ガールズ&パンツァー 宮舞高校戦車整備科 作:キングコングマン
派遣先の発表から翌日、今日の宮舞高校戦車整備科は午前中に座学を受けていた。彼らだって普通の高校生。一般教科の授業も勿論受けるのである。数学教師の眠くなるような声を聴きながら何とかそれを乗り切り、時間は小休憩に入っていた。3年生のとある教室では整備科の二人が何やら会話をしている。
「よお、いもりー、爆睡だったな」
「……なんだ、シマタクか、しょうがないでしょ」
いもりーと呼ばれたこの男は本名を井森陽太と言う。整備科3年で、のんびりとしたポヤっとした性格で、癖のない黒髪は長め。肌は透けるように白く、線も細い、陽太という名前とは程遠い容姿をしていた。そんな彼は超が付くほどの低血圧であり、こうして午前中に座学がある時は寝ていることが多いのだ。
そしてもう一人、シマタクと呼ばれたこの男は飯島拓哉と言う。同じ整備科の3年で井森とは対照的に浅黒く日焼けした健康的な肌に毛先に少しパーマのかかった髪、そして何より彼は整備科きってのムードメーカーなのだ。こうやって眠そうにしている井森に話しかけられるのも、彼の性格なのだろう。
そして飯島が眠そうな井森に構わず話しかける。
「お前が朝弱いのはみんな知ってるわ。そんな話をしにきたんじゃねーよ。お前今年の派遣先、継続だったよな?しかも班長で」
「……うん、それがー?」
井森が依然として眠そうに答える。
「それが、じゃねーよ。今年の【苦労人枠】はお前だって事だ。俺も去年継続に行ったがありゃカオスだぜ、まともな戦車なんざ1輌も居ない」
継続高校への派遣研修はもう10年以上続いているが、ここの高校への希望者は毎年少ない。何故ならここは各国の戦車が混ざった混成軍であり、それはドイツ戦車、ソ連戦車などが主だ。だがそこは問題では無い。
この高校の一番厄介なところは戦車を【勝手に改造】しているところだった。例を挙げればキリがないが、例えばソ連製の戦車にイギリス製の榴弾砲を載せたり、エンジン、履帯などの下半身はドイツ戦車なのにキューポラ、砲身などの上半身はフランス戦車。などといったなんとも整備士泣かせの高校なのだ。加えてここの生徒は自由奔放な者が多いので気苦労も多く、毎年ここに派遣される整備士は【苦労人枠】と呼ばれ、一種のハズレ扱いをされているのだ。
「まー、いろんな戦車に触れる。と思えば儲けもんでしょ」
少し目の覚めた井森が困ったよう笑ってそう言う。
「とゆーか、シマタクだって今年はマジノじゃん。大丈夫なの?」
井森は飯島に対してそう続ける。
「まあ今年は大丈夫だろ、去年あんな事があったし、向こうも相当気を使って来るだろうしな」
「隊長も万が一の為にシマタクをマジノに送ることを決めたんじゃない?」
「そりゃ嬉しいこった」
飯島が皮肉を込めた笑い方をしてそう返す。
そんな二人が話し込んでいると、その後ろから大きな影が一つ現れた。
「よお、お二人さん。派遣研修の話か?」
低い声が特徴的なガッチリとした体格の男が二人に話しかける。
「あ、ケンゴー、おはよー」
「はっはー!もう10時だ。いささか起きるのが遅いのではないか?
