ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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聖グロ編2 : 幼馴染攻防戦

  

 挨拶後、場所を聖グロリアーナの格納庫に移し、宮舞の整備士達はオレンジペコに戦車の説明を受けているところだった。メモを取っている者、真剣に耳を傾ける者など、それぞれ真剣に取り組んでいる。その中でも聖グロの履修者達の目を一層引く男がいた。浅井である。

 遠巻きにチラチラと浅井の方を見つめる彼女達は何やら小声で話していた。

 

 「やっぱりカッコいいですよね、あの人」

 

 「ねー、何でもダージリン様の幼馴染らしいよー」

 「いいなー。オレンジペコが羨ましいですわ」

 

 噂というものは一度伝わると異常な程の速度で伝播していく。それはここ、聖グロリアーナ女学院でも例外ではない。さらに、たださえお喋り好きな女子だけの学校ともなれば、ダージリンと浅井の関係は半日も経たずに戦車道履修者全員に知れ渡っていた。恐るべき、女子校。

 

 「やっぱ付き合っているのですかね、あの2人」

 

 「じゃない?だってあんなにイケメンなんだし」

 「...いや、私はまだ付き合って無いと思いますわ」

 

 そしてこの噂がこんなにも火がついてしまったのには理由がある。ダージリンはあの場でただの『腐れ縁』とまでは言ったが、付き合っているのかの有無は言っていない。ここでキッパリ、恋人ではないとハッキリ言えば良かったものの、彼女は投げやりに『腐れ縁』という言葉だけを残した。つまり、中途半端に関係を暈したせいであらぬ誤解を聖グロの女子達に与えてしまったのだ。しかも"幼馴染で久しぶりに会った美男美女"と言うまるでドラマの様な展開に、この手の話が大好きな女子高生が食い付かないわけがない。

 と、こんな感じで聖グロリアーナの戦車格納庫ではその2人の話題で持ち切っていたのだ。

 

 「...どうするのよダージリン」

 

 そんな光景を何とも言えない顔でアッサムは見つめていた。今の聖グロの光景は優雅とはかけ離れた物。まるで昨日のドラマの感想で盛り上がっている昼休みの女子高生の様だ。

 「これじゃあ優雅さのかけらも無いわよ..,」

 頭を抱えて続けてアッサムがそう言う。

 「私に言わないで頂戴。元はといえばあの男が悪いんだから」

 まるで心外。自分には非がないと言う風にアッサムの隣にいたダージリンは流す。

 「...貴女が朝、ずっとソワソワしてた理由が分かったわ。そんなに彼に来て欲しくないのなら前もって来ないように伝えれば良かったじゃない」

 アッサムが呆れた顔でダージリンに顔を向ける。

 「...それをしたらあの男はますますこっちに来たがるわ。あいつは人の不幸が大好きな性悪よ。貴女もあの人の良さそうな顔に騙されない様に気をつけなさいな」

 彼女とて浅井の幼馴染を10年以上やっている。性格も知り尽くし、もはや彼に振り回されるのは慣れているので、こういう時の対処法も分かっているのだ。

 まさか本当に聖グロに研修で来るとは思っていなかったが。

 「...こんな緩い空気のままじゃ締まりません。宮舞の人達にも失礼です。...恋仲じゃないなら早く皆の誤解を解きなさい」

 「...はぁー、仕方ないですわね」

 

 アッサムに皆の誤解を解く様に言われたダージリンは浅井とオレンジペコの方を見て、心底面倒臭そうなため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「へぇー、やっぱマチルダとチャーチルは本来のスペックより速くなってるんだね」

 

 「ええ、やっぱり歩兵戦車のままでは試合では不利ですから」

 一方、聖グロの戦車を目の前にオレンジペコは整備士達にマチルダとチャーチルの説明をする。最初こそ慣れない男達に緊張気味の彼女だったが、人の良さそうな浅井の笑顔に絆され、現在では十分にリラックスした状態で会話をしていた。

