ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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サンダース編
サンダース編1 : 丘の上の公園で


 

 「...デカすぎるな...」

 

 サンダースの学園艦を見るなり、班長になった柴原樹はそう呟く。この学園艦は現在佐世保の港に停泊しており、周辺の地上の建物との対比も相まって余計に大きく見える。まるで地上の建物がミニチュアの様だ。

 これより前、柴原達のフェリーは長崎までの長距離を丸一日かけて航行し、佐世保港についた頃にはすでに夜になろうかと言う時刻になっていた。待ち合わせは翌日の午前中となっている。流石にこの時間からは学園艦に乗り込めないので佐世保の街に一泊し、翌朝。宿泊先のホテルから窓を覗いたところ、柴原の目に映ったのは理解を超える大きさの船が鎮座している光景が入り、この様に呟いたのだった。

 

 「...まだ時間があるな」

 サンダースとの待ち合わせ時間は午前10時、まだまだ時間には余裕がある。すると柴原は持ってきたキャリーケースからジャージを取り出して着替える。そしてホテルの外に出て行き入念な準備運動をしてから、一つ大きな深呼吸をすると、

 

 「佐世保の街を走るのは初めてだからな。楽しみだ」

 

 そう言って薄く笑い、軽快に走り出した。

 柴原の日課はランニング、真面目な彼らしい趣味だが、この時はまさかあんな出会い方をするとは柴原も"彼女"も思ってもいなかったのだ。

 

 

 「...此処の景色は舞鶴と似ているな」

 柴原はまず海沿いを走ろうと海岸沿いの道路を走っていた。海側を見ると、バカでかい学園艦の他に、自衛隊の護衛艦などもちらほら見える。それは彼の地元、舞鶴と似た様な景色であり妙な親近感をこの街に覚えるのだった。

 そして走りながら海をひとしきり見た後、柴原は視線を反対の山の方へ向ける。

 佐世保とは坂の街である。海側まで山地が迫ってきているので坂が多く、少し登れば佐世保港が一望できるのだ。

 柴原はランニングの途中、その丘の上にある展望の良さそうな公園を見つけた。

 

 「...あそこまで行ってみるか」

 

 絶対いい景色に違いない。そう決めると軽い足取りで丘の上の公園まで走っていくのであった。

 

 

 

 

 「...ハァ...ハァ...ハァ......ーーッフゥー...」

 柴原が公園に着いた時には太陽も顔を出していてその日差しが佐世保港を照らしていた。その綺麗な光景に柴原も息を呑む。

 「...ーーフゥー...すごいな、息を切らしてここまできた甲斐があったもんだ」

 もう一つ、深呼吸をして公園からの絶景にじっくりと目を通す。朝日が港全体を照らしており、全体的に暖かみのあるオレンジ色になっている。太陽は海に反射して煌々と輝いていて、まるで御伽噺の中にいる様だ。そんな幻想的な光景に柴原は見惚れる様に港をじっと眺めるのだった。

 ーー後ろから近づいてくる足音にも気付かずに。

 

 

 「Hey!あなた...ここじゃあ見ない顔ね」

 

 

 突然背後から声をかけられて柴原の肩がビクンッと跳ねる。咄嗟に振り返ってみると、この地元の方なのだろうか?一人の女性が軽く笑ってこちらの方を見ていた。

 「あら、驚かせちゃったかしら、ごめんなさいね」

 謝ってはいるがそんなに悪びれる様子もない感じで女性はそう言った。

 「...いえ、ボーッとしていたのは事実ですから。...おはようございます。地元の方ですか?」

 柴原はそう言うと女性の方を再度、しっかり見る。ランニングウェアを着ており、日本人離れした整った顔立ちにウェーブのかかった金髪、ハーフの人なのだろうか?柴原はその様な感想を彼女に持った。

 「おはよう。まあ、そんな感じね。ここは私のお気に入りなの。暇があれば毎朝ここに走りに来てるのよ。それにしても今日はいい天気ね」

 そう言って彼女は背伸びをした。その仕草にそれまでは意識をしていなかった彼女の胸に視線が行ってしまい、柴原はたまらず視線を逸らす。デカい。

 「...で、あなたは?地元の人じゃ無いっぽいけど...観光の人とか?」

 そんな柴原の様子に気付く事なく、彼女は再度質問をした。

 柴原は自分の頭の中の煩悩をなんとか掻き消して言葉を返す。

 「...いや、ここには用事があって、そこに泊まっているバカでかい船に用があるんです。もっと言えばそこの学校に、でしょうか」

 そう言って柴原はサンダースの学園艦を指差した。

 その言葉に女性は意外そうな顔をする。

 「へぇー、観光でもないのに学園艦に乗り込むなんて珍しいわね」

 

 「観光もしたいですが、それよりも大事なことがありますので」

 

