真・恋姫†夢想-革命- 世界の破壊者   作:サラザール

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第8話 桂花の策

 盗賊団の砦は、山の影に隠れるようにひっそりと建てられていた。

 

 許緒(きょちょ)と出会った所なら本当にすぐ近くだったけど……こんな分かりにくい所じゃ、よっぽど上手く探さないと見つからなかったに違いない。

 

 俺たちは盗賊団の砦が見える地点で行軍を停止させていた。

 

<司>「こんな所に……」

 

 勿論近付くとすぐに見つかるので、離れたところにいる。ここから見ると砦はまだ豆粒ほどの大きさでしかないけど……。

 

<司>「…………」

 

 先ほど俺たちのことを見ていた奴の気配は感じない。どうやら何処かに隠れたのか、あるいは……。

 

<華琳>「許緒、この辺りに他の盗賊団はいるの?」

 

<許緒>「いえ。この辺りにはあいつらしかいませんから、曹操(そうそう)さまが探してる盗賊団っていうのも、ここだと思います」

 

<華琳>「敵の数は把握できている?」

 

<秋蘭>「はい。およそ三千との報告がありました」

 

 秋蘭の報告を聞いて疑問に思った。何故なら陳珪(ちんけい)から聞いた話と違っていたからだ。

 

<栄華>「数百か、せいぜい千という話ではありませんでしたの? こちらは千ほどしかいませんわよ……?」

 

<春蘭>「おのれ。あの女狐(めぎつね)め……」

 

 春蘭の怒りは分かる。盗賊団や許緒の村のことを知ると俺も無性にイラッとする。

 

<華琳>「……三人から千まで膨れ上がった期間を考えるなら、三千でも少ないくらいよ」

 

<桂花>「とはいえ、連中は集まっているだけの烏合の衆。統率もなく、訓練もされておりませんゆえ……我々の敵ではありません」

 

<華侖>「じゃあ、このままとつげきー! って突っ込んで、わーって一気にやっつけるっすか?」

 

 華侖(かろん)の単純なやり方ではこちらに勝ち目はない。

 

<桂花>「まさか。それなら、()侯惇(こうとん)さまでも出来るでしょう。軍師のいる意味がありません」

 

<春蘭>「なんだと! わたしでも出来るとは、どういう事だ!」

 

<華琳>「……して、策は? 糧食の件も忘れてはいないわよ」

 

<春蘭>「か、華琳さまぁ……」

 

 桂花(けいふぁ)は俺たちに作戦を説明した。

 

<桂花>「はい。まず曹操(そうそう)さまは少数の兵を率い、砦の正面に展開していただきます。その間に夏侯惇さま、()侯淵(こうえん)さまのご両名は、残りの兵を率いて後方の崖に待機」

 

 華琳が砦の正面、春蘭と秋蘭の隊が崖で待機。ということは……。

 

<桂花>「本体が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備を匂わせれば、その誘いに乗った敵はかならずや外に出てくる事でしょう」

 

 少数の隊を率いた華琳では三千の盗賊には分が悪い。しかし俺の思っていることが桂花の作戦と同じなら……。

 

<桂花>「その後は曹操さまは兵を退き、十分に砦から引き離したところで……」

 

<秋蘭>「私と姉者で敵を横合いから叩く訳か」

 

<桂花>「はい。お二人にさらに徐晃(じょこう)殿と許緒を加えれば、三千の敵とて羊の群れに等しくなりましょう」

 

 都で賊退治の英雄と名を轟かした(しゃん)(ふー)と、本気ではなかったとはいえ春蘭を苦戦させた許緒が二人の隊に入れば桂花の策は上手くいく。

 

<香風>「わかった」

 

<許緒>「うん! ボク、がんばるよ!」

 

<春蘭>「……おい待て」

 

 香風と許緒はやる気のようだが、春蘭は桂花の策に不満があるようだ。

 

<華琳>「何か問題がある? 春蘭は攻撃に回る方が良いでしょう?」

 

<春蘭>「そこは構わないのですが……その策は何か? 華琳さまに囮をしろと、そういう訳か!」

 

