最期の旅路の果てに   作:夕闇

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 近頃の私はヤドリギをより成長させるべく、化け物達を駆逐する勢いで狩っていた。少なくとも、私の留守中に白い竜人を撃退できる力は欲しい。今後身軽な一人旅をし、見聞を広めるつもりなのだし。

 

 もしも列車を使ったとして陸路でロシアを横断するなら、休憩を挟んで1週間。走行距離は約1万キロ。各地に滞在する以上、相当な期間、私は大都市に戻ってこない。

 

 化け物達の遺体の収集については、長く根を伸ばせるようになったヤドリギが回収してくれる。ヤドリギに化け物を与えれば与えるほど成長し、地中深くに根の範囲が拡大していった。今では小国ならば優に跨ぐ長さだ。

 

 そして今回。好みの恰好を身に纏い、化け物の気配がぎっしりと詰まった、遠くにある一つの街へと侵入。逃げれぬ、かつ人に見つからぬよう、透明な霧の牢を展開する。最近クルスが開発した錬血の一つだ。

 

 電波を遮り、光の屈折により不可視になる効果と近づく者はたちまち激しい恐怖と痛みに襲われ消滅する代物である。なお、激しい戦闘での制御が難しいゆえに、素直にクルスを頼り、操作を預けた。

 

 幾度かそこらにいる個体に戦闘を仕掛けてみたものの、中にいる化け物は異質だった。さながら軍隊のように練度が高く、小細工を仕掛けてくる。おとりに、待ち伏せ、毒ガス部屋、落とし穴に粘着トラップまで。化け物の中に人間が憑依でもしたのかと疑うほど。昔の私なら数にも押され、とうに疲弊し死んでいた。

 

 現在では馬鹿げた耐性に身体能力。罠に困ったら建物ごと倒壊させてしまえと頭の悪い行為。どちらが物事を考え、思考を巡らしているかと思えば化け物の方である。

 

 戦略を純粋な暴力の戦術で踏み潰す私に、相手も業を煮やしたらしく、遂に総力戦となった。

 

 口に神機を咥えた一際体の大きい2体のオーガテイルや群れ。ヴァジュラを白くして女神像の顔を持った大型や獅子の頭を持った巨躯の青白い鳥人など、見知らぬ生物もおり、さながら雁首を並べた化け物の博覧会だった。

 

 一番後ろには白い竜人。サイズが以前の奴より大きいことと、多少見た目が違っていることから、私達の拠点を襲った化け物と異なるかもしれない。

 

 道中討伐したこともあって、数にして66。多いか少ないかは個人によるだろうが、とにかく威圧感がある。あれから私だって能力面が強化されているが、これは骨が折れそうだ。

 

 危機感を持つ私とは逆に、内なるクルスはうわあと無邪気に喜ぶ。お菓子の家に踏み込んだヘンゼルとグレーテルのような興奮だ。おもちゃのようにあれ等をねだられた。

 

 戦って不味そうなら撤退も視野に入れて、今は――

 

 

「みんなここで死ぬのよ」

 

 

 こいつ等を倒すことに専念しよう。

 

 私は赤く胎動する黒鉄の剣を握り締め、一歩踏み出し、音を置き去りにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は俺の目にした者が信じられなかった。バケモノは小さき者共と同じ姿をしていたからだ。しかし、バケモノの身に蠢くナニカが、小さき者共と異なる存在だと教えてくれる。腕輪や武器の特徴ではなく、バケモノの中に邪悪なナニカが潜んでいるのだ。

 

 少し前、バケモノが来ていたのは肌で感じていた。何せ、突如街を覆う何かがあのバケモノと酷似した気配を放っていたから。無視しろという方が無理だ。

 

 その見えない何かも、下僕が確認したところ、触れた部分から分解され消えた。捕食による肉の修復も呪いのように困難で、切断面からより深く切り取ることでようやく回復した。つまりは、地上に逃げ道がないということだ。

 

 そして、今。俺の試みを突破し、バケモノが下僕達と戦っている。

 

 一刀一殺。赤い軌跡を残して、群れが真っ二つに切り裂かれ、地に沈んでいく。

 

 武器を咥えた奴は刃を交えて一撃を凌いだが、体ごと弾き飛ばされ、振るう2撃目で胴が上下に泣別れとなった。

 

 手が翼となっている雄鳥の人型は防御の構えをしたのに、真っ向面から斜めに切り捨てられ、ズズズと上半身がずれては、直立した下半身から血が噴出する。

 

 四肢を地に着けた大型の獣は地面を落盤させる時と同様、己の自重でバケモノを押しつぶそうと飛び掛りはした。が、左右に分かたれ、バケモノを避けるかのように落下して地面を揺らすだけに至る。

 

 大きな蝶のような雌型はエネルギー弾を差し込もうとする。けれど、跳躍して避けられ、バケモノが武器を投擲し、飛来したそれが蝶の雌型へと突き刺さって爆発。内側から肉塊が四散した。

 

 女の顔を持った大型の獣が氷と冷気を操り、巨大な氷柱を上空から自由落下するバケモノへ突き刺そうとする。だが、バケモノが片腕に赤い光を纏い、その片手からかつてライバルと同じ超巨大なレーザーで氷柱ごと呑み込み、地面を抉っては、女の顔を持った獣は下半身を消失させた。一応は生きている。生かされたというべきか。

 

 俺の群れの中で、俺を含め3番目に強い奴がああも容易に倒されるとは……。ぞれぞれの強さに壁があるとはいえ、流石にこれは……。俺が強くなっているように、バケモノも成長していた。

 

 

――俺はまた逃げるのか……?

 

 

 いいや、プライドはあの時に捨てたはずだ。群れに、家族のような情があったとしても非情になれ。

 

 

――戦略的撤退だ……!

 

 

 念には念を入れて地下から地上に向けて掘った抜け道が二つある。それを誰にも使われてない以上、逃げ延びることができるはず……!

 

 俺は2番目に強い、獅子の顔を持った鳥人へ現場を任せる。覚悟をした顔を見せてくれた。すまない。今後どうなるか予想はつくというのに、その事を言わず俺はまた罪を重ねる。その後、頭に大きな目玉を乗せた雌型を抱え、足の速いわずかな数を連れてバケモノに背を向けた。

 

 全力疾走をしてあの場から離れると、後を任せた鳥人の雄叫びが聞こえた。

 

 地下へ潜って、舗装した巨大な地下通路を走る。しかし、途中で俺達の足は止まってしまった。見えない何かが地下通路まで届いてしまっている。ただ、放出される力は地上より薄いように思えた。

 

 俺は意を決して、透明な何かへ飛び込む。体を分解されるような苦痛や、痛みから湧き上がる恐怖が増幅されるおぞましさ。下僕達の悲鳴を耳にしながら、どうにか突破した。

 

 しかし、後続に続くわずかな下僕も死に絶え、残ったのは俺と俺が抱き抱えた頭に大きな目玉を乗せた雌型の一匹のみだった。

 

 

 

 




シユウ:手が翼となっている雄鳥の人型

ヴァジュラ:四肢を地に着けた大型の獣。

サリエル:大きな蝶のような雌型。

プリティヴィ・マータ:ヴァジュラを白くして女神像の顔を持った大型。女の顔を持った大型の獣。

セメクトの寒冷Ver:獅子の頭を持った巨躯の青白い鳥人。2番目に強い、獅子の顔を持った鳥人。

ザイゴート:頭に大きな目玉を乗せた雌型。
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