1学期があと少しで終わる。少しと言っても1週間だけだ。梅雨は明けても、暑いということは変わらない。こうして教壇に立っているが、辛いな。
今日は30度だったか。ここまで暑くなると、さすがの俺でも白衣は脱ぐ。白衣の中に半袖という手もあるが、それはダサいからやらないようにしている。そんな愚痴のような事を思っていると、チャイムが鳴った。時間か……。
「午前の授業はここまで。俺の授業で寝てた奴がいたが、あまり寝ないように。眠い気持ちは分かるが、授業は貴重な時間なんだ。眠い奴や寝てた奴は気を付けるように」
寝てた奴は2,3人だけだった。眠そうにしてた奴は少しだけだったか。俺だって眠いんだ、頑張って現代文を教えているのに、眠られては困る。
だが、この眠そうにしていた奴の中には千聖が含まれていた。そう、あの千聖だ。最近、仕事が忙しくなったとは聞いているが、大丈夫だろうか。いや、忙しいのは元からか。
「白鷺、大丈夫か?」
「先生……私は大丈夫ですよ?あと、ごめんなさい。寝そうになってしまって……」
「それは気を付ければいい。本当に大丈夫か?体調悪そうだが……」
千聖の様子がおかしい。顔は赤いし、声も掠れてる。俺は心配になり、千聖の額を触って熱を測ることにした。熱い、もしや熱があるのか?
「白鷺、今から保健室に連れていく。立てるか?」
「はい、立てます」
俺は千聖に肩を貸し、保健室に連れて行った。少しだけ女子から黄色い声が聞こえたが、今緊急事態だからな?あと男子、恨めしそうに俺を睨むな。これは幼馴染の特権なんだ、許せ男子共よ。
ーー千聖、無事でいてくれよ。
▼▼▼▼
私は千秋に保健室に連れられ、そのままベッドに寝かされた。保険の先生は席を外していた。千秋曰く、別件でいないとのことだった。
「誰もいないか……。千聖、何故言わなかった?」
「何の……ことかしら……?」
「体調が悪いことだ。無理をしないで休めばよかったんじゃないのか?」
千秋が心配そうに私を見つめた。千秋、私は貴方と学校にいる時間を……授業を受けている時の時間を共有したいの。教室には生徒達がいる、でも、そんなの私には関係ない。教室であっても、私は千秋と一緒にいたいの。
「そうね、休めばよかったわね」
「本当にその通りだ。あとで様子見るから、今は休めよ。お大事に」
「ありがとう千秋、午後の授業、頑張ってね」
「……あ、ああ。頑張るから、千聖も体調直せよ。このことは保険の先生にも言っておくからな」
千秋はそう言いながら保健室を出た。千秋の顔、少し赤くなってたわね。風邪が移ったわけでもない、何かあったのかしら……。
あの時の千秋は必死になっていた。他の人には見せない表情だった。さっきのことを思い出していると、あの時のことを思い出す。私が風邪を引いたとき、千秋は付きっきりで看病をしてくれた。
「また、付きっきりで看病してくれるかな……」
昔を思い出したせいか、私は口調が崩れたたことに気付いた。
風邪を引いたのに、千秋が看病に来てくれるんじゃないのかと期待してしまう。本当は心配を掛けてしまったことを謝らないといけないのに……。
申し訳ない気持ちと期待している気持ち、そんな想いが私の心をグチャグチャにする。今はやめよう。今は寝て、少しでも体調を万全にしないといけない。じゃないと、千秋だけじゃなく、彩ちゃんにも迷惑を掛けてしまうわ。
次の日、私は学校を休むことにした。パスパレの皆からは大丈夫なのだったり、心配したんだよと色んな事を言われた。特に彩ちゃんは凄く泣いていた。彩ちゃん達には迷惑を掛けちゃったわね。
「家には私一人か……寂しいわね……」
本当に寂しい。誰か来てくれないか、誰か側にいてほしい、そんな想いが私が孤独だということを強調させてくる。花音でも薫でもいい、千秋でもいい。
「誰か……誰か……側にいてよ」
ーー私はこんなに弱い人間だったのか。
ーー私はこんなに泣き虫だったのか。
これは演技ではない、これは私の本当の気持ちだ。本当に誰でもいいの、好きな人でも……大切な友人でもいいの……。
絶望に打ちひしがれていた時、一筋の希望が降りた。これは……チャイムの音?誰か来たのかしら?私は涙を拭き、部屋を出た。誰なのだろう、誰が来たのだろう、私は疑問を抱きながらスピーカーに近づき、声を出した。
「はい……」
「俺だ、千秋だ。ドアを開けてくれないか?」
「え!?わ、分かったわ!今ドアを開けるから待っててくれるかしら?」
私は駆け付けた。来てくれた!それも私が想いを寄せている人だ!私は泣きそうになった。でも、ここで泣いてはいけないわ。ここで泣いたら彼に何を言われるか分からないわ。
涙を堪えながら私は入口のドアを開けた。ドアを開けると、彼が立っていた。千秋だ、黒のTシャツにジーパンというシンプルな私服を着ている。私は彼に近づき、手を握った。
「千聖、どうした?」
「千秋……なのよね?本物……なのよね?」
「何を言っているんだお前は……。俺は正真正銘、幼馴染の千秋だ」
ーーああ、この声だ。何年も聞いたこの声、やっぱり千秋だ。
私は我慢が出来なかった。もう、涙を堪えるのが限界だった。私は彼に抱き着いた。この体温を感じていたい。ありがとう千秋……。
「ちょ、千聖!?ここで抱き着くな!」
「ご、ごめんなさい!私ったら……とりあえず入って」
私は彼に家に上がるように促した。こんなところを見られたらおしまいだわ。とりあえず、冷静になりましょう。私は深呼吸をし、落ち着くことにした。千秋が来てくれたことで舞い上がってしまったわ。
▼▼▼▼
どうして看病に来たのか、千聖は顔を近づけながら俺に言った。俺は未だに動揺していた。彼女に……好きだった奴に抱き着かれたということに動揺していた。心臓が落ち着かん、これじゃあ答え辛いな。
「仕事は休みだ」
「へ?や、休み?」
「ああそうだ、休みだ。そんなに焦ることないだろ」
「だ、だって……貴方が看病に来るなんて思ってなくて……」
思ってなくてって……こいつは……。俺は千聖の頭を撫でた。俺は千聖と昔の約束をした。千聖が小学生だった頃だったか。
「ちょっといきなり撫でないでよ!」
「千聖、前に約束したよな?千聖が風邪を引いたりとかしたら付きっきりで看病をする、そう約束しただろ?」
「あ、あれは……その……勢いというか……。千秋、約束覚えててくれてたのね」
「当たり前だろ。千聖と交わした約束だ、忘れる訳ないだろ」
千聖の頭を撫でながら言うと、彼女はまた泣き始めた。やっぱりこいつは放っておけないな。千聖は昔からこうだった。俺や薫の前だと甘えてることが多く、特に俺の前だと妹みたいになる。本当にこいつは変わってないな。
「そういえば千聖、楓さんはいるのか?」
「お母さんとお父さんは仕事で、祐里香は部活の合宿でいないわ」
「マジか?ということは……」
「ええ、私と千秋……二人きりよ」
ーー看病、上手くいくか心配になってきたな
祐里香とは千聖の妹です
看病回は次になります