ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

39 / 41
黒森峰編3 : 衝突

 

 研修開始から数日後、黒森峰での研修が思いの外、平和に始まった事に宮舞の生徒達は少し安堵していた。船が着く前の古葉の脅しもあって相当身構えていたのだが、今のところそう言った衝突も無しに各々、自分のやる事を淡々と無言でこなしている。そんな光景を二人の男女が格納庫の高台から見下ろしていた。

 

 「うーん、どうしたもんかねぇー」

 

 その一人、古葉の呑気な声が聞こえる。黒森峰での研修が無事始まったのは良いが早速一つの問題を抱えていた。

 

 「お互い会話が全く無いな。...まぁ黒森峰では男子高校生なんて初めて接する奴も多いんだ。距離感が掴めないんだろう」

 

 相変わらずの無表情で古葉の隣にいたまほがそう付け加える。序盤から浮き出た一つの問題。それは双方全く会話が無い事だった。いや、最初の方は宮舞の整備士達が必死に会話を繋げようとしていたのだが、問題があるのは黒森峰の生徒の方だった。

 今回はその一幕を紹介しよう。

 

 

 「よろしくお願いします!!早速ですけど戦車に触っても良いですか?」

 

 「え?あ、はい。どうぞ...」

 

 「ありがとうございます。その前に確認したいんですけど、ここはいじらないで欲しいってところとかあります?」

 

 「え、いや、特には無いと思います...」

 

 「そ、そうっすか...後で動作チェックとかもしたいんで動かし方を教えて貰っても良いですか?」

 

 「...別に構いませんが...」

 

 「え、えっと...や、やっぱり良い戦車っすね!!ドイツ戦車って!無駄なところが無いと言うか、洗練された感じで!!」

 

 「はぁ、その...ありがとうございます...」

 

 「えぇ、とっても...」

 

 「...」

 

 「...」

 

 

 大体こんな感じである。黒森峰の生徒としては初めて会話をする男子高校生と言う生物にどう接して良いのか分からないのだ。そして余りにもコミュニケーションが下手な黒森峰の生徒達に宮舞の整備士達もどう対応して良いか分からず距離を置いてしまう。

 こう言った経緯から宮舞は宮舞の生徒同士だけで、黒森峰は黒森峰の生徒同士だけで会話をしている状況が生まれてしまったのだ。

 不器用な生徒が多いと噂は聞いていたがここまで来ると困惑を通り越して笑けてくるところまで古葉は来ていた。

 

 「これならまだ衝突してくれる方が良かったかもねぇ。まほさんから言われた件もあるし...うーん、どうしたもんかねぇ...」

 

 こうなる事は古葉にとっても予想外だったようで、これなら言い合いでもなんでもしてくれた方がありがたい。まずは何かしらアクションを起こさないと、しほから頼まれた事はおろか、ただ黒森峰の戦車を触って終わる可能性だってあるのだ。

 お互いに意見を交換し合わないとこの"派遣研修"の意味が無い。

 「...その割には余り慌てて無いようだな。何か策でもあるのか?」

 しかし古葉の表情を見る限り焦っている様子は全く無い。まほがそう聞くと古葉は腕を組んで何か考えるような仕草をし始めた。

 「まー、何個か。まずはお互いにコミュニケーションを取ってもらう事から始めないとねー。...でも、今の状況を打破してくれるかも知れない人は見当が付いてるんだ」

 誰にも聞かれるわけでは無いのに大袈裟な仕草で古葉が小声でそう言うと、まほは感心したような、少し驚いたような顔になる。

 「...ほぅ、宮舞高校にはそこまで肝の座った人材がいるんだな」

 

 「いや、その人は宮舞(ウチ)の人間じゃ無いよ?」

 

 「.....え?」

 

 古葉の予想外すぎる回答にまほでさえも遅れて反応が返って来た。

 

 

 

 

 

 「ティーガーⅡの整備ですか?」

 

 「そそ。えっとんに頼みたいんだよねー。ほら、あそこに置いてあるやつ」

 

 古葉が"えっとん"と呼ぶ男にそうお願いする。えっとんと呼ばれたこの男は整備科2年の江藤。黒森峰までの船内で古葉に色々質問していた男である。

 

 「えっと、まだこの戦車に手を付けたばかりでかすけど...」

 

