ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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 『西住』の苗字だけで3人もいるので、今回からこの3人を書くときは下の名前で書くことにします。


黒森峰編2 : 役割

 

 

 「お迎えありがとうございます。宮舞高校戦車整備科から参りました古葉賢介、以下4名、本日より黒森峰でお世話になります。総員、敬礼!」

 

 「「「ハッ!!!」」」

 

 古葉の号令と共に他の整備士も敬礼で応える。ここは黒森峰の戦車格納庫の中。黒森峰の戦車道履修者達と宮舞の整備士達は、それぞれ対面するような形で挨拶を行なっていた。張り詰める緊張感の中、黒森峰の隊長も挨拶を返す。

 

 「遠いところご苦労様です。ようこそ、黒森峰へ。隊長の西住まほです」

 

 一方のまほも真面目な顔つきで挨拶を返す。まほとしては昔馴染みである古葉にもっと砕けた態度で接したいのだが、今は履修者達の前。隊長としての面子を保たなければならないのだ。

 

 「...副隊長の逸見エリカです。...お願いします」

 

 対して逸見の方はこちらに対して警戒心を持っているようだ。桟橋でのやり取りから、ずっと古葉の方を睨んでいる。

 

 「そちらは戦車整備のエリートと聞いている。だが今回の研修はお互い初めてだ。双方考え方が違う部分もあるだろうが、有意義な研修となるようこちらとしても最大限努力する。よろしく頼む」

 

 そんな逸見を気にせず、まほがそう続ける。

 

 「...こちらこそ、技術の差異はあるかも知れないけど努力するよ」

 

まほの言葉を聞いた古葉は、なるほど、まほにもこの研修の問題点を理解しているなと、感心する。彼女は"双方考え方が違う"との言葉を使ってきた。それ即ち、お互いの主張がぶつかり合う可能性を暗に示しているのだ。ここで『お互い衝突しないように』などと直接的な言葉を使ってしまうと、互いにやりにくくなってしまう。

 それに倣って、古葉も言葉を慎重に選ぶ。

 

 「ドイツ戦車に触るのは初めてだからね。そちらに教えてもらうことも沢山あるだろうから、こちらとしても良い関係を築けるように頑張るよ」

 

 続けて古葉がそう言うと、黒森峰の履修者達は得意げな表情になる。

 それを見た古葉は、初対面のアプローチとしては及第点かなと、心の中でホッとする。だがまだまだ研修は始まったばかり、衝突する可能性は幾らでもあるのだ。

 挨拶が終わったのを確認したまほは次のステップに行くために口を開く。

 

 「まずは戦車の説明からだったな。私が説明するから付いてきてくれ」

 

 派遣研修の流れが完璧に頭の中に入っているまほは、説明をするために付いてくるよう促す。が、それに食い付いてくる少女が一人、

 

 「わ、私も付いて行きます!!」

 

 逸見が間に割って入るようにそう言う。彼女としては、まほと古葉が二人になる事は何故だか快く思っていなかった。

 

 「いや、エリカは格納庫の様子を見ておいてくれ」

 

 だが、まほにそうバッサリと切られ、一瞬にして落ち込んだ表情になる。

 

 「わ、分かりました...」

 

 尊敬する隊長に断られたのが堪えたのかトボトボとまほから離れていく。

 

 「...エリカ、私はこれから説明をするのに付きっきりになる。だから"私の代わりに"格納庫を見ておいてくれ」

 

 見るからに落ち込む逸見に、まほがそう言葉をかける。すると『私の代わり』と言う言葉を使った事で逸見の心は一気に晴れやかになる。尊敬する人にそんな事を言われたら嬉しいに決まっているのだ。

 

 「は、はい!任せてください!!」

 

 先程とは打って変わって嬉しそうな表情で返事をする。まるで飼い主に褒められた犬のようだ。これ以上になく嬉しそうな逸見は綺麗な敬礼をして足早に去って行った。

 

 「へぇー、まほもそう言う事が出来るようになったんだ」

 

 逸見が去ると、感心した声色で古葉がそう言った。彼が知っている西住まほは、最低限の発言しかせず、どこか言葉の足りない女の子だった。が、今の逸見へのフォローで人として成長していた事に、幼馴染である古葉は感動していたのだ。

