仮面ライダーゼロワン外伝 「仮面ライダーバンバルカン」 作:不破コラ違反者
雲が空を覆いつくし滝のように強い雨が各地に降り注いだある日。崩壊した町『デイブレイクタウン』で事件は始まった。
地下深くにあるかつて町のシステムを管理していたであろう部屋でコンピューターを操作している男が一人。彼の名は
滅の眼の前に置かれたモニターには何やら複雑な図や数式などが浮かんでは消え、常人には理解どころかまともに目視すら困難な速度で流れていく。当人はそれに惑う素振りすら見せず、むしろ画面のほうが遅いと言わんばかりの素早さと正確さでキーを叩いている。
エンターキーを打ち一度作業を中断した滅は視線を画面から逸らして自身の背後に座る男へと向けた。
――否、それは人ではない。男らしさを感じる逞しい顔立ちや肌の色、その質感とグレーの生地で継接ぎのようになっている黒のスーツを着ていることから、一見すると二十歳後半の男性に見えるが首から下は人とは思えぬほど無機質で冷たい印象を与える金属で覆われており、滅の操作している機械群から伸びる太いコードが男の腹部に繫がっていた。
ゴロゴロと、どこからか雷鳴が響く。
「わーい、暗殺ちゃーん。こっちこっちー!」
「迅、まてー」
そこへ二人の青年がやってくる。
フードで顔の大半を隠し無邪気な笑顔で部屋の中を駆け回るのは
そして、迅を追いかけている黒い軍服に似た服を着た青年は暗殺ヒューマギア――通称『暗殺ちゃん(迅命名)』。用心棒係である彼を含めた総勢三名が現在の滅亡迅雷.netのメンバーであった。
「滅ー! 滅も一緒に遊ぼうよー! ……ん?」
無邪気に駆けていた迅の足が止まる。滅が作戦のために調整を施していた男に興味を示した様子だ。
「何々ー、新しいお友達?」
喜々として新たな仲間の顔を目にするべく正面へ回り込もうとする。暗殺ちゃんもそんな迅につられて男の前に立った。そして――
「えっ!? こいつって……」
「
男の顔を見て二人の動きが止まる。
それもその筈。男の顔のモデルは彼ら滅亡迅雷の宿敵とも呼べる人類を守護する組織『A.I.M.S.』に所属し、滅や迅、暗殺ちゃんと幾度となく激闘を繰り広げてきた
「滅、こいつは……」
「あぁ、A.I.M.S.の男のデータをもとに作った新たなヒューマギアだ」
迅の疑問に滅はすぐに答えた。
キーボードをタッチして画面を切り替える。そこにはこれまでの滅亡迅雷.netと不破の変身する『仮面ライダーバルカン』との戦いの記録が表示されていた。
「これまでの戦いからアークはこの男がやがて我々にとって大きな脅威となることを導き出した。そこで奴と同じ力、同じ思考回路を持つヒューマギアをぶつけることであの男を抹殺しろとの命が下りた」
「ふーん、アークがねぇ」
自らの崇拝するアークに敬意を示しながら滅は迅達にそう説く。懐からガラスのように中の基盤が透き通った青いクリア素材で出来た小さなデバイスを取り出しキーボードのすぐそばににある小さなコンソールの上に置いた。
「このヒューマギアには試験的に我々ヒューマギアと人間を判別を困難にする装置を新たに搭載してある。この装置が上手く作動すれば我々の計画もより進行が早まるだろう」
「へぇー、凄いんだね。この偽バルカン」
興味深々といった様子で不破型ヒューマギアの頭を触る迅と暗殺ちゃん。そんな二人に冷たくも見守るようなまなざしを向けながら滅は彼の腰に武骨なベルト『フォースライザー』を装着させるとキーボードを操作してスイッチを入れる。
直後、不破の目が開かれ赤い光を宿す。小さく唸りを上げて耳に備えられていたヒューマギアの象徴ともいえる巨大なヘッドモジュールが姿を消す。名残として赤いピアスのようなものはあるがそれ以外は本物と見比べても差は無くなっていた。
ビクビクと振動しながら不破の身体にデータが、アークの意思が流れ込んでいく。迅と暗殺ちゃんが目を輝かせ新たな仲間の誕生を心待ちにする中、完了まであと僅かとなった瞬間――強烈な雷鳴が爆音の如く轟いた。
