ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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大洗編
大洗編1 : 到着、大洗


  

 

 派遣研修当日、大洗女子学園の戦車格納庫ではいつもと違う雰囲気を纏っていた。戦車道の履修者の誰かしも、どことなく落ち着かない様子で、キョロキョロと周りを見回すような視線を送るものばかりだ。

 

 それもそのはず、今日は大洗に滅多に来ない男子高校生が来る日なのだ。そして同じ戦車に乗る5名の少女はその話題で花を咲かせている。その中でも一際テンションの高い女子生徒がいた。

 

 

 「まだかなー早く来ないかなー?どんな人が来るのかなー?ねーねー、みぽりんはどんな人が来ると思う?」

 

 興奮した様子でみぽりんと言われた少女の肩をバシバシと叩くこの少女は武部沙織と言う。大洗の2年生で明るく、ウェーブのかかった髪が特徴的な女子だ。

 

 「わ、わかんないよー」

 

 みぽりんと言われた少女は困った顔になりながらそう答える。

 この少女の名は西住みほ。大洗の戦車隊長を二年生ながら努める程の腕の持ち主だが平時では引っ込み思案な少女だ。

 そんな困り果てる西住に対して一人の少女が助け舟を出すように口を挟む。

 

 「……お前は興奮しすぎなんだ。そんなにがっつくと向こうから嫌われるぞ」

 

 眠そうな目で少女はそう言った。

 

 「もー、麻子は分かってないなー。わたし達と同い年の男子が来るんだよ!?大洗じゃあ異性と言えばおじさん達しかいないんだからこんなチャンス絶対逃せないよ!!」

 

 武部は尚も興奮しながら麻子と呼んだ少女に詰め寄る。フルネームを冷泉麻子と言うこの少女は武部の幼馴染であり、学校でもトップクラスの成績を持つ秀才だ。

 ただ武部の言う通り、この大洗の学園艦は女子校である。生徒の父親やその弟など歳の離れた異性などはたくさんいるが、同年代の男子となると絶滅危惧種も同然なのだ。そのような環境から『この機会に』と、チャンスを伺っている生徒は武部だけではない。

 ただでさえ出会いの少ない環境に年頃の女子高生。このようなビッグイベントを逃す訳には行かないのだ。武部の発言に冷泉がうんざりとした顔になってため息をつくと一人の少女が会話に入る。

 

 「で、でも自分はそう言うのは経験がないものでして...」

 

 全体的に髪に天然パーマのかかった女子が顔を真っ赤にしてそう言った。

 

 「そんなん誰だってそうだよ!ゆかりんだってこれ逃しちゃったら高校生のうちに彼氏出来ないかも知れないんだよ!?」

 

 ゆかりんと呼ばれた少女は武部の勢いにたじたじとなる。

 この少女の名は秋山優花里と言い、戦車好きの2年生で戦車のことばかりに時間を使ってきた影響なのか、この手の話には耐性が無いのだ。

そして秋山は依然顔を真っ赤にしたまま

 

 「そ、そんな事言われましても...」

 

 と、西住同様困った表情をしてそう言った。

 

 「まぁまぁ沙織さん、楽しみなのは分かりますがここはゆっくり待ちましょう」

 

 その時、おっとりとした声で上記の4人とは別の声をした女性がまた会話に加わる。

 

 「えー、華はなんかよゆーって感じー」

 

 武部に華と呼ばれたこの女性、フルネームを五十鈴華と言い、おっとりとした性格に柔らかい雰囲気を持った黒髪のロングヘアーの女性である。

 そんな五十鈴の余裕さが武部にとって不満なのか、少し拗ねたようにそう言った。

 

 「まーでも、華の言う通りソワソワしたって来るのが早くなるわけじゃ無いからねー。あー!でも早く来ないかなー!」

 

 武部はこれから来る整備士達の顔を妄想しながら少し頬を染めて、だらしない顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 そしてこの会話の少し前、大洗学園艦の下部、フェリーが停まれる簡易的な桟橋では3人の女子高生と5人の男子高校生、それぞれ向かい合うようにして対面していた。

