真・恋姫†夢想-革命- 世界の破壊者   作:サラザール

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遅れて申し訳ございません。仕事が忙しくてなかなか投稿できませんでした。


第6話 王佐の才

 (はい)(こく)(しょう)(ちん)(けい)から()(しゅう)に逃げ込んだ賊の討伐の依頼を受けて半月が経っていた。

 

 それまで警備隊の仕事と並行して、賊の討伐の準備をするため()(りん)たちの手伝いをしていた。

 

 そしてその日がついにやってきて、俺は華琳から糧食の帳簿を取りに行くように言われたため、(えい)()の部下を探していた。

 

 栄華は街で大事な仕事をしているようで城にはいない。そのため補佐をしている監督官が馬具を確認している(きゅう)(しゃ)へと向かう。

 

 そういえば俺はその監督官の顔を知らなかった。誰かに聞けばいいだろうと思っていると荷馬車のあるところに猫耳フードを被った女の子を見つける。

 

<司>「あ、そこのお前」

 

<???>「…………」

 

 女の子に呼びかけるが返事がない。いや、これは無視してるのだろう。

 

<司>「おーい。お前のことだぞ?」

 

<???>「…………」

 

<司>「聴こえてないのか? おーい!」

 

 俺は近づいて声を張ると、女の子は目を吊り上げてこちらを向いた。

 

<???>「聞こえているわよ! さっきから何度も何度も何度も何度も……一体何のつもり!?」

 

<司>「じゃあ最初から返事くらいすればいいのに……」

 

<???>「アンタなんかに用はないもの。で、そんなに呼びつけて、何がしたかった訳?」

 

<司>「糧食の再点検の帳簿を受け取りに来たんだが……監督官って人が何処にいるのか知らないか?」

 

 俺は用件を伝えると、女の子は問いかけてきた。

 

<???>「なんでアンタなんかに、そんなことを教えてやらないといけないのよ」

 

<司>「……何でって。華琳から頼まれたからだよ」

 

<???>「な……っ!?」

 

 華琳の真名を口にすると、女の子は驚愕の声を上げる。

 

<???>「……ちょっと、何でアンタみたいなヤツが、(そう)(そう)さまの真名を呼んで……っ!?」

 

<司>「呼べって言われたんだよ。別に君には関係ないだろ?」

 

<???>「信じられない……なんで、こんな猿に……」

 

<司>「猿は失礼だろ……」

 

 この女の子栄華と同じことを言ってやがる。コイツも男嫌いなのか?

 

<???>「……思い出した。あんた、この間曹操さまに拾われた天界から来たとか言う奴でしょ? 猿の分際で曹操さまの真名を呼ぶなんて……ありえないわ……」

 

<司>「おいおい……」

 

 罵倒してくる辺り栄華以上の男嫌いかもしれない。

 

<???>「で、何? 私も暇じゃないんだけど?」

 

<司>「さっきも言っただろ? 華琳から糧食の帳簿を取りに行くように言われたんだ。栄華が外回りで忙しいから、補佐をしている監督官が持ってるから取りに来たんだよ」

 

<???>「……曹操さまに? それを早く言いなさいよ!」

 

 何度も言ったのに全然聞いてくれなかったのは君なのに。

 

<司>「それで、その監督官はどこにいるんだ?」

 

<???>「私よ」

 

 俺の問いに女の子は自分と答える。なるほど、だからこんなところにいたのか。

 

<司>「ん、そうか。なら、再点検の帳簿を貰えるか?」

 

<???>「その辺に置いてあるから、勝手に持っていきなさい。草色の表紙が当ててあるわ」

 

<司>「ん、ありがとう」

 

 監督官は荷馬車の上に積んである方を指差して教えてくれた。俺は礼を言って帳簿を取り、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<司>「いよいよか……」

 

 俺は城壁の上から景色を見ながら呟く。

 

 見下ろすと完全武装の兵士たちは最後の準備のため城壁の下を走り回っている。

 

 武器に糧食、補充の矢玉。薬に防具に調理の鍋まで、戦に必要な備品はその幅広さに事欠かない。

 

 傍から見れば映画の撮影の準備をしているように見えるかもしれない。しかしこれは現実で、彼らが用意しているのは小道具ではない。

 

<司>「……何度見ても、壮観だな」

 

<春蘭>「どうした、そんな間の抜けた顔をして」

 

