真剣で殺し愛夫婦の子供に恋しなさい   作:紅 幽鹿

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大変遅くなりました。
では、第捌話どうぞ!


第捌話

 宮本さんと会話をした日から時間が経ち、今日は水曜日、祝日。

 今日に至るまで、クラスメイトの心が大和たちに泣かされたり、僕の住んでいる場所の近くで怪しい薬が売られていたり、見ず知らずの男性の純ケツが掘られたりしていましたが、些細なことでしょう……。

 さて、そんなごくありふれた日常を謳歌している僕は、本日、一子さんをデートに誘おうとしていたのですが、どういうわけか九鬼のプライベートジェット機に乗せられています。

 まあ、乗せられている理由は分かりますが……。

「お仕事ですか、クラウディオさん?」

「はい、そうでございます。壬生様」

 つい先ほどから、気配を少し殺しながら待機していた執事服を身に纏った老紳士、九鬼財閥従者部隊序列3位、クラウディオ・ネエロさんに確認をとると、予想通りの返事が返ってくる。

 まあ、お仕事なら仕方ありません、一子さんとのデートはまた別の機会にしましょう。

 しかし……。

「あの先ほどから可愛らしく睨んでくるお隣の幼女は誰でしょうか? 額のアレからして九鬼の人間でしょうけど」

「フハハ! 我の名前は九鬼(くき)紋白(もんしろ)。紋様と呼ぶがいい!」

「これはご丁寧にどうも。僕は壬生――」

「知っておる。名は壬生宗紫。剣神、壬生(みぶ)宗次郎(そうじろう)と拳神、玖錠(くじょう)紫織(しおり)の一人息子。二人の流派である、石上神道流と玖錠降神流を修めたもの。そして……兄上の恋敵」

 クラスメイトとその姉を彷彿とさせるような態度で自己紹介をしてくる、額にバツ印の傷をつけた和服姿の準が如何にも喜びそうな体系の少女に僕は苦笑いを浮かべつつも自己紹介をしようとするが遮られ、一部の人間でしか知りえない情報を告げられる。

 紋様に余計な情報を伝えたのは、クラウディオさんかヒューム・ヘルシング(不良爺)か……。

 まあ、そんなとより、彼女に睨まれていた理由は解りましたね。

「なるほど、だから先程僕を睨まれていたのですね」

「……兄上や姉上ほど素晴らしい方だ。それなのに、兄上の気持ちに応えない川神一子や姉上を倒した川神百代が苦手だ。そして、壬生宗紫。お前も……」

「それは失礼しました。しかし、紋様は英雄と揚羽さんが大好きなんですね」

「うむ! 兄上、姉上は――」

 大好きな姉と兄の話の為か饒舌に語りだす紋様に、僕は笑顔で適当に相槌を打っておく。変に敵対心みたいなものを抱かれ続けるのも面倒くさいですしね。幼子には好きなものを語らせて気分良くさせておくのが一番です。

 しかしまあ、本当に嬉しそうに語られる。紋様の喋り方も相まって、久しぶりに、姉のような二人――なんとなく凄くて偉い桃色髪の方と、真面目で時々脳筋な銀髪の方――に会いに行きたくなってしまいますね……。

「壬生、聞いておるのか?」

「ええ、聞いていますよ。僕にとって英雄は素晴らしい友ですし、揚羽さんは素晴らしい武人ですからね」

「そうか、そうか! それで、兄上は――」

 僕の言葉が嬉しかったのか、若干表情を綻ばせ、話の続きを再開する紋様。そんな彼女の話は現地に到着するまで続いた……。

 

~~~~~~

 

~~~~~~

 

 紋様の姉上、兄上がいかに素晴らしいか講義を終え、たどり着いたのは某大国の成金邸の庭。

 どうやらここで各国の政治家達のパーティがあるらしく、紋様はそれに参加するようである。

 僕と紋様、クラウディオさんはその成金邸に入場した後、紋様はクラウディオさんを連れて政治家たちの集まる庭へ、僕は成金邸の隅の方で待機している。

 しかし、まあ……。

「仕事の内容も告げずに行ってしまうなんて、薄情だと思いませんか? 不良爺?」

「フン、仕事の内容は俺が告げると言っておいたからな。壬生宗紫、飢えた獣」

 つい先ほど僕の背後に現れた執事服をまとった不良老人、九鬼財閥従者部隊序列0位、ヒューム・ヘルシングに問うと、彼は毒づきながら返答してきた。まったく……。

「誰が飢えた獣ですか、獣と言うなら貴方もでしょうに。あ、いえ、獣じゃないですね。ペットでしたね。これは失礼」

「貴様……」

「はいはい、殺気を出さない、出さない。見ず知らずの成金さんが失禁していますからね。そもそもその程度の児戯に等しい殺気で僕が怯むとでも? 早くお仕事の内容を言ってくださいよ」

