<司>「ついに来たか……」
<秋蘭>「うむ。前回あれほど苦労したのが嘘のようだな」
<秋蘭>「何度見ても不思議な乗り物だな」
秋蘭は俺が乗っている "マシンディケイダー" に視線を向ける。
<司>「陳留を出る時に皆から言われたよ」
兵士や
<司>「しかし、こんなにゆっくりで大丈夫なのか?」
予定期間の半分の遠征だというから、もっとペースを上げるのかと俺は思っていた。千人もの大群で移動するとなるとこれくらいの速度なのだろうか。
<秋蘭>「気にする必要はない。これだけの人数となるとそうなる」
<司>「そうか……。だが、なんか凄いことになったな」
<秋蘭>「うむ……」
凄いたこととは出立前に起きた華琳と
<司>「噂をすれば……。おーい
<桂花>「な……っ! アンタ、何で……っ!」
俺が荀彧こと桂花の真名を呼ぶと彼女は驚愕の声を上げる。
<司>「華琳から俺も真名で呼べって言われたんだよ。そういやお前もそう聞いただろ?」
<桂花>「聞いたけど覚える気にもならなかったわ!」
<司>「あっそ」
この調子で俺に対しては何故かこの態度だ。男嫌いなところがそっくりなため、栄華二号と名付けることにしよう。
<桂花>「それに、古参の
<司>「さっきも言っただろ? 華琳が真名で呼べって。文句を言うなら華琳に言ってくれ」
<桂花>「ぐぬぬ……」
華琳の名を出すと珪花は黙った。まあ、華琳大好き人間だからこの場合は春蘭二号……いや、四号だな。秋蘭が二号で栄華が三号になる。
<司>「しかし大丈夫なのか? 糧食を予定の半分にするって話……」
<桂花>「別に無茶でも何でもないわよ。今の我が軍の実力なら、これくらい出来て当たり前なんだから」
<司>「そうなのか?」
秋蘭に問いかけると彼女は少し意外そうな表情を浮かべて答えた。
<秋蘭>「華琳さまは知にも勇にも優れたお方だが、それを頼んで無茶な攻めを強いることはないからな。正直、こういう強行を実戦で試すのは初めてだ」
<桂花>「ここしばらくの訓練や討伐の報告書と、今回の兵数を把握した上での計算よ。これでも余裕を持たせてあるのだから、安心なさいな」
<司>「ふーん」
まあ本人がそこまで考えているのなら信じるしかないな。
<桂花>「ふーんって、アンタから聞いたんでしょ! 何でどうでも良さそうなの!」
<司>「少し気にはなったけど、考えてのことなら仕方ないなと思っただけだ」
<秋蘭>「……しかしあのやり取りは肝が冷えたぞ」
<司>「軍師の経験があるなら、最初から志願すれば良かったのに」
<桂花>「軍師として志願出来たなら、していたわよ」
彼女の言葉から、軍師の募集をしていなかったことと理由が分かる。
<司>「経歴を偽ってくる奴でもいたのか?」
<秋蘭>「うむ。香風のように既に名が知れているならまだしも、こればかりは大概の文官は使ってみんと判断がつかんのだ」
今の時代ではあり得ることなんだろう。
<秋蘭>「後は……栄華につけるにはちょうど良さそうだったしな」
<司>「なるほど……」
確かに幼女好きな彼女にはうってつけと理解する。
<桂花>「そんな訳で、一刻も早く
<秋蘭>「それで、華琳さまはどうだったのだ?」
秋蘭が聞くと、桂花は満面の笑みを浮かべて答えた。
<桂花>「思った通り、素晴らしいお方だったわ……。あのお方こそ、私が命を懸けてお仕えするに相応しいお方だわ!」
<司>「そんなに良かったんだ」
<桂花>「……ふっ。貴方のような木偶の坊なんかには分からないのでしょうね。かわいそうに」
<司>「それも興味無いからどうでもいい」
<桂花>「何ですって!」
そう答える俺に再び怒りだす桂花。どんだけ華琳のことが好き過ぎるんだよ。
そんなやり取りをしていると隊の前方から春蘭がやって来た。
<春蘭>「おお、貴様ら、こんなところにいたか」
<秋蘭>「どうした姉者。急ぎか?」
<春蘭>「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。華琳さまがお呼びだ。すぐに来い」
大人数の集団。討伐対象の賊、もしくはグロンギやイマジンなどの怪人かもしれない。
<秋蘭>「うむ」
<桂花>「分かったわ!」
<司>「ああ」
召集をかけられた俺たちは華琳のいる前方集団へと向かった。
<秋蘭>「……遅くなりました」
<華琳>「ちょうど偵察が帰ってきたところよ。報告を」
華琳がそう言うと偵察に向かっていたであろう
<柳琳>「はい。行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗がないため所属は分かりませんが、格好もまちまちですし、どこかの野盗か山賊かと思われます」
怪人ではないと分かったが、荒野のど真ん中で賊が集団で行動しているということは人でも襲っているのかもしれない。
<華琳>「……そう。さて、どうするべきかしら?
