ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
初対面から数日後、大洗の戦車格納庫では各々に作業を進めている。
最初こそ慣れない男に緊張していた大洗の面々だが、それも時間が経てばそれぞれ慣れ始めていた。
「えっと……や、やっぱり戦車を一目見ただけでじ、状態が分かるものなのかな!?」
「え?あ、いや、だいたいってところですかね?中身を見てみないと分からないこともあるんで」
「あ、あははー!だ、だよね!!何言っちゃってんだろー私!!!」
そんな中でも全く慣れてない女子が一人、武部である。泉となんとか会話になっている分、幾らかは成長しているが、今は想い人と目の前で2人きり。そう言う経験のない武部にとってはテンパるのも仕方のない事なのだろう。
「……駄目だな、アレは」
そんな光景を遠目で見ていた冷泉がそう呟く。自身の幼馴染が言動とは裏腹に奥手である事は彼女も分かっていたが、ここまで酷いとは思っていなかったのだろう。
「まあまあ、沙織さんも初めての経験なんですから、もう少し気長に見ても良いんじゃないですか?」
冷泉の隣にいた五十鈴がのんびりとした声でそう言う。
「折角2人きりにしてやったんだ。もうちょっとマシになってると思ったがまだ早かったか」
冷泉がそう言ってため息をつく。いつまで経っても泉に話しかけられない武部に、冷泉が痺れを切らしてこのような荒療治に出たのだが、逆効果だったようだ。
「……まあ、そう急かすのも無理はありません。こっちはいい感じっぽいですしね」
五十鈴がそう言って目線を別の場所へ移す。その先には泉と武部ではない、もう1組の男女ペアが会話をしていた。
「こっちに戦車が来たら山の上から狙い撃ちされませんか?」
「ええ、そこでわざと砂煙を上げて相手の"目"を誤魔化すんです」
お互い熱心に地図を見ながら戦術論を交わしているのはみほと八潮の2人。こちらは泉と武部のような事は無く、お互いリラックスしてスムーズな会話をしていた。
「なるほど……それならこの場所を突破できますね。突破した後はどんな風に立ち回るんですか?」
「そうですね…私なら________」
やはり"戦車道"と言う共通の話題があれば会話も弾むものなのだろう。彼此1時間近くはこの状況だが、全く会話が途切れる気配はなかった。
「……いい雰囲気と言うか、ただ戦車道に関して熱心に話してるだけに思うがな」
冷泉はその光景を見てまだ2人にそういう感情はないのかな、と読む。
「いや、麻子さん、こう言う会話が後々効いてくるんですよ」
対して五十鈴は、この会話も後々重要になって来ると読んでるらし
い。楽しそうな表情で2人のやりとりを見つめている。
「……そう言うものなのか」
一方、納得のいかない表情でそう言う冷泉であった。
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「しかし、こう言っては何ですが、少し意外でしたね」
戦術論談義も一通り話終えたのか、ここでようやく八潮が戦車道以外の話題を振ろうとする。
「?、何がですか?」
突然そう言われてみほの方も首を傾げる。
「いや、挨拶の時と比べれば大分リラックスしているなって思ったんです」
八潮がおちょくるようにそう言うとみほは眉毛をハの字に曲げて顔を赤らめる。
「えー!?、も、もう!あの時のことは忘れてください!!」
焦った表情でそう捲し立てるみほ。だが本当に嫌がっているわけでは無く、少し笑みがこぼれての発言だった。
「あははー、すみません。他の人達に比べて何というか、結構スムーズに会話が出来たので」
対する八潮は軽く笑ってそう返す。彼としては、大洗女子と話すと相手が尽く緊張してしまうのに対し、みほは挨拶の時と比べてリラックスして会話が出来ていたことを意外に感じていた。
「うぅー……私って昔からあがり症なんです。大勢の人がいるとどうしても緊張しちゃって……」
依然と苦笑いになりながらみほはそう呟く。その言葉に八潮も納得した表情になる。彼としては男に苦手意識があるのではないかと若干危惧していたので、心の中でホッとするのだった。
「なるほど、でも男性に苦手意識があるとか、そう言う事で無くてよかったです。……もしかして西住さんって男兄弟とかいるんですか?」
少し踏み込んだ話をしていいと感じた八潮はそんな事を聞く。
「兄弟はいないんですけど、お兄ちゃんみたいな人はいましたね」
対してみほの方も快く応える。少し懐かしむような、そんな表情だった。