 「でもこあそこまで速くなるって事はエンジン自体を替えてるのかな?」

浅井がそう質問を投げかける。彼が聖グロの試合をビデオで見た限りでは本来のスペックより10キロ以上は速くなっているように思えた。

 そこまでのスピードアップを可能にするにはやはりエンジンの交換というのが普通であり、マチルダとチャーチルにもその類の改造がなされていると浅井は予想していた。

 「いえ、それは、何というか...」

 リラックスした表情から一転、対してオレンジペコは口籠る。

 「ありゃ、秘密だったかな?...聞かない方が良かった?」

 浅井は少し困った顔をしてそう言う。まあどちらにせよ戦車の中身を見れば大体は分かってしまうのだが。

 「いえ、そうではないんです。これはその...身内の問題と言いますか...」

尚も微妙な反応を見せるオレンジペコに浅井は首を傾げる。秘密ではないのなら何故ここまで口籠るのだろうか?それに彼女を見ていると言おうか言わまいか悩んでる様だった。これを見た浅井は踏み込んでもいいと判断してオレンジペコにアプローチを仕掛ける。

 

 「...うーん、そうだね、理由を教えてくれたらダージリンの秘密を一つ、教えちゃおっかなー」

 

 浅井のその言葉にオレンジペコの肩がピクンと動く。自分の尊敬する隊長。優雅で凛とした憧れの人。オレンジペコは彼女と半年一緒にいる事でその魅力を十二分に分かっているつもりだ。だがその先、ダージリンの昔の話や、彼女の好みの男性など、踏み込んだ話はまだしていないので分からない部分も多い。

 そして彼女の幼馴染である浅井はその情報を握っている。この浅井の何気ない一言で普段本人に聞けない彼女の秘密を知る機会がやっとこさ巡ってきたわけなのだ。浅井にとっては軽い一言だったが、オレンジペコにとっては喉から手が出るほど欲しい情報。そんな美味しい話に食い付かない訳がない。

 

 「...因みにどんな秘密なんですか?」

 

 オレンジペコはこれ以上に無い真剣な顔つきで質問する。その真剣さは戦車の試合時以上かも知れない。

 「何でもいいよ。小学校の時、家族ぐるみで一緒にバーベキューに行った話とか。あいつがデパートで2時間ぐらい迷子になった話とか」

 どれも魅力的な話である。が、オレンジペコが一番聞きたいのは、やはり彼女の恋愛沙汰であった。

 

 「...ダージリン様の好みの男性って分かりますか?」

 

そう、オレンジペコが最も知りたいのはダージリンの好きな男。今まで固すぎるガードで跳ね返されてきたこの話題だが、この男なら何か知っているかも知れない。そんな一抹の期待を胸にもう待ちきれんと言うばかりの表情でオレンジペコは浅井の言葉を待つ。

 

 

 

 「何やら面白い話をしているようね、私も混ぜてくださらない?」

 

 

 

 だが聞こえてきたのは浅井の声ではなく、凛とした少女の声だった。後ろから聞こえてきた聞き覚えのありすぎるその声にオレンジペコの背筋が一瞬にして凍りつく。

 

 「ねえ、オレンジペコ、一体何の話をしていたのかしら?」

 

 凛とした声の中に明らかに怒気が混じっている事を察知したオレンジペコはみるみる顔が青ざめていく。そして壊れかけの機械のような動きでゆっくり振り返ると、

 

 「あら、どうしたのその顔、別に責めているわけでは無いわ。どのような話をしていたのかを聞いていますの」

 

 笑顔のダージリンが居た。口元は弧を描いているが目元は全く笑ってない。美人ほど怒ると怖い。それをオレンジペコは身をもって体現していた。

 「あ、あの、あの...ダージリン様、これには深い訳が...」

 そんなダージリンの威圧感に押されっぱなしのオレンジペコは浅井に目配せをして助けを求める。それに気付いた浅井はOKのジェスチャーをダージリンに見えないように作り、薄く笑った。

 

 「まあまあ、り...ダージリン。そんなに怖い顔じゃペコちゃん緊張しちゃ「あなたには聞いてませんわ、私はオレンジペコに聞いてますの。会話に入らないで頂戴」

 

