ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
「なんだ?2人は知り合いなのか?」
サンダースの戦車格納庫の中、知り合いの様な素振りを見せる柴原とケイの2人に、ナオミは少し驚いた声を上げる。
「ええ、イツキとはそれはもう、プラトニックな関係よ」
対してケイはあろうことか勘違いさせる様な爆弾発言をしてウィンクをする。
そしてその発言を聞いていた戦車道履修者達の目線が一気にこっちを向いた。
「はぁー...揶揄うのはよしてくれ」
悪ふざけで言っている事を察知した柴原は、少し面倒臭さそうな顔になりながらそう言う。
今の状況は完全アウェー。ここでケイに乗せられてはあらぬ誤解をサンダースの生徒達に与えてしまう。
「あら、今朝はあんなに情熱的にアプローチしてくれたじゃない。もう私には飽きちゃったの?」
だがケイはこの状況を随分楽しんでいるらしい。意地の悪い笑顔を浮かべて挑発的にそう言うと、周りから黄色い声が上がる。
「...ノッポさん、もう手を出したんですか?」
自身の整備士達も勘違いしたのかジトっとした目を柴原に送る。
「人聞きの悪い事を言うな。今朝、ランニングしてたら偶然出会っただけだ」
だが柴原は慌てる事なく無表情でそう返す。そんな冷静な彼の対応に現場の熱も少々下がっていった。
「ふふっ、ごめんなさい。宮舞の人って事は分かったんだけど、貴方がリーダーだったのね」
ケイはペロッと小さく舌を出して軽く謝る。
「...まあ、顔合わせが幾分早くなっただけだ。君に一本取られる形になったけどな」
対する柴原も薄く笑って冗談を返す。
「...まあ、なんだ、知り合いなら話が早い。これからウチの戦車の説明をするからついて来てくれ」
2人の会話に納得したナオミからそう声が掛かる。それを聞いた宮舞の整備士達は再度、気を引き締めてナオミの後に続くのだった。
「これがM4中戦車、シャーマンだ。ウチの主力だな。多分研修中もこの戦車を1番診てもらう事になると思う」
各々が自身の整備、訓練に勤しむ中、ナオミは宮舞の整備士達に淡々と戦車の説明をする。流石はマンモス校、戦車のスペックもさることながら、状態もほぼ万全なようだ。総力戦になれば宮舞じゃ全く敵わないなと、心の中で呟いた柴原は真剣にナオミの話を聞いている。
ただ柴原は一つ、違和感を感じていた。というのも、今まで見てきたサンダースの戦車達は整備は万全なのだが、どれもスペック通り。つまり高水準で纏まっているのだが、"それ以上"が無いのだ。
宮舞では新しい戦車が滅多に来る事が無いので既存の戦車を各々、好き勝手に改造して自分好みの戦車を創り上げているので、本来のスペックとは異なる車輌が多い。ただサンダースの戦車はどれも"スペック通り"。宮舞で改造に慣れ過ぎた柴原が感じる違和感はそこだった。
「どれも新品みたいだな...改造している戦車とかは居ないのか?」
純粋に柴原は疑問を投げかける。
「あぁ、これだけ数が多いと性能を統一した方が統率が取れやすいんだ」
ナオミのその言葉に柴原は納得する。確かに50輌以上もの戦車がそれぞれ違う性能だったら統率なんざあったものでは無い。それなら下手に弄らず、常にスペック通り万全の状態にしておけば、指揮を取る側としてはこれ以上やりやすい事はないのだ。大量の戦車を抱えるサンダースならではの事情だった。だが柴原の中に一つ、疑問が残る。
「なるほど、でも"少数戦"の時はどうしてるんだ?」
柴原の核心を突く言葉にナオミは苦い顔になる。
「わお、そこに気付けるなんて、流石は戦車整備の名門校と言ったところかしら」
柴原の問いにそう返したのはナオミではなく、ケイだった。口調は軽いが表情は先程とは打って変わって真剣だ。
「イツキの察する通りサンダースは少数戦に弱いの。改造してる戦車も居ないわ。と、言っても、やりたくても出来ないのだけれどね」
