ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
あけおめです。そして遅れてすみません。
全てはスマブラのせいです。
宮舞とプラウダの模擬戦の翌日、プラウダの戦車格納庫ではいつも通りの光景が広がっていた。各々自分たちの戦車の整備をしたり、訓練をしたりと皆、やるべき事をやっている。しかしそれは見た目だけであり、現場の雰囲気は困惑した空気に包まれていた。
「.....」
一人の少女がジッと見つめている。視線の先には、久我を含めた6人の宮舞の整備士の姿があった。
その表情は怒っているのか、ただ見つめているだけなのか、何とも判断しづらい微妙な顔をしていて、さっきから気配を隠そうともせず神妙な顔で見つめている。それに気付いていた宮舞の整備士達も居心地の悪さを感じていた。
「...なんじゃ、言いたいことがあるんならはよ言わんかい」
痺れを切らした久我が少女にそう声を掛ける。声を掛けられた少女はたちまち面白く無い様な表情に変わった。
「...何でも無いわよ。ただ見てるだけじゃない。ほっといて頂戴」
整備士達を見つめていたのはカチューシャだった。プラウダの隊長たるこの少女は、単純明快。言いたい事は即座に口から出るタイプなのだが、何か考え込んでいる様な今日の彼女はいつもと違う。そんな様子をプラウダの履修者達も感じているのか、珍しい彼女に困惑する者が大半であった、
「ジロジロ見られちゃあ気が散る。用が無いんなら目の付かん所に居ってくれ」
整備をしている目の前の戦車から視線を外さずに久我がそう言い放つ。相変わらず言葉を選ばない久我であるが、意外にもカチューシャは噛み付いて来ない。流石に様子がおかしいと出会ったばかりの久我も違和感に気付いたのか、カチューシャの方へ顔を向ける。
「なんじゃ、今日はエライ大人しいのぅ。腹でも痛いんか?それとも何じゃ、昨日俺らに勝ったけぇ嫌味でも言いに来たんか?」
そう言って久我は眉間に皺を寄せてカチューシャの方に睨みを効かせる。冷やかしに来ただけなら追い返す気であった。しかしカチューシャが放った言葉は久我にとって予想外すぎるものだった。
「...嫌味を言うのはそっちの方じゃ無いかしら?」
「はあ?」
カチューシャがそう言うが久我は全くピンと来てない。キョトンとしているとカチューシャはイライラした様な口調になる。
「だから嫌味を言うんならアンタらの方じゃないかって言ってんの!初めて尽くしの相手にああもいい様に追い詰められたのよ!?結果的にあたし達が勝ったけどコッチは全く納得いってないのよ!!」
早口でそう捲し立てるカチューシャ。結果勝利した模擬戦であるが、内容を見てみると、彼女が思い描いていたものとは程遠いものだった。
慢心に次ぐ慢心。それが連鎖的に悪い方向へと空回りしてあそこまで追い詰められた。思い出せば思い出すほど悔いの残る試合だっただけにカチューシャの心中も穏やかではなかった。
それ故に久我に聞きたい事が山ほどある。
「まず操縦!何で初めて動かす戦車であんな動きが出来んのよ!?」
「動かし方はニーナが教えてくれたけぇのう」
「それにしたって異常よ!砲弾を躱せるほどの動きが初めて乗る戦車で出来るわけないでしょう!!」
「そりゃまあ、"最初"は出来んかったけどのう。どう言う訳か相手が仕留め損なってくれたおかげで感覚を掴む時間はあったけぇの」
「っっっ!!!」
久我に痛いところを突かれて言葉を失うカチューシャ。彼女だって理解している。ここまで追い詰められた理由を。あの時慢心せずに準備して居れば。あの時慢心せずに即座に砲弾を当てていれば。終わった試合にたらればは無いがそう思わずにはいられない程の内容だったのだ。
「まあ、負けたのはこっちじゃ。何はともあれ結果は負け。それが全てじゃろうに」
「...納得いかないわよ」
カチューシャのその言葉は自分に言い聞かせている様にも聞こえた。
