うーん眠い、教師の朝は早い。しかし、俺は自分で起きれないことが多い。そのため、毎回あいつに起こされるのだ。そう、幼馴染みのあいつだ。
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俺と千聖はいつもの挨拶を交わした。ロシア語とフランス語という無茶苦茶な挨拶を朝からやるというのはおかしい。それは俺と千聖に限るか。朝は煙草は吸わないようにしている。吸うのは昼からだ。
千聖が俺の髪を梳こうとした。毎回毎回、こいつは朝からこんなことをやっている。通い妻の如く、俺を起こしに来ている。こうなった原因は母親にある。母が千聖に世話をしてあげてね、という一言から始まった。千聖は笑顔で喜んで、と引き受けたのだ。
その結果、千聖は合い鍵まで持っている。ここまでしなくてもいいだろと言いたいが、朝起きれないのが事実だから何も言えない。
「千秋、朝御飯はもう出来てるから一緒に食べましょ」
「わかったから離れてくれ。煙草の匂いが制服に掛かるぞ?」
千聖が髪を梳き終えた。鏡に移る黒い髪、そして紫の瞳、鏡で見ると俺はこんな容姿をしている。自分で言うのは何だが、容姿はいい方だと思っている。
俺は支度をし、白衣をハンガーから外してケースに入れた。まぁ白衣用のケースだがな。さて、朝食を済ませたら花女に行かなくてはならない。こうして俺は騒がしい1日の始まりを迎えるのだ。
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私は千秋との朝食を終え、先に学校に向かうことにした。千秋と一緒に行きたいけれど、その願いは叶わない。もし叶ってしまったら、私はアイドルではなくなってしまう。ここまで来たら最早呪いね。
「千秋と一緒に歩ける日はいつになるのかしら……こんな、ことを思うと憂鬱になるわね」
あまりこんなことは思いたくない。千秋に想いを伝えてしまえば楽になれる、そんなことをしたら代償が伴うわ。
千秋は今日も悩み相談をする。彼はそんなことをするつもりはないと言ってるけれど、何だかんだで彼は優しい。アドバイスくらいしか出来なくても、その人の助けになればそれはそれでいいのかもしれない。
彩ちゃんも一回だけ相談しに行ったとか言ってたわね。噛まないようにするにはどうしたらいいか、何て聞いてたような気がする。その時の千秋は彩ちゃんにこんなことを言った。
「一つ一つの言葉に自信を持て、相手に気持ちを伝えるように喋れば大丈夫だ、何て言ってたかしら……」
私は独り言のように千秋が彩ちゃんに言った言葉を口に出した。これは普通のようで当たり前なことだ。彩ちゃんはこれを言われて以降、噛むことは少なくなった。でも、トチることは相変わらずだけど……。
そう思いながら私は校門を潜った。私はまた演じる、学校では千秋のことは二ノ宮先生と呼び、千秋は私を白鷺と呼ぶ。本当は名前で呼んでほしいけれど、幼馴染みであることは知られたくない。知っているのは花音と薫とパスパレの皆、知られるのはこれだけで充分だ。
現代文は五時間目からだ。千秋とまた会えるのはお昼からになる、今からでも会いたいけれど、今は我慢しよう。私は机に座り、鞄から本を出して読書をすることにした。
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昼休みに入り、俺は白衣を脱いで椅子に掛けた。今日の悩み相談は一年の生徒からか。目安箱を設けるのも手の一つと一時期考えていたが、そうなったら相談の予約が殺到してしまう。今は事前に言うように、と釘を刺しているから大丈夫だ。
「誰もいないな、よし煙草を吸おうか」
「千秋、また吸ってるのね」
ん?この声は……千聖か。俺は胸ポケットから煙草の箱を出す前に千聖の方を向いた。しかも松原までいるのか、こうなっては吸えないじゃないか。知られるのは千聖だけで充分なのに、松原に知られたら終わりだ。
