ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
今のところ、一番いい状態で派遣研修が出来ている高校は何処かと聞かれれば、おそらく大洗になるだろう。一癖も二癖もあるこの高校だが、新設で戦車道に対する偏見が無い分、宮舞の整備士達にも自然と接して居れる。滅多に来ない男子高校生に少し浮ついた部分はあるものの、裏を返せば他の高校と比べれば幾分かフレンドリーに進んでいると言うことなのだ。
大した問題もなく、研修も2週目の半ばに突入し出した頃、格納庫では二人の男女が話をしていた。
「ほぉー、参考になります。やっぱ本場の戦車整備士さんは細かいところまで完璧に把握していますねー」
黒髪ショートのオレンジ色のツナギを着た少女が感心したように頷く。
「こっちこそ驚きの連続です。まさか戦車にニトロエンジンを積むとは……他の戦車にも積んであるんですか?」
もう一人、男性の八潮も大洗の戦車改造の新鮮さに目から鱗のようだ。
「いや、ニトロ積んでるのは38tとか八九式なんかの軽い戦車ばかりですね。元々自動車用の改造エンジンなんで軽くないと付け焼き刃になっちゃうんですよ」
肩をすくめて少女はそう言う。この少女の名はナカジマ。元々は大洗自動車部の部員であるが、様々な縁から、戦車道の整備も一手に引き受ける猛者である。
宮舞の整備士達が軒並み驚くのは彼女等、自動車部の革新的な整備が理由の多くを占めていた。
「……なるほど。しかし本当に凄いですね。目新しくて、それでいてどの戦車もパワーダウンしていません。本当に今春から初めて戦車整備をやり始めたとは思えませんよ」
そして先程から八潮はナカジマにベタ褒めをしていた。自身の知識、経験からはどれも逸脱したものばかりであるが、それが逆に八潮には刺激的に移り、彼の知識欲を最大限にまで高めていたのだ。
「そ、そうですか?いやー、そこまで言われるとなんだか照れちゃいますねー」
ナカジマとて男子高校生に褒められることなど滅多に無いので、満更でも無いような表情をする。
「向こうのⅢ号突撃砲のはどんな改造をしてるんです?」
「あー、あれはですね……」
その後も話の種は尽きる事が無いのか、2人は戦車談義を続ける。そんな、側から見ればイイ雰囲気の2人をジッと見つめる少女がいた。
「…………」
「どうしたの?みぽりん。なんだかボーッとしちゃって」
「うぇっ!?さ、沙織さん!?」
2人を見つめていたのは西住みほだった。そんな彼女の様子に異変を感じたのか、武部が話しかける。
「な、なんでもないよ!ず、ずいぶん秋だなーって思ってただけ!」
「う、うん?まあもう10月に入ってるしね」
「そ、そう!!結構過ごしやすいからボーッとしちゃって……」
慌てて言い訳を作るみほ。どう見ても何か隠しているのはバレバレなのだが、彼女はこれで誤魔化せたと思っているらしい。
「……まあ、みぽりんは普段からぽやっとしてる事があるからねー。……本当は意中の人のことでも考えてたんじゃないのー?」
しかし武部にはお見通しのようだ。普段から常に恋愛アンテナを張り巡らせている彼女である。誰が好きとか誰が好きじゃ無いとかの嗅覚は大洗の中でも突出しているのだ。意地悪な顔をしてそう言うと、みほの顔が真っ赤になる。
「え!?そ、そんなんじゃ無いよ!!」
必死に否定するみほ。しかし彼女のテンプレな態度が、益々武部の言葉に説得力を与えていた。顔を赤らめて、あたふたしながらそう言っても"意識しています"と、言っているようなものである。
「へぇー、やっぱりみぽりんは班長さんなんだねー!!最近仲良く話してる事が多いし、もしかしたらって思ったけど……遂にみぽりんにも春が……!お互い頑張ろうね!!!」
「ちょ、沙織さん!!声大きい!!」
みほは八潮が好きなものだと、勝手に決めつけて盛り上がる武部。恐らく自分と同じように想いを寄せる人物ができたと思って嬉しいのだろう。
