ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
「ま、待たせちゃいましたか?」
「い、いえ!!僕も今来たところです!!」
ぎこちない男女の二人。みほと八潮は大洗の駅前で待ち合わせをしていた。
天気も申し分なく、大洗が海の街の象徴であるからか、駅前に建っている魚のモニュメント達も絶好のデート日和を祝福してくれている様に感じる。
今日は角谷から頼まれた"お使い"の日。
事の発端は2日前、大洗女子学園の学園艦で角谷が、みほと八潮を呼び出したのがきっかけだった。
「明後日には学園艦が大洗に戻るんだよねー」
相変わらず気の抜けた声で干し芋を齧りながらそう言う角谷。生徒会長直々に呼び出された2人は何事かと少し身構えていたが、いつも通りの角谷を見て拍子抜けしていた。
「本土に戻るって言うから整備の資材を買っておきたいんだよねー。パーツを発注していちいち学園艦まで持って来させるとどうしてもお金が掛かっちゃうからねー」
予算もそこまで潤沢ではない大洗にとっては寄港する港や大洗に戻る際に物価の安い本土で買い物を済ませたい。
「そこでさ、西住ちゃん達にはちょっとお使いを頼まれてくれないかな?必要なパーツはここに全部書いてあるからさ」
そう言って一枚の紙を八潮に渡す。そこまで多くは無く、角谷の言った通り、お使い程度の量だった。
「はあ、別に構いませんが何故僕が?一応他校の人間で部外者の筈ですが…」
面倒臭い。と言うわけでは無いが、八潮は何故自分が行くのかが疑問だった。
「今一緒に整備してるんだから八潮ちゃんも一緒に行った方がいいでしょ?別にそこに書いてあるパーツじゃ足りないと思ったら買い足しちゃってくれてもいいし、ちょっとボルト類が多いから男手も欲しいしねー」
角谷の説明に納得して八潮も頷く。そう言う事なら喜んで八潮も引き受けるつもりだ。
「なるほど、分かりました。それって角谷さん達も一緒に行くんですよね?」
「いや?お使いは西住ちゃんと2人で行ってもらうつもりだけど?」
「「…え?」」
遅れてみほと八潮の返事が同時に返ってくる。
「いやー、アタシも行きたいんだけどどうしてもその日は生徒会で外せない用事があってねー。かーしまと小山も行けないんだよー」
白々しくそう言う角谷だが、八潮とみほの2人は聞いていない。と言うか、耳に入っていない。お使い?2人?男と女2人きりで?八潮さんと一緒に?西住さんと一緒に?
___それはつまり、"デート"と言う事?
そんな状況を想像したのはみほだった。一瞬にして顔が真っ赤になる。
「え、えぇー!?か、会長!!そ、それってつまり!?」
あたふたして角谷に詰め寄るみほ。八潮の事が気になっているとは自覚しているものの、これは唐突過ぎる。もし当日、本当にそんな状況になったとして、平常心で居られる自信は全くと言っていいほどみほには無かった。
「えー?アタシは"お使い"頼んだだけだよー?それとも西住ちゃんは"お使い以上"の事もしようとしてるのかな〜?」
「も、もう!!会長!!!」
ヘラヘラとしてそう言う角谷。うざったい事この上ないがみほには効果的面だった。
「まあまあ、それで、八潮ちゃんはどうなの?お使い頼まれてくれる?」
「え?じ、自分は全然構いませんけど…」
八潮も何処か辿々しい。彼も2人きりでと言う事を意識している様だ。
「お、じゃあ決まりだねー。明後日は学校も戦車道もお休みだから、お使いが終わったらゆっくりして行っていいよー」
こうして、なし崩し的に哀れな2人の週末の予定が決められてしまったのだ。
そして当日、9時に大洗の駅前で待ち合わせをした2人は、今まで意識をしていなかった"2人きり"と言う状況を意識しまくっていた。
「えっと、その、どうですか…?」
「え…どうって…」
みほから出た抽象的な言葉に、八潮は困惑する。どうって何のことであろうか?