 救援、失敗。ダージリンはオレンジペコが浅井に目線を移していたのを見逃さなかった。そしてここで彼が加われば会話が浅井のペースになる事も、幼馴染である彼女が一番分かっていたので、最初から釘を刺したのだ。こうなってしまっては浅井には成す術もない。

 

 「...ダージリン、他の宮舞の方達が見ていますよ」

 

 が、そう言ってオレンジペコに救いの手を差し伸べたのはダージリンの隣にいたアッサムだった。

 良かった、これで助かった。オレンジペコはほっと一息、助けてくれたアッサムに対し最大限の感謝の念を贈る。彼女から見れば今のアッサムは救世主のように映っているだろう。

 「...そうね、失礼しましたわ」

 ダージリンも流石にここでオレンジペコを責めるのはまずいと思ったのかバツの悪そうな顔をする。

 「では、これから少しオレンジペコと話がしたいので少し借りても良いかしら?後の説明はアッサムに任せますわ」

 が、オレンジペコをこのまま見逃す気はさらさら無いらしい。ほっとした表情から一転、再び顔が青くなってゆくオレンジペコ。

 

 「うん、いいよ」

 

 「え!?」

 

 そして突然の浅井の裏切りにオレンジペコは驚きの声を上げる。彼から話を吹っかけてきたのに非道い話である。

 「ではアッサム、後はよろしく頼みますわね」

 そう言い残してオレンジペコの首根っこを掴むとダージリンは物陰の方へ消えて行く。

 「ち、ちょっと待ってください!違うんです!!誤解なんです!!」

 再びのピンチにオレンジペコはそう言いながらアッサムと浅井の方を見て助けを求める。

 だがアッサムは深くため息をついて首を振り、浅井は合掌をしてオレンジペコに向けて一礼していた。助ける気など毛頭ない。

 

 「こ、この、、裏切り者ぉーー!!」

 

 引きずられながらオレンジペコは涙目になってそう叫ぶ。やはりそれは優雅とはかけ離れた光景だった。

 

 

 

 

 

 「あー、ペコちゃん連れてかれちゃったなー」

 全く悪びれる様子もない調子で浅井がケラケラと笑う。

 「はぁー、浅井さんも、ウチの子をおもちゃにするのはやめて下さる?」

 対してアッサムは再度深いため息をつく。この男が来てから聖グロリアーナの風紀は乱れっぱなしである。

 「いやー、失敬失敬。ダージリンの秘密を教えるって言ったら食いついて来たからつい」

 

 「あの子はダージリンに心酔してますから。...しかしあなたは本当にダージリンの幼馴染なんですね」

 

 「ありゃ、疑ってた?」

 尚もニコニコとした笑顔で浅井がそう返す。

 「疑っていた訳ではありませんが、いまのやり取りで何となくそんな間柄である事は理解出来ました」

 アッサムは先程の光景を見てやはり2人は幼馴染の関係なのだと、確信を持ったのだ。それ程に会話に遠慮がなかった。

 「そりゃどうも。それで、話を戦車の方に戻したいんだけど...」

 浅井は随分と脱線してしまった本題を軌道に戻す。

 「ああ、ウチの戦車のスペックの事ですか?」

 アッサムは先程の話を聞いていたのか慌てる様子もなく自ら話題に入る。

 「あれ、さっきの聞いてたんだ。じゃあ話が早いね。...ペコちゃんは言い淀んでいたけどやっぱり話せないかな?」

 

 「別に言えない訳では無いけれど...そうね、あなた達になら言ってもいいでしょう」

 一瞬悩んだ後にアッサムは浅井の方へ顔を向けてその理由を話す。

 

 「結論から言うと私達の戦車は改造しています。エンジンそのものを替えてる車輌だって居るわ。...ただ」

 ここでアッサムは言い淀む。

 「...ただ?」

 オレンジペコと同じ様に口籠るアッサムに浅井は怪訝そうな顔をする。

 

 「戦車の改造をしているのが知られたら不味い人達がいるんです」

 

