ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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 お待たせしました。少々どころじゃ無いほど遅れましたが、投稿を再開したいと思っています。


 別にウマ娘やってたとかじゃ無いよ?


プラウダ編5:小さな女傑

 

 「ほいで、俺になんかようでもあるんか?」

 

 「あ、いや、その…」

 

 普段の冷静さからは考えられないくらいノンナは動揺している。と言っても表情はポーカーフェイスなのでそれに気付く人間は少ないのだが。

 

 「Да、同志久我。ちょうど良かったです。私達も今、久我の話をしていたのですよ?」

 

 対してクラーラは緊張している様子もなく、いつも通りだ。緊張しているノンナに対して話がスムーズに進む様フォローしている様にも見える。

 

 「ほう、俺のかいな?なんじゃ、悪口でも言っとったんか?」

 

 意地の悪い笑顔で軽口を飛ばす久我。目つきの悪さも相まって、まさにアニメで出てきそうな悪役の表情だ。するとクラーラは困った様な笑顔になる。

 

 「もー、違いますよ。久我の操縦技術について話をしていたんです。何かコツでもあるんですか?」

 

 「コツ?」

 

 「はい、あれだけ初めて乗る戦車を乗りこなせていたんです。何かコツでもあるんですか?」

 

 クラーラに質問されて少し久我は考え込む。

 

 「うーん、どうじゃろな。俺は"感覚"でやっちょるからのう」

 

 「感覚?」

 

 感覚と言う言葉を聞いてクラーラは首を傾げる。つまり久我はその天才的な"感覚"で戦車を動かしていると言うことだろうか?

 

 「おう、戦車にせよ自動車にせよ初めて動かす乗り物は慣れが必要じゃろう?」

 

 それはそうだ。初めて扱う戦車をいきなり何不自由なく動かせる人間が居たら、それはインチキか、一握りの天才だけだろう。

 

 「その慣れを早くするには"感覚"を磨くのが一番なんじゃ」

 

 「……えっと、自分の感覚を信じて戦車を動かす。と言うことですか?」

 

 しかし、クラーラはいまいちピンときていない様だ。対して久我は益々考え込む。

 

 「うーん…間違っとらんのんじゃけど、なんか違うのう。俺の言う感覚っちゅうんは、自分がいつも乗ってる戦車をベースにした話なんじゃ」

 

 「いつも?と言う事は久我が宮舞高校でいつも乗っている戦車の事ですか?」

 

 クラーラの質問に久我は頷く。

 

 「日本製の四式中戦車っちゅうんじゃけどのう、俺はほぼ毎日この戦車に乗っとったから、他の戦車に乗った時にすぐに違いが分かるんよね」

 

 なるほど。そういうカラクリか。クラーラは今の久我の説明で納得が行った。毎日同じ戦車に乗り続けていたという事は、それ以外に乗った時に違いがすぐに分かるという事だ。

 スピード、旋回能力、そして戦車の動かし方。目を瞑っても操れるほど"感覚的"に四式中戦車を乗りこなせる久我にとって、初めての戦車を扱うと言う事は、そのベースとなる四式中戦車と、動かし方の違いのある戦車の"ギャップ"を埋める作業なのだ。いつも乗っている戦車と何処が違って、何処が同じなのか。その違いを埋める作業さえ完了すれば自身の乗る四式中戦車と同じ操縦能力で戦える。本来ならその慣れた戦車とのギャップを埋めるのに苦労するのが普通なのだが、この久我と言う男にはそれを可能にする柔軟さと応用力があった。

 流石に性能差はどうしようも無いが、戦車の動かし方が分からずにそのまま撃破されると言うことは、この男にはまず無い。

 久我の異常な呑み込みの早さの理由は、ここにあった。しかし、それなら一つ気になる事がある。

 

 「…貴方は他の戦車にほとんど乗った事がないと言ってましたね?それなら四式中戦車で戦った時の貴方はどれくらい強いんですか?」

 

 久我に対してそんな質問をしたのは、ノンナだった。先程までバツの悪い顔をしていたのは何処へやら、真剣に久我の話を聞いている。

 久我の本当の実力。もし彼がいつも乗る四式中戦車に乗って戦った場合、どの様な動きを見せるのだろうか?

