最期の旅路の果てに 作:夕闇
日が昇って落ちる回数を15回数えた私は今の暮らしに見切りをつけることにした。
大崩壊の日に現れた化け物は拳銃であれば十五発、剣であれば一撃でコアに到達し倒せる相手だ。あれから進化しているようで多少強靭な肉体となっているようだが、問題はそれではない。
ヤドリギも内なるクルスの仕業であるので、問題はそれでもない。
答えは単純。この廃村は娯楽と情報が無さ過ぎた。周辺を探っても同様である。住処を移す必要性を感じたのだ。
隠居生活ならばいいだろう。クルスと精神世界で対話し、例えそれがイマジナリーフレンドだったとしても孤独ではない。惰性に生き、静かに滅びを待つのも生き方の一つだ。
しかし私は、世界の都合でなく、自分の都合で生活したい。生きていくのに変化が欲しかった。欲望があるからこそ文化は発展する。停滞する物語なんてつまらない。私は我侭だ。
ゆえにこの廃村から出て行くことに決めた。
けれども、私の中から別な意見が、質素な生活でもよいという気持ちが湧き上がる。クルスだ。クルスと私は感覚共有をしており、精神世界でクルスを傷つければ私も傷つく。現実世界で私が落ち込めばクルスも落ち込む気分を味わう。なんとも厄介な関係となっている。
私は内から訴えてくるクルスの感情を抑え込み、荷物をまとめる。化け物の皮で作製した鞄に、数少ない荷物と赤い実をありったけ詰め込んだ。
クルスは私の意志が揺らがない判断したらしく、諦めた念を私に向けた。だが今度はヤドリギの所へ行ってと訴えてくる。何かあるのだろうが、顔を掴んでこちらを向けとばかりに干渉できるこの状態はなかなかに大変だ。
私は鞄を携え、クルスのお願い通りヤドリギの前に立った。以前より成長した白い巨木はもはや教会の内部で収まらないほどに巨大で太い。
その巨大なヤドリギが私に白い葉で包んだ物を差し出してきた。受け取ると、中身は種だった。
(あら、これってヤドリギの種よね)
そうだよと内なるクルスが言うてくる。なるほど確かにこれは次の拠点で活用できる必需品だ。……幾ばくかは私の推察というフィルターがかかっているので断定できないが、野宿した際にクルスから詳しい話を聞いて確定してしまおう。
種も鞄にしまうと、次の新天地を目指して、半月ほどお世話になった教会から出発した。
精神世界にて。
「ねぇ、私の家の前で何をやっているのかしら?」
『雪のお家』
「……」
『うわっ、今すっごく呆れてた! 罰としてカミラも手伝ってくださーい!』
「……」
『あの、死ねばいいのにとか罵倒しないで欲しいな。気持ち、ダイレクトに伝わるから……』
「……そうね、クルスの落ち込んだ気持ちも伝わってきてるわよ」
『じゃ、じゃあ、手伝ってくれるよね? ねっ?』
「……難儀だわ」