ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
模擬戦が終了し、全車輌を格納庫に持ってきた時点でもう時刻は午後5時を回っていた。
ここからが本番。戦車戦で消耗した戦車を、自分達の手で元に戻さないといけないのだ。そして古葉と角谷を含む全員は宮舞高校の格納庫に集まっている。
「悪いねぇ角谷さん。本来なら整備するところも見せたかったんだけど、1輌こっち持ってくるのに手間取っちゃってね」
古葉が申し訳なさそうに角谷に対してそう言う。本来なら古葉としては整備も見て欲しかったのだが、生憎時間がそれを許してくれなかった。
「いいよいいよー、その代わり古葉ちゃんにしっかり楽しませてもらったからねー」
角谷はいつもの軽い感じでそう返す。
「そりゃよかった。大洗への船の出港時間までもうすぐだね、校門まで送るよ」
「そー?じゃあお願いしようかなー?」
角谷はその提案に乗り、二人は格納庫を後にしようとする。
すると回収した戦車たちの方から声を上げて走ってくる男がいた。
「隊長ー!誠さんが虐めてきたっすー!!」
情けない顔をしながらそう言って来たのは、今回の模擬戦で一番悲惨なやられ方をした前山だった。
「おー、観てたよ前やん、随分なやられ方をしたねー、怪我が無いようで良かったよ」
ケラケラと愉快そうに笑いながら古葉はそう言った。
「笑い事じゃないっすよー!あれの整備自分たちで全部やんなきゃいけないんすからー!!」
そう言って前山は自身の戦車を指差す。
ここ宮舞高校戦車整備科では、模擬戦で損傷した戦車は全てその車輌に乗っていた人員が整備しなくてはいけないというルールがある。
今回の模擬戦での前山車は遠くから見ても分かるほど損傷が激しかったのだ。
「かなりいったねー、どんぐらいかかりそう?」
古葉がそう聞く。
「両履帯、砲塔、前面装甲、副砲、前方の車輪は全部ダメっすね、全交換っす。そのほかにもエンジンや車底に土砂が大量に混じってるっぽいんでそれのオーバーホール、全部終わる頃には4日後くらいになるっすね...」
指を折りながら被害報告をする前山。修理箇所を上げるたびにどんどん肩を落として暗くなる。
「……ってそんな事より!!」
暗くなったと思ったらいきなり顔を上げ、声を荒げて古葉に詰め寄る。テンションの上下が激しい男である。
「隊長の後ろにいる女の子は誰っすか!?……まさか彼女!?誠さんに続いて隊長まで俺を裏切るんすか!?」
いつのまにか裏切っていた事になっていた浅井に同情の念を送りながらも古葉は少し困った顔をする。
「アハハ、違うよ前やん。この人は新しい派遣研修先の大洗の生徒会長さん。これでも年上だからちゃんと挨拶しろよ?」
「えー、これでもってひどいなー古葉ちゃん」
古葉の冗談に角谷も軽い感じで返し、古葉の脇腹をつつく。
「……むっちゃ仲いいじゃないっすか!ちゃん付けとかしちゃって!」
「角谷さんも冷やかすのはダメだって、それより前やん、挨拶。」
古葉は前山が面倒くさくなる前に挨拶する様に促す。
「あ、スンマセン……えっと宮舞高校戦車整備科2年の前山翔吾っす。よろしくお願いっす!」
「ウチは角谷杏、古葉ちゃんが言った通り大洗の生徒会長だよー。
よろしくねー」
角谷は笑顔で手をひらひらさせながらそう言った。
「へぁうっ……!!」
それを見た前山は奇妙な声を上げて顔を赤くする。この男、女というものに全くと言っていいほど免疫がないのだ。
そして心を射抜かれ、訳のわからなくなった前山は、暴走をし始める。
「角谷さんっすね!生徒会長っすか、すごいっすね!因みに俺はここの整備科ではかなり成績の良い方なんすよ!それで今日の模擬戦なんすけどね!今日は運悪くカッコ悪いところ見せちゃったっすけどいつもならもっとバンバンと敵を倒していくんすよ!あ、因みに俺は4月3日生まれで血液型はB型っす!後趣味は...いでっ!!」
