ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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プラウダ編2 : 子守

 

 

 プラウダの戦車は全てソ連の戦車製だ。T-34シリーズを多数保有し、その総数、50両以上というサンダースに次ぐ、かなり規模の大きい高校である。そして格納庫には宮舞の整備士達とクラーラ、そしてもう一人の少女の姿があった。

 

 「...ほんま凄いのぅ、戦車のスペックも強力じゃが、何より整備をえらい綺麗にしちょる」

 

 輝いた瞳でプラウダの戦車をまじまじと見ているのは、班長の久我龍平。プラウダ高校の整備の質の高さに興奮気味にそう言うのだった。

 

 「あ、ありがとございます」

 

 対して東北訛りで緊張した風にそう答えたのはプラウダの一年生、ニーナだった。身長は低いが見た目の厳つい年上の男、そして彼女も140cmとかなり小柄なため、必要以上に久我の威圧感を感じていた。

 「ニーナ、じゃったか?ここの整備班っちゅうのは何人くらいおるんか?」

 

 「へ!?あ、わ、わだす含めで41人であります!」

 そんな久我の顔が自分に向けられ、今にも泣き出しそうな顔でニーナが答える。側から見ればまるで幼い子供をいじめている悪い大人の様だ。そんなニーナに対して、

 「...なんちゅう顔しとんのじゃ、もっとシャキッとせい!!」

 おどおどしているニーナに対して久我が喝を入れる。こういう手合いは、久我が最もイライラする部類であった。

 「は、はい〜〜!!」

 恫喝の様な口調にニーナはさらに萎縮してしまう。彼女に気合を入れようとするも逆効果だったようだ。

 

 「まあまあ、同志久我、うちの子たちをあまりいじめないでください。ニーナもこの高校に来て年上の男性と話すのは初めてですから」

 

 対象的に愉快な顔をして隣にいたクラーラがそう言う。ニーナの方は少し涙目になっていた。

 「...俺は普通に喋っとるだけなんじゃけどの」

 言い過ぎたと思ったのか、久我はそんなニーナを見て少し落ち込みながらそう言った。

 東北の素朴な少女にとってこのオラオラ系の男はかなり刺激が強いのだ。

  

 「...でも本当に綺麗じゃ」

 

 「...え?」

 

 久我が真剣にクラーラの顔を見ていきなりそんな事を言うので彼女も変な声をあげる。

 「履帯には入念に油が差されとるし、砲身なんかも根っこから先っちょまでピカピカに磨いちょる。今まで見てきたん中では一番の綺麗さじゃ」

 久我は視線を戦車の方へ移し、楽しみで仕方のないと言った口調でそう言う。対してクラーラは

 「そ、そうですね!プラウダの整備士達はみんな素晴らしいですからね!」

 何を勘違いしたのか、少し顔を赤らめながら慌てた口調でそう言った。

 「?、まあええわ。ほいでこの戦車なんじゃけどニーナ、じゃったか?お前が整備したんか?」

 そんなクラーラの様子に気付く事もなく、久我は再び顔をニーナの方へ向ける。

 「は、はい!?そ、そうですが!?」

 ニーナは怒られると感じたのかまたもや泣きそうな顔になる。が、久我が放った言葉は叱責の類ではなかった。

 

 「ほうか、なんじゃ、ビクビクしちょるけぇ、どんなもんかと思うたけど、ええ整備するのう」

 

 「...ふぇ?」

 今どき、アニメでも出さないであろう声をニーナが発する。また怒られるとばかり思っていたのか、久我が何を言ったのか理解出来てない様だ。

 

 「ここまで綺麗にしたんじゃ。戦車も大層喜んどるじゃろう。お前が丹精に丁寧にやったんが分かるわ」

 先程の恫喝とは違い感心した声で久我がそう言う。

 「あ、ありがとございます!」

 それに尚も辿々しくニーナは返事をする。ただ、顔つきは先程とは見違えるほど良かった。自分の努力が認められたとなっては、彼女も久我に対する意識を改め始める

 

