ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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大洗編6:恋する乙女

 

 「何があったのか、洗いざらい吐いてもらうわよ」

 

 「え、えーと、何のことかな……?」

 

 翌日。教室内で武部にものすごい表情で詰められているのは、西住みほ。壁に追いやられあまりの剣幕に、対照的にみほの表情は引き攣っている。

 

 「ふーん、シラを切るんだー、みぽりん。昨日何があったかなんて、みーんな知ってるのにー?」

 ゆらりと、嫉妬心丸出しで武部はみほに詰め寄る。

 

 「班長さんと水族館。……良いなぁー。羨ましいなぁー。なんで言ってくれなかったのかなぁー?」

 

 「い、いやその、別に内緒にしてたとかじゃ無くて……」

 

 そもそも何処から情報が漏れていたのだろうかと、冷や汗をかくみほ。あの時誰かに尾けられでもしたのだろうか?心当たりが全く無い。

 一通り脅した後、武部はいつもの笑顔に戻る。

 

 「あははっ!、冗談冗談!もー、真に受けないでよーみぽりん!」

 

 「あ、あははは……」

 

 それにしては顔が本気だった様な気もするが。

 しかしそんな事は言えず、みほは苦笑いを返すのみだった。

 

 「……それで、どうだったの?班長さんと」

 

 そして今度は面白がる様な表情になり、興味津々に武部は昨日のデートについて聞いてくる。 

 

 「何って……フツーだよ?午前中は備品の買い出しに行って、午後は水族館に……」

 

 「キャー!!水族館!?アクアワールドだよね!?良いなー!みぽりん!!」

 「だから声大きいって!沙織さん!!」

 

 相も変わらず大騒ぎする武部に対し、慌てて咎めるみほ。

 そもそも武部に話が入ってる時点で戦車道を履修している殆どの生徒に話は広がっているのだが、この時のみほはそれを知る由もなかった。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 「……………」

 

 一方こちらは格納庫。

 普段なら賑わいを見せているが、今は女子生徒は通常授業の最中だ。しんと静まり返った誰も居ないこの場所に、八潮は一人立っていた。

 目の前に見据えるのは、Ⅳ号戦車H型(D型改)。大洗の隊長、みほが乗っている戦車でもある。

 

 「……気にしすぎか……」

 

 神妙な面持ちで八潮は独り言を呟く。

 パッと見では何も問題の無いように見えるが、八潮にとっては何か気掛かりなようだ。

 

 「なにボーッとしてんだ?やっつん」

 

 すると、考え事をしていた八潮の背後から声が掛けられる。

 

 「ああ、泉……」

 

 泉に声をかけられ、我に帰った様に声の方向へと八潮は振り向く。

 

 「西住さんの事がそんなに気になるか?」

 

 茶化す様に泉はそう言と、対して八潮は鬱陶しそうな表情を浮かべた。

 

 「……なんでそうなるんだよ」

 

 「こっちの耳にも入ってんだよ。昨日は随分と楽しんだみたいじゃん?」

 

 どうやら大洗の生徒だけでは無く、泉の耳にもみほと八潮がデートしたことは伝わっていたらしい。

 さらに茶化す様に泉がそう言うも、八潮は少し顔を顰める。

 

 「……お前に言われたくないよ。どうするんだよ?武部さんの事」

 

 お返しとばかりに八潮がそう言う。ここまで露骨だと、流石に第三者の八潮も武部が泉に気がある事は気付いていた。対する泉は一転、バツの悪そうな表情を浮かべる。

 

 「……どうするかなぁ……あれだけ露骨だと、何だかやりにくいって言うか……」

 

 何か問題でもあるのか、泉の表情は芳しくない。

 

 「………傷付けるような事はするなよ?」

 

 念を押す様に、ジトっとした視線を泉に向けて八潮はそう言う。

 

 「……分かってるって」

 

 泉の方は何か考え込む様に下を向いて、それだけ答えた。

 

 

 _____________

 

 

  

 「今日は、宮舞高校の整備士さん達と、戦車整備を学んでいただきます」

  

 翌る日。格納庫の前、青空の下でそう宣言するのは、生徒会の小山だ。しかし整備を習うのは、自動車部の面々では無い。

 

 「整備?」

 

 「自動車部の人たちがやるんじゃないのー?」

 

 履修者達から疑問の声が上がる。それもそのはず。彼女らの殆どは競技者で占める。整備の事は門外漢だ。

 しかしそれを制するように角谷が付け加える。

 

