ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
聖グロ編1 : 腐れ縁
10月の第一月曜日、天気も良く海風香る気持ちのいい午後、とある学園艦では優雅なアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「やはり紅茶というのはこの時間が一番美味しく感じられますわ。
ねえ、オレンジペコ?」
金髪をギブソンタックに纏めた碧眼の美人がそう言う。
「ええ、ここは聖グロリアーナでも最も陽当たりのいい"紅茶の園"ですから。そこでいただく紅茶は格別ですね」
オレンジペコと呼ばれたその名の通り橙色の髪をこれまたギブソンタックに纏めた少女が同調する。そう、ここは聖グロリアーナの学園艦。
紅茶の園と呼ばれた場所では聖グロの戦車道履修者達が集まってお茶会を開いていたのだ。
が、そんな優雅な時間の中、二人を心配そうに見つめる少女の姿があった。
「...ダージリン、こんな日にそんなのんびりとしてていいのかしら?」
同じく金髪であるがおでこを出す様な髪型につり目が特徴的な少女が少し呆れながらそう言った。
「これでいいのよ、アッサム。聖グロリアーナの隊長たるもの、常に余裕を持って接しなければならないの」
金髪碧眼の少女が薄く笑ってそう言う。そう、この女性こそ、聖グロリアーナの隊長であるダージリンなのだ。だがその余裕そうな表情とは裏腹に、彼女の足元を見てみると音を立てない様に器用に貧乏ゆすりをしていた。アッサムと呼ばれた少女はそんなダージリンの姿に目敏く気づき、少し呆れ顔になる。
「...口と仕草が一致してないわ。そんなに気になるなら自ら宮舞の方達を迎えに行けば良かったではないですか」
アッサムの言う通り今日は宮舞から整備士達が派遣される日。そんな彼女の言葉が図星なのか、ダージリンの動きが少し固まる。だが表情をすぐさま元に戻し、尚も余裕を崩さずに返す。
「...何のことかしら。...まあ、確かに私が行って差し上げても良かったのですけれど、いきなり隊長である私が行ってもサプライズにならないでしょう?真打ちは後から出てきた方が盛り上がるのよ」
ダージリンは饒舌にそう言う。アッサムは良く咄嗟にそんな言い訳が出るなと思いつつも、これ以上何も言うまいと軽くため息をついた。
「...はぁ、まあ、そう言うことにしておきましょうか。でもダージリン、貴女がここにいるのは構わないのだけれど、どうして『ローズヒップ』を迎えに行かせたのかしら?」
アッサムは話題を変えて宮舞の迎えに行かせた少女の名を出した。
「あ、それは私も気になりますね」
オレンジペコも同調する様にそう言う。
「私が行こうとしたのだけれど貴女は頑なにあの子を向わせたがってたわよね?...言っては失礼だけどあの子は聖グロの気品さが少し足りないところがあるから。先方に迷惑をかけないかが心配だわ」
アッサムが心配そうにそう呟いた。それに対してダージリンは、『なんだ、そんなことか』と、言う様な表情をして
「ああ、それはあえて、ですの。彼女はアッサムの言う通り少し聖グロの気品に欠けますから。わざと男性と接触させることで嫌でも"女"と言うものを自覚させるのが目的なのよ。此処の生徒は男性との接点がほとんどないですから。...ふふっ、しおらしくなるローズヒップの姿を見てみたかったものだわ」
ダージリンは自信満々にそう言う。アッサムは納得した様に頷くが、オレンジペコは懐疑的な顔をする。
「...でもローズヒップさんは大家族で男兄弟も多いですよね?果たして男性の前でしおらしくなるのでしょうか?」
「「あ、、、」」
オレンジペコの言葉にダージリンとアッサムは嫌な予感を感じるのであった。
「お待ちしてましたですの!!ようこそ聖グロへ!!ここからはわたくし、ローズヒップが案内いたしますですの!!」
聖グロの学園艦の桟橋で元気な声が聞こえる。
