ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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聖グロ編:4 二人の噂

 

 聖グロでの研修が始まってから一週間、特に問題があるわけでも無く、宮舞と聖グロのコミュニケーションも十分に取れていた。伝統校である聖グロが外様の自分達を受け入れてくれるかと心配していた浅井だったが、今のところ杞憂に終わっている。

 

 「あ、あの、浅井さんって神奈川出身なんですか?」

 

 「うんそうだよ、横浜出身」

 

 「へぇー!!わ、私とおんなじですね!!」

 

 「浅井さんの好きな食べ物ってなんですか!?」

 

 「ダージリン様とはどうやって出会ったんですか!?」

 

 そして浅井は今、大勢の女子達に囲まれて質問攻めを受けていた。元来の顔立ちの良さに加えて、人当たりも良く、笑顔も素敵。女子からの人気が出ない訳がなく、このままだとファンクラブでも出来そうな勢いだった。

 そんな光景を遠目から見ている女子が二人。

 

 

 「ハァ...また集まってるわ...」

 

 

 浅井達が研修に来てから、何度目かもわからないため息をアッサムが吐く。

 

 「こうなるから来てほしくなかったのよ。相変わらずだわ。本当に」

 

 もう一人、ダージリンも呆れた顔でそう吐き捨てた。

 

 「へぇー、相変わらずねぇ。浅井さん、昔からモテたの?」

 

 「アッサムまで...そうね、中学生の時もいろんな女の子に告白されてたわ。なーに?アイツに告白でもする訳?」

 

 「違うわよ。私は勝てない戦いには乗っからない主義なの。ただ単に興味よ」

 アッサムはそう言ってダージリンの顔を見る。

 「まあ、あれだけモテてればそう思うのも無理ないわね」

 他人事の様にそう言うダージリンだが、表情は不機嫌だった。

 

 「...そう言う意味で言ったわけではないんだけど」

 

 自覚無しか、と少し肩を落とすアッサム。幼馴染同士の二人だが、ダージリンには浅井に気がないのであろうか?そう思ったアッサムは少し踏み込んだ話題を振ってみる。

 

 「ダージリン、そう言っているけれど、貴女はどうなの?」

 

 「…何がかしら?」

 

 「浅井さんに気があるかのかしら?それとも唯の幼馴染?」

アッサムにそう言われて一瞬動きが固まるダージリン。

 

 「…何を言うかと思えば、最初に言ったでしょう?唯の腐れ縁よ」

 

 「へぇ、じゃあ全く気がないと?」

 

 意地の悪そうな笑顔を浮かべてアッサムは挑発的にそう聞く。

 

 「...何よその顔、まあ確かに?昔結婚の約束なんかした覚えもあるけれど?そんなもの時効よ時効。今でもその気持ちのままだと思わないことね」

 

 「へぇー、そう」

 ダージリンの弁解に尚も意地悪そうに笑うアッサム。彼女がこの様に話をはぐらかす時は何かを隠している時だと長い付き合いで分かっていた。何を隠しているかは大体察しが付くのだが、ここで言ってしまっては無粋だと思い、大人しくダージリンの言い分を受け入れておく。

 出来る女はこう言う駆け引きも上手なのだ。

 

 

 

 

 

 「…なあ、オレンジペコ」

 

 「何ですか?ルクリリさん」

 

 「本当にあの二人って付き合ってないんだよな?」

 

 「ダージリン様と浅井さんの事ですか?まあ今は付き合って無いと思いますけど…」

 

 一方こちらは紅茶の園。訓練の休憩中のオレンジペコとルクリリはあの二人の関係について話している。

 

 「オレンジペコは浅井さんと仲がいいだろ?そこら辺聞いてたりしないのか?」

 ルクリリの言う通り、この研修で一番浅井と話しているのはオレンジペコだった。最初の戦車説明で気が合ったのか、浅井に話しかける聖グロの女子が軒並み緊張している中、オレンジペコは平然と会話をこなしていたのだ。

 「いや、特にそう言うのは…浅井さんにダージリン様の好みを聞いたんですけど分からないって言われちゃいましたし」

 

 「何だよー、まあアタシはダージリン様は浅井さんに気があると読んでるんだけどねぇ。じゃなきゃ去年の告白ラッシュを全部断ったりしないだろ?」

 ルクリリの推理は的を得ているのだが、オレンジペコは何か引っ掛かるのか、首を傾げる。

 「うーん、私もそう思うんですけどなんか違和感があるんですよね」

 

 「違和感?」

 

 「はい。ルクリリさん、研修が始まってから一週間、あの二人が二人っきりで喋っているの見た事があります?」

 オレンジペコがそう言うとルクリリもハッとした顔になる。

 「…確かに見た事ないな」

 

 「私はダージリン様が浅井さんの事を意図的に避けてる様に思えるんですよね」

 「えぇー!?じゃあダージリン様にそんな気は微塵もないってことかよ!?」

 オレンジペコの予想にルクリリは心底驚く。

 「いや、多分それは無いんじゃ無いかと思います。何って言うか、嫌ってて避けてると言うより人前で話すのを避けている様に見えるんですよね」

 「…じゃあ私達の知らないところで二人きりになっていると?」

 

