決闘が終わり一悶着があったものの僕は、無事一子さんを連れて保健室に到着することができた。
正直、向かっている途中で親衛隊KKKの誰かに闇討ちでもされるんじゃないかと思ってビクビクしてましたが、どうやら杞憂だったようですね。
しかし先ほどはいらっしゃった養護教諭の方が見えませんが、急用でもあったのでしょうか?まあ、致し方ありません。
「一子さん、制服の上を脱いでもらえますか?」
「わかったわ」
そう一言、了承してくれてから一子さんは制服を脱ぎ、僕にレイピアで突かれた部分を見せるように体の方向を変えてくれます。
正直、卑しい感情が出かけますが、それは頑張って抑え込む。一子さんも僕を信頼してくれているわけですしね。
「では、失礼して」
「ンッ」
突かれた部分に触れると一子さんから一瞬、甘い吐息のようなものが零れますが我慢、我慢です。気にしてはなりません。
「一子さん、痛くはないですか?」
「うん、大丈夫」
一子さんの返答に少し安心しつつ、ゆっくりと何処かに違和感を感じないかと慎重に触れ、確かめていく。
「……どうやら、骨に異常は見られませんし、筋肉の方もそこまで違和感は感じませんので大丈夫そうですね。一応、アイシングし続けておきましょう。一子さん、服着ていただいても大丈夫ですよ」
「わかったわ。ねえ、宗紫……どうだった?」
一子さんが着替えている間に、アイシング用の氷を準備しているとふいに一子さんに声をかけられる。どうだったというのは、先ほどのクリスさんとの決闘のことでしょう。そうですね……。
「無様。と、までは言いませんが、油断しすぎですね。重りを付けたまま戦うとは、完全に相手の力量を見誤ってる証拠です」
「はうわッ!」
僕の一言に、一子さんは奇妙な声を出して項垂れる。ここで、項垂れてもらっては困りますね。
「あとは、他の武に対する知識不足。フェンシングは全身有効のだってありますし、突きではなく斬る方面のもあります。フェンシングだからと言って足を狙うのは安直」
「ひうっ!」
「さらに言えば、足狙いのあの技。避けられた際の対応ができないってどういうことですか? 技というのは出して終わりというわけでありません、避けられる可能性、防がれる可能性、迎撃される可能性、様々な可能性があります。なので、相手がどんな行動をしてもそれの対応ができるようにしておくのが普通です。判断が遅く、未熟」
「や、やめろよぉ。こ、恋人だぞぉ」
僕の言葉に一子さんの目に涙が浮かび、時々幻視してしまう犬耳がショボーンと倒れている。
「恋人だからですよ。それに、一子さんは偽りを言ってほしくはないでしょう?」
「そうだけどぉ」
「だから、偽りなく言っているんですよ。ただ、まあ……強くはなりましたね。初めて出会った頃と比べて、遥かに」
「……ありがとう。でも、まだ宗紫の隣に立てるぐらいには強くなってないよね?」
「……ええ。でも、別にそこまで強くならなくても大丈夫ですよ。それに、いつも僕の隣にいてくれるじゃないですか」
いつも当たり前のように一緒にいてくれる。心を繋いでいてくれる。それだけで僕は嬉しいです。でも、一子さんは僕の返答には不満げらしく、可愛らしく頬を膨らませ目を据えながら僕を見てくる……一子さん、可愛すぎですか。
「違うの。アタシは……アタシは、宗紫と同じ場所に立って同じ景色を見るようになりたいの……宗紫を一人ぼっちになんてさせたくない」
「一子さん……」
「それにアタシ、夢が2つあるのよ」
「2つ、ですか?」
一子さんの言葉に自然と首を傾げる。一子さんの夢は川神院の師範代になることだったはず。現にそれを目指して鍛錬を頑張っている。しかし、もう1つ夢があることは知らなかった……。
「1つはね、宗紫も知ってるけど、川神院の師範代になること。もう1つはね、その、ね……そ、宗紫とずぅぅぅっと一緒にいることなの」
顔を真っ赤にしながらそうはっきりと言ってくる一子さんに、僕の顔も熱くなっていく。今の僕は、きっと人には見せられないほどに真っ赤になっているはず。
「そ、それは、
「
「そう、ですか……」
一子さんの真っ赤になりながらも真剣な表情を見て、僕の手は自然と一子さんの頬に伸び、触れる。
一子さんは何かを察したのか、目を瞑り真っ赤になりながらも何かを待つような表情に変わる。
