最期の旅路の果てに 作:夕闇
バケモノに半永久的に囚われたアイツから逃げ出し、率いていた群れすら一度捨てた俺は脅迫概念にも等しい想いから強くなった。かつて街にいた群れは約一〇〇匹。なら、それ以上に下僕を増やし、かつ小さき者共に数を知られないよう活動を続けた。
何せ、小さき者共が撃ってくる、超遠距離の強力な爆発物は危険だ。今は対処できているが、下僕にした奴からそれよりも強い存在のことを聞いたのだ。撃たない理由は俺達が小さき者共の近くにいるからだと思っている。小さき者共は、俺達が奴等の巣で暴れ、大勢の弱い奴がいる時はほぼ撃ってこないからだ。
数を見せつけるにしても時期尚早だ。目視するのも難しいほど高くいる、空をぶんぶんと飛ぶ物体に、現在、体改良している下僕の攻撃をそいつにぶち当てるまでは秘密にしておきたい。頭に大きい目玉を乗せた雌型に相談したところ、そう納得してくれた。
頭に大きい目玉を乗せた雌型は今では情報の報告だけではなく、下僕達の意見を集め考え、俺の相談にのる役ともなった。体は小さくなり戦闘能力が落ちてしまったものの、隠密行動に優れ、素早く俺のもとに情報の提供ができる雌型は貴重である。何よりも、あのバケモノを目視し、肌で感じ、生き残ったのだからかけがえのない存在でもあった。
俺は下僕を着実に増やし、強くし、棲み処を幾つもにも分けた。大きな規模になれば、バケモノに遭遇する回数も増えるだろうと高を括っていた。だけども、不思議とバケモノは俺達の前に現われなかった。
空を飛ぶ物体を専門に目視させている奴に、針による射出試験の結果、空高い物体を撃破できるだろうと判定が出た。ただし、日が落ちて昇るのを1回として1発だ。数の少ない大型個体であり、その1発を撃てば、小型にすら負ける時もある大型だ。調整をし、運用を間違えないようにしなければ。
それと、小さき者共にも他のグループの奴等にも負けることのない俺の群れは、連勝を重ねるごとに弛緩した空気が漂いはじめた。一番下の下僕達はそれで構わないが、側近達も同様であるのは些か不味い。一度、久方ぶりにバケモノの棲み処を見せるのもいいかもしれない。できるなら、アイツを救出できればいいが……。
俺は13の精鋭を選別し、あのバケモノの地へと連れて行く。
そして俺達はバケモノの巣を遠くの小山から一望した。巣は己の指より小さい。
簡単な話だ。俺達はバケモノの巣にさえ近づけないほど、危険な土地だと察知したのだ。あちらこちらが地雷原。命を失いだけならいいが、そうはならないだろう。
耳を澄ませば、土地全体から湧き上がる絶叫。コアを持つ者ならわかるだろう。怨嗟の嘆きが永遠と絶え間なく、風に潜んでいる。永らく耳にしていなかったアイツ等の声が聞こえる。
――わかってはいたさ、俺がお前達を助けれないことは……ああ、クソッタレッ……!
ある種の諦めに似た達観が、静寂に隠れた不協和音の地獄に冷静さを保ってくれる。
だが、それは長年心に抱え続けた俺だけであって、精鋭達は駄目だった。
泣く奴、自失呆然とする奴、情緒不安定に笑う奴に絶望する奴。それぞれが、違った表情を見せてくれた。だが、激情した奴がよろしくない具合だ。白い巨躯を持った人型の雄蝶だ。
俺の静止に従うことなく、俺の腕を振り切っては浮遊して苦悶の地へと侵入した。
地中から突如、巨木のような白い棘のある触手が現われ、白い雄蝶を絡め取ろうとする。他の側近が助けに行こうとしたが、俺は炎を吹いて、一喝。黙って見守らせた。
もう間に合わないのだ。
白い雄蝶は光の壁を展開したが、その巨体より更に巨大な触手に多少抵抗しただけで破壊され捕らわれる。毒の鱗粉を撒き、エネルギー弾など遠距離攻撃を駆使する。けれども、次々と出現する触手により、体を傷つけられ、巻き付き、地中へと引きずり込まれ沈んでいった。
盛り上がった土は触手共が整え、均等にし、その姿を消す。
しばらくすると、白い雄蝶の悲鳴が地中から響いてきた。次第にその声も遠くなっていく。もう奴は、アイツと一緒に地獄の仲間入りだろう。仲間想いの奴だったが仕方がない。
他の精鋭達は、行動を起こしたそうだったが動かない。雄蝶に起こった身の出来事を見て、助けに行く奴は愚か者だ。少なくとも、命の使い時はここではない。
俺は、頭に大きい目玉を乗せた雌型との境遇をゆっくりと語った。
話終えた後、精鋭達はまだ見ぬバケモノを恐れた。当然俺だって怖いからよくわかる。同時に、幾匹かはバケモノと戦いたくないという表情をする。効果がありすぎた。
――もう、この土地から離れた方がいいかもしれないな。
最終的には頭に大きい目玉を乗せた雌型と相談した上で判断を下すだろうが。
ひとまず、新たな新天地の意見を募集すると、あのバケモノが周囲をうろつくだけで近づけなかった建物があるそうだ。そいつが話すには、体の中に邪悪なナニカが潜んでいるのは理解していたが、小さき者の姿をしていたから情けなくて誰にも言えなかったらしい。
俺が特徴を尋ねるとバケモノと一致した。
そこは小さき者共が壁を築き大集団で集まる土地。かつてアイツと俺が暴れた地でもある。小さい希望が俺達を照らす。互いの顔に余裕が出てきたのがわかった。
現在は巣が完成したようで強固な壁が周囲を覆っている。きっと何かあるのだろう。加えて、バケモノの巣からどこよりも離れているのがいい。どうせ負けても死ぬだけだ。名誉の死でもある。永遠の苦痛よりずっとマシだ。
俺達はその地を奪うことにした。
――もっといいのは、空を飛び、広大な海を超えて新天地を目指すことだ。俺に翼があればな……。
少し背中が熱い。