 「ふーん、それって何なの?」

 女性の方は理由が気になるのか深く突っ込んでくる。

 「...まあ、男にとっては珍しい"戦車道"関連の事ですよ」

 少し考えた後、柴原はぶっきらぼうにそう答える。

 「...ふーん、そう。観光じゃないのはよく分かったわ」

 女性は意味深な笑みを浮かべてそう言った。彼女の曖昧な対応に柴原もどうしていいのか分からず、少しの沈黙が流れる。

 「...それにしても此処からの景色は凄いですね」

 そんな雰囲気にたまらず、柴原は話題を景色の方へ移した。

 「ええ、言ったでしょう?私のお気に入りだって。ここは観光客も少なくて絶好の穴場なの。まさか今日来たばかりのあなたにこの場所がバレるとは思わなかったけどね」

 そう彼女は軽口を飛ばす。

 「俺もこんな場所があるなんて知りませんでした。下から展望が良さそうな公園が見えたので来てみたんですが、どうやら俺の目に狂いは無かった様ですね」

 柴原もそう軽口で返すと女性の方は少し驚いた様な顔をする。

 「...わお、言うじゃない。気に入ったわ。あなた、名前は何ていうの?」

 

 「柴原樹です。佐世保には1ヶ月半ほど滞在するのでよろしければまたここで会いませんか?」

 柴原は薄く笑ってそう言った。そんな彼に女性の方は意外そうな顔をした。

 「へぇー、見た目によらず結構積極的なアプローチをしてくれるのね、ますます気に入ったわ」

 だが彼女も臆する事なく軽口を返す。

 「見た目で人を判断しない方が良いですよ。もしかしたら俺は相当なプレイボーイかも知れませんから」

 柴原はさらに不敵に笑ってそう言った。

 「アッハハハ、やっぱりあなた面白いわ!イツキ、これから宜しく頼むわね」

 そう言うと女性は一歩、柴原の方へ近づくと右手を差し出して握手を求める。

 柴原もそれに応じて右手を差し出す。

 「こちらからもよろしくお願いします。...えーっと、まだ名前を聞いてませんでしたね。聞いても良いですか?」

 柴原は女性の名前を知りたいと思いそう聞く。

 

 が、対して彼女の方は、少し考え込み、予想外な言葉を柴原に対して放つ。

 

 「...そうね、ここで言っても良いのだけど、それじゃあんまり面白くないわ。もう少し時間が経てば私の名前も分かると思うから、それまではお預け。...あと毎朝ここで会う必要も無くなると思うわよ」

 不敵に笑った女性はそう言うと握手を手放した。

 「それってどういう...」

 柴原が理由を訊こうとすると、

 「ストップ。それ以上聞くのは野暮ったいわよ」

 女性は柴原の口に人差し指を近づけてそれ以上言わないように制する。

 「そういう事だから、今回はこれまでよ。またあとで会いましょう。イツキ」

 女性はそう言うとウィンクをして再び走って公園を後にするのだった。

 そんな彼女を柴原はボーッと見つめる。

 

 

 

 「...面白い人だな」

 

 

 しばらくの無言の後、柴原は彼女のことを短く、そう評した。

 

 

 

 

 

 

 

 「...準備はいいか?」

 

 

 「「「はい!!」」」

 

 柴原がそう尋ねると他5名の整備士たちは元気よく返事をする。気が付けばサンダースとの顔合わせの時間まであと1時間というところまで来ていた。柴原は全員いるのを確認すると時間を確認して甲板の方へ乗り込む。

 すると道中、その中の一人が、柴原の方へ近づいて来た。

 

 「ノッポ先輩、なんか嬉しそうですね」

 

 そう言ったのは2年生の一人で、興味津々、と言った風に柴原にそう尋ねた。

 「...そう見えるか?」

 柴原はあいも変わらずぶっきらぼうにそう返した。

 「そりゃもう。1年の連中はビビってる奴ばっかですが、ウチら2、3年生からすればノッポ先輩って結構分かりやすいんですよ」

 この2年生の言う通り柴原は結構感情が表に出やすいタイプなのだ。

付き合いの浅い人間にはぶっきらぼうな態度、目元まで隠れる前髪故に分かりにくい表情、あまり喋らない性格からか、敬遠されがちなのだが、その実、話してみると情に熱く、ちゃんと仕草を見てみれば分かりやすいことから、彼との付き合いの長さで全く評価が変わると言うのがこの柴原樹という男の特徴なのだ。

 「なんかいいことあったんですか?」

 2年生はそんな柴原の性格を知ってか、ニヤニヤしながらそう言った。

 

 「...まあな、今朝、面白い女と出会ったんだ」

 

