最期の旅路の果てに   作:夕闇

23 / 26
23

 

 

 

 エイジス島。それは海に囲まれた島。アラガミの脅威から人類を守るために、全人類を収容する島である。人類を全てを受け入れるゆえに、その建築の時間も膨大に必要とする。現在の夢の狭間であり、人々の希望を一身に受ける存在だ。

 

 それこそ、水面下で残酷な計画が進行している――などとは、捻くれた者や悲観主義者だけが空気を読まずに妨害する。そういった風潮が普通なくらいにエイジス計画は信じられていた。

 

 いずれは全人類の揺り籠となる存在。アラガミに荒らされ、計画が頓挫してはならぬのだ。人類が追い詰められている間際にありえない話だが、テロリストに対する軍事設備も充実していた。

 

 そのエイジス島の研究所。名誉ある職に就き、未来を夢見る善良な若い男性研究員は、青空の下にてひと時の休憩を入れる。

 

 

「あ゛ー、身体痛てー。デスクワークはどうしても腰が痛くなるよなー」

 

「お、博士君、休憩かい?」

 

 

 この島の防衛任務に就いている女性の神機使いだ。エイジス島周辺にアラガミが依然として発生するため配備されている。

 

 

「あ、隊長さん。どうですか、仕事の調子は」

 

「そこそこかな。極東は激戦区だって言われてるだけあって仕事が尽きないね。知ってるでしょ、世界ではオウガテイルを一人で狩れて一人前。そんな中、こっちはヴァジュラ一匹単独で狩れて一人前なんだから」

 

「なるほど、まだまだエイジス島専任任務が続きそうですね」

 

「あたしがしばらくここにいて嬉しいでしょー?」

 

「それはもちろん。隊長さんが頑張ってくれているおかげで、僕達研究職員も安心して仕事ができますし!」

 

 

 男性研究員は爽やかな笑みで女性神機使いに返答した。媚びることのない姿勢は彼女の好意に気づいてなさそうである。

 

 女性神機使いは少々飽きれ気味。わざわざ休日を合わせて一緒に出掛けたりしているのに、鈍いと言える。女性神機使いはそろそろ次のステップへと望んでいるのだ。

 

 けれども、日常的な穏やかな時間に女性神機使いは肌を刺す嫌な気配を感じた。彼女はこの直感に何度も助けられている。女性神機使いは上空を仰ぎ見る。

 

 青空全体を覆い隠すほどに白いモノが一面に広がっていた。数が膨大過ぎて、日の光を遮っている。女性神機使いは冷や汗を垂らした。

 

 

「隊長、どうしたんですか、空を見て。おー、雲が凄いことになってる。よく気がつきましたね」

 

「呑気な事を言ってないで逃げるっ!」

 

 

 空が地上に落ちてくる。

 

 二人は建物の中へ逃げる暇もなかった。

 

 だが、その建物とて無事ではない。バケツをひっくり返したかのように降り注ぐ白い棘は、汗水垂らし造られた建築物を一切合切を貫き、あるいは削り、破砕する。

 

 その猛攻は島全体を鳴らす警報すら破壊した。ゲリラ豪雨よりも長い継続は大地を揺らし続け、瞬く間にして人々の苦労を無に帰す。

 

 無事なのは地下にいた者くらいだろう。女性神機使いは武器を盾にして二人の身を守り、更には男性研究員が彼女に覆いかぶさってもなお、女性神機使いまで凶刃が届き、武器ごと肉片に変え、二人の命を刈り取った。

 

 エイジス島に刺さった白い粛清の棘が砕け散る。結晶の粒子となって舞い散ったあと、地上に残されたものは巨人が全てを叩き潰したように、粉々になった瓦礫とミンチになった人間の残骸だけが残った。

 

 くすんだ色と鮮やかな赤ばかりとなった島。欲望のままに従い、残虐な力を行使した者は、遠目から望んだ光景に狂乱し喜び謳う。

 

 

≪死んだ、死んだ、沢山死んだよ。わたしを利用する嫌いな人間達が沢山死んだぁ!≫

 

