ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
「ひどいです!!私を犠牲にして見捨てるなんて!!!」
「だからごめんってばー、ペコちゃん。しょうがないでしょ?り...ダージリンに加わるなって釘刺されちゃったんだから」
「ペコちゃんはやめて下さい!!」
側から聞いていると勘違いしてしまう様な会話が聞こえてくる。挨拶の翌日、聖グロの格納庫でオレンジペコが浅井に対して随分とおかんむりの様だった。対して責め立てられている浅井の方は反省の色がなく、オレンジペコの言葉を受け流す様に聞いている。
「聞いてますか!?浅井さん!!私にはダージリン様から貰ったオレンジペコってゆう由緒正しい名前があるんです!!」
「そのダージリン様に昨日こってり絞られてたじゃん」
「誰が原因だと思ってるんです!!!」
まさにああ言えばこう言う。半分はオレンジペコの自業自得なのだが原因である浅井に何か言わないと気が済まないようだ。
結局、ダージリンの好きな人は聞けず仕舞い。身内の恥まで晒す形になってしまい、おまけにそのダージリンにこってり絞られる。昨日のオレンジペコはまさに厄日と言っていい1日だったのだ。これだけ荒れるのも多少は仕方のない事なのだろう。
「...悪いと思ってるなら、ダージリン様の好みの男性を教えてください」
周りに誰もいないのを入念に確認して浅井にしか聞こえない程度の小声でそう言うオレンジペコ。昨日酷い目に遭ったばかりだと言うのにまだ諦めてないのだろうか?その執念は天晴れであるが、対して浅井は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「あー、それなんだけどね?ペコちゃん、悪いんだけど俺はりん...ダージリンの好みは分かんないよ?」
浅井は困った顔をしてそう言った。
「えぇーー!?そんなぁー...浅井さんとダージリン様は幼馴染じゃないんですかぁ!?」
「幼馴染って言っても全部知ってる訳じゃないからねぇ...。高校に入ってからはお互い殆ど会う機会も無かったし」
アテが外れたことに更にガックシと肩を落とすオレンジペコ。憧れのダージリン様の秘密を知りたかっただけにそのショックも大きい様だ。
「てかペコちゃん、何でダージリンの好みなんか知りたがるの?」
浅井から出たそれは至極真っ当な質問。いくら憧れているとは言えここまで知りたがる理由を浅井は知りたかった。悪い事では無いのだが一応、一個人のプライベートな話題だ。昨日のダージリンの反応を見る限りそこは彼女にとっても余り触れられたくは無い話題なのかなと、浅井は感じていた。
「だからペコちゃんはやめて下さい。...えぇーと、理由、って程でも無いんですけど、ダージリン様って結構お喋りな方じゃないですか」
唐突にオレンジペコにそう言われて少し面を喰らうが浅井も頷く。
「まあ、そーだね。しかも結構自分の事を喋りたがらない感じの」
浅井の言葉に矛盾を感じる人もいるだろう。お喋りであるならば自分自身の事も語るのが普通ではないかと。しかしオレンジペコはその矛盾を理解しているのか疑問に思う事はなかった。
「はい、そこなんです。ダージリン様は他人の格言とか戦術論とかを語るときなんかはすごい口が回るお方なんですけど、自分の事、とりわけプライベートや自身の過去の事については余り語ろうとしないんですよね」
オレンジペコにはそれがダージリンが"本性"を見せたがらないように思えたのだ。今の優雅で気品のあるダージリンにオレンジペコは天井が突き抜けるほど尊敬しているが、彼女はそれしか見たことがない。
「今の優雅なダージリン様は私の知っているダージリン様です。でもその優雅なダージリン様しか私は見たことが無いんです。...最近、それが全てじゃないんじゃないかって思う様になってきて...」
いつの間にか話は真面目な話になっていた。浅井もオレンジペコの話に茶化すことなく聞いている。
「...何か、そう思うような事があったの?」
浅井も気になるのかオレンジペコがそう感じる訳を聞いてみる。
「えーっと、私の勘違いだったらい良いんですけど...最近のダージリン様、なんだか無理をして、疲れている様な気がして...」
