俺は煙草を吸いながらあることを考えた。一人では寂しいからペットを飼うのもいいんじゃないのか、と。先月までは千聖が家に上がることがあった。だが、仕事が忙しくなったことで家に上がらなくなったのだ。
「千聖がいないと落ち着かないな。やはりペットを飼うべきか……困ったな」
「何が落ち着かないの?」
「……千聖か。何でもないから腕をつねるな、痛いだろ」
「つねってはいないわよ、気になるのに話してくれないのが嫌なのよ」
話してくれないのが嫌だってお前なぁ。つねってるということは距離が近い、こんな所を見られると噂をされるし、千聖のアイドル活動にも支障が出てしまう。俺は千聖に少し離れてくれと言った。
痛てぇ、俺は彼女につねられた部分を手で抑えた。よく見ると赤くなってる。何てことをしてくれたんだこいつ、これじゃあ生徒が教師に暴力を振ってるのと変わらないじゃねえか。そう思いながら俺は千聖の顔を見つめた。
「あら、何かご不満かしら?」
「不満はねえよ、言えばいいんだろ?」
「
俺は千聖にペットを飼おうか迷っていることを言った。寂しいということは隠してだが……。それを聞いた千聖は口元を緩ませた。こいつ、笑っているな。ここで寂しいからって言ったらツボるくらいに笑っていたかもしれないな。
ーー隠して正解だな。
「ハムスターね。名前は決まっているのかしら?」
「名前か?名前は決まってる」
「どんな名前か聞いてもいい?」
「ああ、名前は……
「その発音はフランス語ね、どんな意味なの?」
カワイイ子だ、俺は千聖にカリヌゥの意味を教えた。それを聞いた千聖は表情を変え、汚物を見るような目付きになった。そんな目で俺を見るなよ。
「千秋、悪いけどそれはないわ」
「ないってお前……。自分でも洒落た名前だなと思ったが、響きがいいなと思ったからこの名前にしたんだ」
「洒落たって貴方ねぇ……。まぁいいわ、貴方がいいのなら何も言わないわ」
何だその納得しているようで納得していないような顔は……。俺は溜め息を吐いた。溜め息を吐くと千聖は、溜め息を吐きたいのは私の方よ、と言った。だったら引かないでくれよ。いいじゃないかカリヌゥ、何がいけなかったんだ。ロシア語だったら納得してくれたのか?こんなこと考えてもしょうがないか。
▼▼▼▼
千秋はハムスターを探しにペットショップに向かった。一緒に行きたかったけど、仕事が入ったため、一緒に行くことは叶わなかった。今回ばかりは事務所を恨みたいわ。
「
「千聖さん、顔が怖いですよ……」
「そうかしら?麻弥ちゃん、私は怒ってないからね?」
「いやいや、怒ってるようにしか見えないよ」
日菜ちゃんが顔を引き攣らせながら言った。私は怒っていない、仕事を入れた事務所を恨んでいるだけだ。普段の私は仕事熱心だ。でも、今回は違う。千秋とハムスターを選ぼうと思ったのに、千秋とデートが出来ると思ったのに、本当に酷いことをしてくれたわ。
「チサトさん、ニノミヤ先生の事で何かありましたか?」
「……イヴちゃん、何でもないのよ?千秋のこととかじゃないからね!」
「ホントですか?怪しいですねぇ……」
期待の眼差しを私に向けないで!イヴちゃんには純粋でいてほしいのに、何でこんなことになったのかしら?幼馴染みであること、千秋と名前で呼び合ってること、ここまでバレているんだ。イヴちゃんがこうなるのも無理はないか。
こんな所を千秋に見られては駄目だ。千秋は後日埋め合わせするって言ったんだ。それなら埋め合わせに期待しよう。とりあえず、切り替えないといけないわね。
「皆、仕事だから切り替えましょ!この話はおしまい!」
「千聖ちゃん、大丈夫かな?」
「彩ちゃん、何か言ったかしら?」
「な、何でもないよ!」
「レッツブシドーです!頑張りましょ!」
イヴちゃん、切り替えが早いわね。後で千秋に愚痴ろうかしら?溜め込んでいたら、次の仕事に支障をきたしてしまう。彩ちゃん達に八つ当たりしては駄目だ。だから、今は抑えよう。
ーー千秋はどんなハムスターを選ぶのかしら?