 僕の言葉が癪に障ったヒュームは、僕にとっては微風レベルにもならない殺気をぶつけてきますが、深呼吸をして落ち着いたのか殺気を抑えて仕事の内容を話し始めます。

「ハァ。今回の仕事の内容は紋様の護衛。それだけだ」

「完結的な説明有難う御座います。しかし、そんな仕事、僕は必要ですか?紋様の側にはクラウディオさんがいますし、それにアンタもいる。僕、必要ないでしょう?」

「念には念をというやつだ……。ほら、貴様の刀だ」

 そう言いながら、ヒュームは中身の入った刀袋を僕に放ってくる。

 ハァ、まったく。人の刀をそう雑に扱わないで欲しいですね……。

「中身は、以前あずみさんにお願いしたものですか?」

「ああ、そうだ。まったく、面倒なことを九鬼に押し付けるな。お前が……いや、壬生が刀剣所持をするための手続きがいかに面倒くさいかしっているだろう?」

「だからこそ、頼んだんですよ。ちなみに、この刀の銘とか分かりました?」

「銘か? 確か建速(たけはやす)だ」

「建速ですか……さて、お仕事は紋様に悟られないうちに邪魔者の排除。それでよろしかったですか?」

「壬生宗紫、その年齢でボケたのか? 俺は、紋様の護衛だと言ったんだ」

「ええ、それは覚えていますよ。だからこそ、邪魔者の排除と言ってるんですが……ペットさんこそ、齢のせいで鈍りましたか?」

「貴様ッ!」

 お互いに煽りながら言い合っていると、僕個人に対してだけ沸点の低いヒュームはまたも殺気をぶつけてくるが、一瞬で殺気を引っ込め神妙な面持ちに変わる。

「確かに貴様の言う通りかもしれんな……。一人、いや二人か?」

「本当にボケたんじゃないんですか? 三人ですよ。二人はプロの方なんでしょうね。気配の消し方が巧い。ですが、巧いだけで完璧に消せているわけじゃありませんね。それで、あなたが察知できなかった3人目ですが……これは、プロ中のプロ。感覚的なアレですが、貴方達がよく言う壁を越えた人間か、片足だけでも入ってる人間って感じですね」

「それで?」

「貴方にはプロの方をお任せしますよ。僕はプロ中のプロの方をいただきますね」

 僕の言葉が何処か気に入らなかったのか、ヒュームは一気に不機嫌な表情に変わり、睨みつけてくる……あ、此奴。強い方と戦いたかったんだな。でも、譲ってやるつもりはありませんよ。

「ハァ、これは紋様の護衛でしょう? なら、貴方が近くにいる敵を倒さないとどうするんですか。それに、3人目を見つけたのは僕ですから、早い者勝ちというわけですよ」

「……仕方がない、今回は譲ってやろう。だが、やりすぎるなよ?」

 そう余計な一言を残し、ヒュームは二人を狩るべくこの場から去っていった。

「ハァ、本当に余計なお世話ですよ……さて」

 周囲に人がいないのを確認してから刀袋から刀を取り出し、腰に差す。そして、勢いよく鞘から刀を抜く。刀身は刃こぼれもなく血も啜っていない、綺麗な刀身のままだった。

「さて、試し斬りまでいける相手だと良いんですがね……」

 逸る気持ちを抑えつつ丁寧に納刀し、僕も3人目がいる場所に向かうのだった。

 

~~~~~~

 

~~~~~~

 

 場所は某大国の政治家が開いているパーティ会場の少し離れた木々が生い茂る森の中。

 そこにソレはいた。

 迷彩柄の服を身に纏い、その両の手を血で赤黒く染め上げた男。

 男の周囲には十数人の黒いスーツのようなものを着た屈強な男たちが倒れていた。

 倒れている男たちは誰もが動かず、人体で重要な器官の一つである心臓が位置する場所には、ぽっかりと穴が開いている。

 この光景を第三者が見ればすぐに理解するだろう。

 迷彩服の男が一人で黒いスーツたちを殺害したのだと……。

 黒スーツの男たちは、今回のパーティーの警護の依頼を受けた者たちだった。誰もが特殊な経歴を持ち、ただの犯罪者達や武を嗜むもの程度に後れを取るはずがなかった。九鬼の従者部隊、上位陣とまではいかなくともそれより下の者たちには引けをとらない強さがあると自負していた。

 だが、その自負は迷彩服の男が現れた瞬間に砕け散った。

 男達には何が起こったか認識すらもできなかっただろう、いや認識はできたのかもしれない。ただ、それは一瞬。自分の心臓を素手で握りつぶされたという事実のみだったが……。