井森よ」
ケンゴーと呼ばれた男は快活に笑う。この古風な喋り方をする男は名を福井健剛と言う。彼も整備科の3年生で、180近い身長で体格はしっかりとしており、髪は、坊主頭に近いスポーツ刈りをした、正に古き良き日本男児といった風貌の男だ。
「ケンゴーは知波単だったな、お前に一番合ってんじゃねぇのか?」
福井に対して飯島はそう言う。
「ああ、知波単の生徒は堅実で生真面目な生徒が多いと聞く。そのような女性のほうが俺としてもやりやすいのでな。隊長に感謝せねばな」
「へっ、羨ましーね。希望が通ったよーで」
飯島が拗ねるようにそう言う。
「そんなに僻むな、飯島よ。お前だって一年の頃は第一希望が通っていたではないか」
「その次が【苦労人枠】だったからな。今回もそんな事になんなきゃいいんだけどよお」
愚痴る様な飯島の言葉に、福井が少し真面目な顔になる。
「それはお前次第だ。今回は班長なのだからな。それを言ってしまえば2年生で班長になったあの二人の方が気苦労が多いだろう」
「あー、やっつんと前やんだねー」
井森がのんびりとした声でそう付け加える。
「あぁ、あの二人か、やっつんはまあ、あり得なくも無いと思っていたが前やんは意外だったな。隊長はどういう意図であいつらを班長にしたんだろうな?」
飯島も思い出したようにそう言う。
「さあな、隊長の事だ。何か考えがあってそうしているのだろう。俺らには到底判らぬ事だ」
対して福井は目をつむり、難しい顔をしながらそう言った。
するとこのタイミングで授業開始のチャイムが鳴る。
「お、もうこんな時間か、戻ろうぜ」
飯島がそう言うと
「うん」
「うむ」
と二人も頷き、それぞれの席に戻っていった。
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午前の授業が終わり、整備科の面々は格納庫に行っていつものように戦車整備を行なっていた。時刻は午後2時を過ぎた頃である。そして格納庫の端に造られているミーティング室では、二人の男がいた。
「納得いかないっすよ!俺は今年こそ聖グロだと思ってたのに!!
それはまだいいとして、何で2年生の俺が班長なんすか!?もっと良い人いたでしょう!!」
そう言って激しく抗議をしているのはアンツィオの整備班長になった前山だった。
「まあまあ、落ち着いて前やん、これには深ーい理由があるんだ」
そして何かの書類に目を通しながら、言い詰められている古葉はマイペースにそう返す。
「理由つったって早めに言って欲しいっす!!!」
マイペースな古葉に前山はさらに激しく抗議する。
「ああ、ごめんごめん。そんなに怒るとは思わなくてさぁ」
尚もケラケラとそんな言葉を返す古葉に対し、前山は大きくため息をついた。
「……はぁ……もういいっす。……それで、なんで俺がアンツィオなんすか?」
「ああ、それはね、前やんは去年サンダースだったっしょ?」
「そうっすけど?」
前山はいきなりの去年のことを引き合いに出され、目を丸くする。
「今のサンダースの隊長さんが前やんの整備を絶賛してたんだ。『あの子は変わったところもあるけど、整備の質は一級品だ』ってね」
そう、座学がからっきしなので霞んではいるが、前山の戦車整備の腕は宮舞の5本の指に入る程質の高いものだった。
それを聞いた前山は険しい顔から一転、心底嬉しそうな顔になる。
「マジっすか!やっぱ分かる人には分かるんすねー」
そしていつものように直ぐに調子に乗り始める。
「今年もその隊長に前やんに来るようにお願いされたんだけど、ウチのルールじゃ一度行ったところはもう研修には行けないからねぇ、そこでアンツィオに白羽の矢が立ったんだ。あの高校は最近、いきなり戦車道が活発になったのは知っているね?」
「はい、去年はたしか履修者が20名も居なかったって聞いてたっす」
「だけど今は40名以上にまで増えているらしい。戦車道を初めて経験する人間だって少なくは無いと思うよ。そうすると何が起こるか分かるかい?」
「えっと……」
古葉の質問に前山は来ると思っていなかったのか、慌てて理由を考える。
新しい人、つまり戦車に対して知識が全く無い人が集まるわけで、そうなって来るとまず最初に問題となるのが【整備】なのだ。車と同じように戦車も動かすのはある程度練習すれば出来るが、戦車整備となると一朝一夕で身につくものでは無い。
そして前山が以上のことを踏まえてある結論を出す。
「……整備する人がいないから戦車の質がどんどん悪くなるって事っすか?」
それは前山からすれば余り考えたくないことだった。好きな戦車たちがただ乗り潰されていくのを見るのは、整備士としてはあまり気持ちの良いものではない。
「うん、そのとーり。実は今回、アンツィオへ派遣する人間は整備の質が高い人ばっかを集めたんだ。そして前やんにお願いしたいのはただ戦車の整備をするだじゃなくて、アンツィオの生徒さんたちに戦車整備のノウハウも教えて貰いたいんだよね」
それを聞いた前山は納得したようにうなずく。
「……なるほど、自分がアンツィオに行くことになった理由は分かったっす。でも何で俺が隊長なんすか?」
そう言う前山に古葉は何だそんなことかと言うような意地の悪い笑顔を浮かべた。
「だって、そっちの方が面白そうじゃん」
前山が隊長になった理由はあまりにも下らなかった。