ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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 ポケモンの呪縛から解き放たれた私を止めるものは誰もいない...


アンツィオ編2 : 整備の質

 

 

 「……初日から遅刻とはいい度胸じゃないか」

  

 「い、いや、これには理由がありまして……ペパロニ姐さんからも何か言ってくださいよ」

 

 「いやー、一緒に飯食ってたら盛り上がっちゃって」

 

 「姐さん!!!」

 

 アンツィオ高校の戦車格納庫では、野郎5人と女1人が並んで正座させられていた。理由は無論、前山達が顔合わせのための時間に大幅に遅れてきたためである。こんな状況だがそこまで緊張感が無いのはアンツィオ高校の校風も相まってなのだろう。これが礼節を重んじる黒森峰なら前山は抹殺されている。

 

 「これから長い付き合いになるんだ、今後はこんな事がないようにして欲しいんだがな……」

 

 派手なツインテールの髪型をしたアンチョビこと安斎千代美がそう言ってため息をつく。

 

 「す、すんません……」

 

 そんなアンチョビのため息に前山もたじたじになる。

 

 

 「まあまあ、ドゥーチェ。話を聞く限り今回はペパロニさんの落ち度でもあるんですから。大目に見てもいいんじゃないですか?」

 

 おっとりした声で隣にいたカルパッチョがアンチョビを宥めると、流石に言いすぎたと思ったのか、バツの悪そうな表情を浮かべる。

 

 「うっ……まあ、カルパッチョの言う通りだな。悪かった、もう正座を崩していいぞ」

 

 そう言われて6人はゆっくりと立ち上がる。宮舞の整備士達が立ち上がったのを確認すると、アンチョビが一つ咳払いをする。

 

 「まあ、最初からこんな感じになってしまったが自己紹介がまだだったな。ようこそ、アンツィオ高校へ。私がここの戦車道隊長、アンチョビだ。皆んなからは"ドゥーチェ"と呼ばれている。呼び方はどっちでもいいぞ。これからよろしくな!」

 

 元気よくアンチョビが挨拶の先陣を切る。

 

 「副隊長、2年のカルパッチョです。よろしくお願いしますねー」

 

 そしておっとりとカルパッチョが続き、

 

 「さっきも言ったけど2年のペパロニだ!!よろしくー」

 

 ペパロニが雑に締めた。

 アンツィオの挨拶が終わったのを確認すると班長である前山も自己紹介をする。

 

 「遅れながら挨拶させて頂きます!!宮舞高校戦車整備科から派遣されました2年班長、前山翔吾以下4名!本日付でアンツィオ高校にお世話になります!!総員、敬礼!!!」

 

 「「「ハッ!!!!」」」

 

 先ほどとは違う前山の締まりのある声に他の隊員達も背伸びをして敬礼をする。彼とて戦車整備の名門校出身、こう言うところはしっかりしているのである。

 

 「お、おう、よろしくな!!」

 

 対してアンチョビは先程とは全く違うギャップにたじたじとなる。

低く、響くような声に自然と自分の背筋も伸びてしまう彼女だった。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 「で、早速ウチの戦車達なんだが……」

 

 アンチョビが自身の戦車について話そうとするが苦い顔になる。

 

 「えっと……なんてゆうかだな……」

 

 歯切れも悪く、先程までの自信に満ちた表情が嘘のように目を右往左往させる。

 

 「……?」

 

 流石にこれは前山もおかしいと思ったのか様子が変なアンチョビを見て首を傾げる。

 

 「うぅ……ええい!ここまで来たらヤケだ!前山!!」

 

 「は、はい!?」

 

 突然名前を叫ばれて前山の肩がビクンと跳ねる。

 

 「正直に言おう!ウチの戦車はハッキリ言って整備がずさんだ!……言い訳になるがアンツィオには戦車整備に精通している者が1人もいないんだ……」

 