<桂花>「はっ! もう一度偵察隊を出し、状況次第で迅速に撃破すべきかと」
柳琳の報告では何をしているのかは言っていなかったため、誰かを襲っていると断定はできないからの判断だろう。
<桂花>「将の選抜までお任せいただけるなら……
<司>「ん? 俺も行くのか?」
<桂花>「……
<司>「俺じゃなくても他がいるだろ?」
まあ、彼女が俺を選んだ理由は分かる。けど、面倒臭い。
<桂花>「
<華侖>「なら、あたしが行きたいっすー!」
<桂花>「……せめて夏侯惇さまの抑え役くらい、してちょうだい」
<司>「死んでも嫌だけど仕方ないか」
そう、何が嫌だと言えば春蘭がやり過ぎないように抑えることだ。
<春蘭>「なんだとっ! 貴様、それはどういう意味だ!」
<司>「だって……華侖だと一緒にやり過ぎちゃうからな」
<春蘭>「それではまるで、わたしが敵と見ればすぐ突撃するようではないか!」
<桂花>「違うの?」
<司>「違うの?」
<華琳>「違わないでしょう?」
俺や桂花だけでなく、主である華琳にもそう言われればしょうがない。
<春蘭>「うぅ、華琳さままで……」
<華琳>「冗談よ。ならその策で行きましょう。どう対処するかの判断は任せるわ。司、春蘭」
<春蘭>「はっ! 承知致しました!」
<司>「了解」
<香風>「なら華琳さま、行ってきまーす」
春蘭の隊をそのまま偵察部隊に割り振って、俺たち三人は華琳の本隊から先行して移動を始めた。
<春蘭>「全く。先行部隊の指揮など、わたし一人で十分だというのに……。賊なら突っ込んで残らず蹴散らせば良いだけではないか」
<司>「いや、偵察だからな。無闇に突っ込むなよ」
<春蘭>「貴様なんぞに言われるまでもないわ。そこまでわたしも
それがあり得るから俺も一緒に行く羽目になったんだけど……。
<香風>「春蘭さま、あそこー」
<春蘭>「よし! と———」
<司>「突撃禁止だぞ?」
<春蘭>「わ、分かっている……! と、とりあえず、とりあえず……わたしは何を言おうとしたのだ、檜山!」
<司>「知るか。だが……あの連中、行軍している様子じゃないぞ?」
俺は目の前にいる集団を観察するが、一ヶ所に留まって何か騒いでる様子だ。
<春蘭>「何かと戦っているようだな」
<香風>「あ。何か飛んだー」
目を凝らしてよく見ると、一人の少女が大きな鈍器を振り回して賊らしき格好をした人を吹き飛ばしていた。
<司>「一人であの集団を相手にしてるようだな。しかも子供だ」
<春蘭>「なんだと!?」
俺がそう言うと春蘭は瞬間に飛び出し、一気に加速していった。
<司>「行くぞ、香風!」
<香風>「うん!」
俺たちは先に先行した春蘭を追って少女と賊らしき集団のところへと向かった。
徐々に近づいてきて、少女は何人もの賊に手こずっていた。
<春蘭>「だらぁぁぁっ!」
<香風>「はぁぁぁぁぁっ!」
<野賊>「げふっ!!」
<野賊>「ぐはぁあっ!」
春蘭と香風は鈍器を振り回す少女に加勢して、野賊を倒す。
<春蘭>「大丈夫か! 勇敢な少女よ!」
<???>「え……? あ…………はいっ!」
少女は春蘭の問いかけに返事をする。
<司>「賊が逃げるかもしれんから尾行は任せた」
<兵士>「分かりました!」
俺は討伐対象の賊の仲間と推測して、アジトを突き止めるために兵士数人に指示をする。
<春蘭>「貴様らぁっ! 子供一人によってたかって……卑怯というにも生温いわ! てやああああああっ!」
<野賊>「うわぁ……っ! 退却! 退却———っ!」
俺の予想通り、敵は春蘭と香風の強さに怯えて退却して行った。そして尾行を指示した兵士も野賊の後を追う。
<春蘭>「逃がすか! 全員、叩き斬ってくれるわ! 香風、回り込め!」
<香風>「了解」
<司>「まて、二人とも!」
そう言って香風は春蘭の指示で野賊を追おうとするが、俺が制止した。
<春蘭>「ばっ……!