「へぇー、なるほど。それで結構男性に慣れてたんですね。……因みにどんな人だったんですか?」
少し聞くのに躊躇した八潮だが、懐かしむようなみほな表情がどうしても気になってしまったのでそんな事を聞く。
「えっと、うーん、なんて言うんだろうな?マイペース?なんだけどどこかいつも何か考え事してるような……それでいて他人の事もよく見てるような……私からしたら結構不思議な人だったかもですね」
曖昧な表現にあんまり仲良くなかったのかなと感じ、八潮はしまったと、心の中で思う。
「えっと、ごめんなさい、あんまり聞かないほうがよかったですか?」
率直に八潮がそう謝るとみほは少し焦ったような仕草を見せる。
「え!?いや!全然そんな事ないです!実際私も結構懐いていたので、仲が悪かったわけじゃないですよ?」
早とちりだった八潮の発言にあらぬ誤解をされないようにみほが訂正を入れる。
「す、すみません!勘違いしちゃって……と言う事は結構良い人だったんですね」
「うん、そうですね。だから私も懐いてたと思いますし、ただ……ふふっ」
会話の途中で急に思い出し笑いをし始めたみほに八潮は不思議そうな顔をする。
「ただ?」
「ふふっ、いやあ、私以上に懐いてた人がいるんです。いつもその人にべったりくっ付いていて、何処に行くにもその人の後ろをついてって、一緒に迷子になった事もあったんですよ?」
思い出し笑いを堪え切れないのか、所々吹き出しそうになりながらみほはそう言う。
「それって……」
八潮もそれが誰なのか何となく察してそう呟く。それはもう1人、みほの身内であり、今では全く表情を変えることが無い、戦車道の世界でも有名人なあの人。
「はい、多分察しの通り、私のお姉ちゃんです。意外でしたか?」
実の妹に恥ずかしい過去をバラされる西住まほ。それは今のイメージからは考えられない光景だった。
「……意外と言うか、想像できないですね」
八潮もそんな感想を抱いたのか、微妙な顔をしてそう呟く。
「ふふっ、お姉ちゃんはああ見えて結構感情が豊かなんですよ?...あんまり顔に出ないですけど」
思い出して面白くなってきたのか、姉の昔話に花を咲かせる。
「昔なんかはよくその人と一緒にいろんな事をしてお母さんに怒られていましたねー。私もついて行ってたんで一緒に叱られることが多かったです」
本人が聞くと恥ずかし死しそうな内容をベラベラと喋るみほ。その表情はとても嬉しそうで、しかし恥ずかしそうな表情も混ざった笑顔だった。
「あー、懐かしいなー。
そしてここには居ない兄代わりの名前を呼ぶみほ。件の人物は今現在、黒森峰で一緒に居るとも知らずに。
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そしてそんな時間も流れて時刻は午後7時、学校も終え、いつものように通学路で並んで歩く5人の少女がいた。
「えっと……大丈夫ですか?沙織さん?」
魂の抜けた白い抜け殻みたいになっている武部にみほが心配の声をかける。
「……そっとして置いてやれ。今日は一段と酷かったんだ」
冷泉がフォローの言葉を掛ける。あれからも会話がスムーズに進む事は無く、見かねた冷泉と五十鈴が手助けする形で、なんとか緊張しないで済む惨状だったのだ。
「うぅ……全然喋れなかった……絶対変な女だと思われた………」
俯きながら後悔の言葉をぶつくさ言う武部。まだまだ2人きりで話すのにはハードルが高すぎた現実に、すっかり打ちのめされているようだ。
「で、でも!!、初日の頃と比べれば会話が出来ていたでありますよ!!」
見ていられない武部の姿をなんとかしようと、秋山もフォローの言葉を投げかける。
「ふふっ……あれが会話……あれが……」
が、逆効果。初日よりマシになったとはいえ、それは毛が生えた程度。このままではまともに会話できる頃には整備士達はとっくに宮舞に帰ってしまっているようなペースだった。
「うーん、どうしましょうか?とりあえず緊張するのをどうにかしないといけませんね」
五十鈴が問題の本質を言うと、図星を突かれた武部は膝から崩れ落ちる。
「は、華さん!!いくらなんでも直球過ぎますよ!!」
崩れ落ちる武部を必死に支えながらそう言うみほ。もう武部のメンタルはズタボロである。
「そうですねぇ、みほさんみたいにリラックスして会話が出来れば良いんですけど……」
そんな事など気にしてない五十鈴のその言葉に、死人と化していた武部の肩がピクンと動く。
「……そうよ……なんでみぽりんはあんなに楽しそうに会話が出来るの?」
