最期の旅路の果てに 作:夕闇
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吸血牙装を武器として展開し、怪物のような見た目の鋭く尖った大きな爪でクイーンと呼ばれる女の身体を突き刺した。
青い血液が周囲に飛び散る。
すると、怪物共に抗うため被験体となり、果てに暴走したこの女は死を目前にして正気にでもなったのか、憂いを帯びた瞳を灯し何かを語り掛けようとしてくる。
垂れ下がった手を動かし、私の顔に触れようとするが、私はこの女の意思を否定する。頬への接触を中断させ、心臓を抉りだし、荒れ果て巨大な裂け目がある谷底へ廃棄した。
握り潰したかはわからない。クイーンが発する高濃度の瘴気に中てられ、自身も堕鬼化する最中の行動だった。
心臓を抉り取り、クイーンを仲間の下へ蹴り飛ばすとほどなくして石化し始め、荒れた軍事施設に不釣り合いな一つの美しいレリーフとなった。無常に押し蹴る私へ悲痛な表情を向けたが、私としては何をしでかすか判断つかないのだ。もうすでに物言わぬ彫像になってしまったが、悪いとは思っている。……反省はしないが。
これで化け物を倒すはずの第1世代は討伐された。私が人間の生を終える原因となった化け物達が国の周りでうろついているが、内部の問題が終わり、外部対応へシフトするだろう。
「――ぐぅっ、こふっ……」
体が爆ぜるような、業火に炙られるような、不思議と力が湧きたつような、叫びたくなるほどの悲鳴を飲み込む。すると、それが代償だというように吐血した。自身の自慢の髪と同じで鮮やかな赤だ。
瘴気から守るマスクを失ったとはいえ、ここまで進行するとは流石はクイーンといったところか。喉も酷く渇く。
クイーン討伐の中心となったグレゴリオ・シルヴァと短いながらも共に戦ったパートナーのジャック・ラザフォード達の無念そうな視線が私を貫く。
最期に残す言葉は特にない。残された手紙から家族は蘇ることなく他界したのだと理解している。だが、一言くらいと、「後の事は頼みます」と二人に言葉を置き、残った冥血を消費して、戦友が名付けてくれたラストジャーニーを発動する。
言葉通り、ここが最期の旅になるとは皮肉なものだ。
クイーンの瘴気のせいか、あるいは最期の命を消費しているからだろうか。普段より増幅された力は全身からオーラに似た赤い粒子を放ち地響きを起こす。
手持ちの武器は無い。クイーンの心臓と一緒で、すでに谷底の闇の中だ。
そして、私は腕を振りかぶり、素手で胸を突き刺し、己の心臓を破壊する。これにより、自身の甦りはありえない。
胸に埋まった片腕を伝い、おびただしい量の血が滴り落ちる。
視界がぼやけ、思考が混濁していく。次第に気が遠くなり、足元が崩壊したかのような感覚を覚えつつも、ついに意識を手放した。
『――』
誰かが私に語り掛けてくる。
『――――』
誰かが薄まった意思の私を呼び起こそうとしてくる。
『――――――おはよう』
その挨拶と共に、霞がかったおぼろげな意思が一気に集約し、意識が鮮明となり、目覚めた。
気が付くと私は身体を丸め、羊水のような何かに浸かっていた。軽いパニック状態になり、慌てて辺りを探る。
(これは……繭の中かしら……?)
ぶよぶよした触感が手に伝わる。
一旦、冷静になると水中にも関わらず明るいことに気づく。さらには呼吸も苦しくない。繭らしき物体を強く押すと内側から容易に破れそうだと、感覚で理解した。
外の気配はわからず、留まるか破るかの選択ぐらい。外界の様子を察知できないゆえに、私は繭を慎重に破ることにした。
羊水が外へ零れ落ち、私は繭から顔を出す。
すると待っていたのは、荒れて寂れた教会の内部だった。壁には大きな窓のステンドグラスが嵌め込まれており、床には均一に並んだ席もある。他に、座席を見下ろしているので、自身は高い位置にいると思われた。
動物などの気配も感じられない。私は濡れた身体で繭から脱出した。
小山から下り、自身が何に捕らわれていたか確認しようと振り返る。
「何よ、これ……」
思わず口に出さずにはいられなかった。私が繭に包まれていた場所は巨大な白い大木が生え、沢山の赤い実が実り、その下には巨木の養分になったであろう人類を追い詰めた巨大な化け物が下敷きになっていたのだ。
ぼけた頭の中を回転させる。久々に考えを巡らしたように緩やかに働く。
(確か、そう、
私の家族を破滅に導いた化け物であり、第一世代が国内から撃退した敵対種だ。何故こいつがここにいるのか理解が追いつかない。ただ、微弱な生命力を察知できた。どうやら、生かさず殺さず、この巨木の養分にされ続けているようだった。
それでも、敵の出現に私はヴァジュラから離れ、距離を置く。丸腰どころか、全裸なのだ。無用な戦いは避けるべきである。
幸いにして、血を欲する渇きはない。私は内部を探索することにした。何故なら、目の前のヴァジュラが破壊したらしき教会の出入口は白い巨木が根を張り、各出入口を封鎖している。上に跳んで窓ガラスや脆い壁を破壊すればいいのであろうが、自身の名誉のためにも全裸での活動はなるべく避けたかった。
それからして、シーツやら果物ナイフやらを入手した。残念ながら衣類はない。持ち出されている。
その後、間もなくして、身だしなみ鏡の前に立った私は再び驚愕することなった。
鏡の前に立つ女性は自分のものではない。自身が殺したはずのクイーンが目を見開き、私を見つめている様が映っていたのだ。
END
たぶんここらで満足した方が区切りもよく幸せ。