「いいっていいって!!恥ずかしがらなくても!!私の方がそっち方面では先輩なんだから!!何でも聞いていいよ!!」
数日前まで泉とまともに会話が出来なかった自分を棚に上げて。恋愛の先輩ぶりを見せる武部。もう彼女の中では自分は恋愛マスターの気分でいるらしい。
「だから違うってばー!!!」
そのテンションは、みほの悲痛な叫びも聞こえないほどに。その後も色々と武部に尋問されるみほであった。
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「や、やっと解放された……」
みほが武部から解放されたのは夕方になってからであった。武部からあれこれ飛び交う質問を必死に躱していると、流石にゲンナリするのだろう。終わった頃にはみほは疲れ切った顔をしていた。
ようやくホッと一息、落ち着こうとすると、それをさせんとばかりに
再びドキリとさせる声が聞こえてきた。
「あ、西住さん。ちょうどよかった。今話いいですか?」
「は、はいぃぃ!?」
みほの耳に入ってきたのはここ一週間で随分と聞き慣れた声。先程まで武部に尋問されていた原因の人物、八潮の声が耳に入るなりみほは一瞬にして緊張してしまう。先程あれほど武部にあれこれ追及されたのだ。否が応でも意識をしてしまっていた。
「さっきから武部さんとずっと話してたみたいなんで、もし都合が悪ければ明日聞き直しますが……」
八潮がそう言うと、みほの額から凄い勢いで冷や汗が出てきた。
「え!?さっきの話聞こえてたんですか!?!?」
質問の答えにはなって無いが、みほとしては話を聞かれていたことの方が不味かった。もしそうであれば明日から八潮と合わせる顔が無い。どうにか聞こえていないでくれと心の中で必死に願うみほだった。
「いや、内容までは……それって僕たちには言えない話なんですか?」
しかし墓穴を掘ったのか、余りにも挙動不審なみほに八潮は流石に違和感を感じたらしい。何か隠し事をしているのではと八潮は感じ取ったようで、不安な顔でおずおずと聞いてきた。
「い、いや、何て言うか、その……そ、そう!沙織さんの好みの男性の話をしてたんですよ!!あんまり男性にそう言う話を聞かれるのも良くないかなーって思って!!」
みほの言い訳は半分正解、半分ハズレなのだが上手く言ったものである。この言い方なら八潮の話をしていたと言う事はバレずに、上手く誤魔化せる。犠牲にしてしまった武部に心の中で謝りながら何とか上手く言い訳できた事にホッとするみほだった。
「そ、そうですか、すみません。デリカシーが無くて...」
不味いと思ったのか申し訳なさそうに八潮が謝る。
「い、いえ!大丈夫です!!そ、それよりお話って何ですか?」
これ以上この話をするのは不味いと思ったのか、みほは八潮の本題に戻る。
「あぁ、そうです。昨日包囲戦の話をしたじゃないですか?その事で一個疑問があって……」
「あー、多数台に包囲された時の対処法ですね?」
「はい。西住さんは一方向に攻撃を集中させるって言ってたんですけど……」
研修が始まってから一週間と少し、最早この光景が日常になりつつあった。基本、知識欲の塊みたいな八潮にとって、みほの存在は正に宝箱の様なものだった。探れば探るほど目新しい戦術や対処法などを教えてくれて、みほも親切丁寧に教えてくれるので研修中、暇さえあれば八潮はみほに話しかけていたのだ。
「うん!だから此処に攻撃を集中させれば逆側が手薄になるんです」
そしてみほも悪い気はしていなかった。基本頼られれば断りきれない性格ではあるが、八潮学と言う男は自身に対して尊敬の念を持って色々質問してくれる。それがまるで先生になった様な気分になり、将来は先生になるのも悪くないかもしれないとみほは心の中で思うのだった。
では恋愛感情としてはどうだろう?