<司>「俺たちの仕事は偵察だぞ。その子を助けるのは良いが、敵を全滅させるのが目的じゃないだろ!」
<香風>「桂花、流れ次第で全滅させていいって……」
<春蘭>「そうだぞ。敵の戦力を削って何が悪い!」
<司>「さっきの賊には兵士何人かに尾行させている。敵の本拠地が分かるかもしれないからな」
<春蘭>「むぅぅ、貴様にしてはなかなかやるな」
春蘭に褒められても嬉しくない。これが本当に華琳の右腕だもんな。桂花が俺でも良いから抑え役を任せた判断は見事だ。
<???>「あ、あの……」
<春蘭>「おお、怪我はないか? 少女よ」
<???>「はいっ。ありがとうございます! お陰で助かりました!」
<春蘭>「それは何よりだ。しかし、何故こんなところで一人で戦っていたのだ?」
<???>「それは……」
少女がそんな話をしようとすると、後方から本隊がやって来た。
<司>「来たか……」
<???>「…………っ!」
<司>「?」
少女も華琳たちに気付いて視線を向ける。しかし彼女は訝しげな表示山をしているが、何処か怒りが混じっているように感じる。
<華琳>「司。謎の集団とやらはどうしたの? 春蘭が殲滅に出たという報は受けたけれど……」
<司>「春蘭と香風の強さに驚いて無様に逃げて行った。尾行を付けたから、本拠地はすぐ見つかると思うぞ」
<華琳>「あら。なかなか気が利くわね」
<司>「そりゃどうも」
<???>「…………!」
そんなやり取りをしていると彼女は何かを確信したように表情が強張る。
<華琳>「この子は?」
<???>「お姉さん、もしかして、国の軍隊……っ!?」
<春蘭>「まぁ、そうなるが……ぐっ!」
春蘭が言い終わる前に少女は持っていた巨大な鉄球を当てた。勿論標的は春蘭で、彼女は咄嗟に剣で弾き返した。
<司>「……!」
もし相手が春蘭でなければ確実にやられていたであろう。
<春蘭>「き、貴様、何をっ!?」
<???>「国の軍隊なんか信用できるもんか! ボクたちを守ってもくれないくせに、税金ばっかりどんどん重くして……ッ! てやあああああああっ!」
そう言って彼女は再び巨大な鉄球を春蘭に向けて振り回す。春蘭は防御する形で少女の攻撃を防ぐ。
<春蘭>「……くぅっ!」
<司>「だから一人で戦ってたんだな……?」
<???>「そうだよ! ボクが村で一番強いから、ボクがみんなを守らなきゃいけないんだっ! 盗人からも、お前たち……役人からもっ!」
俺の問いかけに答えながら少女は春蘭に攻撃を続ける。
<春蘭>「くっ! こ、こやつ……なかなか……っ!」
いくら春蘭が攻撃をしていないとはいえ、ここまで押されるとは思わなかった。なかなかの手練れのようだ。
しかし彼女がここまで敵意を向けるということは、そんなにひどい政治をやっているということになる。
そりゃあ州さえ違う華琳に頼むくらいだから仕方ないと思うが、もしかしたらここよりもっとひどいところがあるかもしれない。
<華琳>「…………」
鉄球を振り回している彼女はこの国の軍隊と勘違いしている。ここは誤解を解く必要がある。華琳は春蘭と少女の戦いをじっと見ているだけ。何か思うところがあるのだろう。
<司>「……っ!?」
俺は二人の戦っている先に人影を目にする。あの姿、まさか……。
<???>「でえええええええええええええいっ!」
<春蘭>「ぐぅ……! 仕方ないか……いや、しかし……」
春蘭は今でも反撃するか
<華琳>「二人とも、そこまでよ!」
<???>「え……っ?」
華琳は二人を制止する。