久我は勝敗の結果を割り切っているが、カチューシャはそうもいかない。勝ったのはカチューシャの方であるのにまるで勝敗が逆転したかの様な二人の態度だった。
そしてこの勝負に納得のいっていない少女がもう一人。
『どうしたの、同志ノンナ。今日は朝から浮かない顔ですね』
いつも通りのロシア語でクラーラがノンナに話しかける。ノンナの方はいつも無表情なので分かりにくいが、クラーラには見抜かれていたらしい。
『...いつもこんな顔です』
ノンナもロシア語で短く一言、無表情でそう言い放つが声色は暗い。見るからに落ち込んでいるのを確認するとクラーラは少し微笑んだ。
『昨日の事でも考えていたのですか?まあ勝ったからいいんじゃないでしょうか?』
『...別に、昨日の事など引き摺っていません』
ノンナの表情が見るからに険しい。そんな表情でそう言われても説得力は全く無い。彼女が落ち込んでいる事を確信すると、クラーラは優しい声で問いかける。
「...久我は...強かったですか?」
クラーラはロシア語では無く日本語でそう聞いてきた。いきなり核心に迫る言葉を聞いて、ノンナの鼓動がドクンと跳ね上がり、昨日の事を思い出したのか彼女は俯いてしまった。そして聞こえるか聞こえないか程のか細い声で独白する様に話し始めた。
「...弾が、当たらなかったんです。それも全く。自分の腕が全く通じなかった相手はあの人が初めてです」
ノンナと言う少女は自身の砲手としての技術に自信を持っていた。実際、過去の戦績でも戦果は上々であるし、プラウダの履修者達も彼女の技術は全員が認めるものであった。"ブリザードのノンナ"と言う渾名の通り、彼女はいつでも冷静沈着でいつでも判断を誤る事は無かった。
しかし昨日、その自信が完膚なきまでに叩きのめされてしまった。普段ミスをしない彼女だからこそ、もし何かやらかしてしまった場合、酷く落ち込むのだろう。これがただの試合でならここまで落ち込んではいなかったかも知れない。
だが昨日の模擬戦ば事情が違う。
「それも初めて乗る戦車を動かす相手に。実力不足も良いところです」
自虐的にそう言うと更に落ち込んでしまうノンナ。付き合いの長いクラーラでさえここまで落ち込む彼女を見た事は無かった。完璧主義も考え物である。ならクラーラの取る行動は一つ。
「...気になりませんか?」
「...え?」
唐突にクラーラにそう言われてポカンとするノンナ。気になるとは、何のことを言っているのだろうか?
「久我の強さです。ノンナ、貴女の砲手としての腕が高い事は私も含めてプラウダでは周知の事実です。なら考えるのは貴女が弱いんじゃ無くて久我が強かったと捉えるべきです。違いますか?」
「...それは傲慢です」
真面目なノンナらしく、あくまでも自分の実力不足が原因だと譲らない。強情な彼女にクラーラは少し困った様な顔になる、
「もう、相変わらず頑固ですねー、ノンナは。なら久我の操縦士としての腕はそうでもなかったと言う事ですか?」
「それは...そうではないですが...」
正直、久我の操縦も見事なものだとノンナは認めていた。珍しく歯切れの悪いノンナにクラーラも見かねたのかノンナの手首を掴む。
「もー、らしくないですね!なら本人に聞いてみましょう!こういうのは早い方がいいですから!」
「ち、ちょっとクラーラ!引っ張らないで!」
ノンナの意見も聞かずにクラーラは強引に手を引っ張って久我の元へ向かっていった。副隊長であるノンナにあんまり落ち込まれていてもプラウダの士気に関わる。少し荒療治かも知れないがそうした方が良いとクラーラは判断したのだ。
「あ、いた」
久我、もとい宮舞の整備士達はプラウダの履修者達に混じって整備をしている。宮舞のツナギはプラウダのツナギとは違い、水色であるから見分けが付きやすい。遠目からでもかなり目立つのだ。クラーラは少し遠くで整備をしている久我達を見つけると、善は急げと言わんばかりに足早に彼らに近づいて行く。
「ま、待ってください、クラーラ。もう行くのですか?」
しかし手を引っ張られているノンナは躊躇している。