困った顔をしてケイがそう続ける。
「ち、ちょっと待ってください!」
そう言って話を遮ったのは宮舞の2年生整備士、緒方だった。
「どうしてサンダースが少数戦に弱いんですか?スペックを見ても他校の戦車達と遜色ないでしょう」
緒方は何故サンダースが少数戦に弱いのかわからない様だった。そんな彼の素朴な疑問に柴原が答える。
「そうだな...緒方、これからお前が隊長になったとして考えてみろ。5対5の少数戦だ」
「?...はい」
緒方は柴原が何を言おうとしているかは分からないが、素直に返事をしておく。
「ウチの宮舞の5輌は改造しまくっていて速度もバラバラ、スペックもバラバラ。型式は同じだが同じ車輌なんざ1輌も居ない」
柴原の言葉に緒方は頷く。
「対して私たち、サンダースの5輌は速度も同じ。スペックも同じ。5輌全てが同じ挙動をする戦車よ」
続いてケイがそう言葉を続ける。
「あなたは隊長として戦うとなった時、どっちの方が敵としてやりにくいかしら?」
ケイがそこまで言うと緒方はハッとした表情になる。
「...前者の方が、やりにくいです」
そう、サンダースが少数戦に弱い理由はここにあった。確かにサンダースの戦車達は高水準で纏まっているが、それらが"全て同じ"と言う事は、戦う相手側からすれば対策が立て易い事に他ならないのだ。
これが物量戦ともなれば統率も取れ、サンダースの右に出る者はいないが、少数戦になると話は変わってくる。性能が良い戦車を揃えれば勝てると言う訳では無いのだ。その点ではサンダースは少数戦、もとい、輌数が制限された試合では不利になる。
「もちろん、それはほんの少しに過ぎないが、それでも不利になるのは事実だろうな」
柴原がそう付け加えるとケイもそれに深く頷く。
「good、流石は私の見込んだ男ね。イツキの言う通り、サンダースは少数戦で作戦を立てても対策される事が多いわ。...実際、今年の戦車道大会じゃあそれでやられちゃったしね」
ケイは少し後悔する様な顔でそう呟いた。大洗戦では直接的な敗因として無線傍受を逆手に取られたのが原因だが、もう一つの敗因として戦車が全て同じスペックであるが故、大洗の隊長に無線傍受がバレた後の対策を取りやすくさせてしまったのも原因の一つだった。
「...そこでイツキ、貴方達にお願いがあるの。ここまで話せば大体察しはつくでしょうけど」
ケイはここで一つ、大きく深呼吸をして柴原の顔を真剣に見つめる。
「私たちに戦車改造のノウハウを教えてくれないかしら?」
今回の派遣研修での彼女の最大の狙いはここだった。もし、この問題を克服する事ができれば、サンダースの弱点は完全に無くなるとケイは考えていたのだ。
対して柴原は微妙な顔をする。
「...それは構わないが、戦車の改造と言うのは相当な知識と技術が要るぞ。それに既存のスペックより底力を上げようとするんだ、何処かしら不具合が見つかるかも知れないし、それも根気よく調整していかなくちゃいけない。それでもやるか?」
柴原の言う通り、戦車改造と言うのは"ハイリスク ハイリターン"が基本である。成功すれば見違えるほどの力が出るが、一歩間違えれば本来のスペックより落ちる可能性もあるのだ。それを1ヶ月半で叩き込むと言うのは、サンダースにとってはかなりリスキーな事だった。
だが、このケイという女性は強かった。
「構わないわ、私は今年が最期だもの。ここで何か一つ、後輩に遺しとかなくちゃカッコ悪いでしょ?」
そう言う彼女の決意は硬いようだ。そんなケイの表情を見た柴原はフッと笑う。
「...失礼な事を言ったな。分かった。その話、こちらも乗らせてもらう。お前らもそれでいいか?」
振り返って他の整備士達にそう問うと。
「「「はい!!!!」」」
皆からも気持ちのいい返事が返ってくる。柴原はこのサンダースという巨大な組織で彼女が皆から信頼を集められる理由が、このやり取りで分かったような気がした。
今回はかなり短めっす。