「わ、私!今日変な所ありませんか!?」
顔を赤くしてモジモジしながら聞いてくるみほ。変な所と言われても八潮には特に違和感は感じない。普段から見る制服とは違って今日は私服な事くらいだ。
…ん?私服?
もう一度、八潮はしっかりとみほを見る。白のワンピースの上に淡い黄色の上着を羽織っており、太ももまでの黒いニーソソックスを履いていて、片手にはクマ?であろうキャラクターが描かれたバッグを持っていた。
すると八潮はあることを思い出す。
"女の子とデートする時はまず見た目から褒めるんだぜ"
デートもした事のない癖に鼻高々とそう言う前山を思い出していた。
なら八潮が言うべき事は一つ。
「えっと、私服、初めて見ました。とても似合ってると、思います…」
とてつもなく下手な褒め方だが、みほにはそれで充分だったらしい。更に顔を赤くして嬉しそうに俯いた。
「そ、そうですか!…良かった…」
みほの反応を見て最適解だった事にホッとする八潮。前山の言葉に助けられたのは何だか癪だがここは素直に彼に感謝しておく八潮だった。
「それで…えっと、早速行きましょうか?」
「え、ええ!!そうですね!!早めに済ましちゃいましょう!!」
他の生徒達がいる格納庫では緊張もしないのだが、2人きりになるとどうしても意識をしてしまう。ぎこちない雰囲気のまま、お使いを頼まれた店へと向かう2人だった。
「…ここですか?」
「はい。戦車のパーツを買う時なんかはここでお世話になる事が多いんです」
やってきたのは街にあるような小さな工具店。随分と年季の入ってる見た目だったが、入りにくい雰囲気は無く、街からも愛されている様な感じを八潮は覚えた。
しかしこんなに小さな工具店で戦車の部品など手に入るのだろうか?そんな八潮の疑問も他所にみほは店の戸に手を掛けた。
「失礼します」
慣れた手つきで戸を開けると中から男の声が聞こえてくる。
「はいよー、いらっしゃい。…ってみほちゃんじゃないか。てっきり杏ちゃんが来ると思ってたんだがな」
現れたのは眼鏡をつけて無精髭を生やした、いかにもと言った風の中年男性だった。
こんにちはと、みほが挨拶すると後ろで控えていた八潮も挨拶をする。
「こ、こんにちは…」
常連さん以外お断り。と言ったお店の雰囲気に萎縮しながらも中年男性に向かって頭を下げる。
すると中年男性は心底驚いた顔をした。
「…おお、みほちゃん。いつの間に男なんか作ったんだい?」
側から見れば誰もがそう思うだろう。その発言にまたしてもみほの顔が赤くなっていく。
「ち、違いますよマスター!!八潮さんはちょっと荷物を持ってもらう為に付いて来てくれたんです!!!」
「ホントかい?実はそれだけじゃ無かったりして?」
「だから!違いますってばー!!」
「ハハハっ!!そうかそうか。それじゃあそう言う事にしておくよ」
マスターと呼ばれた男は大きく笑って揶揄う様にそう言った。恐らくみほの言葉を信じて無いだろう。
仲の良さげな雰囲気に、八潮は疎外感を覚えながら苦笑いをする。
するとマスターはそれに気付いたのか、八潮に向かって喋り始めた。
「おっと、置いてきぼりにして悪かったな。俺は屋島雄太郎。店の看板の通り。屋島工具店の店長だ。大洗の皆んなからは"マスター"と呼ばれている。よろしくな」
