仮面ライダーゼロワン外伝 「仮面ライダーバンバルカン」 作:不破コラ違反者
場所は変わって近くのゲームセンター。どこの町にもあるいたって普通の店で次の対決は行われていた。
「ふっ! はぁっ!」
画面に映るゾンビ相手に日頃鍛えた射撃の腕を存分に振るう。冷静に打ち漏らしなく銃弾を振るい、耳に当てている青いヘッドホン越しに聞こえるリアルな断末魔にも意識を取られることなくスコアを伸ばしていく。
「…………」
対するイサムは諌とは違い、ただ闇雲にゾンビを屠るのではなく。何らかの法則に従い一定の距離まで近づいたら射殺。それ以外は逃げるを繰り返していた。
「どうした偽物? もしかしてゾンビは怖いのか?」
周りの喧騒にもイサムの当てている赤いヘッドホン越しにも聞こえるくらい声を張り上げ軽く挑発した。しかし、イサムは計算通りという顔を浮かべ。
「本番はこれからだ」
と、今度は打って変わってゾンビを射撃し始めた――それも、一度に二体同時に。
「何っ!?」
予想外の展開に絶句する諌。
今、イサムがやって見せたのは重なることのないようにプログラムされたゾンビを同時に射貫くという仕様無視のチート技。それも一度だけならず二度三度とそれ以降連続で打ち抜いていく。
「一体、どうやって……」
「ただ逃げているだけだと思ったのか? 俺は最初からこうなるように狙っていたのさ」
してやったりと、得意げな顔を向けてくるイサム。
神経を逆なでされた諌はより激しく画面に映りこんだゾンビたちを一撃で撃破していく。
そして、結果は――
「また、引き分けだと……」
いくら、チートしても最初の差は埋められなかったらしく。二人の対決二回戦はまたもや引き分けとなったのだった。
「次だ、次!」
「待て!」
傍でうんざりした様子で見ていた或人とイズを放置して二人はどこかへと言ってしまった。まだ続くのかと或人はため息をつくが、ここまで付き合ってしまった以上、最後まで見届けるのが筋だと重い足を引きずり彼らの後を追うのだった。
※
それからも彼らの戦いは続き、そのたびに或人は振り回された。
ある時は大食い対決。目が痛くなりそうなくらいに真っ赤な激辛焼きそばをどれだけ食べられるかという対決では、どちらもゴホゴホせき込むことすらなく食べ続けたが最終的には7杯目に行こうかというところで同時にノックダウン。
ちなみに、イズにはこんな危険なものを食べさせるわけにはいかないとのことで頑張った或人は1杯も完食できず途中リタイア。
またある時は、近くで路上ライブをやっていた青年からギターを拝借しての音楽対決。結果はどちらも客を大勢引き留めるほど素晴らしい演奏を見せつけ引き分け。
しまいにはどちらが多く街に蔓延る悪党を捉えられるかという対決を唐突にはじめようとしたのだが流石にそれは或人に制され自分たちでも我に返ったのか取りやめとなった。そして今は――
「ふおぉぉぉぉぉ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
元いた公園に戻ってきた二人はにらめっこをしながら腕相撲をするというもはやツッコむのも面倒な勝負を始めていた。何でも『本物の自分ならどんなことでも笑わない』との双方の意見から生じた対決だ。その様子を死んだ魚の目で見つめる或人とイズはどちらかともなくこんなことを呟いた。
「もうこれからは不破さんは二人いるでいいんじゃないかな。ねぇイズ?」
「はい、見たところ。特に支障があるわけでもないようですし」
「いいわけあるか!」
投げやりなことを言い始めた二人に諌は反論した。怒っているのは相変わらずだが時が過ぎたことで多少は冷静さを取り戻した様子だ。
「俺が俺であっていいのは俺だけだ。同じ顔だけならまだしも、ヒューマギアじゃあるまいしここまでそっくりな奴は必要ない」
「この世界、不破諌という人間は俺一人だけだ」
硬く拳を握りしめ諌はそう呟いた。
ヒューマギアに対して恐れに似た強い憎しみを糧に自己を鍛え続けてきた彼にとって自分と全く同じ存在が目の前にいることは耐えがたいことだった。
「その通りだ。こんな偽物に言われるのは尺だが俺は一人で十分だ」
「何だと、偽物のくせに!」
「偽物はお前だろうかが!」
「もう、落ち着けよ!」
もう何度目かの言い合いに慣れてきた或人は二人を簡単に引きはがした。とはいっても、諌の言い分はもっともだ。
元々、自分と同じ顔同じ性能の個体がいるヒューマギア(内面まで一緒とは限らないが)と違い人間は世界でただ一人バックアップなど無いのだから。
「キャァーーーー! 引ったくりよぉ! 誰か捕まえてぇー!」
三人の耳に悲鳴が聞こえてきた。
同時に声のする方を向くと公園からすぐそばの歩道橋にて黒いジャージを着た男がスーツ姿の女性からカバンを奪い取り走っていた。
「どけっ!」
「きゃっ!?」