 そういうことだ。華琳が少数の部隊で砦の正面に現れれば賊は間違いなく数で倒そうとする。その真意を突いた作戦だが、囮役が華琳自身なのだから春蘭にとっては不満しかないだろう。

 

<華琳>「そうなるわね」

 

<桂花>「何か問題が?」

 

<春蘭>「大ありだ! 華琳さまにそんな危険なことをさせる訳にはいかん!」

 

 春蘭は声を荒げて桂花の作戦を反対するが、彼女は余裕の表情で皮肉を言う。

 

<桂花>「反対を口にするから、反論をもって述べていただけると助かるのですが? 夏侯元譲殿」

 

<春蘭>「ど、どういう意味だ?」

 

<司>「反対するなら、桂花が提案したものよりもっと良い作戦を提案しろって事だ」

 

<春蘭>「烏合の衆なら、正面から叩き潰せば良かろう」

 

 春蘭の言葉を聞いた俺たちは呆れた表情で彼女を見つめる。

 

<華琳>「…………」

 

<桂花>「…………」

 

 正直驚いた。華侖が最初に口にしたことを否定されたのに、まさかここで終わった筈の話を持ち出されるなんて……。

 

<司>「……春蘭。それ、説明の一番最初の所で否定されたばかりだぞ?」

 

 春蘭は俺の言葉を聞いてあっけらかんとした表情を浮かべる。

 

<華侖>「え、そうなんすか!?」

 

<柳琳>「姉さん……」

 

 まさか否定された張本人も気付いてなかったとは……。

 

<桂花>「……油断した所に伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。それに乗ずれば、烏合の衆はもはや衆ですらなくなります。貴重な我が軍の兵と、もっと貴重な曹操さまのお時間を無駄にしないためには、この案を凌ぐ策はありません」

 

<春蘭>「な、なら、その連中が誘いとやらに乗らなければ……?」

 

<桂花>「…………ふっ」

 

 春蘭は意地でも反対するが、桂花は彼女の反論を鼻で笑った。

 

<春蘭>「な、何だ……! その馬鹿にしたような……っ!」

 

<桂花>「曹操さま。相手は(こころざし)も持たず、武を役立てることもせず、そのちっぽけな力に溺れる程度の連中です。間違いなく、夏侯惇さまよりも容易く挑発に乗ってくるものかと」

 

<春蘭>「…………な、ななな……なんだとぉー!」

 

 気持ちは分からんでもないが、ここで怒れば自分も同類と言ってるようなものだぞ。

 

<華琳>「ふふっ、そうね。春蘭、あなたの負けよ」

 

<春蘭>「か、華琳さまぁ……」

 

<華琳>「……とはいえ、春蘭の心配ももっともよ。次善の策はあるのでしょうね」

 

<桂花>「この近辺で拠点になりそうな城の見取り図は、あれを含めて既に揃えてあります。万が一こちらの誘いに乗らなかった場合は……城を内から攻め落とします」

 

 そこまで考えていたとは。いや、まてよ。内側ということは……。

 

<華琳>「分かったわ。なら、まずはこの策で行きましょう」

 

<春蘭>「華琳さまっ!」

 

<華琳>「これだけ勝てる要素しかない戦いに、囮のひとつも出来ないようでは……許緒に語った覇道など、とても歩めないでしょう」

 

<桂花>「その通りです。他国から請われて遠征し、そこで公明正大な振る舞いをし、万全の成果を上げて凱旋(がいせん)したとなれば……曹孟徳(そうもうとく)の名は一気に天下に広まります」

 

 遠征を短期間に終わらせるだけでなく、仕える主の名を上げることまで考えての策を練ったに違いない。

 

<桂花>「曹洪(そうこう)さま、(そう)(じゅん)さま、曹仁(そうじん)さまのお三方は、本隊の曹操さまの援護をお願いいたします」

 

<柳琳>「承知しました」

 

<栄華>「ええ。……しかし、わたくしの下で働いていた貴女に指示を受けるというのも不思議な気分ですわね」

 

<桂花>「それは私も同じです。ですが、そこを伏せてお願い出来ますか?」

 