 アンチョビが目を伏せながら悔しそうに拳を握る。彼女とて誇りある戦車乗り。あの手この手を尽くしているが、知識がない以上、戦車整備が追いつかないのも無理はないのだ。

 対して前山の方は冷静だった。アンツィオの整備不足は古葉が予測しており、その旨を前山にも前以て伝えていたので対策はできる。

 

 「……そうっすね……具体的にどの程度とか分かるっすか?」

 

 だがどの程度の整備不足なのかは見てみないと分からない。

 実車を見る前にと、一応前山はアンチョビに聞いてみる。

 

 「そうだな……多分だが全快の時と比べて6割くらいの力しか出せてない……と思う」

 

 依然目を伏せながらアンチョビはそう答える。

 6割とはまた曖昧な数字を出してきた。

 と言うのも、戦車が動かなくなる理由は様々ある。例えばガワが大丈夫でもエンジンがイカレればその後も戦車は動くことはないし、エンジンが大丈夫でも履帯がダメなら真っ直ぐ走る事はない。

 よって『戦車の力が出ない』と言われても様々な理由が考えられるのだ。ここで"6割"と言う曖昧な言葉が出ると言うことは、失礼ではあるがやはり彼女達には戦車整備の知識が不足しているのだろう。

 

 「……6割っすか。多分原因も色々あると思うンスけど……とりあえず戦車を見てみるっすかね」

 

 これは実際に見てみた方が早い。そう思った前山はそんな提案をする。

 

 「あ、ああ。よろしく頼む。自分達でも何とかしようとはしてるんだがもうお手上げなんだ……」

 

 悲痛な顔でアンチョビがそう言う。これは結構重症そうだなと感じ、少し早足で戦車の方へ向かう前山だった。

 

 

 

 _____________

 

 

 「これは……」

 

 アンツィオの戦車を目の当たりにして前山はそう呟く。彼の目の前に居るのは、カルロ・アルマートP40と言うイタリア製の重戦車。外観を見る限りかなりくたびれており、如何にも『歴戦の戦士』と言う雰囲気を醸し出していた。アンチョビの言っていた通り、リベットの打ち付ける位置が斜めっていたり、板金の継ぎ目が粗かったりと整備の質で言えば結構拙い。だが前山は不思議とそれほど嫌には感じていなかった。

 

 「ちょっと触らして貰ってもいいっすか?」

 

 「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 その違和感を確かめる為、もっと近くで戦車を見る。すると何かに気付き、柔らかく微笑んだ。

 

 「なるほど……」

 

 「な、何か悪いところでもあったのか!?」

 

 急に微笑んでそう言った前山に対し、アンチョビの不安がさらに募る。だが前山が次に行った言葉は彼女にとっては意外すぎる言葉だった。

 

 

 

 「いえ、アンチョビさん達はこの戦車を大切に乗ってるんすね」

 

 

 

 「……え?」

 

 三秒程遅れてアンチョビがやっと反応をする。彼女としては罵倒されるのも覚悟の上だった。何故なら整備素人の彼女の目から見てもP40がボロボロなのは明らかだったのだ。ましてや相手は戦車整備の超名門校。呆れて帰られる最悪の事態も頭をよぎっていたのだ。それ故に、

 

 「……それは皮肉で言っているのか?」

 

 こう思うのも無理はない。かつてないほど険しい表情のアンチョビの姿がそこにはあった。

 

 「……いえ、違うっすよ。寧ろ嬉しいっすね」

 

 言葉通り嬉しそうな表情でそう言う前山にアンチョビはさらに混乱する。……どういう事だ?彼の戦車整備は一流じゃないのか?様々な憶測が彼女の頭の中でよぎるが、何故前山がそんな事を言うのか、結局彼女には分からなかった。

 

 「……この戦車、いつから乗ってるんすか?」

 

 困惑するアンチョビを気にせず、前山が言葉を続ける。

 

 「え?ああ、確か私が2年生の8月ぐらいに来たから1年と2ヶ月くらいだな」

 

 アンチョビがすぐさま答える。それもそのはず、この戦車は彼女の先輩達と彼女の必死の資金集めでやっとこさ購入できた戦車なのだ。来た日を覚えていないわけがない。

 

