姉妹がいないと、凄い寂しいネ」
一人で外に出てまるゆ達の修行とプラモデルを一緒に作っている長門達を見ながら、あったかい紅茶を一人で啜る。
ようはボッチである。
だが、もうこの状態には慣れた。
そんな日常であった。
ーーーーー
ーーーーー
気がつくと、自分一人が砂浜に転がっていた。
紅くなった海も蒼に戻っている。
「みんな…」
遠くに朝日が昇り始める。
「まるゆは、どうすれば」
檸檬色に照らされて、紫色の空が輝く。
冷め切った体温のまま、ふらりふらりと歩き、自分の部屋で力尽きた。
体についた傷はとっくに自己再生して消えている。
もう、何もかもが失われた。
まるゆ、単艦のみ帰投。
ソラールが流れ着くニ週間前の出来事であった。
オリ設定
『project dark』
数人の艦娘と一人の提督、数人の妖精と小さな建物を犠牲に本土を守る囮にさせる計画。
大本営の一部の上層部のみに知らされた恐るべき計画。
計画書のコピーが挟まったファイルが総司令官によって秘密裏に六 虫追提督に渡された。
これを読めば自分達に課せられた、本土の運命を背負わなければならない事を知るだろう。
果たして、たったそれだけの計画だろうか。