今日は土曜日。一部の社会人、学生以外にとっては休息の日。
僕こと壬生宗紫は、友人たちとの待ち合わせの為に仲見世通り前にいた。
「おはよう、ソウシ」
「おっと、だから不意打ちの抱き着きは危ないですよ。ユキ」
僕の言葉に可愛らしい笑みを浮かべながらも決して抱き着きを止めないユキに、困ったような笑みを浮かべていると彼女のスピードについて来られなかったのだろう。少しだけ、息の荒い冬馬と準が遅れてやってくる。
「ハァハァハァ、急ぎすぎですよ。ユキ」
「ハァハァ、若の言うとおりだぜ。さすがの俺もだいぶ距離のある所からの全力疾走はキツイ……」
汗を流し、息を整えながら自身に抗議する二人にユキは僕に抱き着いたまま……いえ、より一層強く、身体を密着させながら。
「だって、愛している人を誰よりも早く抱きしめたいし、抱きしめられたいんだよ」
「ええ、分かっていますよ」
「ハァ、分かってるよ」
と、普段のユキとは違い、真剣な声色、狂気すら孕んでいるであろうその言葉に二人も何処か諦めたかのように言う。
榊原小雪は壊れている。それは二人と出会うずっと前から。
彼女の以前の家庭環境のせいか、それとも僕に出会ったのが原因か、それとも
まあ、しかし……。
「とりあえず、ユキ。離れてくれませんか? 先ほどから柔らかいものが2つほど物凄く強く感じるのですが……」
「ワザと当ててるんだよ、ソウシ。気持ちいい? 興奮した?」
「……ノーコメントで」
空を見上げて、努めて気にしていないという風に装う。僕の様子に準は笑ったので、思い切り男のシンボルを蹴り上げることで手打ちとし、僕たち4人は仲見世通りに入っていく。
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「ソウシ、あのマシュマロ買おうよ」
「宗紫君、あのアクセサリーなんてどうですか?」
「宗紫、今日も天使たちは元気だな」
と、仲見世通りを歩きながら色々と言ってくる友人たちに僕は自然と笑みを浮かべ。
「ユキ、マシュマロは家にたくさんあるでしょう。あのマシュマロの山が半分になった時に買いに来ましょうね。冬馬、あまりアクセサリーは……正直、この髪飾りでも十分目立っていますし、
「まって?! なんで俺だけ辛辣?!」
過剰に反応する準に僕は中指を突き立て、さも当然と言わんばかりの表情をしながら。
「いや、今のご時世そうでしょう?」
「おい、中指突き立てないで?! それに、俺のことをロリコン、ロリコンと言うが、お前だってある意味で言えばロリ――」
「準、一子さんのことを言っているのなら、今日から自分の女性名でも考えたほうが良いですよ」
「ス、スミマセンデシタ。ナニトゾムスコダケハ……」
「……純子ですかね?」
「うーん、珠理とか?」
「いえいえ、露梨というのは如何ですか?」
「ヤメテェ! 俺のライフはゼロよ?! って、二人とも宗紫にのらないでくれぇ」
どこか疲れたように言う準に、冬馬は軽く謝罪し、ユキは囃し立てる。僕も悪ふざけが過ぎましたし、誤らないと……。
「今日から、露梨ですね。良かったですね、準……いえ、露梨。貴方が大好きな種族と同じ名前ですよ」
「おい、マジで呼び続けるのか? なあ、宗紫? 宗紫?」
「冗談ですよ、準。それよりも、いつものところに向かいましょう」
「うぇーい。準、本気で焦ったね」
冷や汗を流しながら真顔で近づいてくる準を軽く流しつつ、自身の目的地でもあった和菓子店に向かってまっすぐ進むと、忙しい時間が過ぎたのか、普段は客で溢れ、忙しそうにしている看板娘が手持ち無沙汰なのか店の前の道を掃除していた。
「おはようございます。千花」
「おはよー、チカ」
「おはようございます。小笠原さん」
「おはよう、小笠原」
「みんな、おはよう。まあ、もう朝はとっくに過ぎてるけどね」
そう言いながら、千花は掃除道具を片付けに店の奥に向かって行き、その間に僕たちは購入する商品を選んでいく。
しかし、やはりここの店は素晴らしいですね。どの商品も魅力的でどれかを1つを選ぶのは難しい。さて、どうしたものか……。
「みんな決まった?」
「僕、きな粉ー」
「なら、私はおはぎで」
「俺は栗羊羹だな」
「な、なら……」
僕が熟考している間に戻ってきた千花にみんなが注文し始め、慌てて今日の和菓子を決めようともう一度、魅惑の和菓子たちを見る。
きな粉餅。いや、豆大福。いや、ここは桜餅に。いや、でも、しかし……。あぁ、どうしてこんなにも僕を惑わせるのでしょうか……。
「宗紫、いつものにする?」
「……はい」
このままでは埒が明かないと思ったのでしょう。千花の言葉に僕はただ頷くしかありませんでした。
これも総て、此処の和菓子が魅力的なのが悪いんです!