「え゛!?」
武部に面倒くさいスイッチが入ってしまった事を察知したみほは苦い顔になる。
「班長さんとあんなに仲良く...ずるい、ずるいよみぽりん!!」
ガッ______
「あわわわわ……」
ゾンビのような動きでみほの肩掴みブンブンと振り回す武部。すると暴走する武部の頭がいい音を立てる。
「いったーい!?もう!!何すんのよ麻子!!」
「こっちのセリフだ。隊長をグロッキーにしてどうする」
冷泉がすかさずツッコミを入れる。何時ぞや見た光景だが気にしない方がいいだろう。
「……でも実際、班長殿と一番仲が良いのは西住殿でありますよね?」
割って入った秋山がそう言うと全員の目が一斉にみほに向けられる。
「そうだな。沙織みたいに緊張してなかったし」
冷泉もそう続けてが武部の方へ目線を移す。
「うっ、うるさい!……でも本当に楽しそうに話してたよねー。何かコツでもあるの?」
「え!?えーっと……」
そう言う武部にみほは困り顔になる。コツと言われてもみほとしては普通に会話していただけだ。答えようも無い事を聞かれても困り果てるだけである。少し考えるような仕草をすると一つ、みほは思い出す。昔からお世話になってきた兄のような存在がいたからこそ八潮との会話も緊張せずに出来たのでは無いかと。それを思い出して沙織へのアドバイスも自然と浮かんできた。
「えっと……そうですね。例えばですけど、泉さんを"お父さん"として見てみるのはどうでしょうか?」
「え、お父さん?」
みほの発言に目を丸くする武部。
「……なるほど、良い考えかも知れないな」
そんなみほの発言に同調したのは冷泉の方だった。会話で緊張してしまうなら、相手を一番近しい異性と思えばいい。そうなってくると真っ先に出てくるのは身内なので、まずはそういうアプローチからでもいいかも知れないと、みほは感じたのだ。
「沙織も、父親と仲が悪いわけではないだろう?」
続けて武部にそう問いかける冷泉。対して武部は微妙な顔をしていた。
「えー?うーん、そっかぁー、お父さんかぁー……」
仲が悪くないとはいえやはり好きな人を自分の父親に例えるのは抵抗があるのだろう。しかしこのままではいつまで経っても泉に話しかけられないのは武部本人も分かっていたので少し葛藤する。
「このままじゃいつまで経っても話しかけられないぞ。会話に慣れたらまた意識を戻せばいいじゃないか」
冷泉はみほの意見に賛成のようだ。念を押すように武部にそう勧める。
「うぅー、麻子がそう言うなら……」
そんな冷泉に押されて、武部も渋々と了承するのだった。
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次の日、再び泉と武部の2人きりになった状況を他の4人は遠くから見ていた。
「どんな感じでありますか?」
「まだ分からないですね……」
「お、2人とも同時に笑ったぞ」
「沙織さんもなんだか緊張してないようですね!」
昨日とは打って変わって楽しそうに会話できている武部に4人ともホッとした表情になる。当の本人は泉が父親に見えるように自己暗示を掛けているのに必死なのだが。
「えーっと、泉くんは麻子と同じ操縦士なんです……だよね」
「はい、昨日も冷泉さんと色々と会話しましたが、冷泉さんは本当に高い技術を持っていますね」
「へ、へぇー。こ、今度私もその話聞いてもいいかな?」
「お、武部さんも操縦に興味があるんですか?もちろんいいですよ!冷泉さんの話ももっと聞きたいし、今度3人で話しましょう!」
「う、うん。よろしくお願いします……」
2人きりでないことに少し肩を落とすが、まだぎこちなくはあるが自然に会話が出来ている。とりあえずは作戦成功と言ったところだろうか。
「はい、では、僕は整備に戻るんで……」
「あ、うん!ごめんね!時間取らせちゃって!!」
「いえいえ、それでは失礼します」
そう言って泉が武部の視界から消えると男らしいガッツポーズを決める。まずは一歩前進出来たことに武部としても達成感があるようだ。
そしてこれ以上に無い嬉しそうな笑顔で4人の方へ近づいて行った。
「う、上手くいったよ!!ああー!!緊張した!!ありがとうみぽりん!!今度から先生って呼ばせて!!」
「せ、先生はちょっと……」
困惑するみほの手を両手で握りブンブンと振り回す武部。どうやら相当嬉しいようだ。
「よし!この調子でガンガン行っちゃうんだから!!」
そう息巻いて宣誓をする武部。だがこの時彼女は知る由もなかった。
この恋には大きな"落とし穴"が存在する事を。