<栄華>「勿論。そこに私情を挟みはいたしませんわ」

 

 柳琳(るーりん)と栄華は桂花に同意するが、華侖だけは不満の声を上げた。

 

<華侖>「ぶー。あたしも春姉ぇたちと一緒に暴れたいっすー!」

 

<許緒>「なら、ボクが曹操さまの護衛に入るんじゃダメですか?」

 

<華琳>「そうね、華侖は許緒と交代なさい。最前線に立つ経験を積むのも、たまにはいいでしょう」

 

<華侖>「やったっす!」

 

 許緒と交代したことで華侖は喜んだ。

 

<華琳>「許緒。あなたは集団での戦がどういうものか、本陣でそれを見届けなさい。今までと同じように最前線で賊を倒すよりも、得るものは多いはずだわ。勿論こちらに賊は来るだろうから、それを追い返すのは任せるわよ」

 

<許緒>「は……はいっ。頑張ります」

 

<柳琳>「そう緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

 こういう時に柳琳が声を掛けられれば緊張を和らげようと気配りが見える。

 

<栄華>「そうですわ。わたくし達もいるのですし、気持ちを楽になさいませ」

 

<司>「…………」

 

<栄華>「な……なんですの」

 

<司>「いや、なんでもない」

 

 しかし栄華が許緒みたいな子に声を掛けるとなると……なぁ。

 

<華琳>「司も許緒と一緒に私の側にいなさい」

 

<司>「分かった」

 

<桂花>「な……っ!」

 

<華琳>「それと……」

 

<司>「何だ?」

 

 華琳はいつもとは違って真剣な表情で俺を見つめる。

 

<華琳>「いざという時は、頼むわね」

 

<司>「…………了解」

 

 いざという時……イマジンのことだろう。この辺りに怪人がいつ現れてもおかしくない。もしかしたら春蘭と許緒の戦いの時に見かけたのかもしれない。

 

<春蘭>「檜山(ひやま)! 貴様、華琳さまに何かあったらその身を盾にしてでもお守りしろ。場合によっては貴様の "かめんらいだー" とやらの力を使ってでも守るのだぞ!」

 

<司>「分かってるよ」

 

<柳琳>「かめんらいだー?」

 

<華侖>「なんすかそれ?」

 

 華琳はまだ仮面ライダーのことを話してないようだ。春蘭や秋蘭、香風は分かっている様子だが、華侖たちは何のことか分かっていないようだ。

 

 まあここで知ることにはなる。そしてイマジンの居場所も検討は付いた。恐らくあの賊たちの誰かに憑依している筈。

 

 

 

 

 

 春蘭達の隊が離れていく。これで、こちらの手勢は本当に数えるほど。

 

 華琳と桂花(けいふぁ)は自信たっぷりだったが、イマジンが介入してくることを考えると不安でしかない。

 

<許緒>「あ、兄ちゃん。どうしたの?」

 

<司>「ん? ……ああ、許緒か」

 

<季衣>「季衣(きい)でいいよー。秋蘭さまや栄華さまたちも、真名で呼んで良いって言ってくれたし」

 

<司>「それなら良いか」

 

 本人が呼んで良いなら仕方ない。

 

<季衣>「でも、何だかすごいねぇ。こんなにたくさんの兵士の人たちがわーって動くの、ボク初めて見たよ」

 

<司>「俺も初めてだ」

 

<季衣>「そうなの?」

 

 人間同士の戦なんて見るのも初めてだからな。だが、戦いとなれば自分の命を掛ける覚悟は出来ている。

 

<司>「ああ、俺は事情があって華琳のところにやっかいになってるだけさ。この世界を救うためにね」

 

<季衣>「世界を救う?」

 

<司>「そう。天の道を往き、総てを司った人はこんなことを言っていた。 "戦いはへそでするものだ" とね」

 

<季衣>「ぷっ……何それ」

 

 かつてワームと共に戦ったある仲間の台詞を口にすると季衣は笑った。

 

<季衣>「でも大丈夫? 兄ちゃん、そんなに強くなさそうだもん」

 

