最期の旅路の果てに   作:夕闇

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 私の気配が変わったことを察したのか、ノヴァは天井に潜った。壁を伝って、捕食の音が響いてくる。どうやら、エイジス島の地下に残った残骸を掻き集めているようだ。

 

 わざわざ敵に塩を送るつもりはない。私はクルスに最大出力の砲撃を要請。シユウの波動砲に似た球体が私の目の前に出現する。けれど、これは赤い。

 

 私は腕に赤い燐光を纏わせ、両手に力の溢れた塊を創造、クルスの力に合わせる。球体に更なる力が加わり、巨大な大きさとなった。

 

 球体は暴風を巻き起こし、赤い電流を放ち、床や壁に亀裂を入れ、鋼材を捲り上げ、私の周囲の小石を浮き上げては砕け散らす。

 

 

《臨界点超えた! いつでも撃てるよ!》

 

 

 私はクルスの言葉を合図に球体を真上に掬い上げ、天井に向けて発射する。

 

 唸りを上げながら突き進む赤い球体は、天井に触れると赤い閃光を発し、光を真横に伸ばす。次の瞬間、轟音を発すると共に、大地が空へ吹き飛んだ。

 

 強い突風が私を叩き、大量の土砂が遥か彼方、空を舞う。その中に、捕食中のノヴァの姿を確認した。

 

 標的を捕捉したとクルスから言われ、私は追撃を指示。地表から審判の棘が射出されて、幾つも棘がノヴァに突き刺さる。

 

 

《殺った!》

 

「まだ殺ってない!」

 

 

 サリエルのように浮遊するのもいいが、速度が欲しい。私はクルスに宙へ棘を出現させ、それを足場に自由落下を始めるノヴァのもとへ一気に駆け抜けた。

 

 棘の足場を頼りに青空の中にてノヴァと対峙する。ボロボロの女神像となったノヴァではあったが、負けないという意思の瞳を返された。私は剣にエンチャントを施し、赤いオーラ切りで一刀両断を行う。

 

 ノヴァは一本の豪腕で己の身を守ったが、脆くなった体だ。腕ごと二等分に分割されて地上へ落下した。

 

 何もない地上。巨大な空洞の真横で、ノヴァは砂埃を巻き上げながら地面へ転がる。私はというと、浮遊で落下の勢いを殺し地上へ足を着けた。

 

 二等分にされてもなお、ノヴァは死にきれないと足掻く。すると、次第に肉体が溶け、地面に広がっては小山を作った。気色の悪い肉塊の山、そこから肌の白すぎる中型のアラガミが出現する。赤い服に、薄青いヴェール。ヴェールは頭から足の先まで覆っていっていた。

 

 

《うっ、第二形態!? わたしだってここまでしつこくないよーっ!!》

 

(ふぅ、女神像の次は聖母マリアね。無事な部分を集めて体を密にした、というところかしら)

 

 

 人間の倍ほどある聖母マリア風のアラガミが、手に持った十字架を掲げると、ノヴァの溶けた残骸から13の青白い水晶が飛び出す。それらが各自展開しては、それぞれから多彩な色の細いレーザーを放ってきた。しかも、追ってくる追尾性能付き。

 

 もちろん、回避する。けれど、私の足よりレーザーの方が速い。当たり前だが。

 

 私は逃げている途中でカモフラージュで一旦姿を消す。けれども、追尾が途切れず当てられた。被弾はしたが、クルスの防壁が私を守る。

 

 

《大丈夫?》

 

(視覚以外でもこちらの居場所を特定できるらしいわね、何とも厄介。一気に距離を詰めるから、あとはよろしく)

 

《任せて》

 

 

 脳内で会話し、突撃。何をされるかわからないが、速攻する。昔と違い、高速戦闘を可能とする体だ。難なく白兵戦に持ち込み、17回切り刻んだ。遅れて痛みが襲ってきたのだろう、ノヴァは甲高い絶叫を響かせる。

 

 とはいえ、硬い。

 

 ノヴァを血達磨にさせ、深い傷を与えたものの、切断まで至らない。この間にも、クルスが敵の水晶を狙い撃ちにし、一つずつレーザーの発射台を除去しては、色とりどりの敵の攻撃も防ぐ。

 

 

 KYAAAAAAA……!!!

 

 

 金響くような高らかな声でノヴァがノックバックの衝撃波を放つ。血潮を撒き散らしながらも、距離を取ろうとしてきた。けれど、クルスが私とノヴァの間に棘を出現させ、ノックバックを阻害する。

 

 私は棘が自壊するのに合わせ、ノヴァの左胸に剣を突き刺し、後ろに退却。そして剣を爆破。ノヴァは心臓部分から肩にかけて大きく抉れ、煙を上げた。

 

 しぶとくも、ノヴァは生命活動を停止していない。クルスが審判の棘で突き殺そうとしたが、ダメージの負った体でも浮遊して避けた。

 

 

《むぅ、心臓部分を破壊されてるのに頑丈すぎー! でも、オールレンジ兵器は全部壊したよ!》

 

(ありがとう。あと、ノヴァのコアの位置はわかる?)