 

 「?...何がだ?」

 

 が、そんな古葉の感動とは裏腹に、キョトンとした顔でまほは首を傾げる。そう、彼女としては今の発言は狙ったものでは無い。落ち込んだ逸見をフォローする意識は無く、ただ格納庫を任せる理由を述べただけなのだ。結果的に逸見を元気付ける事になったが、まほにその意識はなかったのだ。

 この一言でそれを察した古葉はなんとも言えない微妙な表情になる。

 

 「...いや、何でもないよ。ただ、あの子も難儀するなって思っただけだよ」

 

 古葉は勘違いしたままの逸見に同情の言葉を送る。

 

 「?...相変わらず読めないやつだな。まあいい、それより早速戦車の説明をしよう」

 

 そう言うと、まほは切り替えて真剣に戦車の説明を始める。周りに流されない性格は彼女の魅力でもあるが、こうも鈍感では逸見のように被害を被る事もあるのだ。

 

 

 

 _____________

 

 

 「ふぅ、これで一通り、説明は終わりだ」

 

 時刻はもう午後6時を回り陽も落ちる頃、全ての戦車の説明を終えた

まほが一息ついてそう言うと、宮舞の整備士達も満足げな顔つきで一息つく。

 黒森峰の戦車を目の当たりにした彼らは度肝を抜かれていた。端的な言葉で表すと、全てにおいて隙がなかったのである。ドイツ戦車で統一はされているが、その種類はバリエーション豊か。Ⅲ号戦車などの機動力の高い戦車からマウスのような超重量戦車まで、幅広い運用をしている。

 整備においても無駄が無く、ドイツ戦車の高い技術力を存分に活かし切れていた。これなら大会を9連覇するのも納得がいく。その感想は宮舞の整備士達が抱いた総意であった。

 

 「以上だがここまで何か質問はあるか?」

 

 続けてまほがそう聞くが、整備士達はそれぞれに「大丈夫」と言ったような返事を返す。

 

 「そうか、なら今日はここで終いだ。明日から本格的にウチの戦車を触ってもらう事になる。...説明中、君たちの反応で信頼に足る人達であることが分かった。これなら黒森峰の戦車を安心して任せられるだろう。改めてになるがよろしく頼む」

 

 そう言ってまほは深く一礼する。実はまほは説明中、宮舞の整備士達の反応もしっかり見ていた。本当にこの人達に戦車を任せていいのだろうか?もしや適当に整備されるのでは無いだろうか?それを見極めるためにわざと説明に時間を掛けていたのだ。

 しかし、いざ見てみると皆、少年のように目を輝かせて熱心にまほの話を聞いていたのだ。先程、最後にまほが質問はあるかと問いただした時、一様に『大丈夫』との返事が返ってきたのも、説明中、疑問があれば直ぐにに質問していた為、説明が終わる頃にはもう既に彼等の中には疑問は一切残っていなかったのだ。

 そのような高い向上心を、まほは高く評価したのである。

 

 「...ありがとね。そう言ってくれるとコイツらもやる気が出るよ。ホラ、向こうの隊長さんがこう言ってくれたんだからちゃんと礼を言いな」

 

 「「「あ、ありがとうございます!!!」」」

 

 直球過ぎるまほの言葉に古葉も恥ずかしい気分になりながらそう言葉を返す。こう言う事を恥ずかしげも無く言えるところは昔から変わらないなと、古葉は何だか懐かしい気分になるのだった。

 

 

 「話は終わったかしら?」

 

 

 すると後ろから、まほではない別の女性の声が聞こえてきた。突然聞こえてきたその声に全員の顔が一斉に後ろを向く。

 そこにいたのは長身で黒いストレートの髪を腰まで伸ばしたスーツを着た、何よりその鋭い目つきが特徴的な女性が立っていた。

 

 「母様....」

 

 驚いた声でそう言ったのはまほの方だった。そこには、いつもなら黒森峰の格納庫には滅多に訪れない西住流戦車道家元、西住しほの姿があったのだ。唖然としている宮舞の整備士達を見たしほは、一つ咳払いをする。

 

 「...申し遅れました。私は西住流戦車道家元、西住しほです。黒森峰の代表でもあります」

 