 アッサムのその言葉に浅井は納得する。聖グロリアーナは格式高い伝統校である。すなわち保守的な考え、格式や伝統を重んじる考えが蔓延っており、"戦車の改造"と言う事に対してあまりいい様に考えてない人も多いのだ。

 ただアッサムは自身の口でも言った通り『戦車を改造している』と言った。つまり彼女の代はその思想に染まって無い訳である。となると考えられる事は一つ、

 

 「...もしかして、聖グロのOGとか?」

 

 浅井のその言葉にアッサムは一層苦い顔をする。

 「...鋭いですね、正解です」

 アッサムとしては身内の恥を晒したくなかったが、こうもピンポイントに当てられては認めざるを得ない。

 「なるほど、それならペコちゃんが『身内の問題』って言ってたのにも納得したよ」

 

 「...あの子としては少しでもバレるリスクを避けたかったんでしょうね、結果的に身内の恥を晒すことになってしまったけど」

 困った様に笑ってアッサムはそう言う。表情を見る限り、彼女としてもこの問題は知られたくなかった様だ。

 「でもこんだけ速くなってると普通気付かれない?」

 浅井が疑問を投げかける。聖グロのOGだって同じ戦車に散々乗っている筈だ。10キロ以上もスピードアップしていたら普通気付かれるはずである。

 「もちろん全員が気付いてない訳では無いです。実際、改造に気付ける人は、余り文句を言ってこない人達が多いです。...ただ、厄介なのは知識も無いのに色々言ってくる人達ですね」

 それを聞いて浅井も渋い顔になる。なるほど、この聖グロリアーナに蔓延る"癌"が彼にも分かった様だ。

 「そう言う人達って伝統とか格式に囚われ過ぎていて改造をよく思ってない人達が多いんです。...自分達が乗っていた戦車が10キロ以上速くなっている事にも気付いてないのに」

 アッサムがそう毒づくのも仕方がない。彼女にそう言われるほど厄介な連中なのだ。

 「それでも、よくここまでバレずに済んだね」

 浅井は感心していた。確かに連中には知識がないかも知れないが、それでもここまで隠し通せたのは奇跡に近い。

 「そこに関しては、ダージリンが上手くやってくれたのもありますね。あの子、口は達者ですから」

 フッと笑ってアッサムは肩を竦める。彼女の言う通りここまでバレなかった理由はダージリンの尽力も大きい。頭の回転が早い彼女は上手くごまかしたり、バレない様にする為の根回しが得意なのだ。

 

 「なるほど、でもそれに気付けるって事はアッサムさんも中々"凛"の事分かってんだねー」

 

 感心した浅井はダージリンの本名を隠さずにそう言う。対するアッサムも満更でも無い表情をしていた。

 「これでも3年間一緒に居ますから。...でもそれがいい事ばっかりじゃ無いんですよ...」

 嬉しそうな表情から一転、困った顔をしてアッサムがそう言う。

 「...まあ、大体は察するよ。アイツ、捻くれてる所あるしね」

 浅井も同様困った顔をして同意する。それは彼女の面倒臭さが分かっての同意だった。

 「アイツ見栄っ張りでしょ?それにアッサムさんも色々振り回されてるっぽいしね」

 続けて浅井が同情の言葉を掛ける。対してアッサムはやっとダージリンへの愚痴を言える相手が見つかったのが嬉しいのか、パァッと明るい顔になる。

 

 「...流石幼馴染ですね。そうなんですよ、本当にあの子は何というか面倒臭くて、この前も仲のいいOGに勝手に戦車を貸す約束をしたり、つい最近だってローズヒップに変な事を吹き込んで大変な事になったり、本当に私の気も知らないで...!!あぁ、あと先月なんかは...」

 

 止まらなくなってしまったアッサムに浅井は若干の後悔をする。理性的な彼女にここまで言わせるって、アイツどんだけ迷惑かけているんだろうか?そう申し訳ない気持ちになりながらアッサムの愚痴に適当に相槌を打つ浅井だった。

 

 

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