 「こんだけええ仕事するんじゃ、もっと自信持たんかい!」

 

 「はい!!」

 そして再度、久我がニーナに激励の言葉をかける。だが今度はちゃんと気合が入った様だ。

 

 

 

 

 

 

 「お、こっちはリベットじゃのうてボルト打ちなんじゃな」

 

 「はい、その戦車は中が壊れやすいんでガワが外し易いボルト打ぢに変えたんだす」

 

 あれから少し、久我とニーナはすっかり意気投合していた。やはり同じ整備士、話の種は尽きないのだろう。先程の光景が恫喝なら今はその真逆、仲のいい兄妹が話している様な光景だった。

 

 「...へー、ずいぶん仲がいいんですね」

 

 そしてこの光景を見て不機嫌そうな少女が1人、クラーラである。彼女も彼らの話に加わりたいのだが整備に関してはあまり詳しくはなく、2人の話についていけなかった。詰まるところ、蚊帳の外の扱いが気に入らないのである。

 「ク、クラーラさん、すんません。わだすもこんな喋れる人久しぶりだったんだつい...」

 

 「なんじゃクラーラさん、いきなり拗ねよって」

 ニーナは申し訳なさそうに、久我は面倒臭そうにクラーラに反応する。

 「いいですよねー、2人は楽しそうでー」

 そっぽを向いて頬を膨らましているクラーラに対してニーナも久我も困り顔になる。随分とご機嫌斜めな様だ。

 「そうですかー、私は仲間はずれですかー」

 擦れた態度で悲しそうにクラーラはそう言う。このまま不機嫌なままだと面倒だと思ったのか、久我は何とかならないかと少し思案する。彼女の食いついてくる話題は何だろうか?腕を組んで少し考えていると、ふと、出会った頃の彼女を思い出した。

 

 「...そういや、此処の隊長さんは今頃何しよるんかのう」

 

 これだと言わんばかりに久我が話題を変える。クラーラも『隊長』と言う言葉を聞いて、体がピクンと反応する。

 「...同志カチューシャは多分今、中庭にいますよ」

 拗ねた態度を崩さないクラーラ。だがようやく自分が食いついて行ける話題が来たからか、目線をチラチラと久我の方へ目配せする。意外と分かりやすい少女だ。

 「中庭?」

 何故そんなところに、と久我は思う。確かに今は戦車道の訓練はなくプラウダの各員も戦車の動きを再度チェックしたり、それが終わったのか話に花を咲かせているものばかりだが、カチューシャはあの挨拶の一件以来、拗ねて何処かへ行ってしまい、その後も姿を見てない。

 「隊長さんは今お昼寝の時間なんだす」

 疑問に思う久我にニーナが付け加える様にそう言った。

 「はー?昼寝ー?ホンマに子供みたいじゃのう」

 久我が馬鹿にした様な顔でそう言う。この場にいる整備士の誰もが『お前が言うな』と思ったが、言ってしまうと目の前のもう1人の子供に噛み付かれるので口に出すものは居なかった。

 「でもカチューシャの寝顔は本当にカワイイんですよ?」

 クラーラは機嫌が戻ってきたのか少し声色を明るくしてそう言う。

 「くくっ、あの子供隊長の寝顔かいな、どーせ間抜けな顔で寝とるんじゃろ、一回拝んでみたいのう」

 久我は悪そうな笑顔でそう言う。馬鹿にする気満々である。

 「残念ですけどカチューシャがお昼寝する時は中庭は貸し切っているんです。付き添いのノンナ以外は入れないと思いますよ?」

  少しだが楽しそうな顔でクラーラはそう続ける。

 「はー、そりゃ残念」

 ガックシと肩を落として久我がそう言う。

 

 「それでカチューシャの寝顔なんですけどね」

 