 警備隊の何倍もいる兵士たちを見てそこそこ驚いていた俺に、後ろから(しゅん)(らん)がやって来た。

 

<司>「これだけの兵士が揃っているのを初めて見たからな」

 

 ぱっと見て約千人はいるのだらうと判断するが、これだけ多いと本当に俺は別の世界に来たんだと実感してしまう。

 

<春蘭>「……この程度でか?」

 

<司>「見慣れてる春蘭と一緒にしないでくれ。少なくとも俺の国では見られない光景だぞ」

 

 怪人でもこんなに集まっているところは見たことがない。

 

<春蘭>「やれやれ……。今からそのザマでは、いずれ華琳さまがもっと多くの軍を率いるようになった暁には、驚いて死んでしまうのではないか?」

 

<司>「流石にそこまではないだろ……」

 

<華琳>「……何を無駄話しているの、二人とも」

 

 そんな話をしていると今度は華琳と(しゅう)(らん)が現れた。

 

<春蘭>「か……っ、華琳さま……! これは、檜山(ひやま)が!」

 

<司>「いや、先に話しかけてきたのはお前だろ……!」

 

<華琳>「はぁ……春蘭。装備品と兵の確認の最終報告、受けていないわよ。数はちゃんとそろっているの?」

 

<春蘭>「は……はいっ。全て滞りなく済んでおります! 檜山に声を掛けられたため、報告が遅れました!」

 

 ここでも俺のせいにするようで、最後に見苦しい言い訳をしてくる。

 

<華琳>「……その司には、糧食の最終点検の帳簿を受け取ってくるよう、言っておいたはずよね?」

 

<司>「それならもう受け取ってるぞ。ほれ」

 

 俺は猫耳フードの女の子から受け取った帳簿を華琳に渡し、彼女は帳簿の内容を確認する。

 

<華琳>「…………」

 

 何故か華琳は帳簿から目を離そうとしない。何かおかしいところでもあるのだらうか。

 

<華琳>「…………秋蘭」

 

<秋蘭>「はっ」

 

<華琳>「この監督官というのは、一体何者なの?」

 

<秋蘭>「はい。栄華が使えると言っていた新人です。仕事の手際が良かったようで、今回は食料調達も任せてみたのですが……何か問題でも?」

 

<華琳>「ここに呼びなさい。大至急よ」

 

<秋蘭>「はっ!」

 

 そう言って秋蘭は監督官を呼びにその場を後にする。俺は彼女の後ろ姿を見送るが、何故華琳は彼女を急に呼び出すのか疑問も思った。

 

 しばらくして秋蘭は、糧食の帳簿を持っていた監督官を連れてきた。

 

<秋蘭>「華琳さま。連れて参りました」

 

<華琳>「お前が食料の調達を?」

 

<???>「はい。必要十分な量は調達したつもりですが……何か問題でもございましたか?」

 

 余裕のある表情を浮かべる監督官だが、華琳はこめかみにシワを寄せる。

 

<華琳>「必要十分とは……何を以てそう口にしたつもり? 指定してた量の半分しか準備できていないように見えるのだけれど?」

 

<司>「っ!?」

 

 あれだけ偉そうにしていたのだから、仕事はきっちりこなしていると思っていた。しかし半分しか用意していないのなら、華琳に呼び出されてもおかしくない。

 

 いや、まてよ……。もしこれがわざとだったら……。

 

<華琳>「このまま出撃したら、糧食不足で行き倒れになるところだったわ。そうなったら、あなたはどう責任を取るつもりだったのかしら?」

 

<???>「いえ、そうはならないはずです」

 

<華琳>「ほぅ」

 

<???>「理由は三つあります。お聞きいただけますか?」

 

<華琳>「……いいわ、説明なさい。私を納得させられたなら、今回の件は不問にしてあげる。ただし、納得させられなかった時は……」

 

 監督官は今も堂々としていることから、やはり何か目的があるのだと理解する。

 

<???>「……ご納得いただけなければ、それは私の不徳の致すところ。この場で我が首、刎ねていただいて結構にございます」

 

<華琳>「二言はないぞ?」

 

<???>「はっ。では、説明させていただきますが……」

 

 そう言って監督官は悠長に説明をする。

 

