ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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黒森峰編
黒森峰編1 : 久しぶり


 

 

 昔、青年がまだ少年だった頃の話、青年には昔馴染みの少女がいた。

 その少女は昔からあまり喋らない子だった。表情も変化しにくく今も昔も必要最低限の言葉しか発さない。だが内気というわけでもなく、喋らない癖にやけに堂々としている。

 少年はどこかのパーティー会場で初めてその少女に会った際、そんな感想を抱いた。

 そんな面白そうな少女に興味が湧かない訳もなく、少年は躊躇することなく少女に話しかけたのだ。

 

 「何してんの?一人でボーっとして」

 

 少女は突然の問いかけに動じる事なくゆっくりと少年の方へ顔を向けた。少女があまりにも動かなかったので気になって話しかけたのだろう。

 

 「...何もしてないけど」

 

 少女は無表情でそんな事を言うもんだから怒っているのかと、一瞬少年は勘違いをする。が、よく観察してみると先程、少女の妹?だろうかと喋っていた時よりも若干声が高くなっている事に少年は気付いた。

 

 「へぇー、そーなんだ。そんな事よりさっきからご飯食べてないけどお腹痛いの?おいしいよ?」

 

 子供と言うのは強いもので、少年はぶっきらぼうな少女に臆する事なく料理の話をする。

 

 「……いや、お腹が痛い訳じゃ無いんだけど、こういうのは食べ飽きちゃって……」

 

 依然と少女は無表情のままそう答える。

 

 「ふーん、変なの。美味しいのに」

 

 少年はそんな事には興味が無いのか短くそう言った。

 それから少しの沈黙の後、再び口を開いたのは少女の方だった。

 

 「……その服……」

 

 少女は少年の着ている服に興味津々なのか、少年をまじまじと見ている。少年は戦車の描かれたTシャツを着ていた。

 

 「ああこれ?カッコいいでしょ?ドイツのティーガーって言う戦車なんだけど……」

 

 「知ってる」

 

 少年の言葉を遮って少女は食い気味に答えた。

 

 「それってⅡ型でしょ?母様が乗っている戦車だ。なかなか君はいいセンスをしているぞ」

 

 自信満々に偉そうに少女はそう答える。少年も当てられた事が嬉しかったのか、満面の笑顔になると

 

 「おー!すごい詳しいじゃん!戦車好きなの?」

 

 と食い気味に聞く。

 

 「...まあ、好きだよ」

 

 「ほんと!?じゃあちょっと待ってて!!」

 

 そう言って少年は荷物置き場の方まで走っていった。そして分厚い図鑑のようなものを手に少年は戻ってきた。

 

 「えっと、じゃあこれは?」

 

 少年は図鑑を少女に見せて手で戦車の名称を隠して問題を出す。彼が見せつけたのは戦車の図鑑だった。読み込んでいるのか、かなりくたびれている。

 

 「これはマチルダだな。足は遅いけどすごい硬いんだ」

 

 少女は迷う事なくそう答える。

 

 「おー!じゃあこれは?」

 

 「これはシャーマンだな。扱いやすい戦車らしいよ?」

 

 「すげー!じゃあこれは!?」

 

 「これはクーゲルパンツァーって言ってな……」

 

 少年がいちいち良い反応を見せるので少女も気を良くしたのか言葉に熱が入る。

 その後も飽きる事なく戦車談義を続けていると少年に女性から声が掛かる。

 

 「賢介、そろそろ行くよ」

 

 「あ、母ちゃん!」

 

 少年の母親だろうか、賢介と名前を呼ぶと女性はその隣にいる少女にも気付く。

 

 「あれ、その子は?」

 

 母親が賢介に少女のことについて聞く。

 

 「スッゲーんだぜこいつ!僕が出した戦車の問題を全部答えれるんだ!」

 

