ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
プラウダ編1 : チビvsチビ
一方その頃、プラウダの学園艦の簡易桟橋では男6人と女性1人といった何ともアンバランスな光景が広がっていた。
「あ゛ーー、寒っ。まだ10月入ったばっかなんに何でこんな寒いんか!?」
そう言うのはプラウダの整備班長になった久我だった。彼らのフェリーがプラウダの学園艦についた頃には気温は既に10度を下回っていたのだ。
「ふふっ、寒くなるのはこれからですよ?冬のプラウダは日中でも気温が氷点下なんて当たり前ですから」
宮舞の整備士達の前を歩いて先導していた金髪碧眼の女性が余裕の笑みを浮かべてそう言った。
「あー、舞鶴も結構寒くなりよるけどこの時期にこんな寒いんわ初めてじゃのう。ちゅーかクラーラさんはそんな薄着で寒ーないんか?」
「私はロシア出身ですから」
クラーラと呼ばれた少女はそう言うと可愛くウインクをして軽やかに甲板へと続く階段を登る。
この少女はクラーラ。ロシア人でプラウダの戦車道で砲手を務めている生徒である。どうして彼女がここにいるかと言うと、プラウダの隊長の命で整備科の面々を迎えに行くように指示されたからだ。
「なるほど、やっぱ向こうの出身の人は寒さに強いんじゃのう。クラーラさんは留学生って言いよったよね?やっぱロシアと繋がりが深いけえプラウダを選んだん?」
久我は納得したように頷きさらに質問をした。
「はい、私がプラウダを留学先に選んだのは言った通りロシアとの交流が深いからなんです。おかげでここはロシアの文化も色濃いですからね。私としてはかなり過ごしやすいんですよ」
「なるほど、それでプラウダを選んだっちゅーわけか、...で、そんなことより...」
久我は、少し真剣な表情になってクラーラの方を見る。
「...何でしょう?」
クラーラは彼氏の有無でも問われるかと思い、少し警戒心を強める。
彼女はロシア人、それも美人さんと来れば言い寄ってくる男も少なくないわけで、実際、去年の派遣研修でも整備士の何人かに言い寄られていたのだ。この男もそうなのかと思い、多少身構える。
「...プラウダの戦車はやっぱええ性能なんか?俺は図鑑や模型でしか見たことないんじゃけど、実物ってどんな感じなんかのぅ?」
久我は待ちきれないと言わんばかりに目を輝かせてクラーラにそう聞く。
それを見たクラーラは驚いた表情をした。
彼女も宮舞の派遣された生徒と交流するのは初めてではないが、こんなにも純粋に戦車の事だけを聞いてきた男は初めてだった。
クラーラほどの美人が出てくれば本来なら邪な感情を持っても、何らおかしくは無いのだが、彼女から見てこの久我龍平という男にはそういう感情が一切ないように思えたのだ。
「...合格です」
クラーラはボソッと小さくそう呟く。
「え、何が?」
久我がそう聞き返す。
そして彼女は久我が信頼に値する人物だと認めたのか、いきなりテンションを上げ、オーバーなリアクションで久我の右手を取った。
「хороший !!合格です!私は久我のような誠実な人を待ってました!!」
「...は?」
突然手を握ってきたクラーラに久我はたじたじとなる。
「久我の様な男なら安心してプラウダの戦車を任せられます!」
「お、おう。何か知らんけどそりゃよかったわ。...ほいでその戦車の方なんじゃけど...」
「久我は何でプラウダを選んだんですか!?私、すごい気になります!!」
久我の質問を遮るようにクラーラが矢継ぎ早に質問をぶつける。
「え、そりゃソ連の戦車弄りたいけぇかのう...ほいでそっちの戦車っちゅうのは...「へぇー!やっぱり久我はソ連の戦車の良さをわかってるんですねー!」
...会話にならない。久我はクラーラに対してそう思った。テンションの上がった女子とゆうものはこうも会話が一方通行になるものなのだろうか?そう思いながら久我はプラウダの戦車の事を聞くのを諦めたのか、少し疲れた顔で、別の話題を出そうとする。