<???>「……まず一つ目。(そう)(そう)さまは慎重なお方ゆえ、必ず作戦の要たる糧食の最終確認をなさいます。そこで問題があれば、こうして責任者を呼ぶはず。行き倒れにはなりません」

 

<華琳>「……春蘭」

 

<春蘭>「はっ」

 

 ぽつりと呟く華琳に応じて、春蘭が華琳に手渡したのは、身ほどある大きな(かま)だった。

 

<華琳>「この刃を振り上げるか再び収まるかは、二つ目の説明次第よ。続けなさい」

 

<???>「次に二つ目。糧食が少なければ身柄になり、輸送部隊の行軍速度も上がります。よって、討伐全体にかかる時間は、大幅に短縮できるでしょう」

 

 食料を荷馬車に積んでいた。その数が減るなり軽くなるなりすれば確かに移動速度は上がる。しかし……。

 

<春蘭>「ん……? なあ、秋蘭」

 

<秋蘭>「どうした姉者。そんな難しい顔をして」

 

 春蘭も疑問に思ったのか、妹の秋蘭に小声で聞いた。

 

<春蘭>「行軍速度が速くなっても、移動する時間が短くなるだけではないのか? 討伐に掛かる時間までは短くならない……よな?」

 

<秋蘭>「ならないぞ」

 

<春蘭>「良かった。私の頭が悪くなったのかと思ったぞ」

 

<秋蘭>「そうか。良かったな、姉者」

 

 そう。春蘭の言う通り、遠征に掛かるのは移動の時間だけではない。戦闘や休息にも時間が掛かる。

 

 全体とは言えないが、監督官は討伐全体に掛かる時間が短縮できると言った。つまり彼女には賊を短い時間で討伐する策を思いついているということになる。

 

 もしそれが本当なら、監督官は自分を売り込むためにわざと糧食を半分にして、華琳の目が自分に向くように仕向けたと言うことだ。

 

<華琳>「…………」

 

 華琳は持っていた大鎌を、ゆっくりと構える。しかし彼女の表情が一瞬動いた。どうやら監督官の意図に気付いたらしい。

 

<華琳>「さあ、後がないわよ。最後の理由、言ってみなさい」

 

<???>「はっ。三つ目ですが……私の提案する作戦を採れば、戦闘に掛かる時間は移動時間以上に縮めることが出来ましょう。よって、この糧食の量で十分と判断致しました」

 

 やはり俺の推理通りだった。ということは、彼女は軍師の経験があると推測できる。

 

<???>「曹操さま! どうかこの(じゅん)(いく)めを、曹操さまを勝利に導く軍師として、()()にお加え下さいませ!」

 

<司>「荀彧……」

 

 監督官は自分を軍師にするように(こん)(がん)する。

 

 荀彧。確かその名前には聞き覚えがある。三国志のドラマに曹操の軍師として登場した王左の才と言われる程の知略家。

 

<秋蘭>「な……っ!?」

 

<春蘭>「何と……」

 

<華琳>「…………」

 

 春蘭と秋蘭は突然のことに驚きを隠せないようだ。華琳は予想していたのか、表情を崩さないで荀彧を見つめる。

 

<荀彧>「どうか! どうか、曹操さま!」

 

<華琳>「……荀彧。あなたの真名は」

 

<荀彧>「(けい)(ふぁ)と、そうお呼び捨て下さいませ」

 

<華琳>「桂花。あなた……この曹操を試したわね?」

 

<桂花>「はい」

 

 華琳相手にそんなことをするとは、ドラマの通りなかなかの切れ者のようだ。

 

<春蘭>「貴様、何をいけしゃあしゃあと……。華琳さま! このような無礼な輩、このまま首を刎ねてしまいましょう!」

 

 春蘭にとっては荀彧の取った行動が華琳に対して無礼だと思ったらしい。

 

<桂花>「貴女は黙っていなさい! 私の運命を決めていいのは、曹操さまだけよ!」

 

<春蘭>「く……っ。貴様ぁ……!」

 

 春蘭に対してこの発言。誰なのか知ってての言っているに違いない。

 

<華琳>「桂花。軍師としての経験は?」

 

<桂花>「はっ。ここに来るまでは、(なん)()で軍師をしておりました」

 

<華琳>「……そう」

 

 南皮といえば、華琳の腐れ縁の(えん)(しょう)が拠点を置いている場所。

 

<華琳>「……どうせあれのことだから、軍師の言葉など聞きはしなかったのでしょう。それに嫌気が差して、この辺りまで流れてきたのかしら?」

 