 

 

 「よく来てくれたねー、待ってたよー。あたしはここの生徒会長やってる角谷杏ってんだー。これから1ヶ月半よろしくねー、右のこっちは小山、左は河嶋だよー」

 

 「よろしくねー」

 

 「...よろしく頼む」

 

 小山と呼ばれた少女はのんびりと返し、対照的に河嶋と呼ばれた少女は鋭い目つきで素っ気なく返した。

 それに対し大洗の整備班長になった八潮は緊張しながらも代表して挨拶をする。

 

 「お、お出迎えありがとうございます。宮舞高校整備科から来ました

整備班長の八潮学です。左から島原、泉、山下、太田です。これから1ヶ月半、よろしくお願いします。総員、敬礼!!」

 

 「「「はっ!!」」」

 

 八潮が号令を掛けると、隊員は一糸乱れぬ綺麗な敬礼を返す。

 男性特有の腹の底に響くような声に、河嶋と小山も少々気圧される。

だが、その中でも角谷は依然とヘラヘラとした顔を浮かべている。

 

 「まーまー、まだこれからウチの戦車道履修者も紹介するんだから、

今からそんな堅くなっちゃ疲れちゃうよー?」

 

 いつも通り、手をひらひらさせてそう返す。

 

 「は、はぁ...」

 

 そんなマイペースな角谷に八潮はあっけらかんとした表情を浮かべる。

 それを見た角谷は新しいおもちゃを見つけたような顔をする。

 

 「ふーん、君が古葉ちゃんが言ってた子だね。色々話は聞いてるから。期待してるよー」

 

 角谷のその言葉に緊張が増したのか、八潮の顔が一層強張る。彼としては自信のない自分に過度な期待をかけられてしまっては萎縮をしてしまうのだ。

 

 「そんなに期待しないで下さい。……はぁ、ウチの隊長一体どんな事を言ったんですか?」

 

 八潮は苦い顔になりながら気弱そうに角谷にそう尋ねる。

 

 「あっはっはー、古葉ちゃんの言ったとーりの子だねえ、彼からは面白い子って聞いてるから、そんなに怖がんなくてもいいよー。とって食ったりしないから」

 

 角谷は愉快そうな笑い方をする。その甲斐あってか、場の雰囲気が幾らかほぐれたようになる。八潮も強張った顔をやっと崩して安心したような笑顔を浮かべる。

 

 「それじゃあここで話を続けるのもなんだし、そろそろ戦車格納庫の方に行こっか」

 

 角谷はそう言葉を続けた。八潮もそれに言葉を返す。

 

 「はい、お願いします」

 

 こうして緊張と不安と、少しの期待を持って八潮は大洗女子学園に乗り込んでいった。

 

 

 _____________

 

 

 それから30分ほど経った後、大洗の戦車格納庫では履修者達がずらりと並んでいた。それと相対する様に宮舞高校の整備科の面々が横に並ぶ。大洗の生徒たちの珍しい物を見るような、ヒソヒソとした話し声でこちらをチラチラ見る視線に宮舞の整備班員たちは居心地の悪さを感じていた。八潮もこういった視線は去年マジノに行った時に経験しているが、やはり慣れないものなのだ。

 そんな雰囲気の中、角谷が一歩前に出る。

 

 「やー、お待たせ。今日から1ヶ月半、お世話になる宮舞高校の整備科の人たちだよー。戦車整備に関しての知識は群を抜いてるから色々聞きたいことがあったら遠慮なく聞きなー。八潮ちゃんもそれでいいよね?」

 

 さっそくちゃん付けで呼ぶ角谷は置いておいて、八潮は一つ咳払いをして大洗の生徒たちに挨拶をする。

 

 「紹介ありがとうございます。宮舞高校整備科の2年生で、整備班長を務めます八潮学といいます。これから1ヶ月半、皆さんと一緒に切磋琢磨し合い、充実した研修にしたいと思います。角谷さんも言ったように、何か聞きたい事があれば色々聞いてください。よろしくお願いします」