だが久我が口にした話題はクラーラにとって火に油を注ぐような話だった。
「はぁー、まあ戦車は見りゃわかることじゃしええか。で、そっちの隊長さんってどんな人なんか?これから長い付き合いになるんじゃけぇ、ちぃたー知っときたいんじゃけど...」
それを聞いた瞬間、クラーラの目がさらに輝く。
「よくぞ聞いてくれましたね!そう、偉大なる同志カチューシャはそれはもう素晴らしいの一言では表せない人なんですよ!!」
久我はクラーラのスイッチをさらに深く押してしまった事に後悔しながらもなんとかテンションについて行こうとする。
「ほ、ほうか。因みにどの辺が凄いん?」
「まずなんと言ってもあの威厳ですね。鋭い目つきに圧倒的カリスマ性、生徒の多いプラウダをまとめるにふさわしい器量の持ち主なんです!」
クラーラが多少早口でそう言った。彼女はロシア人の筈だがこんなにも饒舌な日本語を喋れるものなのだろうか、久我はそう思いながらも適当に相槌を打つ。
「それだけじゃないんです!シベリアの寒さのような厳しさ、バイカル湖の湖底よりも慈悲深いその心...まさに全てを兼ね備えたと言っても過言ではないお方なんです!それとですね...」
...やはり彼女は日本人ではなかろうか?そう思えるようなクラーラのカチューシャへの愛はプラウダの格納庫に着くまで語り続くのであった。
「...凄い数じゃのう。これ全部戦車道の履修者なんか?」
格納庫に着いた久我はプラウダの生徒の数に驚いていた。どこを見廻しても人、人、人。ざっと見ただけでも200人はいるのではないだろうか?そんな数の生徒が一斉に6人の男子生徒の方を見ている。その視線の圧に整備科の面々はかなり萎縮をしていた。...ただ1人、整備班長である久我を除いて。
「...やはり久我は私の見込んだ通りですね」
今まで道案内をしていたクラーラが久我の隣で感慨深くそう言った。
「?、なにがじゃ?」
突然そう言われ久我は怪訝そうにクラーラの方を見る。
「こんなにプレッシャーがかかる場面でも全く動じていません。去年きた整備士達はみんなダメだったのに、ここまで堂々としているのは久我が初めてですよ」
「...見られとるだけじゃ。ほいでビビっとったら先が思いやられるわ。お前らも堂々とせい!ナメられるで!!」
久我は振り返ると他の整備士達に喝を入れるようにそう言った。
「「「は、はい!!」」」
整備士達は喝を入れられて目を覚ましたのか、気合の入った声で返事をした。
その時、2人の少女が久我達の前に出てきた。1人は170cmは超えているであろう黒髪の長身の少女、もう1人はかなり背が低めの金髪の少女だった。
久我はそれを見た瞬間、彼女が隊長なのだと悟った。
そして久我は自ら彼女らに近づき軽く頭を下げて挨拶をする。
「よろしく頼んます。宮舞高校から来ました班長の久我龍平です」
「...よろしくお願いします」
「ウチらの戦車に触れる事、光栄に思いなさい!!」
2人の少女も挨拶を返す。長身の少女は静かに、背の低い少女は元気よくそう答えた。久我はそれを見てやはり彼女が隊長なのだと確信する。
「...おぉー、クラーラさんの言った通りじゃ。その突き刺すような鋭い視線に威厳のある佇まい、流石はプラウダの隊長さんってところかのう」
久我が感心したようにそう言う。それを聞いた金髪の少女は得意げに笑う。
「...へぇー、去年の連中はヘボばっかだったけどアンタは分かってんじゃない!」
気をよくした金髪の少女は高飛車にそう言った。
「こんなええ隊長なら充実した整備をやれそうじゃのう」
そう言って久我は握手を求めようと、自らの右手を差し出して彼女らに向け、近づいて行く。それに金髪の少女も応えようと一歩前に出て久我と同じく右手を差し出す。
ーーだが久我はそんな金髪の少女の横を通り過ぎてその後ろに立っていた黒髪の少女の前に立ち、
「あんたがクラーラさんの言ってた隊長のカチューシャさんじゃな?