マシンガンのように喋る前山に対して古葉が頭に軽いゲンコツを食らわした。
「前やん、ストップ。角谷さん困ってるっしょ」
「……スンマセン、つい」
古葉に咎められ、前山が再びションボリとする。
「あははー、面白い子だね」
しかし角谷にとっては好感触だった様で、受け流すように笑顔でそう応えた。
「もうフェリーの時間が近づいているからここまでだよ。さあ、前やんも整備に戻って」
古葉が前山に整備に戻るように促す。
「了解っす。……さっきはスンマセンでした、角谷さん」
そう言った前山は深く一礼して走って戦車の方へ戻っていった。
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「さっきはごめんねー、前やん……前山も悪気があった訳じゃ無いんだけどねー」
場所は変わって校門。古葉は角谷に対して再び平謝りしていた。
「いいよいいよー、面白かったし」
角谷は気にしないと言った風にそう答える。
「はぁ、アレさえ無ければ前やんも少しはモテるだろうに」
古葉はため息をついて苦笑いする。
「前にもそんなことあったの?」
「まあ、去年の派遣研修でね」
「あー、なるほどねー」
角谷は納得したような顔をして相槌を打った。
そう、前山は去年の派遣研修先のサンダースで先程の醜態を向こうの生徒に対して連発し、全て玉砕していったのだ。そしていつしか『整備科一モテない男』という不名誉な称号を付けられてしまっていた。
余談だがそのせいで浅井の方に告白が偏ったのは前山には内緒である。
「あの子が古葉ちゃんの言ってたこっちに送ってくる面白い子かなー?」
古葉から気が弱いと聞いていたので多分違うが、一応角谷は聞いてみる。
「いや、送るのは今日の模擬戦で4輌を撃破した子だよ」
「……そっかー、それは期待できそうだね」
角谷は不敵な笑みを浮かべて、それだけ返した。
_____ボォーーー______
すると、汽笛の音が校門にも鳴り響く。どうやら迎えの船が来たらしい。
「お、来たね。じゃあ、派遣研修、期待してるよー?」
「こっちこそ、大洗の戦車道がどんなもんか楽しみだよ」
そんなやり取りをしながら、角谷は校門を後にする。
「あ、そうだ」
すると、何かを思い出したかの様に、角谷は再び古葉の方へ振り返った。
「……最後に一つだけ質問いいかな?古葉ちゃん」
「ん、何かな?」
少し真剣な表情に変わり、角谷は古葉を見据える。そして古葉にとってはあまり触れられたく無い話題に角谷が切り込んだ。
「古葉ちゃんのお母さんって、戦車道やってた?」
それを聞いた古葉は内心かなり驚く。だが表情に出さまいと冷静を保つ。
「……どうしてそんなこと聞くんだい?」
「いや、母親が西住流家元と知り合いって言ってたから何か関係あるのかなーって」
古葉は来賓室で言った事を内心後悔していた。だが依然として表情には出さない。
「……うん、昔はやってたよ」
短く、それだけ返した。
「そっか。変なこと聞いてごめんねー、じゃあそろそろ行くから派遣研修の件、予定どーりによろしくー」
角谷はいつもの不敵な笑みに戻って校門と古葉を背に歩きながらそう言った。
「……うん、こちらこそよろしくねー」
少し間を開けて古葉もそう返す。声色こそ穏やかだったが表情は険しい顔だった。
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古葉が格納庫に戻り、各車の被害状況を聞いて回っていると時刻はもう午後7時を回っていた。古葉はすぐさま拡声器を取り整備員たちに声を掛ける。
『模擬戦お疲れさん、戦車の整備はもう明日でいいからそろそろ撤収を始めてなー』
「「「「はい!!!」」」」
