ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
「違うっすよー!あれをこうしたら、こっち側っすよ!!」
「???、もうちょっと具体的に言ってもらっていいですか?アレとかコレとかでは分かんないですよ..」
ついに始まった前山による整備指導。確かな整備技術を持っている彼だが、教える側としては致命的な弱点を抱えていた。
「だーかーらー、ここをこう曲げたらこっちにスペース出来るじゃないっすか。そっからこう入れればオッケーなんすよ」
「「「?????」」」
説明力が全くないのである。元来、感覚派である前山にとって戦車整備とは体で覚えたものであり、説明しろと言われてもご覧の通りジェスチャーやアレとかコレとかの抽象的な言葉が多くなりがちなのだ。もちろん整備素人のアンツィオの生徒達がその説明で分かるわけもなく、前山が伝えたいことは全然伝わっていないのが現状であった。
何度も言うようで申し訳ないが彼は勉強はからっきしなのである。
「なるほど!!分かった!!こっち側か!!!」
「だー!!違うっすよペパロニ姐さん!!逆、逆!!!」
そして最悪な事に、前山の分かりにくい説明が、アンツィオのノリだけで何とかしようとする気風と混ざり合っている事も、うまく伝えられない要因の一つだった。言葉というものは大事なもので、幾ら自身の中で最高の技術を持っていても、伝える術が無ければ宝の持ち腐れになり得る事もあるのだ。
「...こうなるんだったらもっと読書とか国語の勉強ちゃんとやっとくべきだった...」
前山もそれが今、身に染みているのだろう。頭を抱えたくなるほど状況が芳しくない今の状況に後悔の言葉を呟く。このままではアンツィオの生徒が教えようとしてる事と間違った覚え方をする可能性が高いのだ。
どうしたものかと唸っていると、前山に救いの手が差し伸べられる。
「あー、前山。そこのパッキンから被せるように繋げればいいんだな?」
「え?あ、そ、そうっす!!そう言う事っす!!!流石アンチョビさん!分かってるっすねー!!」
何と前山の言葉を理解できる者が居たらしい。アンチョビが前山の言葉を翻訳するとアンツィオの履修者達もようやく納得した顔になる。彼女も一応整備素人ではあるが、独学でP40を弄くり回していた分、ある程度の整備知識は持ち合わせている。何となくではあるが前山の言おうとしてる事が分かるようだ。
「あ、あとこっちの方は慎重にこうやって外してください。傷がついちゃうんで」
「あー、シリンダーは慎重に真っ直ぐに抜いてくれ。当たって中身が変形するかも知れないからな」
前山の説明ではピンと来ないが、アンチョビの説明は具体的に言葉を言うので分かりやすい。アンツィオの生徒達も彼女が言葉を付け加える事で迷わず整備出来てきた。
「なるほど!!こうだな!!!」
「ギャー!!ペパロニ姐さん!!そんな雑に抜いちゃダメだって!!」
ただ一人を除いて。
アンツィオ高校の戦車はCV33という豆戦車が主力だ。この戦車はかなり小型で軽く、戦車としてはかなりコンパクトな方だった。
「こんだけ小さいと戦車というよりかは車だな...」
格納庫の一角で、整備科2年の野村がCV33の中身を見てそう呟く。前山がアンツィオの履修者達に整備指導している中、野村は前山に頼まれてアンツィオの戦車の中身を覗いていた。
「まあ、これなら初心者にとっては整備がしやすいだろう」
小型の戦車のメリットはとにかく整備しやすい点にある。軽いと言うことはその分パーツも少なくなる訳であり、これから戦車整備を習おうとする時、このCV33と言う戦車は良い教材になるのだ。
「あらー、それはひょっとして褒めてるんですか?」
背後から唐突に聞こえてきた女性の声に野村の肩がビクンと跳ね上がる。聞かれたかと思い、慌てて振り向くと柔らかい笑顔でカルパッチョが立っていた。
「いや、その...いつから聞いてました?」
しかし、カルパッチョが怒っている雰囲気ではない事を察した野村は恐る恐るそう尋ねてみる。
「うーん、確かにこれだけ小さいと自動車みたいですよねー」
どうやら最初から聞かれていたらしい。カルパッチョがそう言うと野村はみるみる顔が青ざめて行く。
「す、すいません!!悪口のつもりで言ったわけでは無いんです!!」
突然に頭を下げた野村に対してカルパッチョは少し慌てる。
「い、いや!!そう言う意味で言ったわけじゃ無いんです!!実際小さいですし...私達も戦車整備は初心者なので、そう言って貰えると気が楽になります」
カルパッチョの物腰の柔らかい対応に野村もホッと一息つく。しかし何故彼女がここにいるのか。
「あ、ありがとうございます。それで、僕に何の用ですか?」
アンツィオの生徒には今は前山が整備指導をしているはずである。なのでカルパッチョが此処にいると言う事は、彼の指導を抜けてきたと言う事だろうか?
