最期の旅路の果てに 作:夕闇
白い面の顔を持つ、二足歩行の小型恐竜にも似たオーガテイルは精神的に疲弊していた。それは一匹の相方も同様である。
彼らは元々群れで行動していた。弱肉強食かつ資源の少ない世界だ。仲間と協力して大型の獲物を仕留めたりすれば大量の餌にありつけ、物体を捕食することで即座に肉体を修復できる彼等は、備蓄があった方が生存率が高まる。最悪、共食いで命を繋いだりもできるのだ。
だというのに、今や二匹だけだ。仲間割れでも強敵が現れたわけでもない。始まりは新たな新天地を目指す最中。先行して偵察に出た仲間が忽然と姿を消したことがキッカケだった。
最初は何処かのグループの縄張りに侵入したかと思われた。強敵の存在を予感し、群れのリーダーが自身らを引き連れ、自ら前に出て出陣する。けれども、敵の気配はなく、残り少ない荷物の番を任せていた仲間が消えてしまった。現場には微かな血の臭いが残っていただけだった。
そこから一匹、また一匹と消えてく。
あるときは一番後列にいた仲間が。あるときは窪みの中に落ちた仲間が。見えぬ敵に狂乱し、何処かへ突っ込んでいった仲間も帰ってくることはなかった。
そしてついには群れを率いていたリーダーすら消えた。
捕食されたかどうかもわからない。この広大な荒野に多少の建物のみが存在する場所で、戦闘音すらなくどう連れ去ったのか判別つかなかった。
不明というのがこんなにも恐ろしいものだと知らなかった。今までの世界は目に映り、知覚するのがすべてであった。強敵であれ、雑魚であれ、相対し戦うわかりやすい世界だ。
「GAUUU……」
不安な気持ちを和らげようと喉を鳴らす。何となく狩りをして唯々諾々とリーダーに従っていた。けれども、本能的に生きるのではなく、頭が熱っぽくなるほどに考えて生存の道を開こうとする意志が必要だ。
しかし今日はもう寝よう。相方が敵に備えて番をしてくれる。起きれば自分の番だ。寝る時に睡眠を取らず、寝坊しただなんて相方が可哀相である。
そうして、オーガテイルは眠りについた。
朝、まどろみの中目覚めると相方がいないのに気づいた。
体の芯が冷え、意識が一気に覚醒し、体内の脈が早鳴りする。周囲を見渡してもひらけた視界には何もない――いや、正確にはごく一部の極一辺だけ赤く彩られている。わかりたくはないが、番をしているはずの相方の形に似ていた。
行くのは止めろと警鐘が鳴る。だが、もし生きていたら? そう思うと確認せずにはいられなかった。
地面が赤く彩られた場所に近づくと、半分に分割された相方が死体となってそこにいた。嗅ぎ慣れたはずの生臭さが嫌悪感を掻き立てる。目は抉られ、コアは露出していた。
コアには白い棘が刺さり、それが原因なのか今にも活動が停止しそうに弱弱しく明滅している。オーガテイルは極限状態によって感覚が急激に上昇し、そのまま放っておくと消滅するのではないかという直感が働いた。
慌てて仲間のコアから突き刺された棘を口に咥えて引き抜く。オーガテイルは相方にもう大丈夫だと訴えかけた。
けれども、無常にもコアの活動は停止してしまう。色彩が濁り、形が崩れ、砂のように崩壊した。粒子となって霧散するのではなく、存在を世界に吸われてかのように崩壊したのだ。
オーガテイルは潜在意識的に相方が蘇ることはないと肌で理解する。僅かな希望すら摘む理不尽にオーガテイルは慟哭した。敵がいるかもしれないとわかっていても、感情を発露せずにはいられなかった。
そして、愚かさの代償だろう。オーガテイルの視界が突如として傾むき、意識が希薄となっていく。闇の中に沈もうとする最期の瞬間、相方の死体の半分から直立で二足歩行する脆弱なはずの生き物の姿を捉えた。
そいつは薄く笑みを浮かべており、その様は捕食者に相応しく、オーガテイルにとってまさにバケモノであった。
私は手にした黒鉄の剣に付着した血液を吸わせる。
(化け物の群れを一通り狩れたけれど、想像以上に仲間意識が強かったわね……)
荒野に生息する一つの集団を全滅させただけなので、化け物達の感情を利用して狩るのを常套手段にするのは危ういかもしれない。
(そういった意味では軽薄な行動だったかしらね。体は血で汚れるし、化け物の一匹を完全に壊してしまったし)
赤くてらてらと濡れた白い髪が肌に張り付き不快感。とはいえ、潜伏の一つに利用できるとわかったのは収穫だ。教会に迫っていた群れも狩れたことだし、満足とする。
それから私は、血の臭いに釣られて他の群れと出会う前に、化け物の切断面を焼いて止血し廃村へ持ち運んだ。
帰還後、化け物を運搬する私は教会の出入口に立つ。すると、扉が自動的に開き、中に入れば扉が勝手に閉まって白い根が覆う。餌を持ってきたことで共存できる者と判断されたか、何度目かの化け物の運搬でこうなったのだ。
私は持ち帰った活動停止状態の化け物をヤドリギの根に置く。幾度も繰り返されているので今更驚きはしない。根が化け物を絡め取り、これまで持ち込んだ彼の仲間と同様、仲良く取り込まれた。
魂が摩耗してもなお、養分とされ続ける過酷な運命の化け物達には感謝だ。おかげで私は自身の命を紡いでいけるのだから。ヤドリギの赤い実も増え、当面はこれで凌いでいけそうだ。
その後、身体の疲れを癒すため、教会内の端で滾々と湧き出る水で水浴びと軽い洗濯をし、身も心もさっぱりすると心地良い気分で寝室に向かった。
黒鉄の剣:錬血した血武器。Q.U.E.E.N.討伐時期ではあくまでも急造品。吸血機構がついてるだけの簡素な武器。これでクイーンへ止めを刺すくらいなら、吸血牙装の方が威力も攻撃面積においても優秀である。