そう言った整備員たちはすぐさま撤収を開始する。
各々が撤収をしている中、古葉に話し掛ける男が一人。
「隊長、ちょっといいですか?」
それは、自身の整備用具を片付け終え、手ぶらになっていた八潮だった。
「おー、やっつんか、今日は大活躍だったねぇ、最後に油断したのが惜しかったけど」
古葉が八潮の肩を叩いて笑いながらそう言う。
「もう、それは誠さんにこってり絞られたんで勘弁してください……」
浅井との反省会ですっかりとダメージを受けたのか、ゲンナリとした顔で八潮はそう言った。
「あははー、まこちんも相変わらずだねえ、そういややっつんの戦車の被害状況は聞いてなかったね、大丈夫そう?」
「後ろからやられたんでエンジン系統が全てお釈迦です。全部取っ替えて大体あと2日は掛かると思います」
「りょーかい」
古葉は報告を聞いて短くそう返した。
「それより隊長、さっきいた女の人は誰ですか?」
それを聞いた古葉は少し驚いた表情になる。八潮から話しかけられた本題はこっちらしい。
「珍しいね、やっつんがそんな事聞くなんて、前やんに影響されちゃったかな?」
「はぁ、あんなんと一緒にしないでください。……まあただ、普段滅多に女性なんて来ないんで気になったのは事実ですが」
ため息をついて八潮は心外だと言わんばかりにそう言った。
「ごめんごめん、あの人は大洗の生徒会長さんだよ」
それを聞いて八潮は少し驚いた顔になる。
「そうですか、挨拶しておけば良かったですね」
「いや、やっつんが大洗に行った時にまたしとけばいいよ」
「……僕が大洗に行く事は決定なんですね」
八潮がやっぱりか、とゆうような顔をしてそう言った。何となく勘付いてはいたが、フライングを決められて少々肩透かしを食らう。
「あははー、ネタばらししちゃったね。そう、今年はやっつん大洗だよ。明日全員分の派遣先を発表するからこの事はそれまで誰にも内緒ね」
ヘラヘラとそう言う古葉。それに対して、
「そうですか、それは楽しみですね」
八潮も笑顔でそう答えた。
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模擬戦の翌日、場所は変わってここは大洗の学園艦。宮舞から帰ってきた角谷は学園の資料室に来ていた。彼女には宮舞から派遣研修の話が来る前に『古葉』と言う名前に見覚えがあったからだ。
時は遡って今年の春、学園が廃止されると通達され、角谷はこの状況をどうにかしようと、血眼になって学校の古い資料を漁っている時だった。
とっくに廃止された大洗の戦車道に関する資料の中から、一枚の古い写真が現れたのだ。そこにはⅣ号戦車H型のキューポラから腰ほどまで体を出して首にメダルをかけ、こちらを向いて笑っている女性の顔が写っているものだった。そしてその写真の裏には、
『19××年 8/20 優勝時 古葉隊長』
と手書きの文字で書いてあった。
この時の事を角谷は思い出してこうしてまた資料室に来ていたのだ。だが今回の目的はその戦車道の資料ではなく、ここ大洗を出た全学生のデータが載っている卒業生資料集だった。
「あった、これだ」
膨大な数の卒業生資料集の本の中から角谷は少し埃の被った一冊を手に取る。それにはあの写真の裏に書いてあった西暦と同じ
『19××年度 県立大洗女子学園 卒業資料」
と書かれていた。
角谷かそれを開いて20分程経った頃だろうか、角谷の目に一人の顔写真が留まり、一息つく。
「ふぅ、やっと見つけた。思ってたとーりだ、やっぱ目元なんかは古葉ちゃんににてるかな?」
その顔写真は髪を後ろにまとめたポニーテールの女性が写っていた。角谷が春に偶然発見した写真と同じ顔である。
そして顔写真の下には、『古葉智恵子』との文字が記してあった。
因みに前やんこと前山のモデルは作者の友達だったりして