「あ、それはドゥーチェにこっちより野村さんの方を見てくれって言われたからなんです。何でも私があそこに居ると前山さんの指導が進まないからって...何ででしょうかね?」
「...何ででしょうかね...」
理由は大体察せれるものなのだが、カルパッチョは分かっていないらしい。アレほどの猛烈なアプローチを食らっても気付いてない素振りを見せると言う事は、中々に癖の強い女性なのかも知れないと、野村は思った。
「それで...えーっと、あ、そうです!今戦車達を見てもらってますけど、どんな状態なんですか?」
本件はこっちらしい。P40は前山が点検したが、その他の戦車は野村が診ている。ある程度点検も済んだところでカルパッチョにそう声を掛けられたのでタイミングとしてはかなり良かった。
「そうですね...状態としてはアンチョビさんの言っていた通り、ザックリ言うと6割程度のパワーしか出ないと言った感じでしょうか。でも治そうとした痕跡もあって、廃車になるような致命的な欠陥は無いですね。全部しっかり整備すればちゃんと動くと思いますよ」
野村がそう言うとカルパッチョもホッとする。
「よ、よかったー。
アンツィオとしては新しい戦車を買う資金は無いのでなるべく今ある戦車を長く使いたいと言うのが実情だった。
「へぇー、そうなんですか。予算が少ないのは
そこは宮舞も同じのようで、野村もカルパッチョの気持ちがわかるのか感慨深く頷く。
「え!?そうなんですか...宮舞高校程の整備の名門校でも予算が足りないなんて...」
カルパッチョとしては宮舞は戦車整備の名門校とあって、潤沢な資金でやり繰りしていると思ったのだろう。驚いた表情でそう言う。
「足りない、とは少し違いますね。言えばもっと予算をもっと増やして貰えるんでしょうけど、ウチは少人数制で競技はやらないですからね。自分達もそれは分かっているし、恐らく学校もそれが分かってて予算を増やさないんでしょう。パーツや備品などは発注すればすぐ来ますが、戦車単体が新品で来る事はほとんど無いんです」
「...つまり、どう言う事ですか?」
野村の説明にカルパッチョはイマイチ、ピンと来てない。何かいい言葉はないかと、野村は少し考える素振りをする。
「うーん...つまりですね、何が必要で何が必要じゃ無いかを宮舞の整備士達と学校側で共通認識が出来ていると言う事です。整備がメインの学科なのに新しい戦車を寄越されても予算の無駄じゃ無いですか」
野村の再度の説明でカルパッチョはようやく納得した顔になる。宮舞の予算が少ないと言うのはただ単に学校側から予算を絞られている訳ではない。戦車整備を学ぶのに必要なものと不必要なものを学校側と共通認識として持っているので大幅な"コストカット"に成功しているのだ。予算を増やす事だけを考えていたカルパッチョにとって、それは目から鱗が出るような話だった。
「アンツィオは今、整備を業者さんに頼んでるんですよね?」
「え?、は、はい」
野村の質問にカルパッチョが頷く。
「...もし、自分達で完璧に整備をこなせる様になれば、恐らく今の半分以上は予算に余裕が出ると思いますよ」
「!!!...なるほど...」
野村のその言葉でアンツィオの貧乏の原因がカルパッチョには分かった気がした。野村が言った整備に掛かる不必要な予算。それは学校側が一方的に予算を絞っているのでは無く、学校側と上手く連携が取れていないと言う事だった。それ故に需要に対して供給が一致せず、万年貧乏の状態に陥っていたのだ。
野村の話は、限られた予算でのやり繰りを身に付けようとするアンツィオにとって、まさに金言だった。
「...もっと、詳しく話を聞いていいですか?」
この機を逃すまいと宮舞の予算運営についてカルパッチョは深く聞き込む。今回の派遣研修で野村から学ぶ事が今後、彼女がアンツィオ戦車道の財政面で大きな功績を残す事になるのだが、それはまた別の話。
「あー!!やっと一台終わったー!!整備ってこんなに時間が掛かるもんなのか...」
時刻は夕刻、やっと一台の戦車整備を終えたアンチョビは大きく背伸びをしてそう言った。
「お疲れ様っす!初めてにしては中々早く終わったっすね。今日中に終わるとは思って無かったっす!!」