話はクラーラさんからよう聞いとる。確かに話してた通りの人じゃ。ウチらはソ連の戦車を触るんは初めてじゃけえよろしく頼んます」
そう言って久我は黒髪の長身の少女に握手を求めたのだ。
格納庫の空気が一瞬にして静まり返る。そんな空気に気付いてないのか久我は依然として黒髪の少女が右手を差し出すのを待っていた。
黒髪の少女は今までずっと無表情だった顔を少し困ったような顔に変え少しの無言の後、話し出した。
「...えっと、私は隊長ではないのですけど」
「...は?」
久我は素っ頓狂な声を上げて黒髪の少女の顔を見る。クラーラが言っていたカチューシャは威厳のある佇まいに凍えるような鋭い目つき、そして圧倒的なカリスマ性を持っているとの話だ。それらをまとめると久我にはこの目の前の黒髪の少女が隊長であるとしか思えないのであった。
「...ちょっとあんた」
その時、久我の真後ろからそんな声が聞こえた。声色を聞く限り相当怒っているのがわかる。
「なんじゃもー、あんたもはよ言ってくれや、お陰で勘違いしてもうたじゃろーが。...で、ホンマの隊長は何処におるんか?」
久我は振り返って、恥ずかしそうに金髪の少女にそう言った。
それを聞いた瞬間、金髪の少女は小さい身長をめいっぱい伸ばして久我の胸ぐらを掴んだ。
「ぐえっ!なにすんじゃこのアホたれ!!」
「アホはあんたよ!!なによ!このカチューシャのことをバカにしちゃって!!」
涙目になって金髪の少女は久我の胸ぐらをつかんでブンブンと振り回しながら捲し立てる。
そう、この小さい少女こそがプラウダ戦車道の隊長であるカチューシャなのだ。
「はぁ!?お前がカチューシャなんか!?じゃあこっちは!?」
久我は勢いよく顔を黒髪の少女へと向ける。
「どうも、副隊長のノンナです」
ノンナと名乗った黒髪の少女は無表情のままペコリと軽く一礼して短くそう言った。久我はそれを聞いて唖然とする。
「フン!隊長が誰かを間違えるようなやつが整備班長なんて宮舞の整備科も堕ちたものね!!」
カチューシャが依然として久我の胸ぐらを掴みながらそう言った。その言葉に久我もカチンと来たのか応戦する。
「あ゛あぁ!?んなもん分かるわけないじゃろうが!こんなチビが隊長なんざ誰も思わんわ!!」
「あー!!今カチューシャのことまた侮辱したわね!?ってゆうかアンタもチビじゃない!!」
「うっさい!!お前よか身長あるわ!!聞いて驚け。俺は今年の春の身体測定じゃ去年より5mmも伸びとったんじゃぞ!!」
「んな!?か、カチューシャだって半年後にはアンタより大っきくなってるわよ!!」
「......ハッ(笑)」
「鼻で笑ってんじゃないわよ!!ッキィーーッ!!ムカつく!!」
出会ってすぐこの有様である。そんな2人の火の粉が降りかからぬ様にと、少し離れたところから大笑いしてクラーラは見ていた。
「あーっはっはっは!!もー、同志久我、ノンナは隊長じゃないですよー」
そんな愉快そうな顔をして笑うクラーラに、カチューシャのそばにいたノンナが彼女の方へと近づいて行く。そして無表情な顔に少し眉間にシワを寄せながらこう言った。
『...これは一体どう言う事ですか?同志クラーラ』
流暢なロシア語でノンナがクラーラに問いかける。ノンナは日本人だがロシア語も達者なので、ロシア人のクラーラと話すときはこのようにロシア語ではなすのだ。
『何って、見ての通りですよ、同志ノンナ。そんな怖い顔をしないで下さい』
クラーラはそんな二人を見ながら心底楽しそうに笑ってそう返した。
『あなたには隊長の事を説明する様に言ったはずですが...はぁー、一体カチューシャの事をどのように説明したのですか?』
ノンナはそう言ってこめかみを抑えながら深くため息をついた。
『そりゃもう、威厳のあってシベリアの寒さのように厳しく、バイカル湖の湖底より慈悲深いお方だと言いましたけど』
依然ニコニコしながらクラーラはそう言った。
『...まあ、間違ってはいないけど、肝心な事を言ってないでは無いですか...』
この一連の勘違い騒動の確信犯だなと、ノンナは思いつつも前途多難な初対面になってしまった事にもう一つ深くため息をつくのであった。
そんな元凶の二人の方を見てみると、
「はぁー!?俺の方が強いに決まっとろうが!!」
「バカな事言ってんじゃ無いわよ!テトリスもカチューシャの方が強いに決まってるじゃない!!」
いつのまにか喧嘩の原因がテトリスに切り替わっている光景を見てノンナの胃が重くなる。まるで子供同士の喧嘩だ。これから子守をする人間が一人増えるのか。そう考えると彼女の頭は痛くなっていくのであった。
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