「もー、まだ悩んでるんですか?こういうのは先延ばしにすると益々聞きづらくなりますよ?」
「いえ、私は別に...」
昨日の試合での事が頭から離れないのか、未だにノンナは久我と直接会う事に抵抗を感じている様だった。
「ん?隣にプラウダの生徒さんもいますね。あれは...カチューシャじゃないですか!」
「...え?」
クラーラが出した名前は、今ノンナがあまり顔を合わせづらい少女の名前だった。
「アンタ、他の戦車には乗った事あんの?」
「基本は
「...なるほど、あの泥棒高校の戦車を動かしてたなら合点が行くわ」
カチューシャによる久我への質問はまだ続いていた。最初こそやいのやいのと久我に噛み付く様に騒いでいた彼女だったが、かなり長くなってしまっているのか、今はだいぶ落ち着いて会話をしている。
「...何やら話し込んでいますねー。昨日の事でしょうか?」
「...盗み聞きは良くないです。戻りましょう」
そんな二人の様子をノンナとクラーラは他の戦車の陰から盗み見していた。クラーラは二人の会話の内容に興味津々だが、ノンナの方は昨日の不甲斐なさが尾を引いていて、中々カチューシャとも顔を合わせづらい。何とかこの場を離れたいが右手は依然とクラーラにガッチリ掴まれてしまっている。
「あとは何でノンナの砲撃をあんな簡単に避けれたのよ?」
カチューシャが放った言葉にノンナの心臓がドキリと跳ね上がる。何ともタイミングの悪い事だろうか。
「ノンナ?あぁ、副隊長さんの事かいな。あの人砲手じゃったんか。ええ腕しとったのう」
久我がしみじみそう言うとカチューシャが得意げな顔になる。
「当たり前じゃない!ウチでもトップの射撃技術を持ってんのよ!...ってそうじゃ無くて!!何でド素人のアンタがそのノンナの砲撃を避けれたのか聞いてんの!!!」
「相変わらずやかましいのぅ。別に、簡単な事じゃ。砲撃のリズムよ」
「...リズム?」
久我の答えにカチューシャが首を傾げる。隠れていたノンナとクラーラも久我の話が気になるのか、聞き耳を立てていた。
「試合の後半になるにつれて一定の感覚で砲弾が飛んでくる様になったんじゃ。大方、焦って装填が完了したらすぐ撃っとったんじゃろうな。飛んでくる弾のタイミングが分かればそれに合わせて横に逸れれば良いだけよ」
なるほど。と、その場にいた誰もが久我の答えに納得しただろう。反論の声は聞こえないし。カチューシャも心当たりがあるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そしてそれは隠れて聞き耳を立てている二人にも言える事だった。
「へぇー、すごいですね。あの試合であそこまで考えていたなんて」
素直に感心したクラーラは率直な意見を述べる。初めて動かす戦車で色々考える事がある中で相手への観察も怠っていない。戦車乗りとしては、久我の能力はかなりレベルの高いものだと彼女は感じていた。
「...そうですね...」
深刻そうな顔をしてノンナも同意する。あの試合での失態。今、久我に言われて初めて気付いたのだ。
「やっぱり久我はスゴイですねー。もっと話を聞いてみたいです。ノンナも気になるでしょう?」
「それは...」
クラーラの問いかけにノンナもNOとは言えない。彼女だって、一試合しかしていないが久我の実力の高さを内ながらに評価していた。なら彼に教わる事は沢山ある。
「決まりですね!なら行きましょう!話に混ぜて貰いましょうよ!」
そう言って強引にノンナの手を引っ張って久我達の方へ行こうとするクラーラ。
「ち、ちょっと待ってください!今はまだ...」
焦るノンナは意固地になって動かない。
「まだそんな事言ってるんですか!?本当に柄にもないですねえ」
「だから私は...」
ノンナが何か言おうとした時、何かが視界に入り動きが固まる。あれだけ大声で話していたのだ。周りに聞こえないはずがない。
「おう、盗み聞きたあええ趣味しとるのう」
目の前に突然久我が現れてノンナの息が止まった。