「一子さん……」
「宗紫……」
僕の唇が、段々と一子さんの唇へと近づいていき……。
「お、おい、宗紫! 本当に決闘なんて大丈夫なの……アッ、す、スミマセンデシタ」
「うきゃっ?!」
「………」
僕と一子さんの距離が零になる直前で保健室の扉が、
「そ、その、すまんかった。本当に、すまんかった!」
大変申し訳なさそうに、それこそ土下座でもする勢いで謝罪してくる大和に、僕は溜息を吐く。まあ、彼の来たタイミングは本当に偶然でしょうし、仕方ありません。
僕は彼の謝罪を受け入れるつもりで笑顔を浮かべ……
「
「今、大和って呼び方に悪意……って、なんてことを、しようとしてやがるッ?!」
「今のうちに婚姻届けと子供の名前、考えておいたほうが良いですよ」
「お願いします。勘弁してください。本当に申し訳ございませんでした」
先ほどまで土下座する勢いだったのが、真剣に土下座して許しを請う大和に流石に僕の良心が痛んでくる。仕方がないですね。
「京さん、大和のことヌチョヌチョにして良いですよ」
「大和に痺れ薬を飲ませて、ヌチョヌチョにして良いと聞いて。ありがとう、宗紫」
「い、いつの間に?!」
「こうして、直江大和は椎名京から直江京となった少女と家庭を築き、幸せな一生を過ごしましたとさ。めでたし、めでたし」
「大和、愛してる」
「宗紫、変なエピローグみたいなの入れるな!京、お友達で!」
そう言いつつも、保健室の隅のほうへと追いやられていく大和をのほほーんと見ながら、大和が何かを言っている途中だったのを思い出し、攻防を繰り広げている大和と京さんに話しかける。
「京さん、結婚式には僕も呼んでくださいね。それで、大和は先ほど慌てた様子で何かを喋ろうとしましたが、なんでしたか?」
「当然、招待する。宗紫もワン子との結婚式の時は呼んでね」
「直江夫妻宛でよろしかったですか?」
「無論」
「おい、勝手に話を進めるな!もう簡潔に言うぞ、お前に挑もうとした相手、宮本剣吾は剣道部主将で全国常連の奴だ」
「そうですか……」
「そうですかって……相手がどれだけ強いか、分かってるのか?!」
先程までの京さんの求愛行動の時とは違い、真剣な声色で宮本さんのことを教えてくれましたが、僕の反応に大和は慌てはじめる。
「大和は心配しすぎですよ。それと、授業が再開しそうですし、早く戻ったほうが良いですよ」
「おい、俺は、お前のことを心配して……」
「京さん、大和よりも先に教室に戻ったら、強力な媚薬と痺れ薬あげ……」
「俺は先に教室に戻らせてもらう!」
「待って、大和」
僕の言葉を聞き終わる前に大和は大慌てで保健室から退出していき、京さんも大和を追いかけるように退出していく。
まったく、大和も心配性ですね。相手は、たかが全国常連でしょうに……。
さて、僕と一子さんも教室に戻らなければ。と、声を掛けるために一子さんの方を振り向くと……。
「そ、宗紫とアタシのけ、け、結婚式……」
いまだ赤い頬に両掌を当ててうれしそうな表情で、くねくねと恥ずかしがっている一子さんがいた……ハッ? 可愛すぎやしませんか。
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保健室でくねくねしていた一子さんをなんとか再起動させてFクラスに戻らせた後、僕もSクラスに戻り席に着くやいなや、冬馬たちが近づいてきた。
「ソウシ、カズコ大丈夫だった?」
「ええ、骨も筋肉にも異常は見られなかったですし、大丈夫でしたよ」
「良かったぁ」
心底安堵したような表情を浮かべるユキに僕自身も嬉しい気持ちになっていると、冬馬が口を開く。
「宗紫君。決闘を受けて、本当に大丈夫ですか?」
「ハァ、冬馬もですか……。冬馬達は僕が強いこと知っているでしょう?」
「確かに知っていますが……。それより、私が言いたいのはKKKの事です」
「……あの一子さん大好き集団ですか?」
「ええ、彼らは親衛隊とは名ばかりの過激な集団です」
あの変態集団、冬馬がいつもより
「僕も聞いたことあるよー。カズコに近づこうとした男子生徒を闇から闇へ消してるんだってー」
え、あのユキも知ってる程の集団なんですか?それより、闇から闇ってなんですか?どっかの殺し屋ですか?
