真剣で殺し愛夫婦の子供に恋しなさい   作:紅 幽鹿

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第弐話

 今日は水曜日、毎週水曜日には朝礼があるため全生徒が校庭に出て整列していた。

 周りを見ると――特に一年生だが――欠伸をする者や、気怠そうにしている者、意識を何処かへ飛ばしている者がいた。はあ、そんなことをしていると……。 

「たるんどるわ、渇っっっっ!!」

 この川神学園の長、川神(かわかみ)鉄心(てっしん)さんから闘気が放たれ、一年生たちは慌てて姿勢を正す……僕自身としては、父と母の殺気、闘気、剣気などで慣れてしまっている為、そこまで気にしませんが。

「うむ、聞く体制ができたようじゃのう、それでは、ワシからの言葉じゃ」

 姿勢を正したところを見て徹心さんは満足そうな表情になると喋りだす。

「お前達、腹は減っておるかの?名誉や金、力に飢えてはおらんか?女や男はどうだ? 飢えてはおらんか?飢えているならそれはいい。とても正しいどんどん飢えてハングリーになりなさい。奪い取り、つかみ取るために努力しなさい。競い合い切磋琢磨していきなさい。そのために決闘というシステムも用意しとる。白黒つけたければ活用しなさい。そして『何か』をつかみ取ってみなさい勝つという快感はやめられんよ。人生はより楽しくなる。ワシからのオススメじゃ。成功する秘訣は夢ではなく野心ということよの。といっても、ただ飢えるだけでは獣と変わらん。理性と本能を両立させて、楽しい人生を送ってくれることを願うぞい」

 すると鉄心さんは視線を僕に向けてくる……。

「なーんも飢えとらん、平凡で普通の人生を送るのが一番だと思う奴、それはそれでいい。精神は腐っていきそうじゃが、それも生き方よのぅ」

 ……平凡な生活が精神的に腐っていく?何を言ってるんだ。闘争の世界の方が精神的に腐っていくだろう。ただちょっとした力があるだけで勘違いして、世界を支配した気分になっている馬鹿がいる。その闘争によって大切なものを奪われ絶望する人がいる。平凡な生活を守るために命をかけた人もいる。アンタは大切なものを奪われ、目の前で蹂躙された奴の気持ちが分かるのか……分からないよな、アンタはきっと今まで奪う側だったんだろう?所謂勝ち組で、敗北とは、死とは一番遠い場所に居て、本当の意味での敗者の気持ちが分からないだろう?なのに平凡な生活をごく普通な幸せを馬鹿にするというのなら……。

「宗紫!!」

「ッ?!」

 一子さんに呼ばれ、思考を引き戻すと目の前に僕のことを心配そうな表情で覗き込む一子さんがいた。

「一子さん?」

「宗紫、大丈夫?顔が怖くなってたから……」

「……すみません」

 周りを見てみると、僕と一子さん以外は校舎の方へ向かっていた……。クソ、一子さんにいらない心配をかけさせてしまった……。

「……宗紫」

「……一子さん?」

 僕が顔を俯かせていると、一子さんが背伸びしながら僕の頭を包むように抱きしめてきた。トクントクンと一定のリズムで鳴る一子さんの心音を聞くと、心が落ち着いてくる……。

「宗紫の事だからさっきのおじいちゃんのお話で怒っちゃたんでしょ?」

「ウッ、それは……」

「だって、宗紫はごく普通の日常を大切にしているでしょ?さっきのおじいちゃんのお話は宗紫の考えを否定してるんだもん、宗紫がそれに怒ることなんてアタシでも分かるわよ」

