ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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二人の来客

 模擬戦の始まる少し前、宮舞高校の校舎の来賓室に隊長の古葉の姿はあった。いつもの薄水色のツナギは着ておらず制服の姿だ。何故彼がここにいるのかというと、二人の客を待っているからだ。と言っても、その内の一人はもう来ているのだが。

 

 「本日はお越しいただいてありがとうございます。まだ少し時間があるのでお茶出しますんでそこのソファーにでも座っておいてください」

 

 古葉が丁寧な言葉遣いでソファーに座るように促す。それに対して客である少女はのんびりとした口調で答えた。

 

 「いえいえー、お構いなくー、お邪魔しているのはこっちですから。ってゆうか私たち同い年だよね?そんな硬い言葉使わなくても良いよー」

 

 「……そうっすか、角谷さんがそういうなら、そうします」

 

 そう。来客とは今年から新たに派遣研修先として追加された大洗女学園の生徒会長である角谷杏という少女だった。背は低いが立ち振る舞いが堂々としてるところは、さすが学園艦の生徒会長といったところだろうか。

 

 「それにしても広い学園艦だねー。男子校なんて初めて来たからちょっと緊張しちゃったよ」

 

 全く緊張感のない声で角谷が言葉を続ける。

 

 「悪いねー、ここの男どもは女というものに慣れてないのが多くてね、イヤな視線とかもあるかもしれないけど勘弁してくれな」

 

 来賓室に来るまでの出来事を察した古葉は申し訳なさそうにそう言った。

 

 「そうだねー、そういう時は古葉くんに守ってもらおうかなー」

 

 「ハハっ、善処するわ」

 

 ケラケラと笑い冗談を飛ばす角谷に対し、古葉も笑顔を作って言葉を返す。

 

 「もう一人は後もうちょっとで来るのと思うから少し待ってて。なにぶん多忙な人だから連絡が取りづらくてねぇ……」

 

 スマホの画面を確認しながら、古葉は再度申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

 「いやいいよー、あの人が忙しいのはウチも知ってるからねー、とゆうか古葉ちゃんもあの人と知り合いなの?」

 

 出会って10分も経ってないのにもうちゃん呼びである。

 

 「うちの母親が知り合いだったんだ。会うの自体は5年ぶりくらいかな」

 

 「ふぅん、そうなんだ」

 

 「まあ今回それが役に立ちそうなんだけどねー」

 

 意味深に言う古葉に角谷は首を傾げた。

 

 

 このようなやり取りをしながらしばらく話していると、ドアをノックする音が3回鳴り響いた。古葉は来たか、と思い少し大きめの声で応える。

 

 「どうぞ、入ってください」

 

 「失礼します」

 

 扉越しのその凛とした声の後、ゆっくりとドアが開き現れたのは古葉が待っていたもう一人の来客で間違いなかった。高めの身長に鋭い目つき、黒く長いロングヘアーの女性だ。その女性は部屋に入る前に振り返り、その後ろで控えていた人物に頭を下げる。

 

 「ここまでのご案内、ありがとうございました。ここからは結構なのでどうぞお引き取りください。」

 

 古葉も注視して後ろを見てみると目に映ったのは腰を低くしてぎこちない笑顔を浮かべていた宮舞の校長だった。校長は「は、はい分かりました」と言うと依然腰を低くしたまま古葉の方へ向かって行き、耳打ちをする。

 

 「古葉くん、この方は君も知っているだろう。……くれぐれも粗相のないようにな」

 

 角谷には迎えすらなかったのにわかりやすい人だな、と思いつつも古葉は小さく「分かりました」と応える。

 

 「では、私はこれで...」

 

 校長が来賓室から逃げるようにして出て行くと、古葉はやっと女性に向かって話しかけた。

 

 

 「お待ちしてました、そしてお久しぶりです、しほさん、いや、今は西住流家元と呼んだ方がよろしいですか?」

 

 

 そう、古葉が今回呼んだのはもう一つの新しい派遣研修先の黒森峰女学園の代表であり、西住流戦車道の家元、西住しほだったのだ。

 そして呼び方を聞かれた家元は

 

 「……どちらでも良いわ」

 

 と、ぶっきらぼうに短くそう答えた。

 

 この二人に来てもらった理由は他でもない派遣研修の件だ。ここで日程や整備計画、派遣する人数などを説明して最終決定をするという流れになる。

 他の高校とは電話やメールなどでそういったやり取りをするのだが、大洗と黒森峰は初めてという事でこうしてわざわざ二人が代表として来てくれたというわけだ。

 