しかし、松原がここにいるということは一緒に来たということか。千聖は俺に袋を差し出した。何だ?プレゼントか?聞こうとした瞬間、千聖が口を開いた。
「千秋、手袋忘れたでしょ?」
「無いと思ったら持っていたのか。すまない、助かる」
「先生、手袋填めてるんですか?」
「ああ、授業以外では填めてるな。気づかなかったのか?」
すみません、気づきませんでした。松原は申し訳なさそうに謝った。謝らなくていいぞ、と俺は松原をフォローするように言った。
手袋が無いことに気づいたのは白衣を着る時だ。いつもは填めているが、忘れてしまうと気分が悪くなってしまう。いつも使っている物がないと落ち着かなくなる、これが起こると物事に集中出来なくなるのが俺の悪い癖だ。
千聖にお礼を言い、俺は袋から黒い手袋を出し、両手に填めた。よし、これで落ち着く。肝心の煙草は吸えそうにないから我慢しよう。最悪、帰ってから吸うことになるな。俺のスモークタイムを返してくれ、千聖、松原……。
二人と話すこと25分弱、俺は腕時計に目を通し、時間を確認した。12時51分、そろそろか。俺は二人に時間になるから教室に戻るように言った。さて、俺も職員室に戻って準備をしよう。
「じゃあ千秋、また後でね」
「ああ、後と言ってもすぐだがな」
「あの、先生!」
「どうした松原?」
緊張しているのか?松原は躊躇いながら俺に話し掛けた。だが、勇気を出して話し掛けたんだろう、その姿勢は俺の心に伝わった。彼女は自分の手を握りながら、重い口を開いた。
「また……お話とかって出来ませんか?千聖ちゃんと一緒に先生とまたお話がしたいんです」
「そんなことか。時間が空いていればいつでもいいぞ。千聖もいいだろ?」
「ええ、私は構わないわ。花音、また千秋とお話しましょ?」
「ありがとうございます!千聖ちゃんもありがとう!先生、またお話しましょうね!」
そう言って、千聖と松原は教室に戻った。千聖、いい友達を持ったな。しかし松原か……。話している間も俺の様子を伺っていたが、相当緊張していたんだな。俺も気楽に話せるようにしないといけないな。
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学校が終わり、私は一人帰路に着いた。今日の花音、何を話そうかに迷っていたわね。千秋も困っていた様子だったから、フォローするのに大変だったわ。
「それにしても千秋はいつ禁煙するのかしら。本当に困った人だわ」
いくら喫煙所がないからといって人気の無い所で吸わなくてもいいのに……。今日ばかりは千秋も参っていたわね。今頃は家で吸ってるのかもしれない。多分、5本くらい吸ってるわね。
仕事が忙しくなるけれど、予定どうしようかしら。花音と喫茶店巡りもしたいし、千秋と休日を過ごしたいし、やりたいことが一杯だ。また帰ったら予定を確認しよう。仕事と恋愛、これを両立させないと千秋に恋をしている意味がないわ。
恋をしているといっても今は片想いだ。とにかく、パパラッチは避けなくてはいけない。だから私は何があっても捨てる訳にはいかない。千秋を好きという想いを捨ててはいけないのだ。
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俺は煙草を吸いまくった。それも6本だ。学校で吸えなかった分、ここで吸ってストレスを解消しておきたい。
「どうしたら理系擬きと呼ばれなくするか、いや、これはもう諦めるか」
俺が理系擬きと呼ばれてるのは仕方ない。白衣を着たが故に掛かった呪いだ。この呪いは一生消えない。俺が教師をやめてもこの黒歴史は消えることはないだろうな。
これからは松原とも話をすることになる。場合によっては松原からも相談を持ち掛けられるだろう。松原もそうだが、千聖のことが心配だ。千聖は仕事上手くいってるのか?あいつに限って心配とかはしなくても大丈夫か。
幼馴染みよ、恋を成就させるのだ