最期の旅路の果てに   作:夕闇

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 ヤドリギの実を道中1つ食べた。食べ残しの大地を移動し、新しい拠点を見つけるまではと、大型の化け物や数のいる大多数の戦闘を回避して道を迂回した。

 

 一つ気がかりなのが、化け物を発見するたび、内なるクルスがやたらあれ等を滅殺したがったことだ。衝動を抑えるのに一苦労である。対化け物兵器と考えるなら素晴らしい感情の発露だが、未知なことばかりなので致命傷を負う可能性のある行動は極力避けて欲しい。

 

 その変わり、クルスの鬱憤解消のため少数や中型以下の化け物達の戦闘は苛烈になってしまったが……。

 

 野宿の際、仮眠したので精神世界にてクルスに抗議する。クルスの言い分では、どうにも感情的なもので彼女の考えとは違うそうだ。今までの生活でも感じていたが、聖女然としたクルスのイメージが取り返しのつかないほどボロボロである。今更か。

 

 寒冷地域ゆえ肌寒かったし、道中で新たな問題が発生したものの、一つの方向から外れず、なるたけ真っ直ぐ突き進んだ結果、荒れ果てた大都市に辿り着いた。

 

 遮蔽物でほどほどに体を休ませた後、まずは一目見てから考えようと街の探索を開始した。幾つもの半壊したビル群や押し潰された居住地、吹き飛ばされた建物があった。人類対化け物の大きな戦闘があったのだろう。

 

 他にも、ちらほらと化け物の存在を確認した。今までの道中に比べて、化け物が散開気味というかまとまって行動していない。少数の化け物がそれぞれの区域を縄張りにしている感じだ。

 

 それから以前の教会に似た良い環境があったのでその場所にヤドリギを植え、道中回収したコアも添える。次に化け物共を半殺しにし、拠点まで運搬してヤドリギの種の養分とした。

 

 かなり広い街ゆえに化け物共を狩りつくすことはなかったが、それでも拠点周囲の危険はあらかた排除した。内なるクルスもむふー、と満足気である。

 

 化け物を養分としたヤドリギは瞬く間に成長し、立派な白い巨木となる。以前クルスから聞いた話だが、彼女がヤドリギに指示を飛ばして治水したり、防犯の役目や生活環境を整えたりするそうだ。なので今日はヤドリギの傍にて体を横たえ、休むことにした。

 

 翌日、起床すると水が湧いていた。サバイバルにおいて木の少ない土壌は水の入手が難しい。当初、教会内で水が湧いていることに疑問であったが、クルスのおかげであったのだ。

 

 私は湧き水を浴びてからほどほどに身なりを整えると、ヤドリギに荷物を預け、お手製の革鞄一つで街へ繰り出した。

 

 文明の残骸だけあって、ブラシや香油、衣類など様々な道具や消耗品が残っていた。年数が経っているものの、それでも喜ばしいことだ。

 

 けれど、私が想定していたより物資が豊富だった。逃げる際、もしくは大崩壊の日以降も大量に荷物を持ち出す人物はいなかったのだろうか。建物の倒壊も大型のヴァジュラや小型の化け物が暴れたというより、更に巨躯を誇る生物が暴れたとも見て取れる。特にレーザーや高熱で焼き溶けた箇所が、別な存在を予感させた。

 

 ともあれ、物資の回収や街のマッピングに努めることにする。

 

 新聞やパンフレット、雑誌などを閲覧するに私のいる場所がドイツ寄りのロシアだと判明。眩暈がしそうだった。私の住んでいた地域から遠く離れている。化け物が跋扈する世界で気軽に行こうと思う距離ではなかった。

 

 その他に、時計も生きている物があり、クイーンを討伐してからおおよそ2カ月ないしは3カ月は超えないと思われた。意外と時間経過が少ない。それはどうでもいいとしても、この姿であるし、戦友はいれどあの殺伐としていた世界にて私を繋ぎ止めるものもない。確固たる信念もない今、あの場所への帰還は目指さなくてもよいだろう。

 

 

(種の超越に共感したせいで面倒な男もいるのだし、薄れた興味が再燃されても困るわね)

 

 

 周りに止められると思われるが、きっと裏で手段を選ばないマッドサイエンティストだと肌身感じている。なんやかんや言っても研究こそが生き甲斐なのだと。陰謀巡らす貴族生まれだ。箱入り娘でもなかったし、この見解が間違っているとも思わない。

 

 故郷へ帰らないと決別した私は、数日かけて拠点に荷物を運搬したり、カジュアルな服装に着替えて化け物の情報がないか探索した。

 

 僅かに残っていた記録から化け物の幾つかの聞き慣れた呼称と、彼らを総括して呼ばれる名称が判明する。

 

 

(第一世代の吸血鬼の時期ではなかった総称、ARAGAMI。何とも、東欧らしくないわね。北欧の響きにも似てないし……んんん~……呼称は化け物にしましょ、これが暗号的に使われでもしていたら面倒事だし)

 

 

 少なくとも、警察署内の人間が通名していることは確かだ。それと、今の私のように署内を荒らした人物も呼称しているかもしれない。

 

 デスクの上に書類を置く。すると、巨大な気配が肌を刺す。一つの方向から強い存在が街に近づいているのを感じた。内なるクルスもはやくはやくと騒いでいる。

 

 私は警察署を飛び出し、一足で屋上へと跳躍。屋上を飛び移っては移動し、より高い建造物から眼下を見下ろした。

 

 大きな気配は、その山のような巨体で大都市の端を破壊しながら侵入。小型のアラガミを捕食しながら街の中央を、よりにもよって私の拠点を目指して移動していた。

 

 

「負ける戦いはしない主義なの……なんて言える状況でないのは確かね。クイーンの時もそうだったけれど、ハードな人生だわ」

 

 

 思わず愚痴が零れる。内なるクルスもヤドリギがーと危機感を煽ってきた。どうにも吸血鬼として目覚めてから世界が私に優しくない。

 

 だからといって、いじけていても問題解決にはならない。弛緩した頭を切り替え、私は黒鉄の剣を錬血し、街で破壊活動を行う足の遅い巨体の化け物を討伐することに決めた。

 

 

 

 


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