<華琳>「剣を引きなさい! そこの娘も、春蘭も!」
<???>「は……はいっ!」
華琳の気迫に当てられて、少女は軽々と振り回していた鉄球を、その場に取り落とした。鉄球は相当な重さのようで地面が陥没した。これを振り回す彼女って一体……。
<華琳>「……春蘭。この子の名は?」
<春蘭>「え、あ……」
<許緒>「き……
そう名乗った少女は、華琳の威圧感によってすっかりと大人しくなっていた。
<華琳>「そう……許緒、ごめんなさい」
<許緒>「……え?」
華琳は許緒に頭を下げて謝った。
<桂花>「曹操、さま……?」
<春蘭>「何と……」
<司>「……」
<許緒>「あ、あの……っ!」
許緒は突然のことに驚いたままだ。
<華琳>「名乗るのが遅れたわね。私は曹操、山向こうの陳留の地で、太守をしている者よ」
<許緒>「山向こうの……? あ……それじゃっ!? こ、こちらこそごめんなさいっ!」
<春蘭>「な……?」
許緒もこの国の軍隊と勘違いしていたと知って大きく頭を下げて謝罪した。
<許緒>「山向こうの噂は聞いてます! 向こうの太守さまはすごく立派な人で、悪いことはしないし、税金も安くなったし、盗賊もすごく少なくなったって! そんな人たちに、ボク……ボク……! 本当にごめんなさい!!」
この頃から華琳の評判は違う州にも知れ渡っていたようだ。
<華琳>「……構わないわ。今の
<許緒>「で、でも……」
<華琳>「だから許緒。あなたの勇気と憤り、この
<許緒>「え……? ボクの……?」
<華琳>「私はいずれこの大陸の王となるわ。けれど、今の私の力はあまりに小さすぎる。だから……村の皆を守るために振るったあなたの力と勇気。この私に貸してほしい」
<許緒>「曹操さまが、王に……?」
許緒は華琳の言葉に心が響いたのだと理解する。
<許緒>「だ……だったら……曹操さまが王様になったら、ボクたちの村も、治めてくれますか? 盗賊も、やっつけてくれますか?」
<華琳>「約束するわ。陳留だけでなく、あなたたちの村だけでもなく……この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの」
<許緒>「この大陸の……皆が……」
<桂花>「ああ、曹操さま……」
許緒は華琳の言葉に希望を抱き、珪花はそんな華琳の意思に感動していた。
<栄華>「お姉様、偵察の兵が戻りましたわ。盗賊団の本拠地は、すぐそこだそうです」
<華琳>「判ったわ。……ねぇ、許緒」
<許緒>「は、はいっ!」
<華琳>「これから、あなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい、あなたの力を貸してくれるかしら?」
<許緒>「はい、それならいくらでも! じゃない、ボクの方こそお手伝いさせて下さい!!」
<華琳>「ふふっ、ありがとう……。春蘭、香風。許緒はひとまず、あなたたちの下につけるわ。分からないことは教えてあげなさい」
<香風>「はーい」
<春蘭>「了解です!」
<許緒>「あ、あの……ええっと……」
誤解とはいえ、さっきまで戦っていた春蘭にどう対応すればいいか分からない許緒。しかし春蘭は水に流し、香風は都の役人だったことを明かし、当時何も出来なかったことを謝罪する。
こうして許緒が仲間に加わり、盗賊の本拠地へと向かう。この調子で討伐が成功すれば良いと思っていたが、そういう訳にはいかないようだ。
先ほどまでこちらを見ていた奴は、賊の本拠地と同じ方向へと向かって行くのが見えた。
恐らくあれは……イマジンだ。