 そして彼は目の前にあるパンターG型と言う戦車を整備していた。これから本格的に中身を見ていこうと言うところで、古葉からこのように声を掛けられて困惑してしまう。

 「まあ、後でいーよ、それ。向こうの方がクセのある感じでねぇ、ちょっと難しそうだからえっとんに頼みたいんだ」

 続けて古葉がそう言う。言い回しといい相変わらず人の乗せ方が上手い男である。

 「俺に....わ、分かりました!!任せてください!!」

 江藤も古葉に上手く乗せられたのか、俄然やる気が出たようだ。しかしいきなり勝手に他人の戦車を触るわけにもいかない。

 「それで、あのティーガーⅡの車長さんはどこにいるんですか?」

 江藤がそう聞くと古葉は二人の少女がいる方を指差した。江藤も古葉が指差す方へ顔を向ける。

 

 

 「あそこ、西住隊長の隣にいる銀髪の子だよ」

 

 古葉の一言で、江藤の表情が一瞬にして引きつった。

 

 「あ、あと話しかけるタイミングは彼女が一人になった時の方が良いよ」

 江藤の顔がさらに引きつった。

 

 

 

 

 

 

 

 「...何の用かしら?」

 

 「い、いやー。逸見さんのティーガーⅡの点検をしたいんですけど、大丈夫ですかね?」

 

 あまりにも好意的では無い逸見の対応に江藤の顔が一層引きつる。初対面の人間ならもうちょっと猫を被ったり、愛想良く振る舞うものだが彼女にその考えは無いらしい。研修初日から宮舞の整備士にこのような態度で接するので江藤はここ数日間ですっかり逸見への苦手意識ができてしまっていた。

 逸見のストッパーでもあるまほが逸見から離れたタイミングで話しかけたのは、やはり失敗だったかもしれないと江藤は少し後悔する。

 

 「...いきなり来て何を言うかと思えば...そもそも貴方はパンターG型の整備をしてたでしょう?それとも、今やっている戦車の整備を放り出すのが宮舞のやり方なのかしら?」

 逸見の嫌味な言い方に江藤の心も穏やかでは無い。しかし古葉が船内で言っていた事を思い出して冷静に努める。此処で"衝突"してしまっては元も子もない。

 「...ええーっと...ちょっとクセがある戦車って聞いて...早めに見てあげた方が良いかと思って...」

 江藤の"クセ"と言う言葉を聞いて逸見の眉毛がピクンと動く。

 

 「...私の戦車にクセがあると?パンターGの整備も碌に出来ないくせに随分な事を言ってくれるわね」

 

 「...優先度を変えただけです。...勝手な事を言わないでください」

 神経を逆撫でするような逸見の嫌味に江藤も少し反論する。しかし逸見は態度を変えない。

 「信用ならないわ。そもそも此処は黒森峰で貴方達の出る幕なんて無いのよ。戦車を触らせて貰えるだけ有り難く思いなさい」

 あまりにも保守的。古葉の言っていたのはこう言う事かと心の中で納得する。だがそう合点がいくと江藤も冷静さを少し取り戻せた。

 「...しかし今回の研修は西住流家元の同意も得てやってます。貴女の個人的な理由だけでは西住流にも、そちらの隊長にも迷惑がかかると思いますが?」

 江藤の指摘が図星だったのか、逸見は面白くないような顔をして舌打ちをする。西住流、取り分け隊長の西住まほの名まで出されれば強く出れない。黒森峰の縦社会を象徴するような光景だった。

 「...本当に鬱陶しいわね。大体貴方達は整備は出来ても競技は出来ないじゃない。そこまで戦車道にしがみついていると滑稽にさえ思えてくるわよ」

 しかしそこまで言われても逸見は引き下がる気は無いらしい。逸見の鼻につく発言に、冷静であった感情が再び沸騰しそうになるも、江藤はグッと堪える。此処で噛み付いては古葉に迷惑が掛かると思い、何とか踏みとどまっているようだ。

 

 「...」

 

 「男ってだけで何もかも貴方達は下なのよ。この世界では」

 

 何も言わない江藤に調子付いたのか逸見が更に嫌味を浴びせる。何とか耐えている江藤だが次に逸見が言った言葉だけは見逃せなかった。

 

 

 

 「貴方達の隊長、確か古葉だったかしら?アイツも名門に生まれたくせに男ってだけで価値がないわよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャン!!と大きな音が聞こえる。その音は黒森峰の格納庫全体にまで聞こえる大きさで、その場にいた全員が音の方に視線を回す。誰もが驚いた表情を見せる中、一人の男だけは落ち着いた表情でゆっくりと音のした方へ顔を向けた。