 母親はそれを聞いて心底驚いた顔をする。少年の戦車知識は6歳ながら母親でさえも唸るほどであり、それについていけるとなればこの少女、かなりの戦車マニアである事は間違いない。

 

 「へぇー、やるねー貴女。賢介の戦車談義についていけるなんて」

 

 母親の言葉を聞いて気分が良くなったのか少女は腰に手を当てて得意げな顔をする。と言っても、無表情に毛が生えた程度のものなので結構シュールな絵面になっていたのだが。

 

 「それにね!?僕が知らない戦車の事まで知ってるんだ!」

 

 少年はまだ興奮しっぱなしでオーバーリアクションで話す。ついさっき出会ったばかりの少女についてもっと語りたいようだ。

 だが母親もこのままじゃ埒があかない事を察したのか会話を遮る様に人差し指を少年の唇に近づける。

 

 「そこまで、賢介。仲良くなったのはいいけど今日はもう帰るよ」

 

 「えー!?」

 

 少年はまだ少女と喋りたいのか心底残念そうな顔をする。『まだ帰りたくない』と言う風な顔をして少女の顔を見ると、

 

 「...わたしもまだ話したいけどお母さんの言う事は聞いといた方がいいよ?」

 

 「うっ、わ、わかったよぉ...」

 

 少女に正論を言われたのが堪えたのか、少年は素直に言う事を聞く。

 

 「じゃあまたね!...あ、そうだ、名前聞いてなかった!」

 

 少年は思い出したようにそう言うと

 

 

 「僕の名前は古葉賢介です!京都出身です!6歳です!」

 

 

 

 覚えたての挨拶なのか、辿々しくもハキハキと自己紹介をした。

 

 「賢介でいーよ!」

 

 そう言うと少年は満面な笑みを浮かべる。

 それを見てつられて笑った少女も言葉を返す。

 

 

 

 「ふふっ、よろしく、賢介。...わたしの名前は___________」

 

 

 

 

 

 

 _________________

 ____________

 _______

 ____

 

 

 

 

 

   ___________ちょう、____いちょう!

 

 「...んお?」

 

 「隊長、起きてください。もう着きますよ」

 

 何度も声をかけられて青年はやっと起き上がる。なんだか懐かしい夢を見ていた気がするがうまく思い出せない。それに少しモヤっとした気分になりながらも青年は背伸びをしてゆっくり立ち上がった。

 

 「おー、もう黒森峰の学園艦が見えるねー」

 

 そう、この青年、もとい古葉達の乗るフェリーはそろそろ熊本にある黒森峰の学園艦に着こうとしていたのだ。

 

 「もう、全然緊張感無いじゃないですか...」

 

 古葉の隣にいた2年生が相変わらずマイペースな古葉にゲンナリとした顔になる。

 

 「そっちが緊張し過ぎなんだよ。もうちょいリラックスすれば?」

 

 「生憎僕らは隊長みたいに肝が座ってないもので、それに初対面は特に気を引き締めて行けって言ったの隊長じゃないですか」

 

 困り顔になりながら2年生はそう言う。

 この2年生の言う通り、古葉が一番警戒しているのはこの初対面での立ち振る舞いだった。初めて会う人間に第一印象で悪い印象を与えてしまうとその後の関係修復はかなり難しい。ましてや黒森峰への派遣研修は今回が初めてだ。ここで悪手を出してしまうと一両も戦車を触らせて貰えずに帰らされる可能性だってある。

 なので今回の研修ではまずこちらからアプローチをして黒森峰の生徒達の反応を見極める事に古葉が1番神経を使おうとしてるところだった。

 

 「まー、そうだけど。あまり慎重に下手で行きすぎても良い印象が与えられる訳じゃ無いからねぇ。久我ちんの言葉を借りる訳じゃ無いけどナメられちゃダメだよ?」

 

 下手ではあるがナメられるようなことはするななど、ヘラヘラと難しい要求をしてくるものだ。2年生の方は、古葉の言う事を間に受けてしまったのか表情がどんどん硬くなる。

 