ダージリンの思惑も虚しくローズヒップと名乗った生徒が元気よく挨拶をした。宮舞の整備科の面々は予想していた聖グロの生徒像とは違うギャップに戸惑うが、浅井だけはニコニコしながら挨拶を返す。
「こちらこそお迎えありがとね。俺は三年の整備班長の浅井。よろしくね」
「浅井さんですわね!よろしくですの!さあ、ダージリン様が待っていますわ!早速行きましょうですの!!」
挨拶も束の間のんびりする暇も無く、ローズヒップはダージリン達の待つ紅茶の園へ早速歩みを進めるのであった。
「へぇー、ローズちゃんはそのダージリンに憧れて聖グロの戦車道を始めたんだねー」
浅井が感心した様に頷く。
「そうですの!ダージリン様ほど優雅に戦車を扱う人など居ないですわ!わたくしの目指すべき方はあの人で間違えありませんの!!」
道中、ローズヒップはこれでもかと言うほどダージリンの魅力について浅井に語っていた。それに浅井はあいも変わらずニコニコとしながらローズヒップの話を聞いていた。
「浅井さんも会えばダージリン様の魅力が分かりますわ!あ、でも告白なんて考えない方がいいかもですわ」
ローズヒップが思い出した様にそう言った。
「へぇー、そりゃまあ、あんだけ容姿が良ければ言い寄ってくる男も多いだろうね。...もしかして彼氏持ち?」
笑顔を崩さずに浅井がそう質問する。
「違いますの。去年の研修でもダージリン様はいっぱいの殿方に告白されたのですけど、ダージリン様はそれを全て断っていますですわ」
何故かローズヒップが自信満々にそう答えた。
「...ふーん、何か理由でもあるのかねえ」
浅井は他人事の様な感じでそう言う。
「ダージリン様は『私は今、戦車道に身を捧げていますの。恋愛にうつつを抜かす暇などありませんわ』と、言っていましたですわ。そんなダージリン様もカッコいいですの!!それとですわね...」
またも元気よくローズヒップがダージリンについて語り出した。
それから少し歩くと、他の扉とは違う豪華な装飾が施された扉の前でローズヒップの足がやっと止まった。
「あ、ここですの!ちょっとダージリン様に報告して来るですのでここで待ってて下さいですの!!」
そう言うとローズヒップはノックをして返事を待たずに雑にドアを開けて入っていった。出会いからここまで嵐の様な忙しなさであった。ドアが閉まると浅井は軽くひと息ついて、
「...忙しい子だなぁ」
と、そう呟くのであった。
ローズヒップが中に入ってから1分ほど経った頃だろうか、再び扉が勢い良く開き彼女が現れた。
「お待たせしましたわ!ささっ、どうぞ中に入ってくださいまし!」
急かす様にそう言うと整備科の面々はゾロゾロと中に入っていく。
扉の中に入るとまず目に入ってきたのは十分過ぎるほど綺麗に手入れされた庭がそこにはあった。天井は吹き抜けで陽射しが差し込んでおり、庭の真ん中には白い丸テーブルがある。その上にはティーセットといかにも高級そうな菓子類が並べてあった。
そして、そのテーブルの前にはローズヒップを含めた5人の少女が凛と立つように並んでいた。
その列の中心にいた少女が一歩前に出る。ダージリンだ。
「お待ちしてましたわ。ようこそ、聖グロリアーナへ。私が此処の戦車道隊長、ダージリンですの。これからの1ヶ月半、お互いに有意義な時間となるよう、切磋琢磨していきましょう」
そういうと、美しい所作でダージリンは一礼した。その優雅且つ美しい光景に整備科の面々は惚けているものばかりだ。ただ一人、浅井だけは何故か帽子を目深に被って、何かを堪えるようにして下を向いて小刻みに震えていた。
そんな浅井にも気づかずダージリンが顔を上げると彼女後ろに控えていた4人も続けて挨拶する。
「2年のルクリリっす。よろしくお願いします」
ルクリリは軽く笑いながら
「い、1年のオレンジペコです。お、お願いします」
オレンジペコは年上の男性達に少し緊張しながら