「でも、それは噂ではないんですか?そんな事が起こってたら、普通は学園長や教師が止めるはずでしょ?」
「それはそうだが……。アイツ等、証拠隠滅が上手すぎて、この学校の教師ですら証拠を掴めないらしい……」
「つまり、KKKはロリコンが戦慄するほどの集団なんですね?」
「ああ……って、俺はロリコンじゃねぇ?!ただ、無垢な少女たちを愛でたいだけだ!!」
いつも通りの準のセリフを聞いての本日2度目の、のほほーんという気持ちになりながらあのKKKの団長、宮本さんのことを思い出す。
「しかし、あの宮本さんからはそういう邪な気配はしませんでしたが……少々頭に血が上りやすい程度で、誠実そうな方でしたよ」
「お、お前、あんなこと言われて、誠実そうって……」
「宗紫君がそう言うのなら、彼はそういう事をしていないのかもしれませんね。そうなると、KKKの誰かがしてるのかもしれませんね」
「まあ、それも放課後の決闘で分かるかもしれませんし、気長に待ちましょう」
こうして、放課後までの時間を僕は普通に過ごし、決闘の会場である体育館へと向かうことになるのだった。
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時は過ぎ、放課後。
KKK団長であり、剣道部主将である宮本剣吾は体育館内で姿勢を正し、精神統一を行っていた。
自分の言葉を無視してこの場についてきた団員たちが、色々と言ってはいるが些細な事。
深く心を落ち着けながら、少しだけ考え事をする。
自分たちKKK団は、様々な理由で川神一子に救われた者達で構成されている。彼女に救われ、世の不条理に心が折れながらも努力し、何度も立ち直った。
そんな彼女に何か恩返しがしたい、そういう想いでKKK団は設立された。
彼女の幸せが我々の幸福。それが団の信条だ。
だから、彼女が真に幸せなのなら、彼女ができようが彼氏ができようが我々は応援する。
しかし、壬生宗紫。彼だけは認められない。認めたくない。
優男で弱そうな男であり、しかも周囲に合わせた八方美人。自分よりも強い者と仲良くし、さも自分は凄いと言わんばかりの男……反吐が出る。
だからこそ、一子さんには相応しくない。俺たちが救わねばならない。
そう思っていた……。
思い出すは、一子さんと転校生の決闘後の出来ごと、まるで人を馬鹿にしたかのような態度に俺は頭に血が上り、教師の制止の声も聞かず拳を振り上げた。
だが、俺の拳は壬生宗紫に当たることはなかった。
あの男が一睨み、たった一睨みしただけで俺の動きは止まってしまった。
いや、アレは止めなければならぬ程に強烈だった。
心臓を鷲掴み……いや、違う。アレは剣だ。剣を突き立てられ挙動全てを封じられてるような、よく解らない感覚……いや、違う。あの感覚は本能では理解してしまってる恐怖だ、最も恐ろしい恐怖、死。
そんな感覚を一睨みで起こさせる壬生宗紫に戦慄し、それと同時に彼が自分の届かぬ遥か高みの存在であることを理解してしまった。
だが、男には引けぬ戦いがある、意地を通さなければならない戦いがある。
そう自分に言い聞かせ、深く息を吐き目を開けると共に奴は、壬生宗紫はこの場に来た。
「あ、もしかして遅刻しちゃいましたか?」
まるで、ただ遊びに来たかのように……。
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川神学園、体育館。本来ならこの時間帯は部活動に所属生徒によって賑わっているのだが、今日だけは違った。
体育館の中央にはレプリカの日本刀を腰に差した二人の男子学生、宮本剣吾と壬生宗紫。そして、この学園の長である川神鉄心。
周囲には武闘派である教師とKKK団の団員が、二人の決闘を見守っている。
「両者、時間無制限で良かったかの?」
「はい」
「ええ、そうですね」
宮本剣吾は緊張気味に、対して壬生宗紫は普段通りの表情で答えると川神鉄心は頷きつつ、この決闘の勝敗のルールを再確認する。
「どちらかが敗北を認めるか、戦闘不能になるまではワシらを止めんよ。しかし、危険なことになれば戦闘を止め、勝敗を決めさせてもらうぞ」
「はい」
「ええ、分かりました」
川神鉄心の言葉に同意をし、宮本剣吾は刀を鞘から抜くと、剣先を水平より少しさげた構え、守りの側面が強い地の構えをとる。
対して壬生宗紫は、鞘から刀すら抜かず、自然体のままでいる。
「KKK団、団長! 宮本剣吾!」
「2-S、壬生宗紫」
「それでは、はじめい!!」
二人が名乗り、川神鉄心により開始の合図が出された瞬間――
「はっ?」
宮本剣吾、そしてKKK団の団員2名の頸が宙を舞った……。
まるで刀で頸を斬られたかのような切断面から血すら流れ出ない、完璧な斬首。宙を舞っていた頸は引力によって、床にゴロッと落ちる。
落ちた頸に付いている表情には生気がなく、死人のよう……。
この起こってはいけない現実を受け止めるのに教師陣、学園長ですらも数秒掛かる。
そして、理解したと同時に駆け出し……。
「おや、皆さん。そんなに慌ててどうしましたか?」
壬生宗紫の声によって、全員が現実に戻される。
教師陣の目には先程の凄惨な光景はなく、頸を押さえ息が荒く片膝をついてはいるが、しっかりと生きている宮本剣吾と白目を剥き気絶しているKKK団の団員2名がいた。
「それで、宮本さん。どうします? 続けますか、続けませんか?」
爽やかに聞いてくる壬生宗紫の問いに、剣吾は唇を噛みしめながら声を震わせ、認める。自身の敗北を。
「……俺の、負けだ」
目の前の男が、化け物であるということを……。
「勝者!2-S、壬生宗紫!」
「有難うございました。では、お先に失礼させていただきますね」
一度も使用することのなかったレプリカの刀を丁寧に返却すると、彼は先程の決闘などなかったことのように、軽い足取りで帰っていった。
悔しさで涙を零す、男子生徒など気にせずに……。
宮本さんは、ただ相手が悪すぎただけで、ほんとはお強い人なんですよ
感想待ってます