「フゥゥゥゥ」

 迷彩柄の男は深く息を吐く。それは自身の心を落ち着かせるためか、それとも殺した男たちの弱さに対する落胆からか……。

 だが、迷彩柄の男は直ぐに思考を切り替える。

 自身の目的はスーツの男たちを殺すことではない。自身の視線の先にある会場にいる九鬼紋白の誘拐、そして巨額の身代金を要求する。それが受けた依頼だった。

 男は依頼を完遂するために会場の方へと歩を進める。

 その際、ふと男の依頼主が言っていた言葉を思い出す。

 身代金を手に入れるまでは九鬼紋白を好きにして良いと、もし身代金を相手が払わなければ九鬼紋白はお前のモノだと。

 その言葉を思い出し、男の顔が自然とニヤける。男の脳内には自身が九鬼紋白を、まだ穢れも知らぬ無垢な身体を穢す光景が浮かび上がっていた。

「(あぁ、彼女を自身のコレクションの一人にしよう。何度も穢し、何度も自身の遺伝子を宿らせよう。他のコレクション達も新しい仲間が増えてさぞ喜ぶだろう)」

 自身が戦利品として獲得してきた他の少女たちと同じように、自身の子を胎に宿した紋白を想像しながら、男は足取り軽く目的の場所へと向かおうとする。

 だが……。

「おやおや、これは凄いですね。すべて、一撃ですか……ふむ、傷口から見るに武器の類ではなく貫手のようですね。しかし、人体を容易く貫手とは……凄まじい修練をしたようで」

「ッ?!」

 突然背後から聞こえきた声に男は振り向き、構えを取り視線を向ける。視線の先には腰に刀を差し、興味深げに死体の傷口を観察する独特な和服を着た少年――壬生宗紫が立っていた。

「(一体いつそこに立っていた⁈ そもそも人が現れたのなら気配でわかる。なのに此奴はまるで――)」

「まるで、気配を感じなかったですか? ああ、お気になさらず結構ですよ。ただ、僕が修めてる武術の初歩を使ったにすぎませんから」

「ッ?!」

 男は自身が考えていた言葉を言い当てられ、さらに使った技術が初歩の初歩で会ったことに驚愕する。

 そして、男の思考は先ほどまでの淫らなものは一切に無くなり。その総ては目の前にいる少年に埋め尽くされる。男は一体何なんだと、自身より一回りも年齢が違うであろう少年のこの落ち着いた様子は何なんだと。何故、俺はこんなにも目の前の存在に恐怖しているのだと……。

「さて、長話や膠着と言うのは面倒ですし、はじめましょうか?」

 その言葉が殺し合いの合図となった。

 先に駆け出したのは男の方である。それは男の持つ自尊心からか、恐怖からかは解らない。

 だが、男は常人ならば視認できない速度で宗紫に向かって駆け、そして自身が最も信頼する一撃必殺の貫手を心臓に向かって放つ。

 宗紫は男を視認できていないのか、構えもせず動こうともしない。その様子に男は安堵する。

 しかし……。

「ふむ、案外速いですね。でも、これが最高速度というわけではないでしょう?」

 男の必殺は宗紫の心臓ではなく、虚空を貫いていた。

 男は何が起こったのか理解できない。確かに心臓を貫こうとした。だが、目の前の少年はその場から一歩も動かず自身の必殺を避け、余裕そうな表情を浮かべている。

「どうしました、攻撃しないんですか?」

「舐めるなァァァァァ!!」

 宗紫の言葉に自尊心を煽られた男は、彼の命を奪わんと、突き、貫手、蹴りを人体の急所を抉らんと殺意を持って放つ。

 だが、宗紫は技が完全に放たれる前、男の初動の時点で自身の拳や蹴りを当てることで技を潰していく。

 そんな神経をすり減らす、綱渡りのような打ち合いを数十合繰り返し宗紫の表情は変わらず、反対に男の表情は険しいものになり息を荒く、動きは大雑把になる。

 その隙を見逃すほど宗紫は優しくはなかった。

「フンッ!」

「ガァッ?!」

 宗紫は周囲が地震と錯覚する程の踏み込みで男の懐に潜り込み、がら空きとなった腹部に向かって拳を放つ。

 落雷と見紛う程の強力な拳を受けた男は数メートル先まで吹き飛び、地面を転がりながらもなんとか勢いを殺し立ち上がる。しかし、腹を押さえ、苦悶の表情を浮かべその場から一歩も動けずにいた。

「まさか、ただ一度の攻撃で終わりというわけではありませんよね?」

 そう言いながら、宗紫は腰に差していた刀を鞘から抜き、露になった切っ先を目の前の男に向ける。

「本番はこれからですよ。さて――」

 ゆったりと身体を半身にし、刀を真横に、切っ先を相手の目に向けるような構えを取る宗紫は何処か期待するような表情を浮かべながら……。

「簡単に壊れないでくださいね?」

 人という生物の枠組みから外れた(殺意)が男に向かって、放たれた。

 

 




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