 「キミたちは戦車道を履修してんだから、整備も授業の一環だよー。せっかく将来の整備のプロが来てくれたんだから、教えてもらいなって」

 

 「でも、何を教わればいいんですかー?」

 

 いきなり教われと言われても、大洗で戦車道をやっている履修者なんてその殆どが初心者だ。戦車の整備経験がある人間なんて0に等しい。

 しかし、今は違う。

 

 「それは宮舞さんの隊長に任せるよ。じゃ、八潮くんあとはよろしくー」

 

 「相変わらずですね……」

 

 相変わらず自由な角谷に対して八潮は軽くため息を吐く。気を取り直すように軽く咳払いすると、八潮は皆の前に立ち、口を開く。

 

 「何も全て教えようとは思ってません。基礎中の基礎。例えば履帯の交換とか、オイルの交換とか。……ここにいる人達は殆どが今年から戦車道を始めたと聞きました。自動車部に任せっきりだと恐らく将来整備の手が追い付かなくなるんじゃないかと思って。……迷惑でしたかね?」

 

 

 「そ、そんな事無いです!!」

 

 

 遠慮がちな八潮の言葉に即座に反応したのは、みほだった。普段おとなしい彼女が柄にも無く大声を上げたので、周りの視線が一斉にみほに向く。   

 

 「あ、あぅ……その……わ、私は八潮さんに教わるの、賛成かなって、思っただけです……」

 

 顔を真っ赤にしながら、最後は消え入る様なか細い声で呟く。デートを経験したとして、あがり症は治るものでは無いらしい。

 

 「まあ、隊長が言うなら……」

 

 しかし、みほがそう言った事によって、周りの履修者からも賛同の声がちらほら出始めた。やはりこの大洗戦車道で1番の影響力があるのは、彼女だ。

 

 「はいはーい。じゃ、決定で。皆んな格納庫に行くよー」

 

 あいも変わらず気の抜けた声だが締める様に角谷がそう言うと、ゾロゾロと履修者は中へと入って行く。

 

 「あ、西住さん」

 

 「ひ、ひゃい!?」

 

 すると、不意に八潮がみほに話しかける。みほにとっては完全に予想外だった様で、また変な声が出てしまっている。

 

 「そ、そんなに驚かなくても……まあいいです。ちょっと聞きたい事があるんですけど」

 

 「な、何でしょう?」

 

 未だにデートの事が頭に染み付いてるのか、少し身構えるみほ。

 

 

 「西住さんの乗ってるⅣ号戦車って、いつから乗ってます?」

 

 

 「……え?」

 

 

 またもや予想外の問い掛けに、もう一度聞き返すみほ。

 

 「いや、だから、西住さんの乗ってる戦車がいつから乗ってるんだろうかなーって、思って……」

 

 そう聞く八潮の表情は真剣だ。それを見てみほも浮ついた心から一転、戦車道の話をしなきゃいけないんだなと、気を引き締める。

 

 「……私たちが乗り始めたのは、今年の春からです」

 

 「そうですか。じゃあ、そんなに製造されてから年数は経ってないって事です?」

 

 「いや、元々は私たちのもっと前の世代で戦車道をやっていたらしくて、それを使ってます」

 

 みほがそう続けると、八潮は合点が行った様な表情を見せた。

 それと同時に、少し表情が曇る。

 

 

 「……西住さんは、Ⅳ号戦車が好きですか?」

 

 「……それってどう言う……」

 

 

 何やら意味深な質問をする八潮に対し、みほも怪訝な表情を返す。

 

 「こらー、そこ、2人でイチャイチャしないのー。いつまで経っても始めらんないよー」

 

 すると、冷やかす様に角谷がそう言って来た。

 こう言う時に慌てるのは、みほの方だ。

 

 「そ、そんなんじゃありません!すぐ行きます!」

 

 そして、みほは恥ずかしさからか、逃げる様に格納庫の方へと入って行った。

 

 

 _____________

 

 

 

 「こっちがエンジン。で、こっちがラジエーター。まあ、エンジンは分かると思いますけど、ラジエーターってなんだか分かります?」

 

 戦車のボンネットを開け、中身の説明をしているのは泉だ。本当に基礎の初歩的なところからで、ラジエーターと言われても頭に?マークが浮かんでいる履修者が殆どだ。

 