▼▼▼▼
俺をマジマジと見つめる物体、ヒマワリの種を好物とする小動物……もといハムスター。こいつ、さっきから俺を見つめているが、何を考えているんだ?
「よく見ると可愛いな。もう一匹買おうか迷うな」
「お客様、何かお困りですか?」
「……まぁ困っていますね。もう一匹買おうかなと」
それは千聖のためか、可愛いさのあまり衝動でもう一匹買おうかというどちらかだった。店員にもう一匹買おうか迷っていることを話すと、店員はははぁ、なるほどーとニヤケながら言った。
ーーマズイ、嫌な予感がする。
「もしかしてお客様、彼女さんのためにお買いに……」
「いえ、彼女のためではなくですね……その、一人だとアレなので飼おうかなと思っているだけです」
「彼女さんいらっしゃらないのですか?お若いのにいないとは珍しい」
いねぇよ、彼女いなくて悪かったな!俺は心の中で店員に突っ込んだ。なんだこいつ恋愛脳か!?そうだとしたらとっとと買ってこの場を去らないといけない。俺は店員と長話にならないよう、適当に話を付けることにした。
はぁ、変な奴だった。店員と話を付けた後、俺はハムスターを選ぶことにした。もう一匹買おう、そう心に決め、さっき俺を見つめたハムスターを選んだ。
「こいつはゴールデンハムスターか。あとは隣の奴にするか、えっとジャンガリアンハムスター、よしこの二匹でいいか」
ハムスターを二匹選び、更に餌用の野菜とヒマワリの種とケージを2つ買った。高い買い物をしたが、これくらい安い物だ。働いて稼げばどうということはない。俺は買い物を済ませ、店を出て家に戻った。
▼▼▼▼
私は千秋の家に上がり、彼からハムスターを二匹飼うことを聞いた。まさか二匹飼うなんて、どうしたのかしら?一匹は既に名前が決まっている、もう一匹は決まってないから決めていい、千秋に言われたのはいいけど、私が決めていいのかしら?
「千秋、本当に私が名前を付けていいの?」
「いいから言ってるんだろ。ジャンガリアンの方は名前は決まってるから、ゴールデンの方は千聖が付けていいぞ」
私はゴールデンの方を見ながらどんな名前にしようかを考えることにした。この子、私のことを見ているわね。私は顎を手に当てながら可愛いわね、と呟いた。
それにしてもなかなか名前が思い付かないわね。紅茶とかなら何かあったかしら?私は頭の中で紅茶でいい名前がないか、どんな言葉がいいかを考えた。
「アール、これがいいわね」
「なるほど紅茶の名前か。千聖らしいな」
「アールグレイからグレイを取ってアール、この子の名前はアールにするわ」
「そうか、千聖が納得したのならその名前でいいな」
「ふふっ、よろしくねアール」
アールか、千秋は微笑みながら言った。家族が増えたのが嬉しいのか、彼は楽しそうにしていた。千秋とペット選びは出来なかったけれど、こうして立ち会えただけでも私は嬉しい。
ーー千秋にはお礼を言わないといけないわね。
「そういえば千秋、ジャンガリアンの方は名前何にしたの?」
「最初はカリヌゥにしようとしたんだが、意味からして酷いなと思ってな」
「まぁあれはね……」
「そこで名前はこれにした。グレイだ」
「それ、今決めたわね?」
まぁな、千秋は頭を掻きながら言った。アールとグレイ、この二匹を揃えるとアールグレイ、何かいいわね。もしこの子達の名前が酷い名前だったら、どうなっていたか。私はホッとしながら息を吐いた。
ハムスターを飼う際はヒマワリの種を与えすぎないように