 「そうっすか、やっぱり大事に乗ってるんすね」

 

 前山が納得したように頷く。

 

 「わ、分からないぞ!?どう見たってこのP40はボロボロじゃないか!!それなのに『大事に乗ってる』ってどういう事なんだ!!!」

 

 ついにアンチョビが声を荒げる。もう彼女の頭の中では訳が分からなくなっていた。だがそんな彼女を目の当たりにしても前山は冷静のままだ。

 

 「アンチョビさん、普通、戦車道の競技で使っている車輌の寿命って1年持つか持たないかなんすよ」

 

 「………へ?」

 

 前山の言葉にアンチョビは素っ頓狂な声を上げる。彼女にとってそれは初耳だった。

 

 「もちろん上手く整備すればもっと使えるっすけど、それでもスペックは落ちちゃうんでお金のある高校は1年そこらで新しいのに交換しちゃうんすよね」

 

 あれだけの激しい戦闘が行われるのだ。幾ら頑張ってもどうしても戦車単体の質は落ちてしまうし、1年以上新品と同じ状態を保てと言うのはプロの整備士でも無理な話なのだ。

 

 「そ、そうか、それは知らなかったな」

 

 話を聞いてアンチョビは納得する。

 だが彼女の中でもう一つの懸念が生まれる。目の前のP40はもう1年2ヶ月も使っているのだ。実戦に使われたのが少ないとはいえ前山の言う事が本当なら、もうこの戦車を手放さなければならないのではないかと。

 

 「ちょっと待て。それじゃあこの戦車はもうダメなのか……?」

 

 青ざめた顔でアンチョビは弱々しく聞く。苦労してやっと手に入れたこの戦車を見捨てるのは彼女には到底出来ない事だった。

 

 「……まだ中身を見ないと分かんないっすけど、俺はこの戦車を直したいっすね」

 

 前山が強い口調でそう言う。表情を見てもこの戦車に強い想いを持っているようだった。

 対してアンチョビは疑問に思う。もうボロボロでいつ廃車になってもおかしくは無いこの戦車を彼は『直したい』と言った。将来のプロの整備士の卵であるならこんなオンボロは『直ぐに変えた方がいい』と言うのが普通ではないかと。

 

 「……どうしてお前はこのオンボロ戦車を直そうとするんだ?」

 

 ついに疑問は前山にぶつけられた。アンチョビはここまでして彼がこの戦車を直そうとする理由をどうしても聞きたくなったのだ。

 

 「……俺も遠目から見たときは失礼っすけど、ただのくたびれた戦車だと思ったっす。でも何って言うか、嫌な感じじゃなかったんすよ。普通ボロボロの戦車を見たら俺、すっごい嫌な気分になるんすけど、この戦車はそれが無かったんすよねー。で、近づいて見てみると理由が分かったっす」

 

 ここで前山は一つ、会話を区切る。

 

 「……何がだ?」

 

 対してアンチョビの方は続きが気になるようだ。

 

 

 「アンチョビさん達、多分すけど、この戦車を整備するのに相当時間掛けてるっすよね?」

 

 

 

 アンチョビはその前山の言葉に心底驚く。確かに知識が無いなりに彼女達で試行錯誤したが、大して効果が無かった。何なら寧ろ悪化したところまであるかも知れない。必死になって整備に時間をかければ掛けるほど分からない事が増えて行き、それでもこの戦車を動かしたいと思う一心でこの様なオンボロになりながらもここまで来たのだ。

 

 「……どうして分かったんだ?」

 

 アンチョビは疑問を投げかける。今日初めてここに来た前山に何故それが分かったのだろうか?それが彼女にとっては不思議でならなかった。

 

 「リベット、いくつか見たんすけど全て打ち直した跡があったっす。それも一度だけじゃなくて何度も真っ直ぐ打ち込もうとして失敗した痕跡があったんすよ。あと板金も溶接がうまくいかなかったのかデコボコしてるんすけど、それも何回もやり直した後があったっす。……本当にこの戦車を大事にしてるんすね」

