真剣で殺し愛夫婦の子供に恋しなさい   作:紅 幽鹿

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今回も短め


第拾話

 クリスさんが京さんに謝罪し、まゆっちが全員に謝罪して風間ファミリー内の空気が少しだけ良くなった頃、ファミリーのリーダーである翔一が、バイト先の余りであろう大量の寿司――恐らくネタはたまご――を持って、部屋に入ってきた。

 流石は翔一と言うべきか、ファミリー内の空気を察知して、大和に詰め寄り今回のあらましを聞き、二人には寛大な処置が施された。

 そして、関係修復の意味合いも込めての旅行の話になり、ファミリーの皆が僕も誘ってくれて、明後日2泊3日の旅行に出発することになりました。

 そして、僕が持ってきた鯛の刺身と翔一の寿司で軽いパーティが開かれ、いい感じに金曜集会も終了しそうだと思っていました。

 ええ、この後は問題なく終わると思ってましたよ。

 どうしてこうなった。そう思いつつ前方に視線を向けると、鋭い視線で僕たちを見てくる一子さん。その背後には、一子さんの纏う空気が怖いのか距離を取ってるファミリーの皆さん。そして、僕の真横には一子さんの鋭い視線とそれに含まれた感情をぶつけられて顔を青くするまゆっち。

 こういうのは、前門の修羅とでも言えばいいんですかね……。

「ねぇ、まゆっち。どうして、流れるように、当然のように、宗紫の隣に座ってるのかしら?」

「あわわわわわわ……」

「『お、お、落ち着くんだぜ、まゆっち! びーくーるだ、まゆっち!』」

 あわわとしか言わないまゆっちを落ち着かせようとする松風。さらにこの場の混沌さが加速していく……。

 いや、まあ、ソファの隅の方に座ってしまった僕が悪いんでしょうね。まゆっちは幼少期からの癖で隣に座ってしまっただけで……ハァ、目の前の一子さん(修羅)を宥めるには、これしかありませんよね。

「一子さん」

「なぁに、宗紫?」

 グンッと勢い良く、まゆっちから視線を外してこちらを見る一子さんに分かりやすく、僕は自身の膝のあたりをポンポンと軽く叩いて、示す。

「一子さん、どうぞ……」

「……ふぁっ?!」

 僕の行動の意味を理解した一子さんは、先程までとは違い、頬を赤く染め、一気にしおらしくなり、自身の背後の皆さんとまゆっち、僕の膝とコロコロと視線を変えていく。

「来ないんですか?」

「え、あう、あの、その……お、お邪魔します」

 そんなことを言いながら、一子さんはゆっくりとまるで壊れ物を扱うように僕の膝に尻を乗せて、背中を僕の体に預けてくる。僕はそんな一子さんが膝から落ちないように、片腕をまわして一子さんの腹部に置いて支える。