「わぁぁぁ!」
「うわぁぁぁー」
「…………」
悲鳴を上げる迅と暗殺ちゃん。地下深くとは言っても彼らが地上に出入りするために多少は外界と繋がりのあるその部屋にも雷の影響は生じることとなった。目を覆いたくなるほどの目映い光の後、部屋の全てのコンピューターは機能を停止。部屋が暗闇に包まれた。
「停電だー」
「面白いところだったのに邪魔しないでよー。動けっ。動け、このー!」
「迅……、止せ」
楽しい瞬間を邪魔された迅は頬を膨らませ機械を無理やり復旧させるべく乱暴に叩く。そんなことをしても悪化するだけだと理解している滅は迅を制すが、一歩遅く。
迅の叩いた機材はボンと音を立てて爆発、その余波は周辺の機器にも伝わっていき、室内は小さな爆発と黒い煙に包まれていく。
「わぁー、火事だぁー!」
「火事だ火事だー」
連鎖し続ける爆発、立ち込める煙、叫ぶ迅、逃げ回る暗殺ちゃん、立ち尽くす滅、そして、唯一流れ続ける強力な電流に痙攣する不破という混沌が部屋を支配する。
その後、かろうじて生きていた火災システムが作動することでようやく終息に向かうがそのころには三人とも黒く汚れ室内は見るも無残な姿となってしまっていた。
「はぁはぁ、酷い目にあったー! ……んっ?」
床に倒れ荒い息を吐く迅。落ち着いたのか辺りを見回すが、そこで何かに気づいた。
「あれっ!? 偽バルカンが、新しいお友達がいない!」
「何……!」
迅の言葉に滅も立ち上がった。彼の言う通り先程まで不破の座っていた場所には誰もおらず部屋中を見渡してもその姿を捉えることが出来なかった。
「奴め、一体どこに……」
「お友達ー! どこに行っちゃったのー」
迅の叫び声がむなしく響く。床に落ちていた僅かに損傷しているフォースライザーを片手に滅が珍しく苛立ちを込めてそう呟いた。
この日、滅亡迅雷.netのアジトから不破諌の姿と記憶を持つ一体のヒューマギアがその行方をくらましたのだった。
※
「どこだぁー! どこにあるー!」
とあるオフィスにて男のけたたましい声が響き渡る。
ここは内閣官房直属の対人工知能特務機関『A.I.M.S.』の本拠地の事務室であり、組織の実働部隊隊長である不破諌はこの朝方から自身のデスクを本当にひっくり返さんばかりにガサガサと漁っていた。
「無い……、どうして無いんだ!」
職務を効率よく行えるよう日頃から整理整頓してある諌のデスクはもはや見る影もなく、捜査途中の書類はおろか本日中に目を通すように言われていたものや廃棄予定だった古い資料が混じりあいデスク周辺に散らばって足の踏み場もなく、引き出しを全て引き抜き中身を構わずひっくり返したことから、今後のことを考えたくないほど酷い有様だった。
「ここまで探して無いとは……、まさか」
見渡すと諌の周りはおろか部屋全体が似たような状態となっており、普段の暴走しがちだが根は真面目で頼りがいのある彼を知る部下たちは皆、この状況に戸惑っていた。
だが、これほど探して見つからないとすれば諌の心辺りは一つだった。そして、それを見計らったように彼のライズフォンに着信が入る。相手の名前は
彼女からの通話をオンにすると深く息を吸い、勢いよく吐き出した。
「
渾身の力を喉に込め顔を野性のゴリラと見紛うほどに歪ませ吠える。周りのA.I.M.S.職員が耳を塞ぎキーンと遅れてやってくる痺れに悩まされる中、電話の相手である唯阿は「うるさいぞ不破」と一蹴した。
「お前のショットライザーは昨夜の戦いでひどく損傷して修理には時間がかかる。プログライズキーもその調整のために借りた。だから我慢しろ」
「なんだとぉぉぉー! もし滅亡迅雷がでたらどうするつもりだ!」
「知らん。自分で何とかしろ。大体、日頃からお前が無理やりこじ開けたりするから壊れやすくなるんだ。少しは修理する身にもなれ」
「それはそもそも刃、お前が――」
「――私は忙しい、切るぞ」
「待てッ、刃! くッ!」
向こうからかけてきた癖に勝手に通話を打ち切った唯阿に諌は唇を噛む。自身の装備の行方が分かったのはいいが実働部隊である自分が武器も持っていないという現状は変わらずに頭を抱える。