「頭の中がキンキンするわ。まぁ、好きなようにしていいから、発散するだけ発散しなさい」

 

 

 海上に立つカミラはクルスが生み出した光景を見て、静かに語る。カミラはクルスが暴れる度に彼女の募り募った憎しみが、少しずつ薄れていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台は地上から地下へ。

 

 地上には何も残っていない。クルスの遊びの後片付けで、私は霧の牢獄を展開。それを収縮させ、地上に残るあらゆるものを消失させた。

 

 私は海抜を超えない程度に地表を均(なら)したのち、クルスに外へ続く出入口全てを封鎖して貰う。

 

 ネズミ一匹も逃がさないようにしたあと、車両すら通行できる長く広い通路を歩く。この地下の何処かにノヴァを育成している筈だ。

 

 正体バレなど気にせず手当たり次第に堂々と探す。固く封鎖された扉など、通行の障害はクルスにレーザーを放たせることで取り除く。ユゴニオ弾性限界を超えて赤々と赤熱する通路を進んでいった。

 

 普通の広い通路を進んでいくと、横の扉から男の神機使いが飛び出し、私に視線で憎しみを叩きつける。

 

 

≪カミラに譲るね♪≫

 

 

 クルスの音符すら聞こえそうな上機嫌の声音。私が彼女を殺した時とは違い、戦いの最中でも憎悪が生まれることはないようだ。

 

 

「死ね、バケモノっ!」

 

 

 男の咆哮。

 

 私は錬血し、胎動する黒鉄の剣を創造する。もう以前とは違い、タイムロスはない。片手で剣を振るい、神機使いのバスターブレードを受け止めた。

 

 男がバスターブレードを押し通そうとし、私を殺そうとする。鍔迫り合いとなり、男は鬼の形相をし、カタカタと刃を震わせていた。余程力を入れているのだとわかる。奇襲から即殺したかったのだろう。

 

 同時に女の神機使いが天井を破壊して、別方向からショートソードを突き立てて強襲してきた。私は男の腹に膝蹴りをして距離を離し、剣を薙ぎ男の首を斬り落とす。初めての生の人殺しだ。

 

 空いた手で刃を掴んでは女の神機使いを壁に叩きつけた。すぐさま男を殺した方向から銃弾が飛んでくる。

 

 私は返す手で剣を投擲。銃弾を弾き、飛来した黒鉄の剣が射撃手の胸に命中する。私は剣が射撃手の体を貫通する前に爆破し、身体を内側から四散させ、焼死させた。

 

 壁に叩きつけられ床に落下した女の神機使いが、体勢を立て直し復帰しようとするので、追い打ちで蹴りを放ち、靴底で女の頭をトマトのように蹴り潰す。ビクリッ、と女の身体が一瞬跳ねる。僅かな時間の攻防だが、3人の神機使いを死に追いやった。

 

 

≪久しぶりの対人相手だけど全然腕衰えてないね! ほんとに容赦ない!≫

 

 

 私はクルスの賞賛を受けつつ、武装を解除し、先へ進む。すると、先ほど男が奇襲をかけてきた扉から4人目の神機使いの少女が突進してきた。タイミングを計っていたのだろう、涙で顔が濡れている。

 

 けれど、刃は私に届くことなく、少女は部屋に押し飛ばされる。冥血を消費して衝撃波を浴びせたのだ。コンゴウという化け物が使用する空気を振動させる攻撃と同様のもの。

 

 通路には幾つもの監視カメラがある。食事の姿を他者に見せつける趣味はない。私は挑みかかってくる少女を室内で捕え、少女の口を塞ぎ首筋に牙を突き立てては、その血を喰らい尽くした。

 

 好物を摂取し、身体が震える。新鮮な少女の血を手に入れ身体が歓喜しているのがわかった。私は少女の干乾びた死体を錬血で火葬し、口の端に付着した血液を手の甲で拭う。

 

 

≪艶ぽーい、カミラって吸血鬼以外の何者でもないね!≫

 

「今更よ」

 

 

 私は蘇った吸血鬼なのだから。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定