 ルクリリの言葉にオレンジペコも頷く。今でさえこんなにも噂になっているのに二人きりのところを目撃なんかされたら噂に一層火が点くに決まっている。それをダージリンは避けているとオレンジペコは睨んでいた。

 

 「まあ、ダージリン様はともかく、浅井さんの方は多分ダージリン様の事、好きだと思うんですけどね」

 

 そう言ってオレンジペコは数日前に浅井と会話した内容を思い出す。彼女には責任を溜め込んでしまう癖があると、偶にはガス抜きする必要なのだと。その話をしている時の彼の表情はとても魅力的な表情をしているように感じた。オレンジペコには恋愛経験なんてものはないが、あの表情はダージリンを想ってものだ。そう言う確信がオレンジペコにはあった。

 

 「おー、流石。浅井さんと一番仲がいいだけあるなあ」

 

 「もう、揶揄わないでください」

 ルクリリの冷やかしが飛んでくるがオレンジペコは軽くあしらう。まだ出会って一週間しか経っていないがダージリンをあの人に任せても良いと思う程にはオレンジペコは浅井の事を信頼していた。

 

 「で、そう言うオレンジペコはどうなんだ?まさか浅井さんの事が好きだったり?」

 

 「…何ですかその三角関係は、私は勝てない戦いには挑まないタイプなんです」

 

 どこかの三年生と同じ事を言っているオレンジペコ。実際、彼女が浅井に抱いている感情は恋愛のそれとは少し違っていた。

 

 「それに、浅井さんは恋人というよりか"お兄ちゃん"って言った方がしっくりくるかもですね」

 

 そう言ってクスクスと笑うオレンジペコだった。

 

 

 

 

 

 「終わりましたですのー!!今日も疲れたですわー!!」

 

 ローズヒップの元気な声が聞こえ、今日一日の訓練が終わった事を告げる。

 「お疲れー、ローズちゃん。今日も速かったねー」

 

 「あ、浅井さん!お疲れ様ですわ!!」

 勢い良く片付けをしているローズヒップに浅井が声をかける。

 

 「どう?クルセイダー、またちょっと弄ってみたんだけど調子いいかな?」

 

 「最っ高ですわ!!あのクルセイダーならどこまで走れるですの!!!」

 

 「ははっ、程々にね、エンジン焼きついちゃうから」

 

 浅井はこの様に聖グロの戦車に少し手を加えると言う整備をしていた。いつもの聖グロでは改造などさせず整備だけして帰ってもらうのが通例なのだが、今年は少し違った。

 

 「あの、すみません!!わたくしのクルセイダーもっと速くしたいんですけど、浅井さん出来ますですの!?」

 

 ローズヒップのこの一声で浅井がクルセイダーに手を加えた結果、只でさえ速いクルセイダーがさらにスピードアップしたのだ。この一件から、浅井は整備だけでなく、ちょっとした戦車への改造も頼まれる様になった。この様に改造に否定的な保守傾向の強い聖グロリアーナで、改造を頼まれるとは浅井も思っていないところだった。

 

 「あ、浅井さん!この後暇ですの?」

 

 「いや、特には無いけど…」

 

 「じゃあ、この後紅茶の園に来て下さいですの!お礼も兼ねてそこでお茶会をしますですわ!」

 

 突然のお誘いに浅井も少々を面食らう。どうやら改造のお礼としてお茶会に誘ってくれるらしい。

 

 「あー、それってり…ダージリンもいたりする?」

 

 「?、勿論ですわよ?」

 

 「うん、じゃあお邪魔しちゃおっかな」

 

 二つ返事でローズヒップの提案を呑んだ浅井。本来なら隊長であるダージリンに一言添えなければならないのだが、黙った方が面白そうと思い、浅井は黙ったまま行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 「…何で貴方が此処にいるのかしら?」

 

 「ローズちゃんに誘われたからね、誘いを断るわけにもいかないでしょ?」

 紅茶の園とは聖グロの幹部クラスが集うクラブハウスの事であり滅多に入れるものでは無い。現に此処にはダージリン、ローズヒップ、オレンジペコ、アッサム、ルクリリの5人しかいない。ルクリリとオレンジペコはお互いに顔を見合わせていて、アッサムは面白がる様な表情をしていた。

 

 「嫌だっら出て行くけど…」

 

 「…別に良いわよ」

 

 何だかギクシャクしている。ダージリンの方はここ一週間、浅井を避けていたこともあってか、何だか話し辛い様だった。

 

 「浅井さんは紅茶の好みとかあるんですか?」

 

 見てられないと思ったのか、助け舟を出す様にアッサムがそう尋ねる。

 

 「え?ああ、いや、特に好みとかは…何でも飲めると思うよ」

 

 「そうですか…ではダージリンに淹れてもらいましょう」

 

 アッサムにそう言われてダージリンはギョッとする。

 

 「ちょっと!?何で私が!」

 「あら、浅井さんはお客様ですよ?それともお客様に隊長自ら紅茶を出せないほど聖グロ(ここ)の気品は堕ちたのかしら?」

 