「そ、その重くない?」

「全然」

「そ、そっか」

 いまだに頬は赤いままですが、一子さんはふにゃっとした可愛らしい笑みを浮かべる。

 すると、一子さんの機嫌が良くなったのが分かったのか、まゆっちは安堵の表情を浮かべ、距離を取っていた皆さんも近寄ってくる。

「流石、宗紫」

「いやはや、そこまでのことじゃないですよ、京さん。ほら、後ろの百代先輩(シスコン)を見てください」

 僕の視線の先を辿るように京さんがそこに視線を向けると、今にでもハンカチを噛みそうな、いや、噛み千切りそうな女性が一人……。

「あぁ、宗紫。月明かりのない夜道には気を付けて」

「まあ、その時は一子さんと一緒に帰って、お泊りでもしますよ」

「え?! お、お、お、お泊り、り、り?! そ、そんな……アタシ、に、におい……下……地味……か、買わな……。は、ハジ……が、頑張ら……」

 と、ブツブツと何か言いながら、顔を真っ赤にし、若干ショートし始める一子さんを愛おしく感じながら、頭を撫でつつ……。

「京も大和にやってもらうと良いですよ」

「そうする。大和、私と一緒に大人の階段(ヴァルハラ)を上ろう!」

「いや、意味わかんないからね?!」

 いつもの大和と京の夫婦漫才にほっこりしつつ、視線はそのままに、他のメンバーの方に耳を傾ける。

「……人目がある中で、あれはいいのか?」

「良いんだ。アレが二人みたいなものだしな……だが、ワン子とイチャイチャラブラブチチュッチュッしてるのは、許せんッ!!」

「いや、モモ先輩。それは、認めてるのか、認めてないのか、どっちなのさ?」

「どっちもだ!」

「アレが包容力か……ハッ! 俺様も宗紫ぐらいの包容力を身に着ければ、モテるんじゃ?!」

「いや、ガクトには無理でしょ。ほら見てよ、真っ赤なワン子と対照的に宗紫なんて全然涼しい顔だし、ガクトの場合、邪な気持ちがすぐ顔に出るでしょ?」

 クリス、百代先輩、モロ、ガクトが恐らくこちらを見ながら好き放題に言っていた。しかし、モロ。少し、少しだけ訂正させてください……。

 ぶっちゃけると色々我慢の限界なんですよ、僕。

 自分から勧めておいてアレですが、一子さんは先ほどから座り心地のいい箇所を探すためか、お尻をモゾモゾと動かして僕の下半身を移動してるんですよ。一子さんの柔らかいお尻の感触が服越しとはいえ僕の下半身に伝わって大変ですし、背中を僕の体に預けているものですから、一子さんの甘く、ほのかに優しい匂いが僕の鼻腔を刺激してきてますし、一子さんが落ちないようにする為とはいえ、片腕は一子さんの腹部を触っているわけで……。

 ええ、僕の下半身に鎮座するソハヤ丸を抜刀しないように集中してるんですよ。

「しかし、本当に流れるように宗紫の隣に座ってたな、まゆっち。もしかして、元カノとかか?」

 と、僕の裏の努力を知らない、京さんの追撃を往なした大和がニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら僕たちに聞いてくる。その言葉にまゆっちは先程の一子さんの顔を思い出したのか顔色を青くして、一子さんは先程とは違い不安そうな表情で僕を見てくる。

 まあ、べつにあの程度なら言っても大丈夫ですか。大和が追及してきたのなら、巧く躱せるように頑張ればいいですし。

「ハァ。大和、それは違いますよ。僕とまゆっちは家族ぐるみで付き合いがあっただけですよ。それこそ彼女と言うよりは友人とか妹みたいなものです」

「そ、そ、そ、そうです! わ、私にとっては兄みたいなもので!」

「お、おう、そうか」

 いや、まゆっち。ヤの職業の方、顔負けの強張った顔を向けてはいけませんよ。大和が引いちゃってますからね。

 まあ、まゆっちのおかげで大和からの追及――特に僕の両親に関係するもの――もなさそうですし、彼女には感謝ですね。

 しかし、そうは上手くいかないのが世の中の常で……。

「家族ぐるみと言うことは、宗紫の両親は武道家だったのか?」

 武神としての勘か、それとも別の何かか、掘り下げができない大和に変わり、百代先輩が僕の家族についての話を掘り下げてくる。

 しかし、まあ……。

「いいえ、僕の両親は武道家ではありませんよ」

「そうか……」

 僕の言葉に百代先輩は解りやすいようにガッカリとする。もし武道家だったら、戦ってみたいと思ったのでしょうか、それほどまでに強者との戦いに飢えているんですね……。

 でも、百代先輩が求めているとはいえ、あまり両親との戦いはおすすめしたくはありません。あの人たちは武道家という高尚な存在なんかではありませんから。

「ええ、残念ながら僕の両親は――」

「『何、言ってんだYO! みぶっちのパピー、マミーは、まゆっちのパピーを倒しちまうくらい強いじゃないか!』」

「――馬刺しにしてやろうか、この駄馬」

 僕の言葉を遮るように言い放った松風の爆弾発言に、つい汚い言葉が出てしまった。いけない、いけない。僕の言葉に皆さん引いてますし、少し落ち着いて……。

「やりましたね皆さん! 馬刺しが追加されますよ!」

「お、お、お、お待ちください! 松風には後で私からきつく言いますから! 何卒、何卒、松風の命だけは!!」

「『そうだぜ、みぶっち! おいらは全然美味しくないぜ!!』」

「えーと、此処に包丁はありましたっけ?」

「待つんだ、三人、三人なのか? いや、それより、どうして平然とストラップ(松風)が食べれる感じで話してるんだ?!」

「あはは! やっぱり、おもしれぇ!」

「それより、宗紫! お前の両親はそれほど強いのか?!」

 松風を解体しようとする僕、松風を守ろうとするまゆっち、命乞いをする松風、僕たちにツッコミをする大和、爆笑する翔一、僕の両親について詳しく聞こうと詰め寄る百代先輩達……。

 一瞬にして、またも混沌と化した金曜集会。

 姦しながらも楽しい時間を過ごしながら、今日も僕たちの一日は終わっていった。

 




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次回、女子会! だったらいいなぁ

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