 

 「お、始まったねえー。予想よりちょっと早かったかな?」

 

 まるで待っていたかのように古葉がそう言うと、ゆっくりとした足取りで音の出た方向へ歩いていった。

 

 

 

 

 「てめえ!!!さっきから聞いてりゃあ好き勝手言いやがって!!!!」

 

 「事実を言って何が悪いのよ!!!初日からそうだったけどアンタらチョロチョロしてて鬱陶しいのよ!!!!」

 

 言い合っているのは案の定、江藤と逸見の二人だった。今にも飛び掛かろうとするお互いを、江藤を宮舞の整備士が、逸見を黒森峰の履修者が必死に抑えている。

 

 「ちょっ!!落ち着け江藤!!!何があった!?!?」

 

 「ちょっとエリカ!!!アンタ一体何言ったの!?!?」

 

 その中でも江藤の剣幕は相当なものであった。今にも逸見に食ってかかりそうな勢いは、黒森峰の履修者達は愚か、宮舞の整備士達でさえもたじろぐ程だったのだ。

 

 「コイツ!!!知りもしねえクセに隊長の悪口を!!!!

っっ!!離して下さい!!!離せよ!!!!!」

 

 江藤を抑えている3年生の先輩に乱暴な口調になる程激昂している。そんな江藤に周りの黒森峰の履修者達が軒並み怯んでいる中、逸見はそれでも強気でいた。

 

 「うるさい!!!そもそもこの黒森峰にアンタらみたいな外様なんていらないのよ!!!勝手に他人の土台に上がり込んで一体何様のつもりよ!!!!」

 

 もはや収集が着かないくらいヒートアップしている二人。周りの野次馬が流石にオロオロし出した頃、何処からか聞こえてきた鶴の一声で、一気に格納庫が静まり返った。

 

 

 

 「貴様ら!!!!何をしている!!!!!此処は喧嘩をする場所か!!!!!!」

 

 

 

 

 声の主を聞いて黒森峰の履修者達は一瞬にして黙り込む。

 そこには未だかつて無いほど険しい表情をした西住まほが居た。

 

 「ぐっ!!コイツ!!!一発言ってやらないと気が済みません!!!!」

 

 しかし江藤はまだ熱が収まら無いのか、依然として逸見に飛び掛かろうとしている。

 

 

 「そこまで、えっとん。一旦冷静になりな」

 

 

 そんな江藤を我に帰らせたのは、古葉の声だった。江藤は声を聞くと、ようやっと冷静さを取り戻し、静かになる。

 

 そして後に残ったのは張り裂けそうなほどの緊張感。しばらくの沈黙の後、口を開いたのは古葉の方だった。

 

 「...まずは経緯を説明してもらおうか、そうだね。えっとん、頼める?」

 

 「..,はい」

 

 

 こうして言い争いになった経緯を江藤が話し始めた_______

 

 

 

 

 _____「...そう、江藤はこう言ってるけど逸見さんは何か言うことあるかい?」

 

 ことの経緯を江藤から聞き終わった古葉は、もう一人の当事者である逸見にそう聞く。

 

 「....」

 

 しかし逸見は黙ったままだ。

 

 「...逸見さんが何も言わないなら江藤の言った通りになるよ」

 古葉がそう言うと逸見はキッと古葉の方を睨み返す。そして今度は古葉の方へ敵意を剥き出しにして、ゆっくりと口を開いた。

 

 「...何故このタイミングなのかが、わからないからです...」

 

 逸見のあまりにも突拍子の無い発言に全員が目を丸くする。

 

 「...どう言う事だ?エリカ」

 

 そう聞いたのはまほの方だった。黒森峰の隊長である彼女さえ、逸見の言葉の真意が分からなかった。

 

 「...黒森峰は今まで宮舞の整備士達を受け入れなかったと聞いています。...それも二十年も。それはここまで何とか自分達だけででやって来たと言う、黒森峰の"誇り"があると思うんです。そしてそれは黒森峰の強さだと私は思っています」

 

 逸見の独白に何人かの黒森峰の履修者が感慨深く頷いている。そしてその仕草を古葉は見逃さない。

 

