最期の旅路の果てに 作:夕闇
(サポートを任せるわ)
内なるクルスに戦闘支援を要請する。駆逐するぞーと俄然殺る気の感情が返ってきた。ほんわかしているのに中身はスプラッタ、ギャップが酷い。本能的な衝動らしいが強烈な破壊感情は私も引っ張られてしまうし、今にも獲物を喰らわんとする外見は可愛い獰猛な猟犬を落ち着かせるのに苦労する。
とはいえ、頼もしいのも事実。敵対勢力に甘くするよりずっといい。建造物の合間を移動する私に相手は気づかず、こちらはいつでも強襲を掛けられる。敵に近接するまで残り約二〇〇〇メートル。クルスの棘による絨毯攻撃が戦闘開始の合図となった。
疲弊していないクイーンのフルスペックにより、人間大ほどの大きさのある膨大な数の鋭利な棘が触手の塊のような化け物を中心に一帯を襲う。不意に現れた攻撃に対応しきれなかったのだろう。巨大な化け物はオーガテイルを捕食するのに夢中で奇襲が成功。相当の数の棘が化け物に突き刺さった。
周囲の建物がクルスの射撃により倒壊する。だが、相手は山のごとく巨体を持つ。人間や吸血鬼、はたまたビルを削り倒す威力でも、さほど問題ないようだ。
けれど、それでいい。私はクルスが放った棘に紛れて相手に接近できたのだから。
地面に突き刺さった棘の間を縫うように駆け、私の居場所を把握していない化け物の懐へと飛び込み、直のクイーンの血により優れた武器となった黒鉄の剣にエンチャントを施し、より刀身が長く、赤いオーラを纏った剣をクルスが棘で負傷させた部位へと振るった。
一瞬の眩い赤い光が衝撃音と共に一帯を照らす。
威力は高く、大きくざっくりと裂かれた切断面から、鉄砲水のごとく血液が噴出し、雨を降らす。それが確かな致命傷を与えたのだと教えてくれた。かくいう私も、化け物の出血でずぶ濡れだ。
化け物も、ここまでの一撃での深手は初めてなのだろう。周囲を振動させるほどの絶叫を轟かせ、小石や砂を巻き上げる。
しかし、それは明確な隙だ。私は追撃を行い、跳躍して返す手で剣を振るい、化け物の頭部を切り落とす。止めにクルスが巨大な黒い審判の棘を地表から出現させて、化け物を突き殺した。見栄えのよくないオブジェクトの完成である。
私は隆起した超巨大な棘とそれに突き刺さった巨躯を見上げる。巨大な触手の塊のような化け物は苦痛を全身で訴え、しばらく蠢いていたが、次第に活動が弱まり、沈黙した。
(一当たりして相手の攻撃手段を探る予定だったのだけれど、思いのほか決まったわね。クルスもありがとう、お疲れ様)
内なるクルスにお礼を伝えると、照れる感情が返ってくる。素直な私の気持ちがクルスへ直接に伝わるので、どうにも恥ずかしくなるそうだ。とはいえ、偽りのない感情なので享受して欲しい。
戦闘も終わったので刺し殺した化け物を下ろしてもらい、山のような化け物を解体してコアを剥離した。流石にあの攻撃でコアの損傷は免れず、だいぶ傷を負っている。コアは今日中にヤドリギの養分にできるが、骸の方は運搬に日数が必要そうだ。
この化け物、今回は簡単に討伐できたが、積極的に喧嘩を売りたくはない相手である。レーザーを放とうとした挙動が見られたし、大都市での遠距離戦はご免こうむりたい。街が滅茶苦茶になる。侮っていいはずもない強敵だった。
ハンニバル。バハムートなどの竜人に似た――けれど翼のない――白い巨体のアラガミは怒り狂っていた。いずれ捕食する強敵が、好敵手が、友が何者かに滅ぼされたのだ。証拠はない。だが、足の遅い山のようなアイツがどこを探しても姿を見かけないのは異常であった。
アイツとは初めて会ってから今まで、痛み分けの戦いで終わっている。互いに競い合い、肉体のフィジカルや体の動きが鍛えられる日常はそこらの有象無象に倒されることはない。
時折、アイツとの戦いの後の疲弊を狙って、矮小な小さき者共が襲い来ることもあるのも確かだ。だけれど、一度、アイツと共闘し小さき者共の巣で暴れまわったはずだ。それがまた再燃したのだろうか。