 そんな2年生に憤る事なく、柴原は口元を緩めながらそう言った。

 「へぇー、ノッポ先輩がそこまで嬉しそうにするって事は相当いい女だったんですね」

 感心したように2年生はそう言った。

 「...お前は俺のこと何だと思ってるんだ。...まあ、初対面のくせにグイグイ来る変な奴でもあったな」

 柴原がそう言うと2年生は驚いた顔をする。

 「ノッポ先輩に初めからグイグイ来る人なんて珍しいですね...」

 

 「...どう言う意味だ?」

 柴原が不服そうに言う。

 「そのまんまの意味ですよ。もっと笑えばノッポ先輩かなり接しやすくなるのに、勿体ないんですよ」

 2年生はそんな柴原な態度に慣れているのか、飄々とそう返した。

 

 「...やっぱもっと笑った方がいいのか...」

 

 柴原は少し下を向いて肩を落とした。

 だがそれなら、今朝出会った女性はどうして取っ付きにくい自分に向こうから話しかけて来たのだろうか?今のやり取りでいっそうそう感じる柴原だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーやはり何もかもがデカい。柴原がサンダースの学園艦の甲板に出て抱いた感想はやはりそれだった。学園艦というのは文字通り船の上に街を作るので建物が小さかったり、その間隔が狭かったりと割と窮屈に感じるのだが、ここの学園艦は船の広さを活かしてか、家もデカければ

道路もデカく建物の間隔も広い。そんな船なのだ。しばらく歩いていると、遠くの方に一際大きい建物が見えてきた。

 

 「あれがサンダースの格納庫か」

 

 やはりデカい。柴原はその大きさに圧倒されつつも近づいていく。

 すると入り口のところに少女が立っているのが見えた。柴原はその少女に近づき、軽く一礼をする。

 

 「わざわざお迎えありがとうございます。宮舞高校から来ました班長の柴原です」

 柴原が丁寧にそう言うと少女は居心地の悪そうな顔になる。

 

 「あー、私はナオミって言うんだ。よろしくな」

 ナオミと名乗ったショートカットの少女が軽くそう答えると柴原も返す。

 「こちらこそよろしくお願いします。ナオミさん」

 柴原は尚も丁寧にそう返した。

 「えっと、柴原サン、だっけ?さっそくだけどその喋り方やめてくれないか?何だかむず痒くてね。それにアンタ私と同い年だろ?タメ口の方がこっちとしてもやりやすいんだ」

 柴原はそれを聞いて少し驚く。これまで彼が行ってきた高校は少なくとも2週間はお互いに敬語が抜けなかったのだが、このナオミという少女は早速タメ口で話す様に促してきた。これもアメリカ的な気風が大きく関係しているのだろうか。

 「...そうか、そういうことなら遠慮なく。改めてよろしく。ナオミさん」

 柴原はそう言うと右手を出して握手を求める。

 「ああ、こちらこそな」

 対するナオミは先程の居心地の悪そうな顔が消え、気持ちのいい笑顔を浮かべると、力強く柴原の右手を握った。

 

 

 

 

 

 

 ナオミに案内されて格納庫の中に入ってみると、そこにはやはり、圧倒されるような光景が広がっていた。

 「...すげぇ...」

 柴原がそう呟くのも無理はない。格納庫にはざっと見ただけでも50台以上の戦車が整備中でそのほぼ全てが新品の部品に交換、新車のように綺麗に保たれていた。機材の方に目をまわしても色とりどりのレンチ、有り余るほどのゴムパッキン、整備士の服に至っても綺麗に保たれているように見える。

 「こりゃ強いわけだ」

 柴原は感心するようにまたそう呟く。ナオミも柴原のリアクションを見て少し得意げな顔になる。

 「ここの機材、全て自由に使っていいと隊長から言われている。遠慮なく使ってくれ」

 

 「そりゃありがたい」

 柴原は心底嬉しそうにそう言う。ただし表情筋があまり動かないので側から見れば無表情でそう言っているように見えるのだが。

 

 

 

 「わお、気に入ってくれたようで何よりね」

 

 

 

 すると柴原の背後から突然、別の女性の声が聞こえた。どこかで聞いたことのあるような声。柴原はその声に既視感を覚えながらゆっくりと振り返る。そこには

 

 

 

 

 「Hi.さっきぶりね、イツキ。どう?ウチの戦車庫は、気に入ってくれたかしら?」

 

 

 

 

 柴原が今朝、公園で見た金髪の女性がしてやったり顔で立っていた。

 

 「...なるほど、あの時名前を言わなかった理由が分かったよ。中々粋なことをするじゃないか」

 柴原は納得したような顔をして金髪の少女にそう言った。

 

 

 

 「どういたしまして、ようこそサンダースへ。私がここの隊長"ケイ"よ、イツキ、貴方が班長ということは今回の研修、今まで最高に面白いものになるかもしれないわね」

 

 

 

 

 やっと名を名乗ったケイという少女は軽くウィンクをしてそう言った。

 

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