 

 「…どうなんじゃろうな、生憎、宮舞(ウチ)では対外試合なんてやった事ないからのう。戦うのは自校での模擬戦ばっかでお互いに手の内を知り尽くしたもん同士じゃ。それだけじゃ自分の実力は分からん」

 

 しかし、少し悲しそうな顔をして久我はそう言った。対してノンナは地雷を踏んだかと思い少し後悔する。そうだ。宮舞高校は"戦車道"の高校ではない。"戦車整備"の高校なのだ。整備がメインなので、基本対外試合などはする筈もない。しかも男子校。練習試合すらも組んでくれる高校なんて全く無いだろう。

 戦車道における男女の差が、ここで露わになるとはノンナも思わなかったのか、言葉に詰まってしまった。

 

 「…なに?アンタ、練習試合の相手も居ないの?」

 

 すると、久我の背後から声が聞こえてきた。冷やかしでも言いに来たものかと、眉間に皺を寄せて久我は振り返る。

 しかし、そこには久我よりさらに険しい顔をしたカチューシャが居た。馬鹿にした様な風では無く、何かに怒っている様な表情だ。

 

 「なんでしないのよ?あれだけの操縦技術を持ってんだから有象無象の高校なんて一捻りじゃない」

 

 そうではない。やりたくても出来ないと言う話なのだ。どうせ練習試合を申し込んだところで、"何故男が戦車道をやっているのか"と笑い話にされて終わる。"男"で戦車道をやると言う事は、そう言うことだ。

 

 「頼んでも受けてくれんのんなら話にならんじゃろうが。戦車道という点では男の俺じゃ土台無理な話なんよ」

 

 「ふーん、じゃあアンタは負け犬のままね」

 

 「…は?」

 

 カチューシャの発言に久我は目を丸くする。話を聞いていたのだろうか?大会どころか練習試合も出来ないなら、負け犬以前の問題だ。

 

 「いや、それどころか負け犬以下。ってところね」

 

 「ちょ、カチューシャ…!」

 

 流石にノンナも不味いと思ったのか、カチューシャを止めに入る。戦車道における性差の問題。カチューシャの発言はあまりにもデリケートな話題を土足で踏み荒らしている様なものだ。しかしいつもならここで癇癪を起こす久我が、何故か大人しい。噛み付いてこない久我をいいことに、カチューシャは言葉を続ける。

 

 「アタシなら、意地でも試合をさせる様に相手を納得させるわ。どうせ"お断りします"なんて言われて馬鹿正直に受け入れてたんでしょ?」

 

 「…俺一人の力で出来たらとっくにやっとるわ。どうせ男の時点で大会なんざ出れんし、練習試合もやる意味がないと思われとるんじゃろう」

 

 戦車道全体での問題と言う事を彼女は理解しているのだろうか?しかし、カチューシャの態度は変わらない。彼女はこの件に関して久我が諦めの感情を持っている事に気付いていた。

 そしてそれがカチューシャをイライラとさせる原因にもなっていたのだ。

 

 「どーでもいいのよそんなもの。アタシは今まで自分がやりたいと思った事は全て実行してきたわ。……どんなに難しい事でもよ」

 

 この信念の強さこそが、彼女の、カチューシャのプラウダの隊長たる所以だ。どれだけ困難な難題に対しても自分がやると決めたら、やり遂げるまで決して諦めない。この小さな体躯で隊長になれたのも、その信念から来ているのだろう。それまでにどれほどの苦労を重ねてきたのかは、想像も付かない。

 

 「……悔しいけど、アンタの操縦技術は確かよ。ならそれをもっと表に出す努力をしなさいよ!そんな事でうじうじされちゃあ、鬱陶しいったらありゃしないわ!!」

 

 「………」

 

 久我も思うところがあるのか、真剣な表情でカチューシャを見つめる。

 この女性は問題を理解した上で久我にそれを乗り越えて見せろと言っているのだ。久我の中でカチューシャという人物像が塗り替えられていく。ただうるさいだけの小さな少女かと思いきや、中身は女傑と言って差し支えない程の意志の強さを持っている。

 

 「お前は、挫折した事は無いんか?」

 

 「一度もないわ」

 

 即答だった。その顔は先程の怒った顔とは違い、自信に満ち溢れている。

 ああ、この女性は強い。この短い問答で久我にはそれが理解できた。

 

 「…こりゃ、態度を改めりゃならんわ。チビとか言って悪かったのう」

 

 「は?何よいきなり」

 

 いきなり久我が謝るので、カチューシャもとぼけた顔になる。

 

 「何でもない。こっちの話じゃ。それより副隊長さん。話はそんだけかいな」

 

 何だか恥ずかしくなってしまったので、久我はこの話題を避ける様にノンナに話し掛ける。

 カチューシャに対しての意識を改めたのは良いが、それを彼女に直接言うのは少々むず痒い。

 

 「え、ええ。私からは……」

 

 「えー!?私はまだ聞きたい事いっぱいありますよー!?」

 

 ノンナは困惑気味に、クラーラはまだ聞き足りないと言った風に反応が返ってくる。

 

 「答えられるもんなら答えちゃるぞ」

 

 対して久我は嫌がる訳もなく、良い気分でクラーラの質問に答えていくのであった。

 

 

 


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