「3年のアッサムです。分からない事があったら聞いてくださいね」
アッサムは対照的に落ち着いた声で
「2年のローズヒップですの!改めてよろしくですわ!!」
ローズヒップはあいも変わらず元気な声でそう言った。
「そちらから5名来られるとの事でしたので、こちらからも5名
、用意させて頂きましたわ。我が聖グロリアーナの誇る優秀な幹部達ですのよ。アッサムの言う通りなんでも聞いて下さいな」
ダージリンは余裕綽々な笑みを浮かべてそう言った。
が、対して宮舞、その真ん中にいる浅井の様子のおかしさに気付いてダージリンは困惑した表情を浮かべる。
「...あの、そちらの真ん中の方?先程から帽子を被っていてよく顔が見えませんわ。挨拶の場なのですからとって頂いてもよろしくて?」
ダージリンがそう問いかけた瞬間
「ーーぶふっーー!!!」
浅井が勢いよく吹き出して笑い始めた。
「あーっはっはっは!!、いや、、、もうダメ、、、堪えらんない、、、ぶふっ!!」
いきなり笑い出した浅井に対して聖グロのメンバーはおろか、宮舞の整備士達でさえ唖然としている。そんな空気も関係なしといった風に浅井がひとしきり笑った後、落ち着いたのかやっと喋り始めた。
「...っふぅーー。いやー、すみませんいきなり、僕はダージリンのその口調に慣れてないものですから、少し面食らっちゃってね」
未だ帽子を目深に被りながらそういった。
「...どう言う事ですか?」
そう言ったのはアッサムの方だった。表情は変わらないが、声色は少し怒気を含んでいる。
「いや失礼、彼女とは少し面識があってね」
そう言うと浅井はようやく帽子を取り、自身の素顔を初めて聖グロの隊員達に見せる。
「挨拶が遅れてすみません。今日から1ヶ月半、此処でお世話になります、三年整備班長の浅井誠です。此処にいる全員、イギリスの戦車に触れるのは初めてなのでご指導、ご鞭撻、よろしくお願いします」
先程の態度とは一転、丁寧な言葉遣いでそう言うと浅井は深く一礼をした。そのギャップに少し困惑しつつも聖グロの4人はぎこちなく挨拶を返す。
だがただ一人、聖グロの隊長だけは表情が固まったまま浅井のことを凝視していた。
「...ダージリン?...!?」
アッサムがそんな彼女を疑問に思い、前に出て表情を伺う。すると今まで見たことも無い、尋常じゃないほどの汗を額にかいていたのだ。
「えっ、あっ、何でここに、、、いや、それより何でアンタが、、」
ダージリンは話す事がまとまらないのか、言葉になっていない単語を発しながらぶつぶつ言っている。そんな光景を後ろで見ていたルクリリとオレンジペコは信じられない物を見たかのような顔をしていた。
戦車の試合でもいつも余裕の笑みを浮かべている彼女の顔がこんなにも取り乱すところを二人とも初めて見たのだ。
その光景に整備士達もポカンとしている中、浅井は少し微笑んで言葉を続ける。
「それより"凛"、お前ここじゃ『ダージリン』って呼ばれてるんだってな。まあ苗字と合わせれば語呂がいいからな。よく考えたもんだよ。それよりさっきの口調って...うおっ!?」
「...ちょっとこっちに来なさい!!!」
浅井が言葉を言い終える前にダージリンはそう言って彼の腕を強引に掴んで建物の影の方へ連れて行った。いや、引きずっていったと言う方が正しいだろうか。そんな二人を見つめながらルクリリとオレンジペコの二人は小声で話していた。
『おいおいおい!なんだあれ!?ホントにウチの隊長か!?』
ルクリリが小声でそう言う。
『私もダージリン様のあんな姿、初めてみましたよ!?』
オレンジペコもルクリリに顔を近づけて小声でそう言った。
『なんか訳ありみたいだな、隊長、相当焦ってたぞ』
『あの浅井って方は面識があるって言ってましたけど...』
『...もしかして、彼氏...とか?...』
ルクリリがまさかといった表情でそう呟いた。
『ええー!?、そんな話一度も...!...でもダージリン様は去年の派遣研修で男性の告白を全て断ってるんですよね?』