余裕のある大人の挨拶に八潮も慌てて自己紹介をする。
「は、はじめまして!八潮学と言います!縁あって宮舞高校と言う所から戦車道を学びに大洗に来ました!よろしくお願いします!!」
八潮の自己紹介に、中年男性改めマスターはまたも驚いた表情をする。
「え…宮舞!?君、宮舞高校の出身なのか!?」
「は、はい。そうですが…」
宮舞と言う言葉に過剰に反応するマスターに、八潮もたじたじとなる。
「こんな所で会うとは…因みに何期生だ?」
「えっと…56期生です」
「56…そうか…もうそんなに経ったのか…」
何処か遠くを見てしみじみとそう言うマスターに八潮の理解が追いつかない。
「えっと…それが何か?」
恐る恐る八潮が聞いてみると、マスターはハッとして再び八潮の顔に視線を戻した。
「あ、ああ。済まない。少し昔を思い出してな」
「昔?」
「…実は俺も宮舞高校の出身なんだ。…恐らく君と同じ、戦車整備科を卒業した」
マスターのカミングアウトに今度は八潮が驚いた表情をする。
「え!?そうなんですか!?」
「ああ、因みに俺は30期生だ。…こんな所で会えるとは本当に思ってなかった」
マスターの驚きは八潮にとっても同じだった。と言うのも、宮舞高校戦車整備科の卒業生は極端に少ない。元々、毎年20〜30人しか生徒を取らない故、卒業して同じ戦車整備の仕事の世界で会う事はあるが、この様に在学中にOBに会う事は全くと言っていいほど無いのだ。
「えっと…2人は同じ高校の出身なんですか?」
今度は逆に蚊帳の外になってしまったみほが、恐る恐るそう聞く。
「ああ、みほちゃんの言う通りだ。歳は離れているがな。…そうか、八潮君は宮舞の在学生か!ハハハっ!!こりゃあいい!!サービスしてやろう!!ちょっと待っといてくれ!!」
嬉しそうにそう言うと、マスターは店の奥へと入って行った。
数少ない戦車整備科の後輩。八潮に出会えてマスターも嬉しさがひとしおなのだろう。
「…ホントにビックリした…」
ポツリと一言、八潮が呟く。
「私もマスターが八潮さんと同じ高校だとは思いませんでした。そんなに珍しい事なんですか?」
みほもマスターが宮舞高校の卒業生だと知らなかったが、八潮ほどは驚いていなかった。
「ええ、宮舞高校は全体で言えば規模の大きい高校なんですけど、戦車整備科は毎年20〜30人程度しか卒業生が出ないんです。だからOBと出会う事は本当に珍しいんですよ」
「へぇー、そうなんですね」
八潮の説明に感心した様に頷くみほ。そして、八潮が店内を見回してみると、妙に納得がいった。
置いてある工具類が全て戦車の基準に合わせているのだ。
ボルト、ナット、パッキン。それらを扱うレンチ。普段の工事では殆ど使うことのないリベットまで。まるで戦車を整備する為にある様な工具店だった。そしてそれはマスターが宮舞の出身だと言う裏付けでもあった。
興味深そうにそれぞれのパーツを見ていると、八潮の後ろから声が掛かる。
「どうだ?ウチの品揃えは。見たことのない部品もいっぱいあるだろう?」
マスターが自慢げにそう尋ねて来た。正直、八潮にとっては一日中ここに居たい。そう思えるほどの品揃えの良さだった。一体この狭い店の中で、どれだけの部品が集まっているのだろうか?