 「...今回もそうだと思うんです。...確かに黒森峰は2年連続で優勝を逃しましたが、それを自分達だけで乗り越えてこその黒森峰戦車道だと私は確信しています」

 明確な意思、信念を持ってそう逸見が力強く述べる。なるほど、この芯の強さこそが彼女の強みだと、古葉は感心していた。履修者達もそんな逸見の言葉が響いたのか、真剣に逸見の話を聞いている。

 

 「...別に宮舞の整備士達が嫌いとかそう言う理由じゃ無いんです。...でも、今の黒森峰の状態は自分達で何とかしなきゃダメなんです!そうじゃないと黒森峰の戦車道ではなくなってしまうんです!!」

 

 感情が溢れ出しているのか、逸見の言葉にも熱が入る。

 

 「なのにっ...!!どうしてこのタイミングでっ...!!貴方達が来るのよ!!!これは私達、黒森峰戦車道の問題なのよ!!!外野が口を挟まないで頂戴!!!!」

 悲痛な面持ちで古葉の胸ぐらを掴んでそう言う逸見。彼女の胸の内を聞いた古葉はこの娘が今回の研修のキーマンである事を確信する。そして古葉は冷静に、胸ぐらを掴んでいる逸見の手をそっと握った。

 

 

 「...逸見さんの言う事は分かったよ。確かに今の時期、君達にとっては俺らは邪魔な存在でしかないだろうね」

 

 

 「ちょっ、隊長!!」

 

 古葉の逸見の肩を持つような発言に江藤はギョッとする。

 

 

 「でもね、今逸見さんが話した黒森峰の信念があるように、俺ら宮舞高校戦車整備科も固い信念を持ってここに来ているんだ」

 

 

 古葉がそこまで言うと、逸見はハッとした表情になる。

 そして目一杯力を入れていた手の力を抜いて、ようやく古葉の胸ぐらから手が離された。

 

 「...今すぐ理解しろとは言わないよ。でも世間ってのは案外広いもんで、君達黒森峰の信念があるように、他にも様々な考え方、生き方、そして信念があるんだ。それはサンダースの信念。聖グロの信念。プラウダの信念。それぞれ違うのはお互いに試合をやり合って来た君達にになら分かるだろう?」

 

 古葉の言葉に皆頷く。自分の信念を貫く事も大事だが、それだけ見ていては世間を知ることは不可能なのだ。時には自分の知らない世界に飛び込む勇気も必要になってくる。

 

 「...だから無理に俺らのことを理解しろとは言わないけど、触れる事はして欲しいな。それで合わないと感じたら離れればいいし、合ったと思ったらそれはいい事じゃん?」

 

 古葉の話を聞いて、今までの自分を黒森峰の履修者達は振り返る。そこには心当たりがあるのか、余りいい表情をしていない者ばかりだった。

 

 「...まだ1ヶ月以上あるんだからゆっくりでいいよ。この派遣研修はもしかしたら自分の知らない世界を知るチャンスかも知れないんだ。...俺らにとっても、君達にとってもね」

 

 いつの間にか皆、古葉の話を真剣に聞いていた。この派遣研修の真の目的。それは宮舞がどうのとか、黒森峰がどうかとかではなく、自分の知らない世界を知っている人間から、学ぼうとする意識を身に付けろと言う事なのだ。

 そしてそれが心にスッと入って来たのは他ならない逸見だった。自身の勘違いが今になって身に染みたのか羞恥心から少し顔が赤くなる。

 

 

 ____キーン、コーン、カーン、コーン______

 

 

 

 それは逸見にとって救いだっただろうか、1日の終わりを知らせるチャイムがちょうど鳴る。時計の時刻は18時半を指しており、片付けをし始めないといけない時間になっていた。

 

 「ありゃ、もうこんな時間になっちゃった。悪いねー、いっぱい時間取らせちゃって」

 

 いつの間にか古葉はいつもの気の抜けた風に戻っていた。余りのギャップに黒森峰の履修者達がズッコケそうになる。元々は逸見と江藤の言い争いから始まったのだが、古葉にその意識は無いようだ。

 そしてようやく声を出すタイミングを掴んだのか、まほが口を開く。

 

 「...この後、黒森峰だけでミーティングする。片付けの後、ミーティング室に集合だ」

 

 まほも思う事があるのだろう。深妙な面持ちでそう言うと、黒森峰の履修者達の顔が強張っていく。

 

 「返事は!!!」

 

 「「「「は、はい!!!!」」」」

 

 そして迫力のあるまほの問いかけに、そそくさと黒森峰の履修者達も片付けを始めるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。