 「えっと、おとーさんから聞いた事があるよ。……確か、車のエンジンを冷やすための何か、だっけ?」

 

 武部からそう返され、泉は頷く。

 

 「はい。武部さんの言った通りです。エンジンをオーバーヒートさせない為の機構で、エンジン内に液体を循環させて、高熱になるのを防ぎます。車に付いてるものですが、もちろん戦車にも付いてます。よく知ってましたね?」

 

 「えへへ、おとーさんが車好きだったから、なんか覚えちゃって」

 

 泉に褒められ、心底嬉しそうな表情を見せる武部。大洗の履修者達は「またか」と言った様な表情をしていた。

 

 「でも、ラジエーターが無くてもエンジンって動くものじゃないの?」

 

 「普通の車だったらそう言うのもあります。ですが戦車だと勝手が違って来ます。車に比べてその重さは何倍もありますから。それを動かすほどのパワーを持ったエンジンが必要なんです。そしてエンジンが大きくなれば大きくなる程、オーバーヒートを起こす確率は高くなってくるんです」

 

 少し長くなった泉の説明に、武部は難しそうな顔をする。

 

 「うーん………よく分かんないかも……」

 

 「まあ、こう言うのがあるよーって覚えて貰えばいいです。武部さんは物覚えが良いですから、すぐに整備士になれると思いますよ?」

 

 「も、もう!調子のいい事言っちゃって!」

 

 泉の褒め言葉に、またもや頬を赤らめる。

 どうにも泉には女たらしの気があるが、しかしそれは無意識なものの様で、隣では八潮が軽いため息をついていた。

 

 「あとは履帯とかも説明しちゃいましょう。戦車によって幅や大きさも様々なんですが……」

 

 その後も、泉による戦車の中身の説明が続いて行く。

 

 

 _____________

 

 

 

 「はぁ……」

 

 学校が終わり、帰り道。

 いつものあんこうチームが一緒の中、武部がため息をつく。目は何処か遠くを見つめていて、頬もほんのり赤みがかっていた。

 

 「ど、どうしたでありますか?武部殿?」

 

 秋山がたじたじとそう聞く。と言うのも、日を追うごとに武部の様子がおかしくなっているのだ。

 

 「恋の病ってやつですかねー?」

 

 いつもの落ち着いた様子で五十鈴がそう言う。ここ最近の武部は上の空でため息が多い。 

 理由はもちろん、泉だろう。出会ってからその好意を隠そうともしていない。特にあんこうチームの面々には。

 

 「……話し始めたと思ったら今度はコレか。つくづく遠回りしてるな」

 

 呆れた様な表情で冷泉がそう言い捨てる。

 泉と会話出来る様になった反面、戦車道の講習が終わり、泉と別れるとこれだ。遠くを見つめる先には泉との甘い妄想でも描いているのだろうか?

 

 「人を好きになるって、何でこんなしんどいんだろ?ねぇ、みぽりん?」

 

 「あ、あはは……何ででしょうかね?」

 

 アンニュイな表情でそう尋ねる武部に対し、精一杯の苦笑いを見せるみほ。

 みほも恋に落ちているといえばそうなのだが、武部程では無い。

 

 「そんなに泉さんの事が、その……好きなんですか?」

 

 みほに恋愛経験は無い。八潮とデートに行ったとしても、惹かれる部分はあれど武部ほど盲目になって居ないのが現状だ。

 だからこそ心の底から恋をしてるであろう武部が、泉に対してどんな感情を抱いているのか気になる。

 そう聞かれた武部は頬を少し赤らめながら小さくコクリと一つ頷いた。

 

 

 「うん、好き」

 

 

 たった一言。

 しかしその表情には何よりも説得力がある。

 

 「……隊長、沙織の言う事だ。あんまり鵜呑みにしない方がいいぞ」

 

 付け加える様に冷泉がそう言う。

 いつもの武部ならここで噛み付く筈なのだが、今回は余裕を含ませた笑みを冷泉に向けた。

 

 「フッ、麻子はまだ恋した事無いからね〜?」

 

 煽る様な武部の物言いに、冷泉もカチンと来る。

 

 「……うるさい」

 

 しかし、恋愛経験が無いのは冷泉も同じだ。

 戦えるネタが無いからか、膨れっ面を見せてそれだけ呟いた。

 

 

 「はあ………泉くん、今何やってるのかなぁ……」

 

 

 どうも好きな人にはとことん盲目になるのが、この武部沙織と言う少女らしい。

 

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