「えぇ。ここまでのお店は初めてです」
八潮の言葉に満足そうな表情をするマスター。
「そりゃ嬉しいね。はいよ、頼まれたパーツ類だ」
マスターから角谷に頼まれたパーツを八潮が受け取る。どっさりと、明らかに発注した数より多い。
「マスター、頼んだよりかなり多いですよ?」
「言ったろう?サービスだ。宮舞の生徒さんだからな。これでも足りないくらいだ」
「…本当に、ありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げる八潮。初めて出会ったのにここまで至れり尽くせりだと何だか申し訳なくなってくる。
「気にしないでいい。それよりも八潮君…」
マスターは八潮に近づいて耳打ちをし始めた。
『君がここにいると言う事は大洗に"派遣研修"で来ているんだろう?…どうだ、目当ての女の子は見つかったのか?』
みほに聞こえない様に、小声でマスターがそう言う。成る程、"女の子をゲットするためのイベント"という認識はどうやらマスターの時代からあるらしい。
『…ぼ、僕はそんなつもりで派遣研修に来たわけでは…』
予想外の質問をされたのか、八潮はたじたじとなる。
『御託はいいんだ。こんなチャンス、二度と無いかも知れないんだぞ?整備に没頭するのもいいが恋をするのも青春だ』
マスターにそう言われて、心当たりがあるのか、八潮はみほの方を横目でチラッと、バレない様に見た。
『…ほう、八潮君はみほちゃんか、カワイイ系が好みなんだな』
しかし、みほにはバレなかったがマスターにはバレていたらしい。
『ち、ちがっ…!』
『そう否定するな。この時期という事はまだ派遣研修が終わるまでまだ一ヶ月くらい残ってるんだろう?それまでに絶対にみほちゃんをゲットするんだ…!」
『マスター!だから僕は…!』
「…えっと、何の話をしてるんですか?」
あまりにも内緒話が過ぎたのか、みほが声を掛ける。
「え!?それは、えっと…」
「何、今の宮舞高校について八潮君に聞いていただけだ。なに分、男子校だから下世話な話も多くてな」
よくもそんな咄嗟に上手い言い訳が出るものである。しかしマスターに救われたのも事実で八潮はホッと胸を撫で下ろした。
「あー、分かります。私たち女子校も男の子に聞かれたくない話をしたりしますからね」
あまりに自然なマスターの言い訳にみほもすっかり騙されている様だ。
「そういう事だ。まあ、将来の戦車整備士の卵だ。何か分からない事があったらここに来るといい。出来る限りの助言はしてやる」
「は、はい!ありがとうございます!!」
そう言って八潮は再び頭を深く下げた。
"何かわからない事"の言葉に戦車道以外の意味も含まれている様に八潮は感じたが。
「予想より多くパーツを貰えましたね」
「ええ、マスターには本当に感謝です」
発注した分の倍はあるのではないかと言う量のパーツを持って八潮とみほは店の外へ出ていた。最後にマスターが八潮にまた耳打ちをしていたのがみほには気になったが、男の子同士の話を聞くのも無粋かと思って、スルーする事にした。
「…時間、余っちゃいましたね」
「…そうですね」
時刻はまだ昼前。角谷から頼まれたお使いも終わり、後は帰るだけ。
そう、これからは2人がなにをしようが自由なのである。
八潮は店を出てからずっとマスターの言葉が頭の中をグルグル回っていた。
"こんなチャンス、二度とないかもしれないんだぞ?"
"恋をするのも青春だ"
八潮学は女性経験などもちろん無い。だからこそこの後、どうするかずっと迷っていた。幸いまだ1日の半分が終わっただけ。まだ"一緒"にやれる事はいっぱいある。なにをやるかは、後で考えればいい。
後は彼が、ほんの少しの勇気を出すだけだった。
「…えっと、西住さん。この後、暇だったりします?」
「え!?は、はい!!大丈夫です!!すっごい空いてます!!」
一方のみほも来たかと思い、身構える。その為に前日に武部や五十鈴にあれこれ聞いて気合を入れて来たのだ。何を言われても断る気はない。
「良かった…なら、えっと…その…」
中々勇気が出ない八潮だが、みほは静かに、黙って彼の言葉を待つ。
「…午後は、僕と"デート"してくれませんか?」
「…はい、お願いします」
2人の顔は、茹で蛸の様に赤かった。
あまーーーーーーーい!!!
これもうデートの誘いじゃなくて告白に近いんじゃないっすかね(他人事)
因みに描いてる途中で作者の青春コンプが発動したのは内緒です。