 「説明は以上です。では日程としては両校とも10月の第一月曜日から1ヶ月半、という事でよろしいですか?」

 

 説明を一通り終え、古葉は2人に目を配らせて確認をとる。

 

 「うん、いいよー」

 

 「……ええ、分かりました」

 

 二人して同じ返事が返ってきた。返事を聞いた古葉は続ける

 

 「これで大まかな説明は終わりです、何か質問はありますか?」

 

 「うん、大丈夫だよー」

 

 「………一つ、いいかしら?」

 

 「………なんでしょう?」

 

 古葉は身構えるような気持ちで家元の言葉を待つ。

 そして、家元はその鋭い目を一層強いものにする。

 

 

 「………こちらには5名研修に来ると言う事ですが、その方達は信頼に足るる者なのでしょうか?」

 

 

 

 一瞬にして来賓室が氷に包まれた様な空気になった。確かに家元の言う事はもっともである。黒森峰は日本でも屈指の歴史を誇る西住流の戦車道を受け継ぐ高校だ。古い考え方もある程度根付いており、20年ほど続く宮舞の派遣研修を全て受け入れなかったように、黒森峰のOGは保守派の人間も多い。そしてそれは現在の生徒にも影響を及ぼしているかもしれないのだ。

 もしそうなった時、宮舞の方から下手な人材を送り込むと黒森峰の生徒たちと衝突する可能性は極めて高い。下手をしたら去年のマジノ女学院での事件より悲惨な事になるだろう。家元はそうなる事を危惧して古葉に対してこの様なキツイ言い方をしたのだ。そして古葉もこの事に関しては重々承知していた。

 しばらくの無言の後、古葉が口を開く。

 

 「……うちの整備士はヤワな鍛え方はしていません。家元の危惧しているような事が起こることはないかと」

 

 「その言葉を信じられるとでも?」

 

 家元の目つきが一層鋭くなり古葉を睨め付ける。あまりの緊張感に隣にいる関係のない角谷さえも冷や汗をかいていた。だが古葉は努めて冷静に、一冊の冊子と一枚の紙を取り出した。

 

 「これは?」

 

 家元が訝しむ様な表情を見せる。

 

 「これは本年度の整備科の成績記録です。今年の夏休みに入る前までの成績が全て載っています」

 

 まずは冊子を家元に渡し、そして古葉はすかさずもう一枚の紙を家元に見せる。

 

 「そしてこれは今回予定している黒森峰への派遣メンバーです」

 

 それは4名の名前が記載されている紙だった。家元はその紙と冊子を交互に見ながら熟考している。

 そして1分ほど経ったであろうタイミングで家元が口を開いた。

 

 「……一番上、整備班長の名前が記載されてないようですが?」

 

 古葉はその言葉を待ってましたと言わんばかりに少し目を薄める。

しかし家元にバレないようにすぐさま表情を戻す。

 

 「……そこには隊長である僕の名前を入れようと思います。家元の判断にもよりますがこれで信頼できる人選は出来たと思っています。何か不備がありますでしょうか?」

 

 

 ここで古葉は最大の切り札を使ってきた。

 西住しほにとってこの宮舞高校で唯一知っている人物が彼が子供の頃からの知り合いである古葉だ。

 人間は話したこともない人物より、話したことがある、その人を古くから知っている。という人間に信頼を寄せる。古葉はその『心理』を巧く利用して最高のタイミングで『自身』という切り札を切ったのだ。

 家元は目をつぶり、腕組みをする。そしてしばらく考えた後に目をゆっくり開き、古葉に伝える。

 

 

 「……分かりました。これなら問題ないでしょう。このメンバーで承認します。」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、強張っていた古葉の身体の力が一気に抜けた。そしていつぶりであろうか、自然な微笑みを浮かべる。

 

 「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 

 これにて大洗女学園と黒森峰女学園の派遣研修の予定が決定したのである。

 

 

 ____________

 

 

 資料を整理した後、古葉は立ち上がって2人にこんな提案をする。

 

 「これからウチの演習場で模擬戦をやります。その後模擬戦で使った戦車の整備もしますので良かったら見て行きますか?」

 

 古葉としては、宮舞が戦車整備だけでは無いと言うところも見せたい。問いかけに対し2人の表情を見ると角谷は好意的で、家元は相変わらず無表情だった。

 

 「うーん、じゃあ是非お願いしようかなー」

 

 表情通り角谷は興味津々に

 

