ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科   作:キングコングマン

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模擬戦決着

 家元を送り終え、隊長の古葉と来客の角谷は場所を移し、演習場の外れに建てられた物見櫓に来ていた。模擬戦を見るためである。

 

 「いやー、さっきはどうなることかと思ったよ。古葉ちゃんよくあんな立ち回りが出来たねー」

 

 ケラケラとした笑いを浮かべながら角谷が軽口を飛ばす。

 

 「事前に準備してたからねー、まあ自分を切り札にするとは思ってなかったけど」

 

 古葉もいつものヘラヘラとした顔で言う。

 

 「そうだよー、せっかく古葉ちゃんウチに欲しかったのにさー、どうしてくれんのー?」

 

 どうやら先程の一件で角谷の古葉に対する評価はうなぎ上りらしい。わざとらしく口を窄めては文句を言う。

 

 「ハハっ、いや、元々俺は黒森峰に行くつもりだったんだ。……代わりにと言っちゃなんだけど面白い人材をそっちに送るからそれで良いかい?」

 

 面白がる様に古葉がそう言うと、角谷がそれに興味を持つ。

 

 「面白い人材?」

 

 「うん、そいつは2年生なんだけどね、ちょっと気弱なんだけど後一歩で成長できそうなんだ。大洗にも相性が良いと思うし行かせようと思うんだけど、どうかな?」

 

 それを聞いて、角谷は自身の高校の隊長の姿を思い返していた。彼女も最初は隊長とは思えないほど気弱で繊細だったのだ。

 そんな彼女と共通点があるということで、俄然興味が湧く。

 

 「そーだね、期待しておくよ」

 

 それだけ言って角谷は視線を模擬戦に移した。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 模擬戦はもうすでに始まっており、久我の赤チームは全車案の定、一輌の戦車だけを執拗に追い回していた。これだけ見ればフラッグ戦だがこの試合は殲滅戦である。

 

 「こんのっ!ちょこまか動きよって……!」

 

 五式中戦車に乗っている久我がイライラを募らせながら必死に蛇行しながら逃げる戦車へと食らいつく。彼が追いかけているのは浅井の乗っている四式中戦車は速度は両車とも互角なので、こうしてしばらく鬼ごっこを続けていたのだ。だが久我以外の4輌は操縦技術が足りないのか、かなり遅れをとっていた。

 

 「相変わらず久我ちんはしつこいなあ、なかなか離れないや」

 

 緊迫した状況の中、浅井はマイペースにそんなことを言う。

 

 「相変わらずじゃねえよ。どんどん詰められてるぞ、どうするんだ?」

 

 そう応えたのは浅井車の操縦士をしている柴原樹だった。

 

 「もうちょっと頑張って、そろそろだから。あ、あと車間は50メートル以上詰めさせないでね」

 

 「はぁ……無茶言いやがる」

 

 柴原は文句を垂れながらも弾に当たらまいと戦車を蛇行させながら車間を保つ。

 そうして浅井車は、演習場に仮に造られた、住宅地を模した道へと入って行った。赤チームも久我の後ろに続くようにゾロゾロと続いて行く。そして浅井はおもむろに無線を取り出した。

 

 《あー、こちら浅井、只今住宅地に入った。やっつんはポイントで待機しているかい?》

 

 《こちら八潮、準備は出来てます》

 

 無線に返事をした八潮の四式中戦車は現在どこにいるかと言うと住宅地の中の見通しの悪い十字路の南50メートルほど手前で待機していた。

 

 《了解、もう間もなく俺と久我車が西から東方面へ十字路を通過する。速度は両車30キロ、車間距離は50メートルほど、発砲のタイミングはやっつんに任せるよ》

 

 《……了解しました》

 

 浅井からの指示を聞いた八潮は目を瞑り、浅井車と久我車の車間距離、その両車の速度、自車の十字路までの距離、自車の砲弾の速度をイメージする。それら全てを頭の中で纏めると、ゆっくりと目を開けた。 

 

 全意識を十字路へと向ける。

 

 砲弾の音が段々と近づくにつれて八潮の集中力も高まっていく。そして十字路の脇の塀の一部が轟音を立てて崩れた直後、浅井の四式中戦車が駆け抜けていった。それを見た八潮はすぐさま心の中でカウントを始める。

 

 ...1...2...3...4...5...

 

 

 

「撃ぇ!!!!!」

 

 

 

八潮の号令により砲身から凄まじい音と速度で弾頭が発射され、それと同時に十字路に再び戦車が飛び出してくる。だがその戦車は先ほどの浅井車では無い。

 まるで照らし合わせたかの様に、八潮が発射した砲弾と久我の戦車が重なる。

 

 

 弾頭は一直線、久我車の履帯へと突き刺さった。

 

 

 「があっ!?!?」

 

 予期せぬ方向からの一撃に、久我は苦悶の声を上げる。そして横方向からの衝撃でバランスを崩した久我車は、スライドしながら急停止した。

 そこに後ろからついて来ていた戦車たちが玉突き事故のように次々と衝突してゆく。

 

 「よし!今赤チームは身動きが取れません!近づいてとどめを刺してください!」

 