 

 そう言い終えると八潮はほっと一息つく。

 すると、大洗の生徒の一人から元気の良い声が聞こえてくる。

 

 

 「はいはーい!!さっそく質問いいですか!?」

 

 食い気味に手を挙げたのは真ん中の方に並んでいた武部だった。少し目が血走っており、鬼気迫る物を感じる。八潮はそんな武部にドン引きしながらも

 

 「は、はい。なんでしょう?」

 

 と言った。そして武部は依然として興奮した様子で

 

 

 

 「皆さん今彼女っているんですか!?」

 

 

 

 と言った。それは場の雰囲気を凍らせるのには十分だった。

 八潮の中でも派遣研修は2度目だがいきなりこんな質問をしてくる女は初めてだった。班員の誰もがその言葉を飲み込めず。困惑していると、武部の頭がいい音を立てて下を向く。

 

 「いったーーい!?何すんのよ麻子!!」

 

 「こっちのセリフだ、班員の表情を見てみろ、ドン引きしてるぞ」

 

 武部の頭を叩いたのは隣にいた冷泉だった。武部はハッと我に返り、班員の方を見る。すると5人とも引きつった苦笑いを浮かべていた。

 それを見た武部は自分のしたことの恥ずかしさに気づいたのか顔を赤らめてしおらしくなる。

 

 「……えーっと、ごめんなさい。私2年生の武部沙織と言います。さっきのことは忘れて下さい。お願いします……」

 

 武部は先程とは対照的な静かな自己紹介をした。

 

 「え、ええ。こちらこそよろしくお願いします……」

 

 八潮はテンションの上下の激しさに困惑しながらもそう言葉を返した。それと同時に、自身のライバルと似たような性格だなと感想を抱いたのであった。

 

 「あははー、まあ余興はこれくらいにしといて、ウチの隊長も紹介しないとねー。ねー、西住ちゃん」

 

 角谷がタイミングを見計らっていたのか、そう口を挟む。

 

 「え!?ひ、ひゃい!?」

 

 返事と呼べるのか怪しい声を出したのは大洗の隊長である西住みほだった。その特徴的な声に全員の視線を集める。視線を感じた西住はさらに上がり、顔が茹で蛸のように真っ赤になる。

 

 

 「え、えっと、あの……その……た、隊長の西住みひょです……」

 

 「……みひょ?」

 

 八潮がそう聞き返すと西住の顔がさらに真っ赤になり下を向いて俯いてしまった。

 

 「あ、え、ええと、みほです。すみません、よろしくお願いします……」

 

 今にも消え入りそうな声で西住はそう言った。八潮はどうしたものかと思考を巡らせる。とりあえず西住にちゃんと話してもらうために今年の戦車道大会の話題を出す。

 

 「ええと、今年の戦車道大会の決勝戦、テレビで観ました。2年生なのに立派に指揮をとっていて感動しました。今度でよろしければ戦術などのお話を聞いても良いですか?」

 

 なるべく西住を緊張させないために優しい声で八潮はそう言った。

 

 「は、はい。私のなんかで良ければ……」

 

 まだ硬いが、少し緊張のほぐれた西住がそう答えた。やっとまともな会話が成立したのである。

 

 「整備の事でも何か気になった事があればどんどん言って下さいね、僕たちにとってもその方が良いですから」

 

 八潮は少し微笑んでそう言った。

 

 「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 西住がそう言うと八潮は右手を差し出す。それを見た西住は再びあわあわとした挙動不審な行動をとる。

 

 「……えっと、西住さん?もしかして握手はやめた方が良いですか?」

 

 八潮が残念そうな顔で手を引っ込めようとすると西住はさらに慌てる。

 

 「い、いえ!そうじゃなくって、あの、その……よろしお願いします……」

 

 顔を真っ赤にして俯いたまま、壊れ物に触るようなゆっくりとした手つきで八潮の右手を握る。

 

 「……こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 八潮は異常に高い西住の右手の温度を感じながら、これは前途多難だなと、心の中で呟いた。

 

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