 その言葉を聞いた瞬間、古葉以外の宮舞の整備士達も慌てて敬礼を返す。いきなり西住流の家元が出てきて整備士達も一瞬にして緊張してしまったのだ。各々緊張してしまっているのを見たしほは、フォローの言葉を掛けようとする。

 

 「...何をそんなに緊張しているのです?もうちょっと堂々としたらどうかしら?」

 

 しほのその言葉に宮舞の整備士達は一斉に顔が青ざめる。しほ本人としては、宮舞の方々にリラックスして欲しくて軽く冗談を飛ばしたつもりなのだが、そんな言葉を鋭い目付きと無表情で淡々と述べられたら、言われた方は溜まったものではない。

 唯一、長い付き合いである古葉だけがしほの言葉の真意を理解していた。相変わらず人との距離を取るのが下手なしほに、苦笑いしながら古葉がフォローする。

 

 「...しほさん、そんな事言ったら益々緊張しちゃうよ」

 

 「むぅ、そう言うものなのかしら?...難しいわね、男の子って」

 

 対してしほの方は自分の言動には非がないと思っているのか、悪びれもせずにそう言う。理解してないしほに、そういう問題では無いんだけどなと思いつつも、口を紡ぐ古葉であった。

 

 「...母様、今日は一体どんな用件で来られたのですか?」

 

 するとまほが真剣な表情でしほにそう尋ねる。と言うのも、しほは黒森峰に顔を出す事はほとんど無い。高校戦車道連盟の理事長であり、西住流の家元でもある彼女は多忙を極める。そしてそれは身内であるまほも十二分に理解していた。そんなしほが時間を割いてまでここに来ると言う事は何か重大な用件なのだろうと、まほは察していたのだ。

 

 「...そうですね、ここじゃ少し言いづらい事です。まほ、後で来賓室に来て下さい」

 

 「..分かりました」

 

 しほの真剣な口調から重大な用件なのだと察知したまほは気を引き締めて返事をする。

 

 「...あと、宮舞の班長さんも来てくれるかしら」

 

 しほがそう言うと古葉も返事を返す。

 

 「...分かりました。そうだな、お前らは先にホテルに戻っておいてくれ。俺は話が終わったらそっちに行くよ」

 

 「「「は、はい!!」」」

 

 整備士達が一様に返事を返すと、格納庫の外へと歩いていった。

 対する3人も来賓室に向かって歩き出す。これから話される内容にドキドキしながら、古葉とまほの二人も黒森峰の来賓室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 「...そうね、まずは遠いところご苦労様」

 

 来賓室に着き、まず話し始めたのはしほの方だった。今ここには3人しか居ないので"西住流の仮面"は取って話している。

 

 「あはは、どーも。まさかしほさんが出てくるとは俺も思わなかったけどねー」

 

 対して古葉もリラックスした状態で話しているようだ。

 

 「今日が来る日と分かっていましたから、予定を開けていたの。...まほの方は随分と待ちくたびれていたみたいだけれどね」

 

 「か、母様!!」

 

 しほの発言にまほは慌てて会話を遮る。普段取り乱す事のない彼女がここまで声を荒げるのは珍しい事だった。

 

 「それより、わざわざ3人だけにすると言う事は何か重大な用件なのでは無いですか?」

 

 直ぐに無表情に戻るも、誤魔化すように少し早口になって本題に入ろうとするまほ。そんな彼女に古葉も続く。

 

 「そうだね、それに俺まで呼んだ理由も知りたいし」

 

 古葉としては何故自分が呼ばれたのかが分からなかった。寧ろ重大な話をするのなら、"西住流"では無い自分はいないほうがいいのでは無いかと思っていたのだ。

 すると、しほの方もいつもの威厳のある顔つきに、西住流の仮面を被って話し始める。

 

 「...そうね、今回、賢介も呼んだ理由は貴方が"西住流"では無い事も大きな理由です」

 

 しほの言葉にまほと古葉の二人も心底驚いた表情になる。対してしほの方はそんな二人に構わずに本題に入る。

 

 「...前年、そして今年度の戦車道大会、黒森峰が優勝出来なかったのは知っていますね?」

 

 しほの直接的な言葉にまほはシュンとしたような顔になる。

 

 「...ええ、と言っても、2大会とも準優勝でしたが」

 