 八潮車はこの機を逃すまいと玉突き事故を起こした赤チームへと近づいていき、次々と撃破していく。それはあっという間で、気付けば赤チームの4車輌が白旗を立てていた。

 

 《こちら八潮車、敵車4輌を撃破しました》

 

 無線で八潮が報告する。ここまでの戦果は初めてだったのか、少々興奮気味だ。

 

 《了解、大金星だね》

 

 報告を聞いた浅井も、自分の作戦がハマったのが嬉しいのか、満足そうにそう返した。

 

 《あー!ちくしょう!久我車戦闘不能!後ろの3輌もまとめてやられた!!》

 

 そして久我はキューポラの蓋を思いっきり叩きつけ、悔しそうに無線でそう言う。まんまと浅井の作戦に嵌められ、はらわたが煮え繰り返る様な思いだった。

 

 

 「……ふぅ……」

 

 八潮は一つため息をつきホッと胸を撫で下ろす。

 かなり博打的な作戦だったが、八潮自身こんなに上手く行くとは思っていなかったのだ。

 自分のした仕事に満足感を覚え、戦車の中で一度座り込む。

 

 _______だがそれは油断を生み、後ろから近づいてくるもう一つの戦車に全く気付かなかった。

 

 《やっつん!まだあと1輌いるよ!!》

 

 「...え?...!っっ!?!?」

 

 叫ぶ様な浅井の無線が聞こえた直後、八潮車は背後から凄まじい衝撃を食らった。そう、今回4輌は撃破したのだがまだあと1輌は生きていたのだ。

 その一両とは、

 

 《こちら前山車、チトを一輌撃破っす》

 

 久我の編隊から離れ、隙を窺っていた前山だった。久我車が住宅地に突入したタイミングで彼は浅井が十字路に戦車を待機させていると読み、編隊から外れて別行動を取った。それが見事に的中し、八潮車の背後を取ることに成功していたのだ。

 

 「いやー、上手くいったっすね。……誠さんの車じゃ無いのが残念っすけど」

 

 前山は自身の判断を自画自賛しながらも倒したのが浅井ではなかったので、少し残念がる。

 

 「まあ、やっつんを倒せたからいっか、このままモテる男も撃破っす!」

 

 調子に乗ったのか、満足げにそう言って前山は撃破した八潮車から離れていった。

 

 

 

 《……すみません、油断しました。八潮車行動不能です。》

 

 八潮は苦虫を噛み潰したような表情になって無線でそう報告する。完全に油断した自分の落ち度だ。

 

 《帰ったら後で反省会だね、まあ今回は大活躍だったからね。軽めにしといてあげるよ》

 

 《……了解しました》

 

 八潮からの返事を聞くと浅井は無線を切り、軽く深呼吸をする。

 

 

 「さあ、敵討ちと行こうか、前やんはすぐ調子に乗るから早めにお灸を添えないとね」

 

 

 そう言って浅井車はゆっくりと前進し始めた。

 

 

 ______________

 

 

 「形勢は青チームの方が有利だねー、青チームはまだ4輌いるのに赤チームはもう1輌だけになっちゃった」

 

 櫓から見ていた角谷がのんびりとした声でそう言う。

 

 「まあね、でも中々中身の濃い良い試合をしてると思うよ」

 

 同じ様な態度でヘラヘラとしながら古葉もそう返す。

 

 「へえ、そう言うもんなの?」

 

 「そう言うもんなの」

 

 角谷の疑問に古葉はそうオウム返しをする。

 実際古葉の言う通り、形勢は偏ってはいるが各個性が遺憾なく発揮されている試合であった。

 食い付いたらしつこく離さない久我。ズバ抜けた方向感覚と地図把握能力を活かして見事久我車を誘導した浅井。食らいつく久我車たちに一定の車間を保ちながら全弾を躱し続けた操縦士の柴原。状況の全てを計算し、一撃のみで形勢を偏らせた八潮。戦況を読み、相手の隙をついての攻撃を見せた前山。各々の強みは存分に出ていたのだ。

 

 「ん、赤チームの戦車のところに青チームの車輌が1輌むかっていったねー。……こういう時は4輌全員で行くもんじゃないの?」

 

 櫓から双眼鏡で観ていた角谷が古葉にそう尋ねる。古葉もその光景を見て少し驚いたが、少し考えるような素振りをして再びヘラヘラとした顔に戻った。

 

 「確かに、セオリー通りならここで全車であと1輌を叩くんだけどねー」

 

 依然、ヘラヘラしたまま言葉を続ける。

 

 「それは青チームの隊長に何か考えがあるんじゃないかな?」

 

 そう言って古葉は双眼鏡の視線を1両のみで前山車の元へ向かう浅井車に移した。

 

 

 

 _____________

 

 

 「……本当にウチの車輌だけで行くのか?」

 

 浅井車の操縦士である柴原が再度浅井にそう尋ねる。

 

 「うん、さっきも言ったように前やんはすぐ調子に乗っちゃうから、4輌全員で叩くよりこうして俺だけ行って叩いた方がショックが大いからね。言ったでしょ?お灸を据えるって、前やんをここで調子に乗らせない為にも完膚なきまでに叩かないとね」