 そしてクラーラは味を占めたと言わんばかりに言葉を続ける。

 「あっ...」

 久我はそんなクラーラを見て、しまったというような顔をする。

 「やっぱり寝ている時に袖をギュッと握ってくるところが良いんですよ!」

 彼は失念していた。彼女のカチューシャへのこだわりはかなり強いことを。機嫌が直ったのはいいが、再び止まらなくなった彼女に久我はまたもやゲンナリとした顔になっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方こちらは件の中庭。クラーラの言った通り、カチューシャとノンナはここに居た。少し肌寒く感じる気温の中、日向でカチューシャはノンナに膝枕をされて小さな寝息を立てている。

 

 「...カチューシャ、そろそろ起きて下さい」

 

 ノンナが優しく、子供を起こす様にして軽くカチューシャの肩を揺らす。もうそろそろ昼も過ぎ、戦車道の訓練が始まる時間。まだ寝ぼけ眼ながらもカチューシャは声に反応してゆっくりと起き上がる。

 

 「...もうそんな時間?分かったわ、そろそろ行きましょうか」

 

 背伸びをしてそう言うと、2人とも立ち上がる。

 「...それで、宮舞の方達はどうなされますか?」

 ノンナがその言葉を放った瞬間、カチューシャの顔が一気に不機嫌になる。

 「フン、別に戦車を触らしてやってもいいけど、あの久我とか言うチビにいじられるのは癪に触るわね」

 あれから不貞寝して尚、カチューシャは挨拶の一件を根に持っているようだ。

 「...粛清しますか?」

 ノンナが無表情で物騒な事を言う。

 「...いや、ちょっと待ちなさい。ただ粛清するだけじゃ私の気がおさまんないわ。確かあいつらって戦車戦もある程度出来た筈よね?」

 何を思いついたのか悪い顔で笑ってカチューシャはそう言う。

 「ええ、確か実践的な整備をする為、と言う名目でやれると去年来た人たちに聞きました。...プラウダの戦車でそれが出来るか分かりませんが」

 カチューシャの発言を受けて、彼女が何をしようとしているか察したノンナは、最後に一つ、そう付け加えた。

 「フン、関係ないわ。ここはプラウダ高校よ。あいつらを呼んだらすぐに『模擬戦』の準備をしなさい」

 「...分かりました。同志カチューシャ」

 カチューシャは挑発的な笑顔で、ノンナはあいも変わらず無表情でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 「はぁー?模擬戦ー?」

 やっと戻ってきたと思ったノンナにそんな事を言われて久我の眉間に一層シワが寄る。

 「...ええ、カチューシャがあなたの実力を知りたいと」

対して淡々と言うノンナ。隣で聞いているニーナは張り詰める緊張感にまたしてもあたふたしている。

 「なんで来てすぐにそんな事せんにゃいけんのんじゃ、まだまともに此処の戦車も触っとらんぞ」

 久我がこう言うのもごもっともである。何度も言うが宮舞にはチトとチリの戦車しかない為、ソ連の戦車は宮舞の整備士の誰も触ったことがない。

 いきなり今までと仕様の違う戦車で戦えと言われても、土台無理な話なのだ。

 だがノンナもここで引き下がるわけにはいかない。すでにプラウダの隊長様はやる気満々なのだ。ここで引き下がれば彼女の機嫌は真っ逆さまに落ちることをノンナは察していた。

 「...では出来ないと?」

 声を少し低くしてノンナがそう言う。

 「...『出来ない』、じゃのうて『やりとうない』じゃ。いきなり乗ったことのない戦車で戦ったら何が起こるか分からん」

 ノンナの『出来ない』という言葉が鼻に付いたのか久我は益々眉間にシワを寄せてそう言う。さすがに久我もここまで言えば引き下がるだろうと思ったが、彼女が次に言った言葉で緊張感は一層張り詰める。

 

 

 「なら、今回は私たちの不戦勝という事ですね」

 

 

 「...あ゛?」

 