 「...主導権、とゆうかあまり指図されないようにするって事ですか?」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で2年生はそう言った。

 

 「まーそれも間違っちゃいないけど、一番の理想は"対等"かな。...これが出来ないとなるとあっちと衝突する可能性は格段に上がるかもね」

 

 「...どう言う事ですか?」

 

 2年生の方は興味津々と言う風に古葉に耳を傾ける。気が付けば黒森峰の班員全員が彼の話を聞いていた。

 

 「まず大前提の話なんだけど、この派遣研修って何が目的か分かる?」

 

 いきなりの古葉の問いかけに少しびっくりするも、2年生は分かり切っている答えを出す。

 

 「そりゃあ、まあ、ウチには4式と5式ぐらいしか戦車が居ませんから、他の高校に行って他国の戦車に触れさせてもらう為ですよね?」

 

 「そう。そこが問題。俺らは"戦車を触る"立場じゃなくて"戦車を触らせて貰う"って言う立場なんだ。今ではそうでも無いけど昔は基本的にはこちらから下手に出て"貴校の戦車に触らせてもらえませんか"

とゆうスタンスだったらしい。今でこそノウハウがついてきたけどね。ここまで対等に他校と渡り合えるのも先輩達の努力のおかげなんだよ」

 

 古葉の言葉に他の隊員も納得したように頷く。今でこそ他校との親睦も深まり、互いに意見を交換しながらと言うスタンスでやってこれているが、そこまに至るまでは先人の苦労があってこそなのだ。

 

 「でも、黒森峰にはそのノウハウが無い」

 

 古葉のその一言に緊張感が一気に増す。ここまで言うと他の隊員達も事態が飲み込めてきたようだ。

 確かに黒森峰は強い。戦車の整備技術も超一流だろう。だからといって宮舞の培ってきた整備技術と黒森峰の培ってきた整備技術が全て同じかと言われればそうではない。

 それは宮舞が長年磨いてきた"プライド"があるように黒森峰もまた宮舞とは違う"プライド"があるのだ。もしそれらがぶつかり合えば、収集がつかなくなる事は目に見えている。本来なら時間をかけてそのギャップの差を埋めていくのだが、1ヶ月半と言う短い時間では足らなさすぎるのだ。

 

 「だからといってこちらが下手に出過ぎると向こうは『こんなものか』と調子に乗る可能性だってあるからね。俺ら3年の代は我慢すれば済むかもしれないけど、来年もあるとすると十中八九、衝突はするだろうね」

 

 古葉の話を聞いて、隊員達は早くもこの難易度の高すぎる高校を選んだ事を後悔し始めていた。

 古葉はそこへ止めと言わんばかりの強烈な一言を浴びせる。

 

 

 「他の高校と同じようにやってたら向こうは噛み付いてくるよ、絶対。そこだけは注意するよーに」

 

 

 古葉はマイペースでそんな事を言うが、言われた方はたまったものではない。空気はさらに緊張感を増し、2年生に至っては顔が青ざめている。

 古葉はそれを見ると一息ついて

 

 

 

 「だからこそ君らを選んだんだ」

 

 

 

 先程とは違う真剣な顔でそう言うと下を向いていた隊員達の顔が一気に上がる。

 

 「実は少し前、黒森峰の方から代表の人が来ててね」

 

 隊員達は突然のことについて行けないのか唖然としているものばかりだ。古葉は構わずに言葉を続ける。

 

 「その人もこっちの人材を疑ってたから君らの名前と実績を見せたんだ」

 

 そこまで言うと、事態を飲み込み始めた2年生がやっと口を開く。

 

 「...どうだったんですか?」

 

 古葉はその言葉を待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う。

 

 「『問題ない、これなら信頼できるでしょう。』って言われたよ。黒森峰の代表にここまで言わせたんだ。意味は分かるね?」

 

