最期の旅路の果てに 作:夕闇
地下世界。私はクルスが創り上げた箱庭の庭園にて、化け物達の血が流れる湖で贅沢な水浴びをする。粘度はなく、水となんら変わりはしない。赤を彩るように小さく咲く白花の天然香料も加わって、良い香りだ。
肌に触れ、地肌に吸われるイノチが、活力と得も言えぬ快感をもたらしてくれる。
沢山のイノチから創造された湖。今もなお、半死半生の化け物達の血脈から血潮を啜り上げて成る場所。当たり前に使っている私。命を弄んでいるつもりはない。
化け物の、彼らの不幸のおかげで私は快適である。だが、この光景を見て一般人はどう思うだろうか。そう自問自答をすると、やはり私は昔に比べて変質している。
(全ては環境に適応した結果なのでしょうね)
私は水浴びをほどほどに済ませ、肌のはりや潤いに満足する。それから、着替えて自室に戻り、精神世界と同じ天蓋付きのベッドにて横になった。
私はクルスを起こす。
『あの、起こすなら優しくして欲しかったんだけど……息を止めさせて起こすとかって、酷くない?』
私達は座ることなく、クルスが一度死んだ大広間で彼女と対面する。彼女は文句を言いながらも、表情は緊張しているようにも、恐れているようにも見えた。
「寝たふりを1年以上も続けるクルスが悪いのよ」
『えっ、気づいてたの? それで放置し続けるカミラもすごいよ』
「毎回欠かさず顔を出しに来てたでしょ、満足しなさい」
『……はーい、で何するの?』
「ごっこ遊びみたいなものよ」
『探偵とか?』
「審問官ごっこよ、当事者さん」
『あ、カミラに似合いそう。でも、それをわたしが受けないといけないのはちょっと嫌かも』
「なら、今後口を利かないわ」
ノヴァとの戦いは苛烈になるはずだ。守る側からすれば、私達は人類の希望を破壊しに来る化け物。ここで腹に一物を抱えて命のやり取りをする気はない。
解決するまで、長期戦を見据えている。
『うぅ、本気だ……』
「お互い感情だけはわかるものね」
『横暴です!』
「素直に打たれなさい」
『ドメスティックバイオレンス!』
「片頬だけじゃなく、あるもの全て寄越しなさい。心も尊厳も身体も全部よ」
『キリストもびっくりだよ! 冷酷すぎる!!』
「で、そろそろ聞く気になった?」
『わかるよね』
「はぁ……」
どうしても喋らないというなら黙るまで。私が滅ぶまで感情で訴えてくればいい。
『ごめんなさい』
「質問に答えてね」
『はい』
「素直に答えてくれると嬉しいわ。嫌いになんてならないし、他人に殺されそうになったら私が殺してあげるから」
『ほんと?』
「ニヤつき、気持ち悪い」
可愛いという人もいるかもしれないけれど、イラっとした。不愉快。
『あの、結構傷ついたんだけど……』
「普段言わないんだけれど、感情のままに話してるからね」
『うん、だから余計に』
「どうでもいい。質問いくわよ。はい、か、いいえ、で答えてね」
たぶん長くなるので、淡々と答えて欲しい。
『なんだかなー……』
「私はクルスです」
『はい』
「他人の記憶が見れます」
『はい』
「ヤドリギを操れます」
『はい……って、何なの、この質問?』
「クルスの質問は受け付けてないわよ」
『むぅ……』
次は対象を変える。
「カミラが好きです」
『はい』
「カミラにお世話をして貰うのが好きです」
『はい』
「カミラに出会えて良かった」
『はい』
「カミラが大好きです」
『あっ、これ恥ずかしい。普段思ってるのと、人に言わされるって感覚が全然違う……』
「林檎みたいに真っ赤ね」
『……あぅぅー、うぅぅぅ~~。感情が伝わってるのに、カミラは淡々とし過ぎー』
「波が落ち着くまで待つわ」
―
――
―――
……まさか、体感時間で1日待つとは思わなかった。今はクルスに膝枕をして頬の筋肉を解している。
『ご迷惑をお掛けしました……ほっぺた攣る……そこ、きもち~……もっとー』
「いいのよ、私が始めたことなんだから。でも、余裕が戻ってきたようね。立ちなさい」
『厳しいなぁ』
「ほら、しゃんと立ちなさい」
『う~、カミラってお世話をしてくれる時と普段の性格が別人みたいに違う……物腰の柔らかさとか』
「お母様を手本としているもの、別人であってしかるべきだわ」
『お母さん大好きっ子ー』
「もちろん好きよ」
『自信満々だね……わたしには言ってくれないのに』
「なら、そこまで好きになるよう努力して」
『色々やってるんだけどなー、やっぱり厳しい……』
子供のように拗ねるクルス。今回の話が終わったら、私達の間に横たわる、隠れたわだかまりが解消されることを願ってる。