オレンジペコが思い出したようにそう言う。
『ああ、全く靡く気配が無かったな。あの光景ペコにも見せてやりたかったぜ。...でもそん時から彼氏がいたって考えると...』
そこまでルクリリが言うと二人とも目をキラキラと輝かせ
『キャーー!!ロマンスですね!!!』
『ああ!!後で隊長にみっちり聞かねえとな!!!』
静かな声で叫ぶと言う器用な事をしている。
この手の話題は年頃の女子高生にとっては大好物なのだ。
「...まず、何から聞けばいいかしら」
建物の影で少し落ち着いたダージリンが頭をかかえながらそう言っ
た。そんな彼女とは対照的に浅井はいつものニコニコとした顔を浮かべていた。
「ずいぶんと焦ってたねー、あんなにテンパった"凛"久しぶりに見たよー」
ダージリンの心も知らずか浅井は愉快にそう言う。
「うっさいわね、いきなり来るのが悪いんじゃない...ってゆうか"凛"って言うのやめなさいよ。此処での私は"ダージリン"よ。間違っても凛なんて言わないで頂戴」
いつもの口調とはかけ離れた話し方でダージリンは話す。
「後なんでなんの連絡も寄越さないのよ、お陰でさっきは心臓が止まるかと思ったわ...」
「ああ、それはそうした方がサプライズになるかと思ってね、実際驚いてくれたみたいだし、良かったでしょ?」
「...はぁー...アンタのその性格は相変わらずね...」
ダージリンはゲンナリとした顔でそう言った。
「ははっ褒め言葉として受け取っておくよ。...てゆうか凛、その口調戻さなくていいの?」
浅井はさらに意地の悪そうな笑顔をしてそう言った。
対するダージリンは今一番聞かれたくない事を突っ込まれ一瞬にして顔が真っ赤になる。
「う、うっさいわね!?聖グロではあの話し方じゃないとダメなのよ!!此処ではあの喋り方が本当の私なの。...と言うか今の喋り方を絶対に他の子に言うんじゃないわよ!!分かったわね!?」
「はいはい、分かった分かった」
「絶対よ!?」
こうして浅井とダージリンの初対面?は終了したのである。
建物の影に二人が入ってから5分ほど経った頃、さっきのことなど無かった。と言う風な涼しい顔をしてダージリンが出てきた。
「ふぅ、お待たせしました。少し班長さんと今後の打ち合わせをしてましたの」
聞かれてもいないのにダージリンは言い訳するようにそう言った。
「...ダージリン」
出てきたダージリンに最初に声をかけたのはアッサムだった。彼女は尚も怪しんだ顔をしている。
「そちらの浅井さんとは一体どういった関係なのですか?」
アッサムの早すぎる核心を突く言葉に場の空気が少し固まる。
『い、言ったー!!』
『早すぎますよ!アッサム様!!』
ルクリリとオレンジペコはワクワクしながらまたも小声で叫ぶ。
「...別に大したことじゃないわよ」
眉が一瞬ピクッと動いたが尚もすまし顔でダージリンはそう言う。
「そちらの浅井さんは面識があると言っていましたが...」
アッサムはダージリンの後に続いて出てきた浅井を目配せながらそう言った。
「......」
ダージリンは少し押し黙る。
「...り、ダージリン、別に言ってもいいでしょ」
口を開かないダージリンに浅井がため息をついてそう言った。
『ええー!?やっぱ彼氏なのか!?』
『ああ、私たちのダージリン様が彼氏持ちに...!』
「...そこ、聞こえてますわよ。...はぁー、このまま勘違いされたままだと面倒ですし言っておきましょうか」
ダージリンは観念したようにため息をついて浅井との関係をバラす。
「彼とは、そうね、なんて言ったらいいのかしら...そう、"腐れ縁"よ。幼稚園からのね。それ以上でもそれ以下でも無いわ。だから貴方達の思っているような関係では無いの。ごめんなさいね、ご期待に沿えなくて」
多少疲れた声で投げやりにダージリンはそう答えた。
この二人の関係が進むのは相当先のようである。
今回は少し長め