ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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模擬戦前

 

 派遣研修の希望アンケートの締め切りから3日が経ち、宮舞高校戦車整備科は今日も今日とて淡々と授業を進めている。

 だが今日の実習はいつもと違い、戦車の整備では無かった。格納庫では無く、広場のような場所に整備科のメンバーが集まっている。

 

 そしてその場所には、いつでも動ける状態にある戦車が並んでいた。

 

 「はい、くじはもうみんな引いた?じゃあ青のくじ引いた人は俺のチーム、赤引いた人は久我ちんのチームね」

 

 青空の下、仕切るようにそう言ったのは整備科3年の浅井だ。指示に従い赤チームと青チームに人が分かれて行く。分かれたのを確認すると浅井がまた話し始めた。

 

 「それじゃあこれから模擬戦を始めます。浅井の青チームはチト3両、チリ1両、チハ1両の編隊、久我の赤チームはチト3両、チリ2両の編隊です。ルールは殲滅戦で隊長はそれぞれ浅井と久我です。それでは各自配置に付き次第試合を開始します」

 

 そう、今日の整備科の実習は『模擬戦』である。

 整備科では半月に1度辺りの頻度で、学園艦に建てられた演習場でこのように模擬戦を行っている。これは実際に試合と同じ挙動を行う事で戦車へのダメージやその修理の仕方、リタイヤした戦車の処理の仕方などを学ぶものだが、当人達は本気で勝ちにいっているので本来の目的とは大分違ったものとなっていた。

 そんな中、別れて作戦会議をしている久我の赤チームは戦車に乗る前に円陣を組んでいた。

 

 「今日こそあの性根の悪いイケメンをぶちのめす!!!」

 

 久我がいつもより3割増しで眉間にシワを寄せ宣言する。只事では無い雰囲気に、チームも困惑していた。

 

 「久我さん今日はいつもより気合い入ってるっすね、どうしたんすか?」

 

 チームメイトの一人が久我に質問する。浅井と久我の馬が合わないのは整備科でも周知の事実なのだが、それでも今日はいつもより機嫌が悪い。

 

 「ケッ、お前ら知らんのか一昨日あった出来事を」

 

 「なんかあったんすか?」

 

 「あぁ、思い出しただけでも腹立つわあのアホンダラ」

 

 久我はブツブツと悪態をつく。

 それは一昨日の夜、寮のロビーの自販機で久我が飲み物を買おうとした時、ロビーのソファーで浅井が何やら手紙?のようなものを読んでいたので気になった久我が浅井に話しかけたのがきっかけだった。

 

 

 

 「おぅ、浅井、こんな時間に何しよるん?」

 

 「……あぁ久我ちん、実はこの手紙の返事を考えているところなんだ」

 

 そう返すと、浅井は手紙の封筒を久我に見せつける。そこには浅井くんへ♡と可愛らしい文字で書かれた便箋がいくつもあった。

 

 「………もしかして、それ全部女からの手紙か?」

 

 久我の不機嫌そうな声に、浅井は意地の悪い笑顔を浮かべた。

 

 「そうだね、去年の派遣研修先の女の子達からかな」

 

 久我の眉間に一層シワがより、側から見てもどんどん不機嫌になってゆく。もちろん久我はそんなものもらった経験はない。

 

 「また来てください、とかそんな類の手紙だよ。久我ちんだって一通くらい貰ってるでしょ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、久我の中のなにかがキレた。

 

 「おどれェ!ケンカ売っとんのか!?何が『一通くらい貰ってるでしょ?』じゃ!?そんなんもろうとらんし去年も一昨年もそんなん無かったわ!!!!」

 

 「なんだい、久我ちん、羨ましいなら一通あげるよ?」

 

 「いらんわアホ!お前宛ての手紙じゃ!お前が返せ!!」

 

 やはりこの男、口は悪いが根は真面目である。

 

 「そんな事言わずにさぁ、一緒に返事考えてよ?」

 