「……ご、ごもっともです」

 一子さんの抱きしめる力が強くなっていく……。

「それと、変なことはしないでよね。アタシ、宗紫に抱きしめられたり、抱きしめることが出来なくなるのヤダから……」

「ッ、一子さん!!」

「キャッ?!」

 一子さんの言葉に我慢できずに、僕は一子さんを強く抱きしめる。

「一子さん、あったかいです」

「うん、アタシも。宗紫、あったかい……」

 僕と一子さんは抱きしめ合い、お互いの体温を、幸福を感じあっていると……。

「ゴホンッ!!」

「「ハヒッ?!」」

 咳払いする音に驚き、僕と一子さんは奇妙な声を出しながら抱きしめ合っていた体を離し、音が聞こえたほうを向くと……。

「妹に手を出すとは良い度胸だな、宗紫」

「お、お姉さま?」

「……百代、先輩?」

 般若のような顔をした闘気漏れ出しの武神(シスコン)がいた……。

「じゃ、じゃあ、一子さん、僕はこれで」

「う、うん、じゃあね」

 一子さんに別れの挨拶をしてから僕は即座に教室のほうに向かって走り出す……。

「私は認めない、認めないぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 後ろから何か追ってくる音が聞こえてくるが、僕はなるべく気にせずに走り続けた……。

 

~~~~~~

 

~~~~~~

 

 日は変わり木曜日、今日は人間力測定の日――人間力測定といっても所謂体力・身体測定のことですが――僕たち男子は体育館で計測していた……。

「あああ、やっぱりもう身長止まってるー!」

「俺様のように鍛えろ。見ろ、握力計振り切れたぞ」 

 今年の身体検査の結果に絶望するモロに、筋肉質で長身で、いつも実家の母親と両親のお仲間である曰く性欲界紳士道の住人さんから僕に送られてくるエロ本の処分をしてくれる島津(しまづ)岳人(がくと)――通称、ガクト――は、針の振り切れた握力計をモロに見せ、自慢をする。

 周りを見てみると測定の結果に一喜一憂している人たちがたくさんいます。まあ、S組の皆さんはあまり興味がないようですが……。

「壬生、168センチ、む、去年と変わらんな」

 と、僕の身長を測って感想のようなものを言ってくれたのは、鬼小島と生徒たちから呼ばれ、恐れられているFクラスの担任教師である小島(こじま)梅子(うめこ)先生だ。

 父親が父親ですからね、身長があまり伸びないことは覚悟してましたが……残念です。まあ、父親よりは身長は高いですし、良しとしましょうか。

「壬生、次は座高を測れ」

「はい……」

 僕は返事をしてから、座高の方へ向かうと……。

「で、どうだったよ宗紫」

「消えろ、ハゲ」

「だから、ヒデェ?!」

 とりあえず、ニヤニヤしながら僕に近づいてきた準に毒を吐きながら、座高を測る……座高はそこまで高くないですか……。

「おや、宗紫君。お疲れのようですが、どうしたんですか?」

 座高を測り終え、体育館でやることのなくなった僕と準と合流した冬馬と一緒に校庭の方へ向かう途中、冬馬に心配された……ああ、それは……。

「昨日、夜遅くまでシスコンとリアル鬼ごっこしてただけですよ……」

「それは……」

「ご愁傷様……」

 二人は僕の肩に手を置き、憐れみにも似た視線でこっちを見てくる……。そんな視線で僕を見ないでくださいよ……。

 僕たち三人はそのまま無言で校庭の方へ向かっていった……。

 

~~~~~~

 

~~~~~~

 

 僕たちが校庭に着くと、写真を撮っていたFクラスの福本(ふくもと)育郎(いくろう)を中心に大和たちが集まっていた……。

「お、宗紫も来たのか」

「はい、ガクト。体育館の計測が終わりましたからね」 

 僕たちが近づくと、福本育郎が何とも言えない顔をされましたが、僕たちは気にせずに大和たちの会話に入ります。

「それで、どんな話をしてたんですか?」

「いや、うちの女子のレベルは高いなって話だよ」

 大和の言葉に僕は頷きます。確かに、この学校の女子はレベルが高いですね。

 すると、何処にスイッチが入ったのか福本が突然、語りだします。

「まずはエントリー№1川神一子。身長159センチ、3サイズ77、54、79。女っぽさはあまりないが、快活で話しやすく、一緒にいると楽しいので男人気が高い。スポーティー娘……と思われがちだが、実は既に彼氏持ちというのが現状」