 アッサムに痛烈な言葉を浴びせられてダージリンは口籠る。

 

 「うっ…分かったわよ、淹れれば良いんでしょ!淹れれば!!」

 

 投げやりにそう言うとダージリンはズカズカと給湯室の方へ向かっていく。そしてダージリンが給湯室へ消えていったのを確認するとアッサムは振り向いて浅井の方へ顔を向けた。

 

 「…浅井さんは紅茶の好みは無いんですよね?」

 

 「え?、まあ、そうだけど…」

 

 「では、ダージリンに着いてってもらって良いいですか?此処は紅茶の種類が沢山あるのでダージリンに色々聞いて好きなのを選んでみては?」

 

 ここで浅井はアッサムの行動を理解した。どうやらこの人はお節介にも二人きりの状況を作り出してくれたらしい。普段ならオレンジペコに任せるところをダージリンに頼んだのだのはこう言う意図があったのだ。

 

 「…アッサムさんも中々、いい性格してるねえ」

 

 一杯喰らわせられた浅井は舌を巻いてそう言う。

 

 「ふふっ、褒め言葉として受け取っときますよ」

 

 アッサムはそう言うと得意げにウィンクする。苦笑いを返した浅井は軽く会釈をしてダージリンの後を追って給湯室へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 「…そこの二人、何処へ行くのかしら?」

 

 アッサムにそう言われてビクンと二人の方が跳ね上がる。コソコソと浅井の後ろをついて行こうとしていたルクリリとオレンジペコだが目敏いアッサムがそれに気付かない筈がない。

 

 「い、いやー、ちょっとお菓子の準備をと…」

 

 「あ、浅井さんはお客様ですしね!」

 

 苦しい言い訳をする二人だが後手何かを隠している様子のおかしい二人をアッサムが見逃すはずが無い。

 

 「お菓子は後で用意するのでいいわ。それに、お菓子を用意するのに後ろに持っているカメラと録音機は必要なのかしら?」

 

 「「うっ…」」

 

 アッサムに全てを見透かされていたことに堪忍したのか、渋々と席の方へ戻って行く二人。それを見てアッサムはため息をついた。

 

 「全く、せっかく二人きりにしてあげたんだからそっとしてあげなさいよ…」

 

 「うぅ…でもアッサム様は気にならないんですかあ?」

 

 諭すアッサムに対してルクリリはまだ諦めきれない様だった。

 

 「確かに気になるけど…こういう時は黙って見守るのが良い女の条件なのよ」

 

 「ぶー…」

 

 そう言われてはどうしようも無い。歯痒い思いをしながら不貞腐れる様に机に突っ伏すルクリリだった。

 

 

 

 

 

 「アイツって何が好みなのかしら?」

 

 一方こちらはダージリン。茶器の用意も出来て、あとは茶葉を選ぶだけというところまで来たのだが、中々悩んでいる様だ。

 

 「緑茶が好みだからグリニッシュ系が合うと思うんだけど…」

 

 「いや、でもここは敢えて甘いのでも出してみようかしら…」

 

 アレでも無いコレでも無いと真剣になって選んでいる。ただ、熱中し過ぎているのか、後ろから近寄ってくる浅井には全く気付かなかった。

 

 

 「何独り言言ってんの?」

 

 「ひぃあっ!?」

 

 突然背後から聞こえてきた男の声にダージリンの心臓が跳ね上がる。普段なら絶対出さないであろう声を出して咄嗟に振り返ると、浅井があいも変わらずニコニコして立っていた。

 

 「急に話しかけないでよ!ビックリするでしょ!!」

 

 「いやー、随分と真剣だったから。それと何だよ、『ひぃあ』って、久しぶりにそんな声聞いたな」

 

 ケラケラと笑う浅井に対してダージリンの顔は真っ赤になる。

 

 「う、うっさい!てか何でアンタがここに居んのよ!?」

 

 真っ赤な顔をして詰め寄るダージリン。先程の独り言を聞かれていれば悶絶ものだ。

 

 「アッサムさんに茶葉を選んできてくれって言われたんだよ。俺は紅茶には詳しく無いからね。凛が教えてくれるんだろ?」

 

 何と余計な事をしてくれたのかと、心の中でアッサムを呪うダージリン。しかし悩んでいるところに本人が来てくれたのなら都合がいい。

 

 「ハァ…アンタ、緑茶好きでしょ?ここら辺の茶葉が渋みがあってアンタに合うと思うんだけど、どうする?」

 

 ダージリンがグリニッシュ、渋みのある茶葉をまとめてある瓶達を指差してそう言う。

 

 「どうするって言われてもねえ、じゃあコレで良いよ」

 

 しかしそう言われても浅井にはいまいちピンと来ないので、とりあえず適当な瓶に指を刺した。

 しかし、その瓶は、

 

 

 

 「…アンタ、それはわざとかしら?」

 

 「え、何が?」

 

 

 

 浅井が指を刺したのは、ダージリンの茶葉だった。

 

 

 




 オレンジペコにお兄ちゃんって言われてみたいっすよね(至言)
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