逃げる男は通りかかりのベビーカーを押す女性を突き飛ばす。運の悪いことにベビーカーはそのままバリアフリーの坂を急速に下り始めてしまった。このままでは赤ん坊を乗せたままのそれは勢いを増し続けどこかに衝突してしまうだろう。
「あっ!」
何とかしなければと或人が足に力を込めだした瞬間、二人の不破は同時に駆けだした。
普通ならベビーカーか引ったくり、どちらか一人しか追えないだろう。
しかし、今の不破諌は二人いる。
「くっ……!」
示し合わせたわけではないが諌はベビーカーへと駆け寄り中にいた赤ん坊を見事救出。
「ハァッ!」
イサムはベビーカーとは反対の方向へ逃げた引ったくりめがけて飛び掛かり取り押さえた。
残ったベビーカーはイズが素早く受け止めに走ったため、被害を出すことなく止められた。
「大丈夫ですか!?」
少し遅れて或人が引ったくり被害にあった女性の介抱に駆け付けた。引ったくりに転ばされてしまったようだが特に目立った外傷も見られず安堵する。
「…………」
そして、或人の視線はイサムへと向けられた。
未だ引ったくりを抑えたままの彼が見ている先にいるのは赤ん坊を抱いたままの諌。状況が分からずキャッキャッと笑う子を母親に返した彼の視線もまたイサムへと向けられる。
またもや掴み合いになるかと思われたが、彼らの目は先ほどよりもどこか複雑な、信じられないものを見たという困惑が浮かんでいた。
※
ガコン、と音を鳴らして自販機から一つおしるこの入った缶が落とされた。それを拾いながら諌は無言のまま横に立つイサムを見た。
彼もまた、コーヒーの缶を手に見つめ返してきた。
そして、やはり同じタイミングで自分の手にしていた缶を相手に差し出した。
「「ほらよ」」
「「ッ!?」」
「「ふんっ……!」」
互いに缶を受け取り背を向け合う。
諌はすぐに封を切り缶に一気に飲み干したがイサムは手に持ったままだった。
「どうした? 飲まないのか?」
「いや……、喉が渇いてなくてな」
「そこだけは違うのか……」
今更になって発覚した違いに驚きそのまま二人は既に或人達が座っていた階段に腰を下ろした。
「さっきは助かった。俺一人じゃ二つ同時は無理だった」
「こちらこそ礼を言う。一人ではどちらか失敗していただろう」
先程の引ったくり事件のことをどちらの勝ちと争うことはなく素直に感謝し合う。
あれから、事後処理を駆け付けた警官に任せ立ち去った一行だったがそのあと再度勝負という気分にはなれず、牙を抜かれたのか当てもなくフラフラした後人通りの少ないバスの停留所にやって来たのだった。
笑みすら見せず仏頂面の二人だが、その様子をずっと見てきた或人達はどこか嬉しそうに顎を手に乗せていた。
「いやー、不破さん達仲良くなれてよかったな。これで一件落着。ここは終着! ……なんつって」
「しかし未だどちらが本物の不破諌さんなのかは未だ分かっていませんがどうするおつもりなのでしょうか」
「あれっ……!? うーん、そうだなぁー」
問題が解決した「一件落着」とバス停にちなんだバスの「終着」を掛けた即興アルトじゃないとを華麗にスルーされてしまう。イズの言うことももっともで――本来、一人しかいない『不破諌』という人間が二人いるという異常な事態は何も解決していない。しかし。
「でも見てくれよ。不破さん達。楽しそうなんだよ」
「…………?」
「二人とも、今朝あったばかりなのにもう昔からの友達みたいでさ。なんかうらやましかったりして」
首を可愛らしく傾げ二人の不破を覗き見る。
彼らは先ほどまでずっといがみあっていたのが信じられないくらいには関係が良好になり、互いに心の奥底に秘めていた様々な感情を共有していた。
不破諌という男は『デイブレイク』という爆発事件の数少ない生存者でその中でも『無数のヒューマギアに襲われる』というトラウマも経験している希少な存在でもある。その事故で両親や親しかった友人を一気に失った諌少年にその胸の内に秘めた怒りや恐怖を吐露できる存在などいるわけもなくずっと内に押し殺してきた。
――しかし、今目の前にいるのは自分自身、彼らにとってどういう理屈でそうなっているのかなど知る由はなかったがこれまで溜まっていたものを吐き出すのに自分自身というのは都合がよかったのだ。
「不破さんに何でも話せる相手が出来たってのは何はともあれいいことなんじゃないのかな。あの人、かなり暴走しがちだから自分に止められるなら少しは落ち着くんじゃないのかな」
「暴走するのが二人に増えただけなのでは? そもそも、もう一人はどこからあらわれたのでしょうか?」
「そうかな!? そうだよな……」
イズの指摘に考え込む或人。問題の先送りであることは彼自身心のどこかで思っていたため考えが揺らいでしまう。社長であり最終的な決定権を持つ彼を困らせてしまったことに気づいたイズは訂正しようと口を開くが――
「やっほー! 迎えに来たよ!」
乱入者を前にそこから言葉が発せられることはなかった。
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