 無表情でそう言うノンナに久我はドスの効いた声を返す。間に挟まれたニーナはまたまた泣きそうな顔をしていた。不憫である。

 「そちらが『戦わない』と言ったんです。それは私たちが戦わずして勝ったと言う事でしょう。...まあこんなに宮舞の人たちが臆病だとは思いませんでしたが」

 久我を見下ろす様にしてノンナは挑発的にそう言う。見え透いた挑発だがこの男が乗らないわけがない。

 「...ほぉー、ほうかほうか、俺らが女にビビっちょるヘタレじゃと、アンタは言いたいわけじゃな」

 額に青筋を浮かべ、震える声で久我がそう言う。もう爆発寸前の様だ。

 「はい、そうです。...尤も、実際に戦ったとしても貴方達に負ける理由はありませんが」

 ノンナのその言葉を聞いて、ついに久我の堪忍袋の尾が切れる。

 

 

 「はぁーーー!?!?ざっけんな!!!アホ!!上等じゃアホんだれ!!表出いぃ!!ボッコボコにしちゃる!!!」

 

 もはや恒例となっている久我のプッツンにまたか、と宮舞の整備士達もため息をつく。そして久我は勢いよく顔をニーナの方へ向けた。

 

 「ニーナ!!お前の戦車借りるぞ!!!」

 

 「えぇー!?!?」

 

 「安心せい!!ペシャンコになろうが元に戻しちゃるわ!!」

 

 「んだ事言っだってー!?」

 ニーナの返事も聞かずにそそくさと久我はキューポラに乗り込んだ。それを見た宮舞の整備士達も久我に続いてゾロゾロと戦車の中に入っていく。

 「ごめんねー、ニーナちゃん」

 「久我さんああなったら止まんないから」

 「ちょっとだけだから」

 宮舞の整備士達はまるで節操のない男の様なセリフをニーナに残しながら慣れた様子で久我に続く。やはりこの少女、不憫である。

 そんな光景を冷めた目でノンナは見つめていた。

 

 「...本当に単純。男ってこんなのばっかりなのかしら?」

 

 ため息を一つついてノンナがそう呟く。

 

 『裏を返せば純粋って事ですよ。私は久我みたいな人、嫌いじゃないですけどねー』

 

 突如ノンナの背後からクラーラが出て来てロシア語でそう言った。

 『クラーラ、何処にいたの?...相変わらず面倒事を避けるのが上手いですね』

 ノンナも会話をロシア語に変えてそう返す。

 『ありがとうございます。...しかし同志久我も分かりやすいですねー。ノンナの挑発にあんなに簡単に乗るとは』

 ニコニコした顔でそう言うクラーラに対し、ノンナの顔は少し曇る。

 『...少し、言い過ぎたかしら...』

 声を落としてノンナはそう言う。対してクラーラはニヤリと笑ってノンナの顔をまじまじと見つめた。

 『...何ですか』

 ノンナはそんな視線に居心地の悪さを感じる。

 『いーえ、ちゃんと心配してるんだなーって思っただけですよー』

 相変わらずニコニコとした笑顔でクラーラはそう言う。

 『...何を言うかと思えば、これから1ヶ月半付き合うのですから。心配とかではありません』

 ノンナはため息をついて少し眉間にシワを寄せながらそう言う。

 『ふふっ、なんだか久我のお母さん、いや、お父さんみたいですねー』

 

 『はぁー...冗談はやめてください...』

 

 クラーラに心にもない事を言われたのか、再び大きくため息をついてガックシと肩を落とすノンナであった。

 

 

 

 「何しとんじゃ!!!はよ表出い!!!」

 

 

 

 そこへ男の声が一つ、久我がキューポラから頭を出して外へ出ていくようジェスチャーを交えながらそう言う。

 

 『...同志ノンナ、呼ばれてますよ』

 

 『...はぁー、本当、もう一人子守をする人間が増えた気分です...』

 ノンナはそう言い残して自身の戦車の方へ向かって行く。それを見送ったクラーラはノンナに聞こえない声で小さくこう呟いた。

 

 

 

 「その割には本当に嫌そうじゃないんですけどねー」

 

 

 

 それはノンナをよく知る人でしか気付かなかったであろう。表情の機微をクラーラは感じ取っていた。

 こうして波乱万丈すぎるプラウダの派遣研修が始まったのだ。

 

 

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