 古葉がそう言うと、曇りきっていた隊員達の顔が明るくなっていく。

 

 「代表自らのお墨付きを君らは貰ったんだ。俺はその事にもっと自信を持つべきだと思うんだけどなー」

 

 「「「は、はい」」」

 

 古葉の言葉に隊員達の緊張もほぐれたのか先程までの重い空気は吹き飛んでいた。

 

 「おー、良い顔になったじゃん。その調子その調子」

 

 古葉の話を聞いて隊員達のやる気は先程とは別人のようになっていた。

 この古葉と言う男、やる気の乗せ方に関しても非凡なものを持っているようだ。

 

 

 

 

 

 _________________

 

 

 

 

 場所は変わってここは黒森峰の桟橋。張り詰める緊張感の中、2人の少女は宮舞から来る船を待っていた。

 

 「...来ました。あのフェリーです」

 

 2人の中の一人、つり目の銀髪の少女が険しい顔でフェリーを睨みつけてもう一人の暗めの茶髪の少女にそう言った。

 

 「.....」

 

 質問された方は腕を組んだまま無言で、一心不乱にフェリーの方を凝視していた。そんな彼女もつり目なのだが無表情なので威圧感は銀髪の少女よりもだいぶあった。

 

 「...隊長?」

 

 銀髪の少女がそんな彼女を疑問に思う。

 

 「...ああ、すまないエリカ、ボーッとしていた」

 

 銀髪の少女の事をエリカといい、ぶっきらぼうにそう答える。

 この少女の名は逸見エリカ、黒森峰の副隊長だ。そしてその隣にいるのが

 

 「い、いえ、私は西住隊長のことなので何か考え事をしてると思ったんですけど...」

 

 黒森峰の隊長、西住まほだ。無表情で口数が少ないので、このようにいつも何か考え事をしてると思われがちなのだ。

 

 「...私だっていつも考え事してる訳じゃ無い」

 

 「す、すみません、勘違いしちゃって...」

 

 西住があいも変わらず無表情でそう言うものだから逸見は萎縮してしまう。

 

 「...いや、いいんだ」

 

 「は、はい」

 

 「.....」

 

 

 会話終了。その後も気まずい沈黙が流れる。逸見はあれだけ睨んでいたフェリーに早く来てくれと心の底から願うのだった。

 

 

 _____________

 

 

 「忘れ物無いー?」

 

 「大丈夫です」「はい」「オッケーっす」

 

 古葉の問いかけに隊員達はそれぞれ返事をする。もう準備も整っており、後は下船するだけと言うところまで彼等は来ていた。

 

 「お、お迎えがいるねぇ。隊長自らとは関心関心」

 

 古葉は船の窓から二人を確認してそんな事を言う。相変わらず緊張感のない声だが、表情は真剣そのものだ。

 そして船が接岸してやっと扉が開くと久しぶりの太陽に眩しさを感じながらもゆっくりと桟橋に続く階段を降りる。

 

 「お待たせ。やっぱりまほが迎えに来てくれたんだ」

 

 古葉は開口一番、黒森峰の隊長に向かってそう言った。友達と久しぶりに会ったかのような口調で。

 

 「...久しぶりだな賢介。やっぱりお前が来たか、なら安心だな」

 

 「ははっ、しほさんと同じこと言ってるよ」

 

 その光景に西住と古葉の二人以外は唖然とする。宮舞の整備士達は想像していた西住まほとは違う事に、だがそんな彼等よりもっと驚いたのは逸見の方だった。

 彼女の中での西住まほと言う女性は西住流を体現しているような人間だった。撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 。その名の通り彼女の中で西住まほというのは常に厳格で無骨な人間像だった。笑うどころか微笑む姿も片手で数えるほどしか見たことがない。

 

 それならこの目の前にいる女性は誰なのだろうか?

 

 

 そう思えるほどに西住まほは誰にも見せた事のないような笑顔で古葉と話をしていたのだ。

 

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