 「ファーーーーーーック!!!!!」

 

 

 

 ________________

 

 

 久我が事の端末を話し終えるとチームメイトは呆れ顔になる者が2割、同情する者が8割といった感じになっていた。

 

 「あぁ、話したらまた更に腹が立ってきたわ...」

 

 どんどんと機嫌が悪くなる久我に対してチームメイトも困惑していると内の一人が怒りを押し殺したような声で話し出した。

 

 「……許せねぇ、許せねえっすよ………!」

 

 怨嗟の篭った表情でそう言ったのは2年の前山だった。彼は『整備科一モテない男』と言うあまりにも不名誉なあだ名を付けられている。そんな彼が整備科一モテる浅井を逆恨みしないわけが無い。

 久我の話を聞いてふつふつと怒りに燃えていたのだ。

 

 「……前山」

 

 般若のような顔を浮かべる前山に久我は軟派な浅井に対して前山がこんなにも怒ってくれているのかと感動する。

 

 「今日は殲滅戦っすが俺には関係ないっす!俺は徹底的に誠さんを狙うっす!!モテる男は死すべきっす!!!」

 

 否この男、モテる浅井に対して嫉妬で狂っているだけである。そんなこととは露も知らず、勘違いしたままの久我はチームメイトを鼓舞する為に声を張り上げた。

 

 「ええかお前ら!今回の作戦は浅井誠を徹底的に狙え!!他の車輌は後回しでええ!!そして今回あいつをぶっ叩く意気込みとして返事は全て『ファック』とする!!!分かったかお前ら!!!!」

 

 「「「「は、はい!!」」」」

 

 「はい、じゃねえ!!ファックじゃ!!!」

 

 「「「「ファック!!!!」」」」

 

 何とも下品な作戦である。

 

 

 

 ______________

 

 

 

 一方、浅井の青チームは作戦ミーティングを終え、各自、各々の戦車へ向かっている。

 

  「おっすやっつん、調子どう?」

 

 すると、浅井が同じ青チームになった八潮に対して声をかけた。

 

 「まあ、ぼちぼちですね、リラックスはしてますよ」

 

 それを聞いた浅井は少し微笑む。

 

 「そりゃ良かった。最近やっつん元気がなかったからね。元に戻ったようでよかったよ」

 

 言葉通り安心したような表情を見せる浅井に対し、八潮も少し微笑む。

 

 「ありがとうございます、心配させたようですみません。もう解決しましたから」

 

 「そっか」

 

 そして浅井は自身のバッグから何かを取り出して八潮に渡した。

 

 「はい、これ新作だよ。最近元気が無かったから用意したんだけど、もう要らなかったかな?」

 

 そうして渡されたのは小さめの水筒だった。八潮はそれを受け取り礼を言う。

 

 「いえ、ありがたく貰っておきます。また緑茶ですか?」

 

 「うん、自分でブレンドしたんだ。後で感想聞かせてくれるかな?」

 

 「分かりました」

 

 浅井の趣味はお茶である。特に緑茶が好きで学園艦が寄港した時などは艦から降りてご当地のお茶っ葉を集めるのが趣味であった。ミーティング室には彼が集めた茶葉が沢山あり、このようにブレンドする事もあるのだ。

 

 「……ところで誠さん、また久我さんに何かしたんですか?」

 

 先程の久我の惨状を思い出したのか、困った様に軽く笑って浅井に尋ねる。

 

 「あー、一昨日の夜ちょっとねー」

 

 ケラケラと笑いながらそう言う浅井に八潮は軽く溜息をついた。

 

 「相当怒ってましたよ、久我さん、大丈夫なんですか?」

 

 「今回はちょっとやりすぎたかなー、まあ後々フォローしておくよ」

 

 実は浅井が久我をこうやっておちょくることは何度もある。

 どうにも反応が良いので、浅井も悪ふざけが過ぎてしまうのだ。その度に久我が逆上し、後々浅井が宥める光景は整備科の名物と言っても良いだろう。

 