 

《ごめんね、最初の戦いで察知してるって知られたっぽい。上手く隠してるね》

 

(了解よ。次は霧の牢獄をお願いするわ。合わせて追撃する)

 

《いえっさー!》

 

 

 以心伝心のような脳内会話は一瞬で済むから本当に助かる。

 

 霧の牢獄はノヴァ中心に広がり、爆速で縮んでいく。私は半径のドームの収縮速度に合わせて移動を開始。ノヴァは不可視の霧の攻撃に危機感を覚えたのだろう。光の壁を展開した。

 

 霧の牢獄がノヴァの光の壁に触れる。けれど、いずれは世界を呑み込む化け物。光の壁で霧の牢獄を耐え切った。

 

 しかし、光の壁は亀裂が至る所に入っている。再びノヴァに近接した私は、片腕を吸血牙装オウガ型に変質させると、一呼吸入れて、気合一閃。光の壁を破壊してはノヴァの子宮へと突き刺した。

 

 

――捕えた

 

 

 そう確かな手ごたえが片手に伝わる。下半身を貫き、赤い血液が周囲に飛び散る。今までより一層苦しみ悶え、悲鳴を轟かせるノヴァ。

 

 

《カミラ、大当たり!》

 

(聖母マリアはイエス・キリストを産んだの。だからもしかしてと思ったけれど、とんでもない所へ隠してくれたわね)

 

 

 私はノヴァの子宮からコア引き摺り出し、クルスが粛清の棘を叩き込んだ。

 

 すると、遂にノヴァは諦めた瞳を湛えた。それから、意思の強い優しい女性は申し訳なさそうに片腕だけとなった手を何処かへと伸ばすと、だらりと下がりようやく活動を停止する。

 

 一先ず、奇蹟を起こされても厄介なので、剣を創造し体を分割にしておく。

 

 戦いは終わった。シルヴァの娘にノヴァに宿った名も知らぬ人物。どうにも私は心優しい人物を殺す数奇な運命にあるようだ。

 

 

《カミラにはわたしがいるじゃない!》

 

 

 たまには感傷に浸り、ナイーブな気分を味わいたいのに騒がしいのがきた。意識を切り替えよう。

 

 

「エイジス計画も、アーク計画も、ノヴァも全てが終わったわね。これで晴れて、人間の天敵ね」

 

 

 ノヴァから離れ、辺りを見渡せばほぼ何もない更地である。半日足らずでこれだ。前日に来ていた者がいるとするなら度肝を抜かれるだろう。

 

 

《少し寂しい?》

 

「流石にね。証拠を転送されていたら、戦いの日々よ。安息が遠のきそう……」

 

 

 クルスは≪そっちなんだ≫と言葉を漏らす。

 

 

《でも大丈夫! あれを使うから!》

 

 

 クルスの視線が分割されて小山になったノヴァに注がれた。

 

 

「あれって、ノヴァを?」

 

《そう!》

 

「なら、良きにはからいなさい」

 

 

 クルスが私に、私の創造した剣をノヴァ突き刺してとお願いをしてくる。辛うじて形の保ったコアはどうするかと聞くと粉々にされた。必要ないならそれでいい。何が起こるかわかりもしないが、私はクルスの言う通りに行動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カミラの血で創造された剣がノヴァに突き刺さる。でも、まだ足りない。次は流血に直接触れてとお願いする。カミラは嫌そうにすることもなく、ノヴァの血潮に触れた。これで準備はできたかな?

 

 思えば、カミラと共に生活する前は嫌なことばかりだった。でも、もうどうでもいいし、思い出したくもない。わたしにはカミラがいるのだし。

 

 カミラが集めてくれた沢山の化け物達を食べて強くなったから、あとは強い個体の媒体さえあれば十分。カミラの手を通して、わたし達の血をノヴァに送る。もぞり、と、ノヴァの体が蠢いて膨らんだ。カミラの体力を持っていっちゃったから少し辛そう。ごめんね、ヤドリギって種がないと疲れちゃうんだ。

 

 でも、今回はヤドリギにはしない。沢山の花を咲かせるの。前はちょっとしかできなかったけど、カミラのこと大好きになった今なら自信がある。

 

 わたしのプレゼント、喜んでくれるといいな……。今の世界はカミラに優しくないもんね。

 

 カミラの笑顔を思うと、酔いしれるような気分になって、自然と頬が緩まる。

 

 そして、ノヴァが咲いた。大きくのびやかに拡がった沢山の赤い花は、地上を埋め尽くして海に浸かり、空洞ができた地下まで潜る。

 

 赤い花の一枚一枚の花びらがまばゆい輝きを覆ってる。それは光の粒子の鱗粉で、世界へ根ずかせる種子なんだ。幻想的な光景にカミラが微笑んでる。でも、終わりじゃないよ。

 

 わたしは光の粒を舞い上がらせる。輝きの流れになって、空へと運び去られて、青い空を真っ赤に染めていく。

 

 輝く命は旅を始める。最期の旅路の果てに、わたしの喜びが、きっと世界を染め上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしを受け入れてくれた、貴女に……この惑星(せかい)をあげます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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