それでも、諌は今できることとして自分の散らかした事務室を元通りにすべく動き出したのだった。
「ふぅっ……」
通話を終え唯阿はほっと胸を撫でおろす。
ここは、彼女の専用オフィスであり諌への報告という一仕事を終えた彼女はそのままチェアの背もたれの心地よさに身を預けた。そして自身のデスクに置かれた装備一式に目をやった。
そこに置かれているのは普段諌の使っているショットライザーにウルフとゴリラのプログライズキー。諌には修理中と伝えてはいるが実のところ修理は昨夜のうちに終了していたのだ。
(不破のやつ……、少しは私の気持ちも思い知れ)
マグカップに口を付けながらそんなことを思う。
A.I.M.S.という国の重要な役目を担う組織の技術力の全権を若くして握る彼女からしてみればいくら最新のテクノロジーを使い製造された武装といえど直すのは容易であり、今回のは普段そんなものを昔の家具の如く粗雑に扱い壊れたら全て自分に押し付けてくる諌への仕返しだった。
「アイツを反省させるにはちょうどいい機会だ。是非、利用しなくては」
専用の小型冷蔵庫からシュークリームを取り出してパクリと頬張る。一日生産10個の超激レア品で値段も馬鹿にできない一品だが、装備の修理費用という名の経費で落として購入したものだ。
口いっぱいに広がるクリームの甘みを感じながら、この時だけは装備を破壊してくれた諌に対し心から礼を言った。
少しして、捜査という名目で外へ出た諌はケーキの箱の入った透明な袋を片手に街を散策していた。
「アイツらには迷惑かけちまったからな……。たまにはこういうのでも奢ってやらないとな」
今朝の一件や日頃から自分の無茶に付き合わせてしまいがちな部下たちにたまにはお礼の一つでもと思いこうしてケーキを買いに来たのだった。
ちなみに、諌にはもちろんケーキなどスイーツの知識など無かったため仕方なく街に立っていたナビゲーターヒューマギアのアドバイスを受け店を選んだ。予算上限なしお土産に喜ばれるものを。結果、本店はとある大企業が十年掛かりで発展させたとある地方都市にある洋菓子店で本店の店長はなんでも海外の有名なパティシエのコンテストで優勝した経験があるという話だ。
今回、諌が購入したのはその本店の店長の一番弟子が営んでいる支店で近年、増えている増えている系列店のなかでもかなり評判の良く女性受けも良い店だったがそれを彼が知ることはない。
(しかし、たかがケーキだと馬鹿にしていたがかなり高くついちまったな。まあ、金はあまり使わないからこういう時こそ使わないとな)
いつまでも持ち場を離れるわけにはいかないと歩くペースを速める。と、そこであるものが諌の目にとまった。
「たい焼き屋。あの親父まだやってたんだな」
学生時代よく通った移動式のたい焼き屋が目の前で営業していた。最後に行ったのがもう十年近く前になりその時点で店主もかなり高齢だったためもう引退したものとばかり思っていたがまだ現役だったらしい。
「懐かしいな……、久しぶりに行ってみるか」
少しくらいは自分に褒美を与えてもいいだろうと思い少し浮かれ気味に暖簾をくぐる。そして――
「「おっちゃん、たい焼き一つ」」
二人の声が重なった。よく似た、というより全く同じ声が同時に響く。
「「んんっ!?」」
二人の諌はほぼ同じタイミングで互いを見つめ、そして睨み合う。横にいる自身と瓜二つの顔をした男を。
「「何ぃぃぃ!?」」
不破諌たちはお互いに牽制し合ったまま店から飛び出し構える。どちらも武器を所持してはいないがそれでも変身時と変わらぬ構えをとって。
「「お前はだれだぁぁぁぁぁー!」」
同時に指をさしどちらが本物かを決める戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。
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