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「やはり、此処の和菓子はパーフェクト、パーフェクトですね」
「はいはい、ありがとう。みんな、お茶どうぞ」
「いつもすみませんね」
「べつに大丈夫よ。それに宗紫達は昔からの常連さんだしね」
店の側に設置された椅子に座りながら湯呑に淹れられた熱いお茶を受け取り、ユキと冬馬、準もお礼の言葉を口にする。そんな僕たちの膝の下にはそれぞれが注文した和菓子の乗った皿が置いてある。
きな粉餅におはぎ、栗羊羹。そして、
「しかし、まあ、あんなに悩むんだったら全部頼んじまえばよかったろ、宗紫。お前の懐なら余裕だろ」
栗羊羹を黒文字で一口サイズに切り分けながら、先ほどのことを思い出し苦笑いを浮かべながら言ってくる準にほんの少しだけムッとなりますが……。
「解ってないですね、準。そんなことしたら和菓子の風情がなくなってしまう。確かに和菓子は美味しい。神が与えたもうた最高の贈り物にして、兵器。特に此処の和菓子はヘタな高級店より素晴らしい。だからこそ、その甘美を享受したく沢山食べてしまいたくなる。だがしかし、和菓子とはそうではないのです。和菓子とはそういう風に食べるのではないんです。和菓子は風情を感じるのです。そう、ほんのり残る――」
「あぁ、ストップ! ストップ! お前の和菓子講座は何度も聞いてるから、ちょっとした冗談だから!」
「……そうですか」
慌てた様子で僕の和菓子語りを止める準に不承不承ながらも了承する。準にはまた3時間、いや4時間ほどの和菓子講座をしないといけませんね。
「うっ、悪寒が……」
「準の純ケツを狙ってる人間の視線でもあったんじゃないんですか? あ、今うまいことを言えた気がします」
「全然うまくねぇよ! クソ、何処だ、何処にいるんだ?」
自分の尻を両手で隠すように覆いながら、真っ青な顔で周囲を見渡す準を尻目に僕は購入した久寿餅を食べる。
あぁ、これですよ。この味にこの触感。やはり此処の店は最高ですね。
自然と表情が綻びるのを感じつつ、久寿餅を食し、熱々のお茶を飲むという行為を繰り返していると……。
「まさか、俺の純ケツを狙っているのはお前なのか、宗紫?」
「その首刎ね飛ばすぞ、貴様」
「準、心臓えぐるよ?」
「ヒエッ」
僕とユキの真剣な声色に、準の顔が青を超えて白くなる。
これが僕の日常。遊んで、買い物をして、馬鹿なことを言う。僕たち友人たちのありふれた日常なのです。
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日が落ち、人工の光が道を照らす時間。
小雪達と別れた宗紫は、街灯の下で誰かと通話していた。
「ハァ、百代先輩が寮の風呂釜を壊したと?」
『そうじゃ。かなり元気が有り余っておるようじゃよ』
宗紫の通話相手は、宗紫の通う学校の学園長にして、武術の総本山である川神院のトップである川神鉄心のようであり、鉄心の言葉を聞きながら彼のその表情はみるみると不穏な色に染まっていく。
「そうですか……。それで、僕にどうしろと?」
[お主に、
「お断りします」
[その理由を聞いてもいいかの?]
「まだ時期ではありませんので。それに……」
[それに?]
「いえ、なんでもありませんよ。とりあえず、その願いはお断りしますので」
そう告げて、宗紫はまだ何か伝えようとした鉄心の言葉も聞かず、一方的に通話を切る。そして、星のない黒い空を見上げ。
「僕自身、まだ総てを棄てる覚悟ができていないのだから……」
誰に聞かれることのない彼の呟きは、夜空に吸い込まれるように消えていった……。
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