それは、オレンジペコがこの半年間、ダージリンの側でずっと彼女を見てるからこそ気付ける変化だった。今の彼女の優雅さは作られたもので、ずっと肩肘張って無理をしているんじゃないかと。優雅なダージリンに憧れてきたオレンジペコにとってはあまり認めたくはない事だったが、最近の彼女を見る限り、そう思う事が増えたのも事実だった。
「ふぅーん...それで、それが凛の男の好みを知ることと何か関係があるの?」
浅井の言う通りそれがダージリンの好みを知ることと何が関係があるのだろうか?それを聞いたオレンジペコは少し俯くと少し言いにくそうに口を開いた。
「えっと...正直、知るのはダージリン様の男性の好みでなくても良いんです。ただ、それを知る事で、ダージリン様が何か悩んでるんだったら相談に乗れるんじゃないかと思って...」
最近のダージリン様は疲れている。でも彼女は自分の事を一切語りたがらない。自分で全て背負い込んでしまうクセがあるのだろう。オレンジペコにはそれがもどかしくてどうにかしたかった。しかし彼女が話さないと決めている以上、こちらから干渉するわけにもいかない。そこに彼女の幼馴染であると言う浅井誠と言う存在が現れたのだ。自分が知らないダージリン様をあの人は知っている。それを知る事でダージリン様の力になれるのではないか?そう思って浅井にそんな事を聞いたのだ。
"自分の知らないダージリン様を知りたい"
オレンジペコの心の中の答えはそれだった。
「...アイツは、見栄っ張りなんだよ」
しばらくの無言の後、そう言ったのは浅井の方だった。
「...え?」
予想外の返答が来たと思ったのか、オレンジペコは素っ頓狂な声を出す。
「アイツは昔から自分を大きく見せちゃうクセがあってね、何をするにも自分が先頭に立ってやらなきゃ気が済まない性格なんだ」
そんなオレンジペコに構わず浅井は言葉を続ける。
「それだけなら良いんだけど厄介な事にアイツは"責任感"も感じちゃうタチでね、それが見栄を張るのと重なり合わさちゃって余計なものまで背負い込む事があるんだ」
心当たりがありすぎるのか、オレンジペコは少し苦笑いになって浅井の言葉を聞いていた。
「見てくれだけなら立派に見えるんだけど結構メンタルは弱くてね。でもアイツは器用だからうまく隠せちゃうんだよ。だから気がつかない人が殆どなんだ」
話を聞いているだけでも彼がダージリンの幼馴染である事がオレンジペコには理解できた。やはりこの人は自分の知らないダージリン様をいっぱい知っている。言葉の一つ一つにそれが垣間見えた。
「だから、ペコちゃんがそれに気付けたってのは俺としては嬉しいかな。凛もこんな良い後輩に慕われて羨ましいよ」
ニコッと笑って浅井がそう言うとオレンジペコの顔がカァーっと赤くなる。
「そ、そんな...私だってまだ確信したわけじゃなくて...」
満更でもない表情を見せるオレンジペコ。素直に褒められた事も嬉しいが、この中でダージリンを一番知っているであろう幼馴染である浅井に認められたのが何だか嬉しかったのだ。
「そこの2人!!いつまで話してますの!?」
すると遠くの方から凛とした声が聞こえてきた。オレンジペコはまたしてもダージリンに聞かれたかと思い、慌てて言い訳をしようと声の主の方へ振り向いたが、そこにいたのはダージリンではなかった。
「もう訓練は始まっています。またダージリンに怒られたくなかったら早く戻りなさい!」
アッサムが少し険しい顔をして訓練に戻る様に促す。時計を見てみると、訓練開始の時刻から3分ほど過ぎていた。
「す、すみません!!すぐ行きます!!!」
オレンジペコは時計を確認すると慌ててそう言う。
「あー、ごめんね。俺がちょっと時間取らせちゃったから」
「...浅井さんも、今日から本格的に私達の戦車を整備するのでしょう?他の皆さんはもう作業に取り掛かってますよ!!」
まるで先生みたいな事を言うアッサムに苦笑いになりながらも適当に返事を返した。
「あ、ペコちゃん、最後に一つだけいい?」
訓練に合流しようと急ぐオレンジペコに浅井が声を掛ける。
「はい?なんでしょう?」
少し焦りが見える表情でオレンジペコが応える。時間はこれ以上取らせないつもりだろう、浅井はアッサムに少しだけ待ってもらうようお願いしてオレンジペコに向けて口を開いた。
「アイツ、そう言う事で偶にはガス抜きが必要なんだ。そこを頭に入れてもらえると嬉しいかな」
「...分かりました。肝に銘じておきます!!」
威勢の良い声でそう言うと今度こそオレンジペコは訓練に合流していった。