 

 そう、この前山翔吾という男、戦車のガワを見るだけで彼女達の必死の努力に気付いていたのだ。それは彼が何百、何千と戦車に触れてきたからこそ気付けるものだった。

 

 「っ!!!」

 

 アンチョビはこの言葉を聞いて目頭が熱くなる。相手は戦車整備のエリート。彼女は前山にそう言ってもらえる事で不毛とも思えた今までの努力が初めて報われた気がしたのだ。だが自分はここの隊長。ここで涙を流しては皆んなに示しがつかないと思い、アンチョビはグッと涙をこらえる。

 

 「うぅ……グズっ……ありがとうございますぅぅ……」

 

 だがそんなアンチョビの心とは裏腹に隣で話を聞いていたカルパッチョが涙を流していた。彼女とて必死にこの戦車を動かそうとしてきた内の1人、感極まるのも仕方のない事なのだろう。

 

 「ええ!?ち、ちょっと、泣くのは勘弁して欲しいっすよ!」

 

 いきなり泣き出したカルパッチョに前山はかなり困惑する。今まで大量の女性に迷惑をかけてきた彼だが、泣かれたのは初めてなのだ。

 

 「うぅ……すみません。感動しちゃって……前山さんは優しい人なんですねぇ...」

 

 カルパッチョが泣きながらも笑顔でそう言う。そんな女性の最終兵器とも言える表情を見てしまった前山が無事なはずがない。

 

 「っーーーー!?!?!!?!」

 

 前山、撃沈。

 因みに彼は挨拶の時からこのカルパッチョという女性が気になっていたのだ。彼は重度の年上好き。今年の派遣研修で聖グロを第一希望にしていたのも可憐で優雅なお姉様方に思う存分甘やかされたいと言う邪な願望からだった。それを踏まえてこのカルパッチョと言う女性はどうだろう?同い年ではあるがその落ち着いた声、おっとりとした性格、そして溢れ出んばかりのお姉さんな感じ。詰まるところ、ドストライクなのである。

 そして前山はゆっくりとカルパッチョの方へ近づいていくと、

 「カルパッチョさん...そんな軽々しく女性が涙を見せてはダメですよ」

 そう言って自身のハンカチを差し出す。それを見たアンチョビは少しキザだが男らしいじゃないかと、前山に対しての株を上げる。当の本人は邪な気持ちでいっぱいなのだが。

 「すん...ありがとうございます」

 カルパッチョはそんな前山の思惑など知らず、素直にハンカチを受け取る。

 

 「あなたの様な美しい女性に涙は似合わない...」

 

 「...ん?」

 今のは聞き間違いだろうか?アンチョビは前山の今の発言が信じられず、幻聴でも聴こえたものなのだろうと無理やり自分を納得させる。

 

 「その涙は特別な人の為に取っておくべきだ...」

 

 いや、残念ながら聞き間違いでは無かったらしい。これは本気で言っているのだろうか?確認する為に前山の顔を見てみると、

 

 

 尋常じゃないくらい目が血走っていた。

 

 

 

 それを見てしまったアンチョビは心の温度が急激に下がっていく。ついでに前山に対しての株も急激に下落して行く。リーマンショックもビックリの落ち方だ。つい先程までいい話をしていたと思っていたのにどうしてこうなってしまったのだろうか?

 「ふふっ、気遣いも上手なんですねー」

 そして最悪なことにカルパッチョはこの異様な光景に違和感を感じていなかった。普通に元気付けられただけだと思っている。

 

 「そうでもありません...貴女が笑ってくれるなら僕は天使にも悪魔にもなりましょう...」

 

 「あらー、嬉しいですねー」

 

 アンチョビはそんな光景を見てカルパッチョのスルースキルが高すぎるのか、それとも超絶鈍感なだけなのか分からなくなってくる。そして自分の脳じゃ処理しきれなくなったのか、異様なやりとりをしている2人を死んだ目つきで見て、

 

 

 

 「なんだこれ...」

 

 

 

 こう言うしか無かった。

 

 

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