そんなアンチョビに前山が労いの言葉を掛ける。最初はどんなものかと不安があったたが、アンチョビのおかげもあり、中々上手く行っていた。
「...前山はもうちょっと国語の勉強をしてくれ...私は翻訳機では無いんだぞ...」
指導中、アンチョビは大忙しであった。なにせ自身も整備技術を身に付ける上に、前山語の翻訳もしなければならないのである。ジトッとした顔を前山に向けると、バツが悪そうな顔をして前山は目線を逸らす。
「いやー...それは申し訳ないっす...で、でも動作チェックではちゃんと動いたし良かったっすよね!?」
「それはそうだが...」
アンチョビが前山の指導を受けて感じた事は、やはり彼は一流の整備士だと言う事だった。言葉はメチャクチャだが、それを理解すると何とも理にかなっている。
本当に前山翔吾と言う男は良い所も悪い所も全部出ていて、評価が難しい男なのだ。
「ところでアンチョビさん達は戦車に名前とか付けたりしないんすか?」
「名前?」
前山から唐突にそんな事を言われてアンチョビは首を傾げる。
「そうっす。例えば○○号とか、戦車の名前じゃなくて自分だけの戦車のニックネームっす」
「特には付けてないが...付けたほうが良いのか?」
アンチョビとしては結構良いかも知れないと感じていた。ペットでは無いが、愛称を付けると愛着が湧くし、しっかり整備しようと言う気になれるのだ。
「そりゃ勿論!!だって自分だけの戦車って感じがして良いじゃないっすか!!」
前山の考えは少しアンチョビと違う様だが、大体同じ様なものだろう。
「ふーん、確かに良いかも知れないな。因みに前山は付けているのか?」
アンチョビがそう言うと、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに前山は目を輝かせる。
「当たり前っすよ!!そりゃもう、最高なのを付けてるっす!!」
「ほう、自信満々だな。なんて言うんだ?」
あまりにも自信に満ち溢れた前山に、アンチョビも気になるらしい。
「えー、しょうがないっすねー。じゃあアンチョビさんには特別に教えてあげるっす!!」
前山はそう言っているがもう言いたくてたまらない様だった。
「勿体ぶるなって。かなり気に入ってるんだろ?」
アンチョビがそう言うと、その通りなのが嬉しいのか、前山は満面の笑みでようやく名前を言う。
「その名も..."ダーク・インフィニティ"っす!!!!」
「......え?」
戦車道という競技からかけ離れた言葉に、アンチョビの反応がかなり遅れて帰ってきた。
「あれ?聞こえなかったっすか?もー、言うのもう一回だけっすよ?
その名も..."
号を付けることによって間抜けさが一層増した。
「そ、そうか...中々ユニークな名前だな!!」
そしてアンチョビが必死に捻り出した感想がコレである。自分が苦笑いになって無いか心配になりながら、何とか前山に合わせていた。
「マジっすか!?!?因みにどんな所が良かったっすか!?!?」
「え!?!?」
更なる感想を求められた。どうしたものかと必死に考え、何とか出た言葉は、
「そ、そうだな...えっと、無限の闇感がある所....とか...?」
そのまんまである。この名前が将来的に無限の闇になる事は確定なのだが、それを伝える勇気はアンチョビには無かった。
「おおー!!いやー、やっぱ分かってるっすね!!アンチョビさんは!!」
一方前山は褒められて嬉しい様だった。
「じゃあこの戦車もパパっと名前決めちゃいましょっか!!!」
その勢いのまま、整備を終えた目の前の戦車に名前を付けようとする。
「そ、そうだな...」
「うーん、そうっすねー。"
「...いや、それはちょっと....」
「うーん、それじゃあ...」
少々独特すぎるセンスを前山は持っている様だ。
むず痒くなる様な単語を聞き流しながら今後、何かにニックネームを付けるときは、絶対に前山に頼まないと心に誓うアンチョビであった。
ダーク・インフィニティ(笑)号。
因みに出てくるサブキャラは野村、緒方、江藤など、広島カープの往年の名選手達から取っています。分かった人いるかな?