<桂花>「……まさか。聞かぬ相手に説くことは、軍師の腕の見せどころ。ましてや仕える主が天を取る器たれば、そのために己が知謀を説く労苦、何を惜しみ、ためらいましょうや」

 

<華琳>「……ならばその力、私のために振るうことは惜しまぬと?」

 

<桂花>「ひと目見た瞬間、私の全てを捧げるお方と確信致しました。もしご不要とあらば、この荀彧、生きてこの場を去る気はありませぬ」

 

 荀彧の目にはその覚悟があると見ただけで分かる。そこまでして華琳に仕えたいのだろう。

 

<桂花>「既に我が(さん)(こん)(しち)(はく)はお預け致しました。残る身体が不要とあれば、その振り上げた刃、遠慮なく振り下ろして下さいませ!」

 

<華琳>「…………」

 

<秋蘭>「華琳さま……っ!」

 

 秋蘭は華琳がそのまま荀彧の首を切り落とすと思っているだろう。しかし華琳にはそんな意思はない。大鎌を構えたままということは、彼女が自分を試したように荀彧にも試し返そうとしているのだろう。

 

<華琳>「桂花とやら。私がこの世で最も腹立たしく思うこと。それは、他人に試されるということ。……分かっているかしら?」

 

<桂花>「無論です」

 

<華琳>「そう……。ならば、こうすることもあなたの考えの内ということよね……!」

 

 そう言うなり、華琳は振り上げた刃を一気に振り下ろす。

 

<桂花>「…………」

 

<秋蘭>「…………」

 

<春蘭>「…………」

 

 荀彧はその場に立ったままで、そして血は一滴も飛び散っていない。華琳は振り下ろした鎌を寸止めにしたようだ。

 

 ほんの少しでも荀彧が動いていたら、そのまま真っ二つになっていただろう。

 

<華琳>「……桂花。もし私が本当に振り下ろしていたら、どうするつもりだった?」

 

<桂花>「先程の言葉が全てにございます。……お預けした我が全霊をもって、主をお護りするつもりでした」

 

<華琳>「……飾った言葉は嫌いよ。本当の事を言いなさい」

 

<桂花>「曹操さまのご気性からして、試されたなら、必ず試し返すに違いないと思いましたので。避ける気など毛頭ありませんでした」

 

 華琳が試し返してくることを予測していて、あえてまた華琳を試したということか。

 

<桂花>「……なにより私は軍師であって武官ではありませぬ。あの状態から曹操さまの一撃を防ぐ術は、そもそもありませんでした」

 

<華琳>「そう……」

 

 小さく呟いた華琳は、荀彧に突き付けたままだった大鎌をゆっくりと下ろして笑い出した。

 

<華琳>「……ふふっ。あはははははははっ!」

 

<春蘭>「か、華琳さま……っ!?」

 

<華琳>「最高よ、桂花。私を二度も試す度胸と知謀、気に入ったわ」

 

<桂花>「恐れ入りましてございます」

 

 そりゃあここまで予測できる子なら華琳も気にいるだろう。

 

<華琳>「ならばこれからは、あなたの残り半分も私に捧げなさい。我が覇道のため、その全身全霊を以て私に尽くすのよ。いいわね」

 

<桂花>「はっ!」

 

<華琳>「まずは、この討伐行を成功させてみせなさい。糧食の半分で良いと言ったのだから……もし不足したならその失態、身を持って償ってもらうわよ?」

 

<桂花>「御意!」

 

 

 

 

 

<華琳>「…………」

 

<秋蘭>「華琳さま、どうなさいましたか?」

 

<華琳>「ええ、司のことでね」

 

<秋蘭>「檜山(ひやま)が何か?」

 

<春蘭>「まさかあの男、華琳さまに無礼なことでも……っ!?」

 

<華琳>「そうではないわ」

 

<秋蘭>「では、どのようなことで?」

 

<華琳>「彼……桂花とのやり取りを見ていても、顔色を変えなかったのよ」

 

<春蘭>「それはどういうことで?」

 

<華琳>「まるでこの後のことを予想していたかのように……」

 

<秋蘭>「檜山がですか?」

 

<春蘭>「まさか、奴がそのようなこと……」

 

<華琳>「…………そうね。私の考えすぎかもね」

 


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