 

 柴原はその言葉に納得しつつも深くため息をつく。

 

 「……はぁ、お前は本当にいい性格をしているな。前山が可哀想だ」

 

 「あはは、後輩想いって言ってよ」

 

 言っている事はえげつないのだが、表情はニコニコとしている。この男の腹黒さは相変わらずであった。

 

 

 浅井車が仮の住宅地を出ると、両側を土壁に囲まれた戦車1輌半ほどしか通れない切り通しの道に出た。

 

 「どうする?待ち伏せされてたらまずいぞ?」

 

 柴原が浅井にそう言う。対して浅井は一度キューポラから頭を出し、周りの地形や景色を確認し始めた。

 

 「……いや、このまま行こう。ここじゃ待ち伏せしてもあまり効果が無いからね」

 

 車内に戻って浅井がそう言うと、短く「……了解」だけ返し、柴原は戦車を切り通しの中に進めて行く。

 前方に戦車の気配は無い。ここには敵車は居ないのだろうか?

 

 そんな事を考えていると、浅井車の履帯付近の地面が轟音と共に抉れる。

 

 「モテ男発見!!さあどんどん撃つっす!覚悟して下さい!誠さん!!」

 

 浅井車の背後から調子に乗っている男が出現してきた。

 

 「……なるほど、後ろね」

 

 不意打ちを食らった形にも関わらず、浅井は落ち着いている。前山車はここぞと言わんばかりにありったけの砲弾を浴びせて行く。本来一本道でスペースの無い場所。しかし放たれた砲弾は柴原の操縦技術で全て躱される。

 

 「わかりやすいねえ前やんは、そんな闇雲に打っても当たんないよ、ノッポ、そのまま切り通しに突っ込んで」

 

 浅井は依然として慌てることなく柴原に指示を出す。

 

「了解」

 

 短くそう返事をした柴原は全速で切り通しに突っ込んでいった。

 

 「逃げるつもりっすか!?逃さないっす!前進!!」

 

 八潮車を撃破し、気分が有頂天になっていた前山は深く考えずに追撃の指示を出す。再び追いかけっこの形になり、それを確認した浅井が砲手に指示を出す。

 

 「砲塔、右上に斜角20度」

 

 「「「!?」」」

 

 浅井の指示を聞いたメンバーはギョッとした顔になる。

 なぜなら砲身の先の指す位置はただの切り通しの土壁だったのだから。浅井は砲身がちゃんと指示通りに動いたのを確認すると短く説明する。

 

 「ここの土壁は脆弱でね、今回はそれを利用させてもらうよ」

 

 それを聞いた柴原は浅井のやろうとしてることを理解し、さらに速度を上げる。

 

 「……まだだよ…まだ……」

 

 浅井はタイミングを見計らう。そして浅井車が切り通しの急な坂道に差し掛かった瞬間、

 

 

 「撃て!!!」

 

 

 と叫んだ。

 声と同時に砲弾が発射され、切り通し側面の上部を直撃する。そして着弾した場所から軽い土砂崩れが起きはじめ、浅井車に襲いかかる。それを見た柴原は車体を時速40キロを出しながら左側ギリギリまで寄せる。

 

 ーーガガガッッ!!!

 

 右側の履帯に土砂を擦らせながらも全速を出している浅井車はなんとか土砂崩れを突破する。だがその後ろから迫っていた前山車にはなす術も無い。

 

 「ええ!?ちょ、まっーーー」

 

 前山車は浅井車と同じ時速40キロを出しながら土砂へと突っ込んで行く。そして聞いたことのないような物凄い音を立てて前山車はストップした。しばらくして前山車は黒煙を上げながら白旗が上がる。

 

 これで赤チームの戦車は全てリタイヤした。

 

 

 

 「……ふぅ、なんとか成功したようだね、良かった良かった」

 

 浅井が汗を拭い一息つく。

 

 「……何が良かっただ、かなりの綱渡りだったじゃねえか」

 

 柴原も脱力しながら悪態をつく。

 

 「まあ上手くいったんだから良しとしてよ、ノッポだっていつもの隊長の指示じゃ無かったから新鮮だったでしょ?」

 

 浅井の言うように本来柴原は浅井車の操縦士ではなく、隊長の古葉車の操縦士なのだ。そう聞かれた柴原は少し間を開けてこう言った。

 

 

 

 「……隊長の足元にも及ばねえよ」

 

 

 

 短くそう言う柴原に

 

 「……ははっ、やっぱりそうかい?……」

 

 浅井は哀しい顔でそう応えた。

 

 「……それより浅井、撃破報告」

 

 柴原が浅井に催促する。

 

 「ん?ああ、そうだね」

 

 ハッと我に返った浅井は無線機を口に近づけて戦況報告をする。

 

 

 

 《こちら青チーム浅井、赤チーム最後の1輌を撃破、これにて模擬戦を終了します》

 

 

 

 模擬戦の結果は自チームの戦車4輌を残して青チームの完勝に終わった。

 

 

 

 




戦車戦描写って難しい。
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