先程武部とそう言う話をしたのもあってか、そう思ってみほは八潮の顔を盗み見る。彼は熱心に持参してきた地形図を見ながら、あーでも無いこうでも無いと唸っている。ここ一週間、ずっと八潮に話しかけられていたのもあって、段々と彼の性格が分かってきた。
最初は自分と同じ気弱そうな性格だと思っていたのだが、話をしている内に彼は"芯"を持っているとみほには感じられたのだ。
"戦車が好き"。恐らく彼の中ではそれこそが原動力なのだろう。そうでなければ自身に飽きもせずあれこれ質問して来ない。一度戦車が嫌いになりかけたみほにとって、八潮のその姿勢は少々眩しすぎるものだった。
「……羨ましいなぁ……」
八潮に聞こえない声でみほがそう呟く。それは恋愛感情と言うよりかは、"憧れ"の様なものだった。西住流という名門に生まれたみほにとって、戦車道は大きくなるにつれて段々と窮屈なものになっていった。色んなしきたりや鉄則などがみほを縛り、いつしか心の底から戦車道を楽しめなくなっていたのだ。今でこそ大洗に来て戦車道を続けてて良かったと思っているが、それでも"西住流に生まれなければ"と言う考えが浮かぶこともあった。
それを踏まえてこの八潮学と言う男はみほにとって実直に、真摯に戦車道に取り組んでいる様に写ったのだ。何のしがらみもなく、自ら上を目指そうとする八潮の向上心にみほは尊敬の念を抱いていた。
「……八潮さんは、戦車が好きなんですね」
「え……?」
みほの唐突な言葉に八潮の反応も遅れて返って来る。
「だって、今も真剣に考えてるじゃ無いですか。そこまで夢中になれるって凄い事だとおもいますよ?」
みほの直接的な褒め言葉に八潮は恥ずかしそうに顔を背ける。
「い、いや、好きでやっている事ですから……」
「それがちょっと羨ましいんです。私はちょっとめんどくさい家に生まれちゃったので」
冗談っぽくみほが言うが、八潮には彼女が何を言いたいのかが何となく察しがついた。
「それって……」
「いや!その、戦車道が嫌いになった事は無いですよ?ただあそこはちょっと息苦しさもあったので」
深刻そうな表情を見せる八潮にみほが慌ててフォローする。自身の思い違いにホッとする八潮だった。
「……大変そうですね、名門と言うのは。ウチの高校にも名門出身の先輩がいるんですけど、中々の苦労をしてる様でしたよ?」
八潮は自身の隊長が名門出身だった事を思い出して話題にする。
「へぇー、そうなんですか。名門と言うことはやっぱり西住流ですか?それとも島田流?」
自分と同じ境遇の人が居るのが嬉しいのか、その話題に食いつくみほ。そして次に八潮が放った言葉にみほは大きく驚く事になる。
「古葉流ってところですよ。先輩の名前も古葉賢介って言います」
「え、それって……」
その人物の名は、みほが幼少期から知る人物だった。
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「おーおー、イチャイチャしちゃって、見せつけてくれるねー」
そんな2人の様子を遠くから見つめる少女達がいた。干し芋を食べながら呑気にそう言う角谷はバレない様に聞き耳を立てている。
「……学校でこんな不純な……一発ガツンと言ってきます!」
そんな2人に説教しようとする河嶋を角谷が宥める。
「まーまー、いいんじゃない?あれくらい。ただでさえウチには男子高校生なんて居ないんだから多めに見てあげなよ」
一方角谷はそんな2人を面白がって見ている様だった。
「し、しかし……」
角谷にそう言われて河嶋は一気に大人しくなる。角谷の方は八潮がみほに気があるのは知っているのでそっとしてあげたい様だ。
「うーん、私の見立てじゃあ西住ちゃんも八潮ちゃんに気があると思うんだけどなー。どう思う?小山」
「うーん、どうでしょう?西住さんは好きになったら結構あたふたするタイプだと思うんですけどね」
小山の見解は、まだみほが八潮を異性として見てないから会話が弾んでいると見ているらしい。
「まあ、でも時間の問題だと思いますよ?」
小山がそう付け加えると、角谷もウンウンと頷く。
「そうだよねー。あんまりのんびりしちゃってると、こっちももどかしいから、ちょっと吹っかけてみよっか」
意地悪な顔をして角谷が笑うと河嶋と小山の2人は首を傾げる。
「何をするつもりですか?会長」
小山がそう質問する。
「かーしま、戦車の整備備品、未だ買ってないでしょ?」
「ええ、ボルト数種類とパッキンが幾つか……今週末に買いに行く予定です」
角谷の問いに河嶋が答える。すると小山はハッとした様な顔をして少し困り顔で笑う。
「……確かに、パッキンは未だしもボルトは重いんで男手が必要かも知れませんね」
小山も角谷が何をしようとしているのかが分かったようだ。河嶋はあいも変わらず分かってない表情をしている。
「西住ちゃんには随分と助かられたからねぇ。恋のキューピットってのは柄じゃないけど、お手伝いくらいはさせてもらおっかな?」
そう言って再び2人の方を見つめる角谷だった。
因みに河嶋は角谷が何をしようとしてるのか最後まで分からなかった。