 「……いえ、私はこれから別の仕事がありますので遠慮します」

 

 家元は全く表情を変えずにそう返す。

 

 「そうですか、では僕は家元をヘリの置いてある屋上まで送るので角谷さんは少しここで待っていてください」

 

 そこまで言うと、古葉と家元は席を立ち、来賓室から出て行く。

 

 「はいよー、いってらー」

 

 そして二人が出て行った後、一人になった角谷はソファーに深すぎるほど腰をかけて一言呟いた。

 

 「………あー、緊張した」

 

 

 ______________

 

 

 屋上へ向かう途中、しばらくは無言の二人であったが最初に口を開いたのは意外にも家元の方だった。

 

 「……戦車道、まだ続けていたのね」

 

 家元から声をかけられたのが意外だったようで古葉の反応が少し遅れる。

 

 「………ええ、僕は幼い頃からずっと戦車に囲まれてきましたから、今更離れろと言っても離れられません」

 

 「……今はそんな畏まった話し方をしなくていいわ」

 

 そう言われた古葉は少し驚く。が、すぐに笑顔になり家元に話しかける。

 

 「ありがとう、しほさん。そうだね、今俺はここの隊長をしてるんだけど結構楽しいんだよ?」

 

 「そう、それは良かった。久しぶりに見たからずいぶん大きくなっていて、会った時一瞬誰かわからなかったわ」

 

 「あはは、ひどいなーしほさん」

 

 その光景は先程の来賓室の一件からは想像もつかないほど温かいものだった。側からみたらまるで親と子が話しているように見えるだろう。

 

「まほとみほちゃんは元気にしてる?」

 

 そして古葉は話題を家元の娘たちに移す。その言葉に家元は少し言葉を詰まらせた。

 

 「……まほは元気よ、私と同じで感情表現に乏しいのは心配だけど。……みほは……」

 

 下の娘の話題を喋ろうとして、家元の言葉は完全に詰まった。

 

 「……まだ、みほちゃんが大洗に転校してから会ってないの?」

 

 古葉の言葉に、いつも無表情な家元の表情が心なしか暗くなっていた。

 

 「直接は会ってはいないわ、……いつかは面と向かって話さないといけないのは分かっているのだけれど……」 

 

 独白の様な家元の言葉を聞くと、困った様に古葉は笑う。

 

 「……しほさんは分かりにくいんだよ、みほちゃんを大洗に転校させたのだってウチの母親が関係してるんでしょ?」

 

 それを聞いた家元は目をつぶり、軽くため息をついた。

 

 「……やっぱり、古葉流に隠し事は難しいわね」

 

 

 ___________

 

 

 それから他愛もない話をしながら、屋上まで辿り着く。そこには、離陸準備の整ったヘリが用意されていた。

 

 「今日はありがとうございました。今度会うときは黒森峰の学園艦だと思います」

 

 先程とは一転、畏まった様子で古葉がそう言う。屋上では家元の従者が待っていたので話し方を元に戻していた。その言葉に家元も返す。

 

 「……こちらこそありがとうございました。では研修に関しましては予定の通りにお願いします」

 

 「分かりました、ではお気をつけて」

 

 それを聞いて家元がヘリに向かう。家元がヘリの足場に足を乗せようとした時、急に踵を返して再び古葉の方へ近づいて来た。何か伝え忘れた事があったのだろうか?古葉がそう思っていると、家元は従者に聞こえない声で古葉にこう言った。

 

 

 「どんな男になっているか心配だったけれどちゃんと成長しているようで安心したわ」

 

 「……え?」

 

 突然の出来事に古葉は目を丸くする。

 

 

 「これなら智恵子も胸を張って自慢してたでしょうね。……賢介なら安心して黒森峰を任せられるわ。……まほのこともね」

 

 

 ここまで言っても家元に言われたことが飲み込めず、惚けた様な表情を見せる古葉。

 それを見た家元は満足そうな顔をし、足早にヘリの方へと向かい颯爽と乗り込む。ヘリから古葉の事を見る家元の表情は、してやったりと言った顔をしている。

 そして轟音を立てて飛び立ってゆく。

 小さくなってゆくヘリを古葉は呆けた顔で見送っていた。顔をよくみてみると、耳まで真っ赤になっている。

 

 

 

 「……一本取られちゃったなー」

 

 

 

 ようやく言われた事を飲み込めたのか、恥ずかしそうに古葉はそう言う。

 古葉賢介18歳、心理戦は得意だが不意打ちは苦手なのだ。

 

 

 

 




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