 そんなまほをフォローする様に古葉がそう付け加えた。

 

 「...西住流は勝利が全ての流派です。準優勝などと甘えた結果では許されません」

 

 一方しほは厳しい表情でそう断言する。こうなっては頑固一徹、話が通じないのは二人とも理解しているが故、口を紡ぐしかなかった。

 だがその次の言葉の内容に二人とも驚かされる。

 

 「...しかしそれよりも問題なのは負けた試合での内容です」

 

 しほの言う通り西住流とは勝利至上主義がモットーの流派である。勝利が全て。つまり負けを経験した事など片手で数える程しかないのだ。"欠点"と言うものはいざ自身が負けてからではないと気づかないものである。"何故勝てたか"より、"何故負けたか"の理由を考えた方が反省点、修正点は見つかりやすいものなのだ。その点では西住流の影響を色濃く受ける黒森峰と言う学校は"負けた数"が少な過ぎる。そしてそれは、潜在的に潜んでいた黒森峰の弱点を気付かなくさせてしまう原因にもなってしまったのだ。

 つまり"弱点に気付かない事が弱点"と言う特殊な環境が黒森峰には存在しているのである。

 

 「...西住流の弱点が出たってところかな、まあ今まではそれで勝てて来れたからね」

 

 そしてなんと古葉はそれに気付いていた。黒森峰ではなくわざわざ西住流と言う辺り、彼もこの問題を理解しているようだ。何より"たった2回の敗北"のみで弱点に気付く彼も相当である。対してまほの方も一層険しい表情になる。

 

 「...賢介も気付いていたか、流石だな」

 

 彼女としても黒森峰の弱点は理解していた。だが今の黒森峰では良い意味でも悪い意味でも西住流が根付き過ぎてしまっている。テコ入れをしようにも、一筋縄ではいかないのだ。

 

 「...私もまほも、その弱点に気付くまで、西住流の戦車道は完璧なものだと考えていました。...まさか自身のもう一人の娘に思い知らされる事になるとは思いませんでしたが」

 

 そう言うしほが弱点に気づいたキッカケ、それは紛れもなく今年の戦車道大会だった。決勝戦でもう一人の娘、西住みほに皮肉にも西住流の牙城を崩されたことによって、ようやく黒森峰の弱点を見つける事が出来たのだ。

 

 

 「黒森峰の弱点、もとい西住流の弱点は"想定外の事態"、"奇襲などのイレギュラーな作戦"に滅法弱い事です」

 

 

 ここでようやくしほは黒森峰の本質的な弱点を述べる。確かに去年の大会では優勢であったにも関わらず戦車が川に落ちると言う想定外の事態から一気に戦況が覆された。そして今年の大会では定石の戦法をことごとく覆して来た西住みほのユニークな作戦に一本食らう形になってしまった。

 常に隙が無い西住流の戦車道だからこそ、万が一生まれた隙につけ込まれた時に対処ができないのである。

 そこでまほはハッとしたような表情でなる。

 

 「...なるほど、だから母様は賢介を呼んだのですね」

 

 納得したように頷くまほ。一方古葉の方はまだ理解できてないようだ。

 

 「...どう言う事だい?」

 

 古葉は怪訝な表情でそう言う。

 

 「...賢介、西住流は変わらなければならない時が来たのです。ですがいきなり変わると言っても無理なのは承知です。私とまほはずっと西住流の戦車道しかして来ませんでしたから」

 

 そこまでしほが言うと古葉もハッとした表情になる。今回ここに呼ばれた理由、そして古葉自身が黒森峰でやらなければならない役割を今の会話で全て理解したのだ。

 

 「...なるほど、だから"西住流"では無い自分が呼ばれたんだね」

 

 納得した表情で古葉がそう呟く。

 

 

 

 「...相変わらず理解が早くて助かるわ。そう、今回の研修で貴方にお願いしたいのは、西住流とは違う"古葉流"、貴方の戦車道で黒森峰に良い刺激を与えて欲しいのです」

 

 

 

 しほの言葉にまほと古葉の二人は緊張した面持ちになる。

 普通に戦車整備をするより何倍も難しい注文を、古葉は頼まれたのであった。

 

 




 今作の西住しほは非常にマイルドな人間になっております。
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