白い鷺は理系擬きの幼馴染みを想う   作:ネム狼

15 / 17
看病回後半戦


側にいてくれればいい、幼馴染のために行う看病

 楓さんや祐里香ちゃんもいない、千聖から宣告された地獄。そして二人きりという天国、何なんだこの混沌とした看病は……。

 

「相手は千聖、大丈夫だと思うが……身が持たねえ」

 

 俺は卵のお粥を作りながら独り言を言った。外にはレオンがいる。レオンは今は寝ているようだ、ここにアールとグレイを連れてレオンの頭に乗せればアレが出来る。そう、某ハムスターのアレだ。

 

 しかし、ハムスターは外に連れてはいけないのだ。ストレスを与えてしまったり、猫や犬、カラスに襲われる危険性がある。家にいる方が安心する、ということが理由だ。それを言われたら何も言えん。

 

「千聖の所で飼ったら出来たのかも……やめにするか。今は千聖の看病が優先だ」

 

 卵を溶き入れてかき回し、お粥に掛ける。お粥は簡単に作れるから、風邪を引いたときには最適な料理だ。お盆に卵のお粥を入れた器を載せ、千聖の部屋に向かうことにした。

 

「千聖、入るぞ」

「千秋……」

「熱は何度だった?」

「熱は……37.6℃だったわ。あと、少し暑い……」

 

 千聖の表情は辛そうだった。千聖のこの顔を見ると、こっちまで辛くなる。俺は千聖を助けるために付きっきりで看病するって決めたんだ。だから……俺が何とかしないといけない。

 

 俺はお盆を机に置き、千聖の隣に椅子を置いて座ることにした。今は側にいてあげよう。例え、過去に想いを寄せていた相手だったとしても、千聖は幼馴染だ。

 

「少し窓開けようか?」

「ええ、開けてくれると助かるわ……」

「卵のお粥作ったが、食べれるか?」

「食べれるわ、もしかして……食べさせてくれるの?」

 

 

ーーはい?今こいつは何と言ったんだ?

 

 

「すまない、もう一度言ってくれるか?」

「食べさせてくれるのって……言ったのよ……!恥ずかしいから言わせないで!」

「……マジかよ」

 

 

ーー待て正気か!?俺にアレをやれというのか!?

 

 

 俺は千聖から死刑宣告をされた。看病や手が使えない時にやるアレ、所謂あーんだ。俺にそれをやれと言うのか!?そもそも、それをやるのは久しぶりだ。千聖が中学1年の時以来だ。

 

 もしここで断ったら千聖は悲しむだろう。ここまで来たらやるしかない。俺は千聖を悲しませないようにしようと覚悟を決めた。恥ずかしくて出来ないと思うのではなく、千聖を泣かせないと思えば出来る筈だ。

 

 

ーー多分……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 千秋の手が震えてる。ちょっと言い過ぎたかしら……。彼は無理をしてまでやってくれたんだ。ちゃんとお礼を言わないといけないわね。

 

Твои руки дрожат, не так ли?(手が震えてるわよ?)

「何て言った?ロシア語はさっぱりだぞ」

「手が震えてるわよって言ったのよ」

「久しぶりにやるんだ、しょうがないだろ」

 

 千秋、不器用過ぎるわよ。私は心の中で彼に言った。付きっきりで看病するとは言ったけど、大丈夫かしら……。

 

 お粥を掬ったスプーンが私の口に近づいた。千秋は私にいつか卵料理を作ると言った。まさかこんな形で頂くなんて思わなかったわね。千秋の顔が強張ってる、あまりからかわない方がいいわね。

 

「千聖、口……開けてくれるか?」

「分かったわ、あの一言も付けてね」

「分かったから、期待するような目で見ないでくれ。あ、あーん……」

「あーん……」

 

 私は口を開け、お粥を口に入れた。懐かしい味だ。千秋が作ってくれる卵のお粥は安心する。お粥は味はしないけど、卵が入っているおかげか、美味しく感じる。

 

「どうだ、美味しいか?」

「……ええ。とても美味しいわ」

「そうか、まだ食べれそうか?」

「ええ、最後まで食べさせてくれるかしら?」

 

 もちろんだ、彼は微笑みながら言った。今は千秋に甘えよう。千秋なら何を言っても許してくれる筈だ。度が過ぎない程度に甘えよう。

 

 食べさせてくれてから20分くらい経った。食器を下げてくると言い、千秋は部屋を出た。そういえば、千秋は何時までいてくれるのかしら。それは千秋が戻ってから聞こう。とりあえず、戻ってくるまで寝てよう。