しかし、小さき者共の拠点を観察したが、怯えるばかりで何もしてこなかった。不満の募る日々だ。
今日も、小さき者共とは違う、小型の獲物を捕食し腹を満たす。すると、一つの事を思い出した。小中大の全種を狩りすぎて獲物が逃げて狩りづらくなったと話していたことだ。もしかすると昔の狩場を覗きにいくかもとも言っていた。
俺はアイツの痕跡を追って、住み慣れた場所から離れた。
日が昇って降りてを繰り返し、ようやくアイツの最後の残滓を見つけた。それはだいぶ前に小さき者共が逃げ出した棲み処だ。ここで足取りが途絶えているのだからアイツはここにいるだろう。期待に胸が膨らむ。
けれど、違和感を覚えた。あまりにも静かだ。小型の気配もない。アイツが食べ過ぎたのだろうか。沈黙が無人の住処に横たわっている。
俺は僅かな痕跡を頼りにアイツを探す。1日をここで過ごし、気配を確認した。アイツは小さき者共の巣にいたのだ。
だが、一つおかしいことがある。巣は俺より大きいが、アイツはこれに入るほど小さくはない。それと、なぜか体がこの巣の触れるのを嫌悪している。嫌な予感がした。
俺は頭を振り、何を躊躇しているのだと己を叱咤する。口から炎を吐き、巣を破壊した。が、一部が壊れただけで白い物が覆っている。攻撃の相性が悪いと思い、炎から火球へと攻撃を変える。幾度も爆破し、爪でダメージを蓄積させる。まるでアイツの体のようで厄介だが、どうにか壊れた。
そして俺は地獄を目視する。
数えるのも馬鹿らしいほどの小型や中型が白い物に絡めとられている。白い物は胎動し、破壊された部分を自己修復しようと哀れな者どもを啜っていた。生かさず殺さず永遠と。
憐れな者共の眼が一斉に俺を穿つ。生気のない、けれども必死な形相に思わずたじろいでしまう。
これを創り上げた奴はなんなのだろうか。こいつ等の悲鳴が聞こえないのだろうか。今まで喰らった奴らに生まれて初めて、殺してくれ殺してくれと視線で訴えられる。自然の摂理と間逆な情に、生理的な吐き気を覚えた。
それから俺はある気配に気づき、見つけていけないものを目にしてしまった。
――おい、嘘だろう?
アイツがいる。元の大きさに比べれば小さな球体のアイツが絶対逃さないようにと何重にも白い物が巻きついている。あんなにも強かった好敵手が、友が地獄の中に取り込まれていた。
――俺との勝負がまだだろ? ……なのに何でそこにいるんだよ……。
頭の中が真っ白になり、しばらくその場から動けなかった。目が熱い。湿った何かが瞳から零れた。
どのくらいの時間が経過したか、ようやく正気に戻った俺はアイツとこいつらを助けようと行動を起こす。呆然としている間に白い物が修復を終え閉じてしまったが、再び抉じ開ければいい話だ。
白い物に攻撃しようとした矢先、殺気を感じ、その場から飛びのく。幾つもの太い棘が上空から地面に突き刺さった。
しかし、殺気の主は現れない。
今すぐ殺気の主の喉笛を噛み千切ってやりたい怒りに身が蝕まれる。けれど相手はアイツ等を苦しめているバケモノだ。俺でも遂に成し遂げられなかったアイツを倒しきったバケモノだ。敗北はアイツ等の仲間入りを意味する戦いだ。体が自然と震える。
バケモノが今も様子を見て、虎視眈々と狙っていると推測できる。
……。
…………。
………………。
考えて、考えて、考えて……俺は最低なこと行動に移ることにした。きっと少し前の俺ならば侮蔑をするだろう。それほどまでに目にした地獄が俺の価値観を変質させた。
俺は猛然とその場から駆け出し離れた。
全てを置き去りにして逃げ出す。後ろを振り向かず一目散に。みっともない姿に自分を嘲け笑う。臆病者だ。だが、バケモノに勝つために対策を講じなくては。アレの仲間入りだけはどうしても嫌だった。
バケモノもまさか俺が全力で逃げ出すとは思わなかったのだろう。追っ手来ることはなく、無事に魔の手から逃れた。
Q.ハンニバルの登場早くない?
A.格好良いから