 ……少し待ってください、どうして貴方が一子さんについてそんなに詳しいんですか?私だって知りませんよ一子さんの3サイズなんて……。

「わ、若、宗紫の顔が大変なことになってませんか?」

「え、ええ、今すぐにでも人を殺しそうな表情ですね……」

「お、おい、大和、あれはやばくねぇか?」

「おいおい、ヨンパチ死んだわ」

「いや、本当にそうなりそうで怖いからね?!」

 後ろで何かヒソヒソと言っていますが、僕は気にしません。それよりも、どうやってこの福本(ヘンタイ)を始末するのかを考えるほうが先です。

「続きましてはエントリー№2甘粕真与。身長149センチ、3サイズ74、52、73。頑張り屋の委員長で話していると和む。その体格故に特定の人達に崇められている」

 福本(ヘンタイ)は次に甘粕大尉……ではなくて、真与さんについて熱く語りだす。この時、準が激しく頷いたり、何処か微笑ましいものを見るかのような眼差しで真与さんを見ていたのは、彼の友人として気にしないでおきましょう……。

「続きましてはエントリー№3椎名京。身長155センチ、3サイズ84、59、83。クラス最高級、美形で実は胸もある。だがクールすぎて人を寄せ付けない、それ以前にどう見ても大和の女」

「俺の女じゃないし、誰の女でもない」

「まぁな、でも周囲の奴からはそう見えるぜ」

「良く言われるよ……」

 まあ、福本(ヘンタイ)の言うとおり、大和が否定していても周りからはそう見えますからね……やりましたね京さん、外堀がどんどん埋まっていきますよ。

「とまぁレベルの高い3人を例に上げてはみたが……周囲の関係や体型的な問題から突撃できないわけ」

 約一名、突撃しそうな(ロリコン)がいますがね。

「んで、結果あれに集中するわけ。小笠原千花。身長157センチ、3サイズ82、60、81。誕生日7月20日、血液型B型。現在付き合っている男なし。付き合いたい女&やりたい女№1の二冠!」

「フェロモンが堪らんよなぁ。ありゃ絶対誘ってる」

「おっと今のブルマの食い込み直し頂き!」

 ガクトが感想を言い、福本(ヘンタイ)が写真を撮り、男子がギラついた目で千花を見る……まあ、確かに千花は素晴らしい女性ですからね、男子たちがこのような反応をするのは当然なんでしょうが……もう少し、周りの女性の視線に気付いたらどうですか?完全にゴミを見るような目をしてますよ。

「ソウシ、うぇーい」

「だから、危ないよ、ユキ」

 計測を終えたのか、ユキはいつもの気の抜けた声を出しながら、僕の首に腕をまわしながら背中に抱きついてきました。体操服のせいかいつもより柔らかい感触が伝わってきます。

「それとユキ、何度も言ってるけど、そう簡単に異性に抱きついてはダメだよ」

「えぇ、僕、ソウシなら平気だよ。ソウシのこと大好きだよ~」

「それは、冬馬と準もでしょ?」

「もちろん、だけどソウシに対してはloveの方だよ~」

 このユキの発言の後に、男子の殺気を含んだ視線を感じましたが、それを上回る殺気が女子の方から感じ、そちらの方を向くと……。

「………」

 一子さんが首を軽く傾けてハイライトのない瞳で此方を見ていました……。それを知ってか知らずかユキはさらに強く僕に抱きつき、それを見た一子さんの殺気――隣の京さんを若干怖がらせるぐらいに――は大きくなり、この状況は流石の僕でもドキドキします……二つの意味で、ですが……。

 この後、女子と入れ替わるように男子は測定に入り、僕はまあまあの結果を出しました。

 




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