 「……何度も懲りませんね」

 

 「アハハ、久我ちんはおちょくると面白いからねえ」

 

 そんなやり取りを見る限りこの男、かなり良い性格をしている様だ。

 

 「それよりやっつん、今年は何処の高校に行くことにしたんだい?」

 

 すると、浅井から唐突にそんな事を聞かれた。

 

 「派遣研修ですか?大洗女子学園です」

 

 少し誇らしげに八潮はそう返す。浅井はその言葉に少々驚きながらもすぐ愉快そうに笑って八潮の肩を叩いた。

 

 「はははっ、そうかそうか、大洗かい、それはまた面白いところを選んだねぇ」

 

 「まだ決まったわけでは無いですけどね。第一希望はそこです」

 

 「いや、隊長はやっつんを大洗に行かせるとおもうよ」

 

 「……分かるんですか?」

 

 予言するような浅井の言葉に、八潮は驚いた表情を見せる。

 

 「去年やっつんはマジノで大変な目にあってるからね、それを踏まえて隊長はやっつんを大洗に行くように仕向けたんじゃないかな?」

 

 ……言われてみればあのミーティング室で起こった出来事は隊長の掌の上で踊らされていたと言っても過言では無かったなと、八潮は思い返す。元々自分自身も大洗には興味があったが、それを見透かしたかのように古葉は言葉巧みに誘導していた。

 

 「はぁ...隊長にはいつまで経っても敵いそうにないですね……」

 

 そう言って八潮はガックリと肩を落とす。一学年違うだけなのに、こうも差を見せつけられると流石に落ち込む。

 「それで、誠さんの方は何処に希望したんですか?」

 

 今度は八潮に逆に聞かれ、それに浅井は一つ間を置く。

 

 「……んー、俺は今年聖グロにしたよ」

 

 ニコリと笑ってそう言うと、対照的に八潮は訝しむ様な表情に変わった。

 

 「……今度は聖グロの女の子達に手を出すんですか?」

 

 「ハハッ、俺信用ないなぁ」

 

 「去年の例がありますからね」

 

 浅井誠はモテる。それは事実なのだが、その度合いは群を抜いていた。

 去年、彼がサンダースへ派遣研修に行った時、全ての研修過程を終え、宮舞に帰る前日にお別れパーティーをする事となり、その席で事は起こったのである。

 

 何とその日にサンダースの女生徒5人からの告白を受けたのだ。

 

 八潮はこの話を同じくサンダースの派遣研修に行っていた前山に血涙を流されながら聞かされた話なので、よく印象に残っていた。今回の手紙の件も恐らくこれが関係しているのだろう。

 

 「今回はそういうのじゃないよ」

 

 尚も浅井はニコニコしながらそう言う。『今回は』という事は前回はそうだったのだろうか。

 

 「もちろんイギリスの戦車にも興味はあるけどそれよりも……」

 

 一呼吸置いて、何か面白がる様に、浅井は小声でこう言う。

 

 

 

 「……誰にも言ったこと無いけどね、聖グロにはちょっとした知り合いがいるんだ」

 

 

 

 それを聞いて俄然興味が湧いた八潮は深く聞き出そうとした。

 

 「それって………」

 

 「誠さーん!何やってるんですか、もう模擬戦始まっちゃいますよ!!」

 

 八潮の言葉を遮って少し遠くの方からチームメイトの声が聞こえる。

 どうやら待たせてしまっているらしい。

 

 「長話しちゃったね、これくらいにしとこうか」

 

 「あ、はい」

 

 そう言って浅井は早足に自分の戦車へと向かって行く。

 

 「じゃあ作戦はミーティングの通りだからよろしくね、やっつん」

 

 「はいっ!」

 

 最後にそんなやり取りをすると、八潮は気持ちを切り替えて自身の乗る四式中戦車に向かっていった。

 

 

 

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