 

「千聖、入っていいか?」

「どうぞ」

「入るぞ。千聖、他に何かしてほしいことは無いか?」

「してほしいこと?」

「そうだ、何でもいい。今日は夕方までいるから、千聖が何かしてほしいことがあったら俺はそれに応じるから」

 

 無理な注文はするなよ、彼は付け加えるように言った。分かっている、そんなことは言われなくても分かっている。本当はキスとか、好きだとか言いたいけど、こんな雰囲気で言ったら台無しだ。もし言っても、千秋がどういう反応をするか分からない。

 

 それはやめた方がいいわね。フラれたりでもしたら私の身が持たない。だから、今日は千秋が許してくれる範囲で言おう。私は千秋に最初の注文をした。

 

「じゃあ、隣に来てお話を聞いてくれる?」

「それでいいのか?他にもあるだろ?汗を……拭いてくれとかさ……」

「そこまでは頼まないわよ。汗を拭くなんて、千秋に出来るの?」

「それは……」

「私が中学生の時、汗拭いてくれてたけど、顔を赤くしながらやってたでしょ?そんな人が出来ると思う?」

Je ne peux pas.(無理だ)

 

 千秋が肩を沈ませながらフランス語で言った。この様子だと、無理みたいね。あーんは頑張ってたけど、汗を拭いてくれるっていう辺りは駄目なのね。

 

 私は千秋に話をした。映画でロシア語の吹き替えをやったこと、前に話した舞台のオーディションに受かったこと等を話した。千秋は笑いながら話を聞いてくれた。やっぱり、好きな人が側にいてくれるのは嬉しいわね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 千聖の体調は回復した。熱は下がったらしく、後は寝れば大丈夫とのことだった。よかった、千聖が無事でよかった。

 

「今日はありがとうね」

「俺は大したことはしてない。千聖、外に出て大丈夫なのか?」

「見送るくらいはさせて、そうしないと私の気が済まないの」

「そっか、明日は学校来れそうか?」

 

 行けるわ、千聖は笑顔で言った。それなら問題ないか。俺は千聖が学校に行ける事を聞いてホッとした。さて、もう帰るか。長居していると、噂になりかねん。それだけは避けないといけない。

 

 俺は千聖にまた明日なと言って門を出た。しかし、門を出る直前に千聖に止められた。更に、こっちを向いてとまで言われた。今度は何だ……。

 

「千秋、目を瞑って」

「瞑る?何をするつもりだ?」

「いいから!」

「あ、ああ……」

 

 彼女の言われるまま、俺は目を瞑った。何をする気だ、俺はこいつに疚しいことをしたのか?もしかして叩かれるのか?嫌な予感がするな……。

 

 

ーーこれは、お礼よ。

 

 

 頬に何かが迫った。これは……何だ?柔らかい感触がしたが、気のせいか?俺は目を開けることにした。目を開けると、千聖が顔を赤くしていた。

 

「千聖、お前何を……」

「お、お礼をしたかったの!」

「は?」

「えっと……その……千秋のほっぺにアレをしたの!」

「おい待て、何をした!?」

「じゃあまた明日!さよなら!」

 

 千聖は顔を赤くしながら走っていった。さっきのリップ音、柔らかい感触、あとお礼……アレ……まさかあいつ!?

 

「卑怯すぎるだろ千聖。そんなことをされたら、また……」

 

 好きになっちまうじゃねえか、俺は口に出しそうになった。いや、やめよう。俺の青春は過ぎ去ったんだ。いくら千聖が優しくても、また好きになるのはマズいだろ。

 

 俺は千聖のことが好きだった。だが、それは過去形だ。俺とあいつが付き合うことは、世間は許さないだろう。俺は教師で千聖はアイドル、そんな禁断の恋は夢のまた夢だ。

 

「もし俺の恋が叶うのなら……」

 

 チャンスはあるのか?いや、無いだろうな。そもそも、千聖が俺のことをどう思っているか分からないんだ。僅かな希望に縋るよりも、あいつの幸せを願った方が断然マシだ。

 

 だからやめるんだ。俺じゃあ千聖とは釣り合わない。今回の看病は幼馴染としてやったんだ。幼馴染が困っていたからやったんだ。そう自分に言い聞かせながら、俺は帰路に着いた。

 

 

 

 




希望に縋るよりも幸せを願うほうがマシだ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。