<司>「それはちょっと傷付くが、一応これでも戦えるぞ?」

 

<季衣>「そうなの。よし、じゃあ兄ちゃんや曹操(そうそう)さまが危なくなったらボクが助けるね」

 

<司>「頼もしいな。その時は頼む。それじゃあそろそろ行こっか」

 

<季衣>「うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 盗賊団の砦の正面に展開した華琳の本隊。戦いの野に、作戦開始を告げる激しい銅鑼の音が響き渡る。

 

<華琳>「…………」

 

<栄華>「…………」

 

<柳琳>「…………」

 

<司>「…………」

 

 響き渡る銅鑼の音は、こちらの軍のもの。しかし響き渡る咆哮は、城門を開けて飛び出してきた盗賊達のもの。

 

<司>「今の銅鑼を出撃の合図と勘違いしてるみたいだな」

 

<華琳>「そうね……」

 

 俺たちは城門から出て来る盗賊たちを見て呆れていた。

 

<栄華>「所詮、臭くて汚いオスの振る舞いですもの。お手どころか、待ても躾けられていないに決まってますわ」

 

 今回ばかりは栄華の意見に同意せざるを得ない。

 

<柳琳>「……挑発も名乗りも必要ありませんでしたね」

 

 この時代で戦を仕掛ける時には弁舌みたいなことをするとは聞いていたが、これでは調子が狂ってしまいそうだ。

 

<季衣>「曹操(そうそう)さま! 兄ちゃん! 敵の軍勢、突っ込んで来たよっ!」

 

 挑発に乗りすぎな連中は、少人数の俺たちに向かって来た。

 

<華琳>「……まあいいわ。多少のズレはあったけれど、こちらは予定通りにするまで」

 

<桂花>「総員、敵の突撃に恐れをなしたように、上手く後退なさい! 距離は程々に取りつつ、逃げ切れないように!」

 

 桂花の指示通り、本隊が相手の速度に合わせて下がり始める。盗賊たちはこちらの作戦通り、無防備に追いかけてくる。

 

 その間に俺は盗賊たちを観察する。あの三人組の姿は見えないし、イマジンが憑依しているであろう人間も見当たらない。

 

 イマジンは人間に憑依している際、その人が歩くたびに砂を落としていく。しかし盗賊たちを足元を見るがそれらしき物は見当たらない。恐らく後方にいるのだろうと推測する。

 

 俺たちに引き付けられた盗賊たちは崖の前を通り過ぎた瞬間、その上から春蘭と華侖(かろん)(しゃん)(ふー)の部隊が敵の横腹に向かって突撃して来た。

 

 秋蘭率いる弓隊はそのまま待機して敵前衛に向けて一斉射撃を開始した。

 

 彼女たちの攻撃で何十人もの盗賊がやられ、徐々に盗賊たちを圧倒していく春蘭たちを見て思い知る。

 

 これがこの世界の人間同士の戦。俺が目の当たりにしているのは武器を持った兵士たちが殺し合いをしている現場。

 

 これを見て俺のいた世界、特に日本に住んでいる人が見れば平和ボケをしていたと思うだろう。

 

 俺にとっても初めて見る光景だ。怪人と死闘を繰り広げてきても余り見たくない。

 

 しかしあの盗賊団の中にイマジンがいるのであれば、俺がこの世界に来た意味はある。

 

<華琳>「さて、この隙を突いて、一気に畳み掛けるわよ」

 

<桂花>「はっ!」

 

<華琳>「季衣(きい)。貴女の武勇、期待させてもらうわね」

 

<季衣>「分っかりましたーっ!」

 

<華琳>「司、貴方も行きなさい」

 

<司>「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 人間相手にディケイドの力は使わないが、状況によっては必要になってくるからな。

 

<華琳>「総員反転! 衆ですらない烏合の者どもに、本物の戦が何たるか、骨の髄まで叩き込んでやりなさい! 総員、突撃っ!!」

 

 華琳の号令と共に、本隊は後退を止めて盗賊たちに向かっていく。俺は季衣や柳琳(るーりん)の部隊と共に前線に向かい、盗賊たちを倒しに行った。

 

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